第24話 ベルの正体と不信の道化師
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「終わったとは何がだ?」
クラウンは落ち込んでいるリリスの様子を見て思わず尋ねる。こっちにはこの世界の知識は生活できる程度にしかない。なので、リリスの態度も理解することができない。
するとリリスは座り直すとクラウンに説明し始めた。
「ベル......この子はね、獣王国にとって国家機密情報に等しいの」
「......ほう」
クラウンはその一言で物凄く興味を持った。これから獣王国に向かおうとしている最中にそんなとんでもないものを奪って来てしまうとは。しかし、リリスの顔は依然として晴れやかではない。
「ベルはね、獣王国の生贄巫女なのよ。その獣王国にある神殿を護るためのね」
そうしてリリスがクラウンに伝えた内容はこうであった。ここ数百年前にどこからともなく一匹のバカでかい獣が現れた。
そして、その獣は獣王国が護っていた神殿を自分の住みかとして奪い取った。
だが、その当時多くのものが寿命で死ぬまで放っておけという感じだった。だが、どういう訳かその獣はいくら経っても死ぬことはなかった。
それからやがて、多くの獣人が食い殺されることが増えていった。しかも総じて魔力が多い者を優先的に。
「このままではいけない」そう思って動き出したのは最初の獣の血を引き、神殿を護る巫女達であった。巫女達はその血のおかげか従来の獣人達よりも非常に多くの魔力を有していた。
だが代わりに、その巫女達に戦闘力は無かった。なんせもともと護られる立場であったからだ。加えて、戦えても意味は全くなかったが。
ならば、どうするか。自らを犠牲にして民を護る他にない。それが生贄巫女の始まり。
幸いなことにその勇気ある行動でその獣は巫女しか食わなくなった。加えて、食うことで魔力を回収していたのかその獣が襲いに来る頻度は極端に減った。
だが、その代償は高くついた。巫女はもともと神殿を護ることもそうだが、国の結界の要であった。故に獣に食われることで多くの巫女が減っていき、結界が保てなくなった。
加えて、巫女の寿命が極端に減った。あの獣はどうやら好みがあるらしく、15以上20未満の巫女が最も多く食われた。
これは致命的なことでこの世界では15歳が成人の年、要するに子供を産める年齢に当たるのだ。
だが、その年齢層が最も食われるので巫女の血が絶えかけた。巫女がいなければまた多くの民が食われてしまう。国は何とかその微妙なラインを維持しながら現在まで保っているのだ。
もちろん、最初のうちは討伐隊が組まれ、その獣に戦いを挑んだ。だが、その誰一人として帰って来なかった。なにがあったか調べる調査隊も例外なく。
故に、巫女の存在そのものが国を揺るがす大きな秘密なのである。その存在がバレれば、そこを攻められたちまち国は亡ぶから。
しかも、ベルは15歳で捕食適齢期に当たるのだ。その存在はあまりに大きすぎる。
それを聞いたクラウンは告げる。
「なら、そこを攻めればいい。獣王国がどうなろうと俺には関係ないからな」
「バカ言うんじゃないわよ。それだとベルが悲しむでしょ。それにたとえそのまま突き出しても殺されるだけよ」
「どう意味だ?」
クラウンはリリスの言っている意味がわからなかった。リリスが言っていることは国家機密であるベルをを獣王国が抹消するということだ。
もうバレているものを消したところで意味はないし、その巫女が無ければ獣に殺されてしまうのは獣王国側だ。それは明らかに自分達の首を絞める結果になる。
するとリリスはクラウンに諭すように言った。
「クラウン、あんたは一つ考え忘れているわ。前提としてどうしてここまで耐えれてきたと思う?」
「......なるほど、代わりはいるということか」
「そういうこと。一人の女性に一人の子供じゃどうやっても足りなくなる。ならその産む子供の数を増やせばいい、そうなるはずよ。それに『生贄』巫女よ?いずれ食われて殺されるなら、こっちで殺しても問題ない、なぜなら代わりがいるから」
「それじゃあ、ベルは交渉材料にならないということか......」
「そうね、そうなるわね。あとはなるようになることを祈るしかないわ」
クラウンもリリスも半分国に入ることを諦めていた。そして、特にリリスは深いため息を吐く。なんせ強行突破なんてしようものなら漏れなく指名手配される。
さすがに、3国で事件を起こせば、ほかの中小都市にも指名手配が出て行動が限られてくる。すでにもう出されているかもしれないのにそれが確定的になってしまう。もっとオシャレとか、美味しいものを食べたいのにこれはあまりに残酷だ。
「......私はお役に立たないです?」
不意にベルがそんなことを聞いてきた。おそらく使えなければ切り捨てられると思っているのだろ。クラウンはまだしも、私はそんなことはしない。
「大丈夫よ、ベルの存在でわかったこともあるから......ね?クラウン?」
「そうだな」
まるで同意させるかのように高圧的な口調で聞いてくるリリスにクラウンは呆れながらも同意した。
というか、そもそもそんな理由で奪って来たわけではないのでベルの存在が役に立たないと決まったわけじゃない。それを決めるのはベル次第だ。
「話し合っていたら、お腹空いてきたわ」というリリスの言葉でリリスが料理を始め、食事をし始めた。
「そういえば、私がいない時に生肉なんて食べさせていないでしょうね?」
「食わせるか。あんなもの好き好んで食っていたわけではない。めんどくさい時だけで大抵は焼いて食っていた」
「そう、なら安心したわ」
リリスはホッとした顔をした。クラウンが森の王との戦い後、その肉をそのまま食べようとしていたのがあまりに衝撃的だったから、てっきり普段からもそう食べているものだと思っていた。それにしっかりとベルにも食べさせてある。
きっとそこの部分を褒めても「俺の駒として十分な働きをしてもらわなくては困る」とか言いそうだから言わないけど。
......でも、まだやっぱり優しい部分は残っている。そのこともそうだけど、ベルが奴隷の割に随分とキレイで......
