第243話 天空の箱庭 スカイクロノア#1
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
最近堕落しているような
「さて、準備も出来たところだし。そろそろ行くけどいいかしら?」
「ああ、構わない」
「大丈夫です」
「ウォン」
「本日はお供させていただくなのです」
リリスが声をかけるクラウン、ベル、ロキ、シルヴィーと返事をしていく。返事したのがエキドナではなくシルヴィーなのはこれから向かう島に行く際の結界を突破するための要員である。
出発前にクラウン達が直接確かめたことなのだが、どうやらあの結界を抜けるの竜もしくは同伴二名までで、途中で数を増やしたら強制的に結界の外に追い出されるようになっている。
したがって、どうしても人数のためにはもう一人エキドナ以外の竜人族が必要になっているのだ。その必要要員に名乗りを上げたのがシルヴィーであった。
そのため、シルヴィーはクラウン達と共にしている。そして、エキドナはというと少しだけエギルの用でここにはいない。
クラウン達が竜王の住む屋敷の前の石畳の上でしばらく待っているとエキドナが足早に向かってきた。
「ごめんなさい。待たせてしまったようで」
「エー君どうなの? ぐずってなかったなの?」
「少しだけね。でも、妃様のおかげですっかり機嫌が良くなったわ。私といた時よりも元気が良くなったんだから、全く息子も男よね~」
「単純に強い女の人だから惹かれたんじゃないかしら。もちろん、親を抜いてね」
「逆に親の私を含めてそう言う認識されてしまったなら、それはそれで問題よ。とはいえ、強いクラウンが守ってくれるから心配いらないだろうけどね」
「.......いくぞ」
「恥ずかしがったです」
「照れたなの」
「デレたわね」
「ウォン」
「うっさい! ほら、とっとと竜化しやがれ!」
クラウンはほんのり耳を紅くしながらエキドナとシルヴィーに指示を出す。そんな表情を二人して楽しみながら竜化すると二体の白き竜と赤き竜が現れた。「紅白みたいで面白いわね」とリリスは内心で思った。
そして、エキドナとシルヴィーのそれぞれの背中にリリスとベル、クラウンとロキと背中に乗ると大きく羽ばたいていく。
地上は段々と小さくなっていき、国の全体像が見え始めた頃、クラウン達が出発した地点に竜王とエギルを抱いた妃が現れた。
その周りにいる青年と少女は恐らく竜王夫妻の息子と娘だろう。そして、その周りのにも多くの民衆が集まってきた。
英雄の新たなる門出であるからなのかだんだんと人数が増えていき、一人一人が大きく腕を振っていく。そんな光景を点になるまで見続けると天空の島に向かって移動していく。
「なんだかすごい人の数だったわね」
「竜王様や妃様は気を遣ってくださるから、恐らく私達の姿を見た町民が騒ぎ立てたか何かをしたんでしょうね。まあ、あそこまでの人の数になると気恥ずかしいものがあるのだけど」
「それだけ姉さんが人気だってことなのよ。実は姉さんの素も意外と多くの人が知っているかもしれないなの」
「や、やめてよ。そう言うのは。もしそうだったら、これまでの私の行動がすっごくバカみたいじゃない」
「大丈夫よ。今は一人じゃないし、もう一人は気づいているかも怪しいから」
「なんだ俺の顔を見て」
「べっつに~。ねえ、ベルちゃん」
「はいです」
「よくわからんが、ロキ。寝るぞ」
「ウォン」
いつも通りの雑談を二体の竜を挟んでまで会話していく。それほどまでクラウン達の間には緊張感がなかった。それは自分達なら大丈夫という証のようなものであった。
そして、そんな雑談を交わしつつクラウン達は結界内に侵入した。といっても、島に着くまではやることは全くもってないので雑談もあったりなかったり。
雲の合間を抜けて約十五分ほどでクラウン達は竜王国所有の神殿【天空の箱庭 スカイクロノア】にやって来ていた。
外見は島であっても、実際はだだっ広い平地が続くだけの場所かと思えばちゃんとした島であった。
平地もあるが、その大半がジャングルのような熱帯林に覆われていてそのすぐ近くには大きな火山もある。煙とかがないので活火山であるのかわからないが。
一先ず上空から神殿の場所を確かめるクラウン達であったが、見た感じでは建物らしきものは見当たらない。
もしかすると、ジャングルの木々に覆われて隠されている可能性もあるかもしれない。その可能性で今後は動いた方がよいのだろう。
クラウン達は島に降りるとよりこの島が本当に島であることを実感した。とはいえ、その幻想にいつまでも捕らわれていると空中で真っ逆さまになりそうだが。しかし、ベルに<天翔>を授けておけば、全員が空を自由にうごけることになるので現状で心配することはないのかもしれない。
「行くぞ」
クラウンは一声かけると目の前に広がるジャングルに向かって歩き出す。その道中でも周囲をくまなくチェックしていく。
「それにしても、熱いわねーここ。あの砂漠にあった神殿ほどじゃないけどさ」
「砂漠でしたからカラッとした暑さでしたけど、ここはジメジメした暑さでこの毛並みにはとても厄介です」
「ウォン(激しく同意)」
「もしかしなくても、太陽の間直下にあるからなの。少なくともそれなりに高い雲を抜けたところだから、空気もちょっと薄いの」
