第250話 リベンジマッチ#2
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「死ネええええええ!」
「うるせぇ! 愚物が!」
ラズリは空中から勢いよく短剣を振り下ろす。それをクラウンは刀で受け止める。すると、ラズリはその場でもう一度高速回転するとかかと落としを繰り出す。
ドゴンッと爆発音にも似た音を響かせ砂埃を舞い上げる。その砂埃から地面を滑るように出てきたクラウンはその舞い上がる煙の中にある気配に注意していた。
その時、煙から二本の短剣が飛んでくる。それを斬り払うと砂煙に向かって斬撃を飛ばす――――――のではなく、後方へと横なぎに斬り払った。
その一撃はラズリに直撃することはなかった。地面スレスレに体を反らして避けたのだ。そして、そのまま地面に手を付けると跳ね起きする勢いで思いっきり押し出してドロップキック。
それはクラウンの胴体に食い込んでいくと体をくの字に曲げて吹き飛んでいく。しかし、蹴られる直前に咄嗟にひっかくように振った左手から放たれた<流爪>がラズリの脇腹に食い込んだ。
クラウンは依然吹っ飛ばされたままだが、ラズリの追撃を防ぐことには成功した。そして、転がりながら上手く受け身を取ってすぐにラズリへと刀を向ける。
その正面には同じく短剣を手に持ったラズリがすぐに動ける状態で構えていた。周囲から爆発音や断末魔に似た叫び声が聞こえる中、この場にはまるで二人しかいないような空気で互いに殺意を滾らせていた。
二人の肩は大きく揺れる。激しい戦闘で呼吸が乱れている証拠だ。ほとんど言葉を交わさず、先に死へと至らしめる刃を振るう。
どちらかが速ければすぐにでも決着がつく勝負。しかし、その勝負は一向にして互いの体力を消耗していくだけで決着が見えない。
「はあはあ.......クソ、本当にむかつくネ」
「うざってぇと思ってるのはこっちも同じだ。だが、前みたいにお前の攻撃を一方的にくらうってことはなくなったことは進歩ってところか?」
「人間のくせになまいきネ! 下等種族がおれっちに盾突こうなど考えることが罪ネ!」
「ははは、何言ってんだ? 理不尽に抗う。当然のことじゃねぇか。状況や環境によっては仕方ないことがあることはもちろん知っている。だがな――――――」
クラウンは立ち膝の状態から立ち上がると刀を上段に構える。そして、魔力を放ち始めた。その魔力は黒々しいオーラで闇を纏っているようであった。
その魔力は段々と腕や脚に絡みつくと黒い籠手と脚甲を作り出す。さながら、それはハザドールで戦った姿のように。
その変化にラズリは思わず目を見開く。
「お前らのような理不尽は到底容認出来るもんじゃねぇんだよ!」
クラウンは肺に空気を送り込むようにスーッと吸い込むと視界から色が消え、周囲が白黒に変わり始めた。
余計な情報をカットして全てをラズリに意識を向けた状態<超集中>だ。そして、地面を割る勢いでグッと蹴りだした。
走る、走る。されどラズリは動かない。走る、走る。動いた。だが、遅い。
シュッとクラウンの刀が振り下ろされた時にはラズリの右腕は吹き飛んだ。血も両断されたかのように振り下ろした刀から青い血が縦に伸びている。
ラズリは驚きが隠せない表情で横目で自分の右腕が吹き飛んでいく状態を見た。もはや姿の捉えられない何かが迫ってきているようなもので、僅かに見えた影から横に動いたが動かなければどうなっていたか。
そう思っているとラズリの脳内に突然警報が鳴り響く。もはや考えることもなく体を大きく逸らしていく。
すると、前髪が僅かに斬られ空中に舞っていく。それを目の端で捉えながらすぐさま来た三撃目に対して体を思いっきりねじって、横に移動していく。
すぐ真横から地面を割る衝撃が伝わってきて瓦礫に体を打ち付けられながら、吹き飛んでいく。直撃こそしなかったもののそれでも結構なダメージだ。
ラズリは体を横に転がしながら、途中で立ち膝になり地面を滑っていく。すると、前方からまた僅かにしか見えない影が迫って来ていた。
ラズリは咄嗟に反撃に出ようとするがバランスが取れず前につんのめる―――――――否、前傾に倒れていく。地面につけたはずの足が地面についていない。
ラズリはその瞬間気づいた。やたらと地面につかなかった足が冷たく感じると。そして、思わず足元を見るとそこにはあるべきの左足が足首から斬り落とされていた。
いつ斬られたかはわからないが、可能性があるとすれば先ほどの攻撃の時だろう。そして、ラズリが「やばい」と思った時には顔面にクラウンの右足が入っていた。。
前傾のまま倒れそうだったラズリを無理やり後方へと倒らせるように顔面に蹴りをねじ込む。ラズリの体は背中から地面へと叩きつけられ、その勢いで体が僅かに地面に弾む。
死に体となったラズリにクラウンは慈悲も与えぬ速攻で刀を心臓に突き刺そうとした。だが、瞬間的にラズリによって阻まれる。
それはラズリがとっさに伸ばした左手で指を鳴らしたからだ。それによって、咄嗟に放たれた閃光はクラウンを一瞬怯ませる。
