第239話 実家に突撃訪問
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
※エキドナは一児の母です。忘れられてそうな設定
「はあ.......」
「だいぶ言われっぱなしだったわね」
「ああいうタイプは心底苦手だ」
竜王との話を終えた後、クラウン達は外の空気を吸いに街を歩いていた。とはいえ、その大半の理由がクラウンのゲッソリした顔を元に戻すための行動だが。
クラウンがエキドナの話を聞いた後にもクラウンが違う世界の住人と知っていたのか、もとの世界のことやこれまでの旅の内容などを興味津々で聞かれた。
特に隠すこともないので、長くならない程度で話していると竜王は話し一つ一つに疑問や気になった所をぶつけてくる。それがまた細かく、挙句の果てに「その当時のクラウンの心情を今の状態から見てどう思うか」とか半分わけわからないことを聞かれた。
「知らん」と一言で済ませようと思えば出来たのだが、それは相手による。少なくとも竜王はその程度で引き下がるとは思えなかった。故に頑張って説明したのだが.......疲れるのなんの。
そして、ようやく先ほど解放されたのだ。そんな苦難の果てに一つの目標を超えたような清々しい顔をするクラウンにリリスは思わずため息を吐く。
クラウンはふと周りを見る。町並みは相変わらず中華のような華美な装飾だが、活気はこれまで見てきた街とそれほど変わらない。
街の雰囲気がまた別の異世界に来てしまったような感じがするだけで、人族から追い回されることがないという点ではとても居心地がいい場所であった。
すると、すぐ近くで買い物中のシルヴィーを見つけた。シルヴィーはお惣菜を見て何やら考え込むようにあごに手をつけている。
その姿を見つけた途端、リリスはシルヴィーへと駆け寄って抱き寄せるとすぐに頭を撫でていく。どうやらリリスはすっかりシルヴィーを気に入ってしまったようだ。
シルヴィーが特に何かしたというわけではなく、リリスが一方的に気に入っているだけという話。「なんというか醸し出される守ってオーラが――――――」というどうのこうがリリスの意見だ。
その意見の大半は理解していないが、なんとなくならクラウンもわかる。どうしてだかそっと頭を撫でてやりたくなる。父性だろうか。
しかし、そっちばっかりにご執心だとベルとロキにジェラシー持たれて自分の臭いを擦りつけてマーキングするように密着してくるので、残念ながらあまり構うことは出来ない。
とはいえ、これだけならリリスとてあまり問題なかっただろう。問題はシルヴィーといつの間にか生まれていた上下関係にあった。
「もう、どうしたのよ? こんなところで?」
「エキドナ姉さんに頼まれて買い物を.......リリス姉さん頭撫で過ぎだよ~!」
「んもぅ、可愛いんだから!」
そうリリスは「姉さん」なのである。リリスとシルヴィーの年齢は人族換算で考えれば同年齢で、もとの生きた年数からすれば圧倒的にシルヴィーの方が年上である。
しかし、リリスが「私も姉さんと呼んで」と言ったことから、純粋無垢なシルヴィーはその言葉の裏に隠されたリリスの欲に気付くことなく受け入れ、今に至るのだ。
リリスはシルヴィーを見ると「構いたくなる」だそうなのだが、クラウン達から見れば自ら近づいてシルヴィーを撫でまくるその姿はむしろ「構われに行っている」という風に映っている。そのことを当の本人は全く知る由もない。
「それで、リリス姉さんのところは竜王様との話は終わったなのです?」
「ええ、あそこで竜王様にいろいろ言われてグッタリしている人がいるでしょ?」
「あ、確かにクラウン兄さん、グッタリなのですね。まあ、あの人と話すときはそれ相応の覚悟が必要って言うのですからね。話が必ず長くなるからって」
ちなみに、クラウンもリリスの「姉さん」と同時に「兄さん」に昇格している。
「あの竜王は昔っからああなのか? なんというか、人の心を常々見透かしたように言ってくる辺り」
「あー昔っからなのです。少なくとも、私が生まれた時からはああいう風なのです。竜王様は年の功と言ってるのですが。うさん臭いのです」
「そうよね~、うさん臭いよね~」
リリスはシルヴィーの頭に頬ずりしながら言葉に同意する。まるで飼い猫に一度はしそうなことを先ほどからシルヴィーにずっとしているのだが、シルヴィーは全く嫌な顔一つしない。天使のような慈愛の笑みで受け止めている。
クラウンはそんなシルヴィーに天使の翼とリングが見えるような気がした。つい最近見たせいかよりハッキリ幻視が見えていく。
しかし、そんなことをしているとベルに袖を引かれ、ロキには頭を小突かれる。なので、目を逸らして出来るだけ見ないようにするが.......