「加えて、この火山。下手したらこの島そのものが火山かもしれないわね。地面から少し熱を感じる。火山からそれなりに距離があってマグマがここまで通ているとは考えにくいけど。それ以外に地面から太陽光の熱以外でこんなにも熱気を感じることはないわ」
「疑問と言えば、ここにジャングルがあることだな」
クラウン達はジャングルの中に脚を踏み入れていく。その際、道に迷わないように入り口にあった木から糸をくっつけて進んでいきながら。
すると、その質問にリリスが質問していく。
「それってどういう意味? 島に木があることはおかしいこととは思わないけど」
「水がどこからやってくるんだって話だ。ここは一応雲に覆われることがある高度だとしても、降ってせいぜい一か月に一回か二回ほどだろう。一日降らないなんてザラにありそうだ。そう考えるとここらの植物がこんなにもピンピンしてんのはおかしいって話だ」
「この島は一体いつ頃見つけられたです?」
「いつ頃と聞かれると正直わからないとしか言いようがないわ」
「私達が生まれる時にはその島は昔から竜人族の神聖な地として崇められていたなの。なんでも、この島には私達の先祖である神竜様が住んでいるとかなんとか」」
「そして、放っておいたらその聖地には憎き黒竜が住み着いていたと。なんとも笑えない冗談ね」
そう言ったリリスは少しだけニヒルに笑った。そして、エキドナとシルヴィーも同じように苦笑いを浮かべている。それが事実なのだから言い返しようもない。
しばらく歩いていた所で、毛がモフモフなベルとロキが暑さでダウンしたため、少しだけ休憩で地面から飛び出た根っこに座っているとクラウンはそっと呟く。
「もしくはその考え方すら違うのかもな」
「なんのことです?」
「さっきリリスが言っていたことだ。もともと神竜なんていなくて、たまたま得体の知れない黒竜が住み着いたってことも考えられなくもないが、それだとなんとなく理由として弱い気がするんだ。だとすると、その考えは違う可能性もあるなって思っただけだ」
「なら、旦那様はどう考えているの?」
エキドナはシルヴィーとともに近くに落ちていた大きな葉っぱでロキに風を送りながら、クラウンの言葉に質問していく。
すると、クラウンは少し考えた後に告げた。
「そうだな.......例えば―――――――黒竜と神竜が同一人物ならぬ同一竜物って可能性もなくはないだろう」
「「「「!」」」」
クラウンが言った言葉はこの地にはもともと神竜が存在していて、なんらかの影響で黒竜に変わってしまったのではないかということ。
ただの憶測でしかないその言葉であったが、限りなくそのようなことを行いそうな人物に覚えがあった。なぜなら、その人物は数週間前にクラウンを魔王にしてしまったのだから。
クラウンの憶測はシルヴィー以外にはとてつもない説得力が伴っていた。故に、その可能性は大いにあると考えられる。
「黒竜が実は神竜ね.......ない話ではないわね。というよりむしろ、ありそうって感じかしら。なんせ似たような現場を見てしまっているしね」
「クラウンを魔王化できるなら神竜を黒竜にすることも造作もないわね。むしろ、クラウンのよりも簡単にやっていそう」
「あ、あのー、何かあったなの?」
「気にすることないです。少し主様の考えと近しいことを目にした覚えがあるだけです」
クラウン達は頭を悩ませる。その考えでこの先進んでいくべきか否か。その場合、その考えに決定権があるのエキドナとシルヴィーだ。
この二人が黒竜に襲われた被害者であることには変わりない。これから進む神殿に黒竜が住んでいるとして、その黒竜をどうするかは二人に委ねられる。特にエキドナには。
エキドナはここに来る前に「黒竜を殺す」と宣言していた。しかし、その黒竜がはるかも昔から大切にしてきた聖地に住む神竜と同じだと仮定すれば考えも変わったりするかもしれない。
その考えをどちらに決めてもクラウンは引き留めようとは考えていない。それがエキドナの「後悔しない」選択肢なのだから。
エキドナは考えるようにあごに手を付けるポーズをすると少しだけ唸ったように考える。そして、導き出した考えを全体に告げた。
「私は殺すべきだと思うわ。助ける手立てがあるならまだしも、現状はまだない。なら、下手に生かして未来の私達の国に復讐をされるよりかはここでキッチリ息の根を止めた方がいいと思の。シルヴィーは?」
「私も賛成なの。頭のいい姉さんの考えってこともあるけど、確かにエー君や街の人々のためにやるとすればそうしかない気がする」
「その.......大丈夫なの? シルヴィーは戦うとか?」
「全くリリスちゃんはすっかりシルヴィーを甘やかして。大丈夫よ。こう見えてもシルヴィーも私と同じ竜人族であることには変わりない。むしろ、興奮するとスイッチ入るぐらいだから」
「「スイッチ?」」
クラウンとリリスはその不穏なワードに思わず声を揃えて嫌な顔をする。すると、エキドナはニコッと笑って答えた。
「戦うと興奮しちゃうの」
「バーサーカータイプか.......」
「朱里タイプか.......」
二人は思わず疲れたため息を吐く。そして、聖王国に向かっている朱里はくしゃみをしたようなしないような。




