第23話 はい詰み~
あ、ちなみにこの幼女は二人目のヒロインです
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「あんた何してくれちゃってんの!?!?」
帝国から出てしばらくしたところにある森でリリスの声が鳴り響いた。
その怒りはもっともで、自分が久々の一人の時間を楽しんでいる時にどっかの誰かさんが大勢の兵士を惨殺&奴隷を強奪したことにより帝国でも指名手配された。
......森をでてまだ3週間も経たないところで、聖王国は仕方ないにしろ帝国の方は一体どういう了見か。おかげでなんだか自分まで酷く肩身が狭く感じてしまう。
だが、そんなリリスの怒り声も虚しく、クラウンは涼しげな表情だ。むしろ「何をそんなカリカリしてんだ」といった感じである。
「こいつが欲しかった。だから奪ってきた」
「なにが『だから奪ってきた』よ。もう少しやり方はなかったわけ?」
「あの状況はないな」
リリスは思わず押し黙る。なんせその状況を全く知らないからだ。クラウンが強奪を始めた時、リリスは今後のことを考え服や食べ物、回復・状態異常回復のポーションを買っていたのだ。
たまたま買っていた店でパレードのようなものが催されていると聞いたが、それがまさか殺戮パレードになっているとは微塵も思うまい。
リリスは疲れたため息を吐いた。......だが、ここでもう何を言ったとしてもクラウンに届くことはない。ただの暖簾に腕押しだ。なら、話を進めてしまおう。
「それで、その子があんたが奪ってきた子ってことよね?それにしても獣人ってあんた.....」
「本当はあの夜に会った情報屋にまた頼むつもりだったんだが、たまたま見つけてしまってな。それで獣人ときたもんだ。実に都合が良いだろう?」
クラウンはそう言いながら本当に嬉しそうにカラカラと笑う。
もちろん、リリスにとっては......いや、二人にとっては全然都合よくはない。獣人のそれも小さな女の子を奴隷にして引き連れているなどどうあがいてもアウト。
入国など許されるはずがないし、というか聖王国と同じで一国を敵に回す。先ほど帝国に喧嘩売って次は獣王国......なるほど、クラウンは人の皮を被った悪魔だったのか。
リリスは思わず頭を振る。ダメだダメだ、現実逃避している場合ではない。この神逆者パーティでは私がブレーン。しっかりと考えなければ。そのためにもその獣人の子のことを知らないといけない。
「それでその子の名前は?」
「名前はないそうだ。だから俺がベルとつけた」
「あら、思ってたよりもいい名前ね」
リリスはクラウンのネーミングセンスに素直に驚いた。この男のことだったらてっきり悪魔とか物の怪由来の名前をつけそうであるのに。
そんなリリスの反応を見て、クラウンは呆れたため息を吐く。こっちはこっちで自分がリリスからどう思われているのか時には問い詰めたいところだ。
しかし、リリスは一抹の不安が拭えなかった。だから、聞く。
「ねぇ、ちなみにその名前の由来は?」
「ベルフェゴールの二文字を取って『ベル』だ」
「がっつり悪魔から由来を取っているじゃないの」
リリスはもうはやわかっていたような顔をしながらも大きくため息を漏れてしまう。別に神に対抗しようとも名前までそっちに寄せなくていいのでは?だが、どうせ言ったところで無駄であろうけど。
するとここでふと思い出す、ロキの存在を。ロキちゃんは私が会う前からクラウンと行動を共にしている。ならば、この前の由来は一体......まあ、だいたい予想はつくけど。
「そういえば、ロキちