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神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~  作者: 夜月紅輝
第11章 道化師は狩る

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第241話 見えないところの変化

読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)


変態淑女の想いとは

 クラウンに予想外の言葉が突きつけられてから、数時間が経った。夜の空には雲が見えず、星々の輝きと月光がそっと街の光に足されていく。


 何百年と見慣れた空。しかし、竜生の中ではたった数秒の思い出でしかないここしばらくの体験をしてからは今の空がとても懐かしく思える。


 再びこの空を手に入れるため、息子のためにも命からがら成し遂げた環境。この国の人々からは英雄ともてはやされ、また長く一緒に息子と同じ空が眺められるというのに―――――――


「この浮かない気持ちはなんなのかしらねぇ」


 すぐ近くの道を沿って家々が並ぶ。その家の上には切り立った崖から月が顔を覗かせる。その月を見ながら、エキドナはため息交じりに言葉を吐き出した。


 今いるベランダの足元には小さな鉢植えが数個並んでいる。エギルのためにこの国を離れてから手入れなんてすることもできないと思っていたので枯れていると思っていたが、今も元気に次の実りのために花咲く準備をしている。


 月光に当てられた植物は夜風にゆらゆらと揺れていく。恐らくシルヴィーが自分に変わって育ててくれていたのだろう。そんなことを頼んでもないのに。


 チラッと窓を見れば少し大きめのベッドがあり、そのベッドでエギルが丸くなって寝ている。しかも、顔にタオルを押し当てて。少し見なかった間にタオル好きがさらに悪化しているようだ。前までは寝る時まで手に持っていなかったのに。


 そんな光景を見ると思わず口元が緩む。どうしようもなく幸せという感情が湧き上がってくる。


『もっと身近に俺の何十倍も時間をかけるべき相手がいるだろう』


 しかし、ある一定値まで来ると急に動かなくなる。どこか冷えたような感情が心の一部に残っているような気がして。


 そして、思い出すはクラウンに言われた言葉。全くもっての正論で返すべき言葉も見つからない。自分は母親であって、目的はそれであってそれ以上何もする必要はないのだ。


 何もする必要はない。自分の目的は終わった。にもかかわらず、浮かない気持ちがだんだんと心の中を満たしていく。


 その気持ちは痛々しく、気持ち悪い。しかし、吐き出すことも出来なければ、心の中でずっと停滞している。その原因も、言ってしまえば対処法も知っている。


 しかし、その対処法を使ったとして果たして自分はそのままでいられるだろうか。あの時ああすればよかったと後悔するのだろうか。


 ........する。絶対する。そして、その気持ちを抱えたまま自分は悟らせないようにまた仮面を被って過ごしていくのだ―――――――今までと同じ。


 数が増えただけ。守るべき対象が変わっただけ。そのために今度は二種類の仮面を使い分ける。この短い間で一切考えなくていいことをまた考えなければいけない。


 楽しかった。辛い時も、悲しい時もたくさんあったけど、それでも楽しかったし、楽だった。仮面を使って過ごさなくていいことはとても楽だったし、同じく仮面をつけて生きてきた少年をすぐ近くで見てきた。


 少年は下手だった。上手く隠しているように見えてるけど、同じ仲間からバレバレだった。私がわかるのは同じ境遇だと思ったから。


 でも、同じ仲間がわかるのはきっとずっとそばにいたからなのだろう。そう、そばにいたから.......。


「!」


 エキドナは思わず自分の思った言葉で呟いた。それはもし自分も同じだったらと思ったから。


 ずっと上手く隠しているつもりだったが、もしそれが他の人にも知られていたら? 自分のまわりで自分の素を知っているのは竜王様と妃様。そして、亡くなった夫だけだった。


 その時、ふと後ろから僅かに扉が開く音がする。その音をキャッチしたエキドナは咄嗟に後ろを振り向くとそこにはシルヴィーの姿があった。


 シルヴィーは風に揺られてかかった髪をかきあげながら、エキドナの隣へとやってくる。そして、柵に両肘をつける。


「エー君、今までにないくらい安心しているのよなの」


「そ、そう.......それは良かったわ」


 エキドナは少し深呼吸すると平静に答えていく。また無意識に仮面をつけたような気がした。そう思っているとふとシルヴィーがジッと顔を見ていることに気が付いた。


「どうしたの?」


「いーや、なんでも」


 シルヴィーは素っ気なく返すと頬杖をついた。そして、何も返さない。そのことがどこか気まずく思いながらも、エキドナは話しかける。


「私がいない間、エギルの様子はどうだった?」


「目覚めた当初は泣いてたかな。やっぱり、母親(お姉さん)がいなかったことがとても悲しかったみたいなの。でも、あの子は強い子だよ。泣いたのは一日だけなの。次の日から私の『必ず帰って来る』って言葉を信じて自分で出来ることを探していたみたいだし。それに私同伴だけど買い物だってできるなのよ」


「そう.......そんなにたくましくなっていたのね」


「けど、甘えたがりはやっぱり変わらないのかな。ほら、姉さんが帰ってきた時のあの泣きっぷりとくっついて離れない姿は今日一の印象なの」


「そうね。私も会えて嬉しかった。母親としてダメな行動をして嫌われちゃったかと思ったわ」


「でも、それで大切な人を救えたんでしょ? それなら、その行動は間違ってなかったなのよ」


「でも.......どっちが良かったんでしょうね。旦那様が私のことを思って言ってくれた言葉。その言葉はとても身に染みる。けど、浸透し過ぎちゃてどうすればいいかわからない。もちろん、エギルのことは大切。命をかけて助けたかけがえのない存在。でも、だからといって旦那様達を放っておいていい理由にはならない」