リリスはその思考に至ると思わず硬直した。今のベルはまだ体力や精神が回復しきっていないのかまだ動きがぎこちない。
それに、ベル自身がまだ若干虚ろな目をしている以上、そんな時に自分の体をキレイにしようとは考えにくい。まさか......ね?
「ねぇ、一つ聞いていいかしら?」
「なんだ?」
「ベル、キレイよね?どうして?」
「俺は汚いのは好きではない。だから、ひん剥いて川に放り投げて洗った」
「......はあ」
リリスは思わず頭を抱えた。だが、「女の子になにしてんのよ!」とも言えない。
なぜなら、クラウン自信にそんな感情があるとは思えないし、ベルの見た目もあってで本人的には至って普通の対応をしただけなのだろう。年齢のことも知らなかったみたいだし。
でも、なぜだろうか。私がそのことを聞く前にベルの正体を知ってしまったからなのだろうか。クラウンの行動があまり割り切れない。だが、これは仕方がない、仕方がないことなのだ。
食事が終わるとここでベルが静かに口を開いた。
「主様はどうしてお面をつけているです?」
リリスはその質問のあと嫌な予感がした。それは自分が質問したときに向けられた感情のない瞳。まさかそれを向けるのではないかと思った。ベルの聞きたいことはもっともだが、それはあまりに危険。
そんなリリスの思考を読み取ったのかロキがそっとベルを護るように寄り添う。そして、リリスの思った通りこの場が凍り付いた。
「お前らが信用できないからだ。お前らの思考、存在......それすらがなにをするのかわからない以上俺はお前らに心を見せることはない」
やはりクラウンの言葉はリリスには胸に来るものがあった。確かにまだ出会って間もないことは確かだ。だが、その間ずっとそばにいて信用されようと頑張ってきたのも確かだ。
けど、それが全て無意味というような言葉が伝えられるとやはり辛い。仕方ないとわかっていることもある。
だけど、そう簡単に割り切れないこともある。どうしてここまで同情気味になってしまうのかはわからないけど、このまま放っておくことは出来ない。
リリスはふとその言葉を与えられたベルの方を見た。そして、驚いた。なぜならそんな目を向けられながらベルは微塵もクラウンから目を逸らしていなかったのだ。
ただ真っ直ぐとその目を受け止めている。私にもまだできないことを簡単に......いや、簡単ではないか。ベルはその恐怖に打ち勝とうと必死に拳を握りしめている。
「主様は家族が信用できないです?」
「ああ、出来ないな。そういう存在はあっても無駄なだけだ。どれだけ信じようとも仲間は裏切り、見捨て、嘲笑う......ならば、最初から利用し合う関係の方が手も切りやすくて助かる。もともと情もないわけだから殺しても構わないしな」
「それはあまりに悲しくはないです?」
ベルは勇気を振り絞ってクラウンに聞いた。そばにいるロキが「大丈夫だよ」という目線を送っているから。
そして、怖くても目の前にいる男が自分の家族なのだから。それは今決めた。家族ならば互いに支え合って問題を解決していくはずだ。おじいちゃんからはそう教わった。
「悲しい? そんな感情が神殺しのどこに必要だというのだ?殺すことにいちいち情をかけていたら、精神も持たないし、そもそも殺す前に殺されている」
「情のなにが悪いです?確かに殺すことには必要ないです。ですが、それが全くないと殺戮兵器となんら変わらな―――――――――――」
クラウンはベルの口元を掴み顔を近づけた。その目には殺気と怒気が混じっていた。常人ならば見れば即座に発狂からのブラックアウトになるものであった。
だが、ベルはその目すら受け止めた。恐怖もあったし、死ぬかもしれないと思った。
けど、クラウンの相棒のロキがいてくれるから、「大丈夫」と伝えて来るからそれを信じて。それにクラウンの闇には向かい合っていかなければならない日が絶対に来る。ならば、早いうちに解決するに限る。
「お前が俺の何を知っているというんだ! お前は俺の駒だ! ただ大人しく利用されろ!」
「いいえ、違うです。」
クラウンの言葉にベルは即答した。そして、クラウンの手を自分の顔から離すとリリスの方へ向かっていく。それにロキもついていった。
「ベル......」
「リリス様、大丈夫です」
それからベルが座っているリリスの横に立つとそっと肩に手を置いた。またリリスを挟むようにロキが反対側に座る。
「私は、物心つく前に両親が死んでしまったので本来の家族というものがわからないです。ですが、家族の『形』は知ってるです。ずっと一人でしたが、それでも近くにいてくれる人はいるです。だから......」
不意に強い風が吹き、日差しの強さが増す。
「私達が主様の家族です。まだ主様やロキ様、リリス様のことは何も知らないし、わかりませんがこれがあるべき姿であることはわかるです。これではダメなのです?」
「......」
クラウンは答えることはなかった。そして、ただ立ち上がると一人静かに森へと向かっていった。
「伝わってるといいわね」
「はい......」
「ウォン」
「きっと伝わっているよ」といった吠え声を上げるロキにリリスとベルは優しく微笑む。
「ベル......クラウンのこと一緒によろしくね」
「はい、どうやら私はただの駒ではないですから......」
「?」
リリスはベルの言葉が不意に気になったが、あまり深くは捉えなかった。そして、三人はしばらくクラウンが歩いていった道を眺めていた。
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