「クラウン兄さんと全然目が合わない.......」
「こら、クラウン! 話すときは相手の目を見なさいって言ってるでしょ!」
クラウンがその行動をするとシルヴィーはシュンとした落ち込んだ顔をして、リリスが母猫のごとくクラウンに向かって怒る。「話すときは相手の目を見なさい」なんて言葉今の今まで一度も言われたことないのに。
まさに前門の虎後門の狼と言わんばかりの板挟み状態。その原因がシルヴィーであり、そのシルヴィー自体が無自覚に起こしていることなのだから、実に別の意味で魔性である。
クラウンはこの空気を打破しようと一先ず気になったことを聞いた。
「シルヴィー、そういえば俺達が竜王のところへ呼ばれる前にエキドナに何か耳打ちしていたな。そして、そのまま二人でどこかへと行った。今あいつはどこにいる?」
「あー、姉さんなら今は実家の方にいるのです。長らく他の人に任せっきりだった息子のエー君に様子を見に行くよう竜王に言われてなのです」
「なるほど、そういうことか」
クラウンはなんとなく竜王の行動を理解した。それはどうして話が長いのかということ。
前々から話が長いということなのでもとりよ話し好きななのだろうが、今回は一つの話に三つ四つと質問してくることにおかしいと感じていた。それもどうでもよさそうな情報を。
しかし、それが時間を稼ぐためだとすれば、なんとなく理解することは出来る。まあ、それはそれで言ってくれれば待つことは出来たのだが。
すると、シルヴィーは「そろそろ良さそうな時間ですね」と買い物を済ませると街の中央広場にある小さな時計塔を見る。そして、エキドナがいる場所まで案内し始めた。
歩くことしばらく、クラウン達は先ほどの華やかな場所とは無縁にも似た場所に来ていた。というのも、先ほどの場所が豪華過ぎたためか、現在の場所は酷く質素に見えるのだ。
基本的に白系統の色で統一された家々はややくすんでおり、古びた印象さえ感じる。良く言えば味があるという感じだが、基本的にはそんな感じだ。
渓谷の一部にあるためか両端には空を覆い隠すのではないかというぐらいの断崖絶壁の壁が両端にあり、そして空の遥か高くには異様に目立つ宙に浮いた空島が見える。
どんな原理で浮いているのか。恐らくはリリスの重力魔法にも似たような魔法で浮かしているのだが、かなり遠くの場所からでも大きく見えるそれはまさしく島一つを空に浮かせたものなのだろう。
そして、あの空島こそがこの竜王国にある神殿なのだろ。もしくは、あの空島のさらに内部に神殿が存在しているのか。
クラウンはその場所に次なる意識を向けつつ、シルヴィーの後をついていくとやがて一つの小さな民家に辿り着いた。
見た目からして実に裕福な暮らしという感じではなかったようだ。竜王が目にかけるぐらいであったため、無意識にそれなりの家庭だと勝手に感じてしまっていただけかもしれない。
コンコンコンとシルヴィーがノックすると扉の奥からドタドタドタと小さな音が駆け寄っていく音がする。そして、シルヴィーが扉を開けると―――――――
「お帰りなさい! お姉ちゃん」
「ただいまなのよ~、エー君~」
シュバッと飛び込むエギルをキャッチするとシルヴィーは優しく受け止め、そっと頭を撫でていく。すると、その後ろから「こら、走らないの」とリゼリアが現れた。
そんな様子を見てリリスは思わず告げる。
「エキドナ。ちゃんとお母さん出来てるのね」
「リリスちゃん、それに旦那様にベルちゃん、ロキちゃんまで.......ふふっ、恥ずかしいところを見られちゃったわね。どうせ見られるなら旦那様と二人っきりの時の方が堂々と見せれるのに」
「その言葉遣いはやめろ」
「その言葉遣いはやめなさい」
まるでどっちが親なのか。相変わらずのエキドナ節炸裂にクラウンとリリスはエギルとシルヴィーを守るように背中に隠した。
そんな光景を楽しそうに見ながら、エキドナは告げる。
「ふふふっ、いずれはリリスちゃんも辿る道よ。それに私もいるから安心して」
「うっ.......それはそれとして、子供の前でしょ? 男の子でその言葉遣いになったら問題大ありだから、今のうちにやめなさい」
「あなた達の反応が楽しくてついね。ともあれ、狭くてあまりいい家ではないけれど、上がって。もちろん、ロキちゃんもよ」
「ウォン(やった)」
そして、エキドナの宅へとお邪魔すると狭いと言えど確かな生活空間があって、中は几帳面と感じるほどきれいに掃除されていた。
少なからずクラウン達の人数が入ってもそれなりの動けるスペースはあるぐらいだ。その部屋にあるソファにクラウン、リリス、ベルが座り、向かい合うようにエキドナとシルヴィーが座った。残りのロキはソファの傍で横になり、エギルはロキにちょっかいを出している。
「いろんなことに興味ある年齢なのよ。それもこんなに大きな魔物が来るとなおさら気になってしまうみたいでね。少し騒がしいかもしれないけれど、気にしないでもらえると助かるわ」
「いいわよ、別に。それぐらいなら気にすることでもないわ」
「まあな、それにロキも初めて一般住宅には入れて喜んでるみたいだ。なんせ二メートル弱だからな。どこの宿でもブロックだし、ましてや王宮なんて以ての外だ。それにロキは子供の扱いは上手い。だから、気にすることでもない」
「ロキ様も嬉しそうに尻尾を振っているです」
そう言うベルの視線の先には尻尾を振り振りとしながら、チラッとエギルの行動を見ているロキの姿が。
エギルがそっと近づいてロキの尻尾に触れようとするとロキがバッと頭を上げる。その瞬間、エギルは距離を取る。
玩具の「チビ○ガオガオ」みたいな行動を繰り返す二人はそれなりに楽しんでいるようだ。そして、エキドナはソファを挟んだ机に人数分置かれているお茶に口をつけるとクラウン達に尋ねた。
「それで? どのくらいしたら向かうのかしら?」