「要するに踏ん切りがつかないみたいなの?―――――私を守っている時とは状況が違うから」


「ええ、そう―――――――え?」


 エキドナは思わずシルヴィーの方を見る。すると、シルヴィーは二カッと笑っていて「してやったり」と呟いていた。


 何が何だがわからず、シルヴィーは目をパチクリとさせる。そして、その言葉の真意を尋ねた。


「シルヴィー、それはどういう意味?」


「実はこのシルヴィー、姉さんのひた隠しにしてきた重要な情報を知っているなのですよ」


 シルヴィーは人差し指を上げながら、自信満々に言い張る。その行動にエキドナは思わず固唾を飲んで見守った。そして、シルヴィーは優しい笑みで告げる。


「姉さんが私のためにずっと素を隠していることを知っているなの。それも私にまで。最初は家族の私すら嘘をつくような行為に不満もあった。けど、それが全部私を守るためってわかった時にはそうは思わなくなったなの。でも、きっとこれからもずっとそうなんかじゃないかって心配の部分もあった」


「シルヴィー......」


「だから、姉さんが素で大丈夫な相手が出来た時は本当に嬉しかったなの。心の底から祝福できたなの。でもさ、あんなことが起きたから全てがまた灰色に戻ってしまった。私が求めていた姉さんはまた消えてしまった」


 シルヴィーは夜空を見上げる。煌めく星々をぼんやりと眺めていく。そんな妹の姿をエキドナは何とも言えない表情で見つめていた。


 すると、シルヴィーは一際輝く星に向かって手を伸ばし始めた。まるですぐ近くに届きそうで届かないものがあるかのように。


 そして、その状態のまま輝くような笑顔で告げる。


「でも、また戻ってきたの! 私の求める素敵な姉さんがなの!」


 シルヴィーは伸ばす手を柵の上に戻すとエキドナの方へと向けていく。


「今度はもう手の届かないところに行っちゃったわけじゃない。姉さんさえ手を伸ばせば届くはずなの。それを選ぶかどうかは姉さん次第。けど、私的には―――――――妹と可愛い息子のために幸せになって欲しいなの」


 シルヴィーは二カッと笑ってそう告げる。その笑顔にエキドナは思わず肩を小刻みに震わせる。柵の上を握っている手に力が入る。


 月光がエキドナの目の端に溜まった涙を輝くものへと変えていき、そのまま流れ落ちていく。鼻をすする音やむりに息を吸おうとしてしゃっくりしたような声を出す。


 その姿をシルヴィーは目を閉じながらエキドナが泣き止むまでずっとジッと立っているだけだった。


 それから、数分後に泣き止んだエキドナは言い訳っぽくシルヴィーに告げる。


「なんだかごめんなさいね。ここ最近泣きやすくなっているかもしれないわ。もしかしてもう歳かしら。それとも泣きっ子属性の追加かしら」


「泣きっ子属性? はよく分からないけど、姉さんが泣きやすいのは素じゃないかななの。きっと涙を堪えていろんなことを頑張って来たから、その反動かもしれないなの。でも、泣くってことはある意味良いことかもしれないなの。それだけ、(感情)が表に出るってことだからね」


「なんだか初めてよ。妹にこんなにも言われているのに反撃の言葉一つ言えないだなんて」


 シルヴィーはその言葉に得意げに鼻を鳴らす。


「ふふん、これでも姉さんの妹なのですから。それに普段言わない姉さんのわがまま......私だったらいつでも聞いてあげるよ」


「あなたは別の意味で魔性ね」


「魔性って?」


「穢れが無くて犯し難いほどに真っ白。でも、近づけないほどじゃなく適度に抜けてるところもあり、人の心に寄り添える部分もありで―――――――つまるところ素敵なレディーってことよ」


「やったなのー! 姉さんからレディー認定貰ったなのー!」


「だからまあ、逆に貰い手が見つからなそうなんだけどね」


 エキドナはそんな未来に想いを馳せるほどの心の余裕に気付きつつ、その気持ちにさせてくれたシルヴィーに深く感謝の念を送った。


 そして、チラッと息子のエギルを見る。


「これからまた迷惑をかけるし、謝って許されるかもわからないけど、もう少しだけダメな母親のわがままを聞いて」


 エキドナを謝罪と多少の罪悪感を抱いてそっと呟いていく。そして、エキドナはシルヴィーの方を見た。


「シルヴィー、私は覚悟を決めたわ」


「ふふん、それなら私も言った甲斐があったなの。それに狙った(相手)は逃しちゃダメなの」


「あら、あなたその言葉をどこで知ったの?」


「妃様が教えてくれたなの」


「はあ、あの方は.......あの方だけよね、興味本位で純白を汚したがるの」


「汚し? どういうこと?」


「まあ、一般教養程度だし教えてもいいか。あのね、シルヴィー――――――」


 そして、それから月光の下で親子水入らずならぬ姉妹水入らずのちょっとエッチな雑談が始まった。

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