前に一度戦いで使った<消眼ねこだまし>の劣化版だ。両手が使えれば目を焼くことも出来たが、片手では一時的に視力を潰すことしか出来ない。
しかし、ラズリにとってはその多少の時間稼ぎが重要だった。それは本来圧倒的な強者の立場で持って惨殺するために使おうとしていた魔法。
それが現状の戦力差を埋めるための、覆すための切り札になっているとは何とも皮肉な話だが、もはや四の五の言っている場合ではないのだ。
人間に敗れる。それは神の使徒にとって最大級の侮辱で、さらに絶対似合ってはいけないタブーである。生きている奴に神の力の一部を与えて作り出した神の使徒モドキとなんかよりもずっと。
そのためには後少し時間が必要で、その時間稼ぎのためには強い神獣の召喚は必須である。そう考えたラズリは背に腹は代えられない思いで叫んだ。
「怠惰の使徒ラズリが命ずるネ! 創造せし三体の神獣よ! その力を我が前で振るってみせるネ!」
その瞬間、空中にいた数多くの神獣はその数を三等分にするように集まっていくとその体をまるで粘土でも練り合わせるかのように一つに結合していく。
すると、それぞれ竜と同じ二十メートルもありそうなオオカミ、カラス、大蛇が出現していき、それぞれベル達、リリス達、クラウンへと襲いかかっていく。
その間にラズリは片足で立つと目を瞑り、体に全意識を向けていく。その瞬間、神々しいオーラを放ち始めた。
クラウンは襲いかかる大蛇を無視しながら、ラズリへと斬り込もうとする。しかし、その移動を先読みされているのか足元から尻尾の先が飛び出てきた。
その尻尾の先には針がついていて、黄色っぽい色の液体で湿っていた。そして、その液体は一部が空中で滴に変わると地面へと落ちていく。
その滴は地面にシューッと音を立てながら白い煙を放つ。恐らく毒が強すぎて地面を溶かしているのだろう。
「これじゃあ、溶解液と変わらねぇだろ」
思わず思ったことを呟いた。毒であれば恐らくくらっても毒耐性のおかげで無事だろうが、地面が溶けるほどの毒となればくらった瞬間体が溶けかねない。
しかし、大蛇となれば体が一本だ。地面を通して尻尾の方を突撃させたのなれば、すぐには動けない。
そう思って咄嗟に避けた尻尾から距離を取ると今度は自分の地面の周囲一帯が僅かに盛り上がった。<超集中>を一度切って、その間止めていた<気配察知>をオンにすると大量の気配が足元にうじゃうじゃいることに気が付いた。
そのことに嫌な予感がしたクラウンは地面に刀を思いっきり叩きつける勢いで空中を飛ぶとそのまま出来るだけ高く昇っていく。
瞬間、足元から大量の小さい蛇が現れた。小さいといってもどれも二メートルぐらいはありそうだ。それが口を開けながら一斉に向かってきている。
その口には牙があり、牙には毒が塗られていた。数はどんぶり勘定で百はいそうだ。それが全て大蛇と同じ毒を持っている可能性がある以上、不用意に近づくのは不味い。
クラウンは脳処理に負担がかかりそうになることを考慮して<気配察知>を切ると真下に向かってとにかく斬撃を放った。
その斬撃に大蛇たちは斬られ死んでいくが、追加されているかのように数が減っている気がしない。
「シャ―ッ!」
「しま――――――」
真下にいる蛇に注視しすぎて<気配察知>を切ったことが仇になったのか大蛇の迫りくる尻尾に気付かず、溢れ出る蛇の間欠泉のような場所に叩き落された。
地面にはクラウンが落ちてくるのを待ちわびる大量の蛇。空中には勢いよく空中に飛び出して落下してくる蛇。
体勢を立て直すことに集中していたら蛇の雨をもろに直撃してしまう。それでたとえ注入された毒が大蛇のようでなくても、自分のはあくまで毒「耐性」。
完全環境適応のように「完全」とついていないので、あまりにも毒が多ければその耐性も意味を無くすだろう。
そう考えるならば、ここでは体勢を立て直すことではなく、周囲の蛇の一斉排除ということになる。
クラウンは自身を駒のように考えると一気に回転し始める。そして、真っ逆さまに落ちながら、地面に当たる直前で頭上に掲げた刀を一気に横に振るう。
その瞬間、周囲に斬撃を伴った竜巻が発生し、周囲の蛇を巻き上げるとともに斬り刻んでいく。解体された蛇の体と蛇から出た血が空中に勢いよく飛び出していく。
クラウンは竜巻を作り出した瞬間、地面を手で押して蛇が溢れ出る範囲から外れる。そして、すぐさま<気配察知>で数を確認する。
生きている蛇の数は僅かでそれは竜巻内にいるので死ぬのも時間の問題だろう。ならば、殺すべき蛇は後一体だけとなる。
クラウンは<超集中>を使うと大蛇に蜘蛛の巣状の糸を発射した。蛇は熱で獲物を感知するという。だから、いくら速い動きをしても見破られたのだろう。
なら、その飛ばした糸を燃やしたら一時的に自分の熱を超えることになり、その直線状にいる自分の熱はその熱で隠れる。
大蛇はクラウンの想定通り口から毒液を吐いて蜘蛛糸を打ち消した。なぜなら、その行為はそれに注意していたからということ。
一瞬でも意識を逸らせれば絶対に狩れる。
「邪魔だ」
クラウンは投げ捨てたようにその言葉を吐くと一気に接近して大蛇の首を斬り落とした。




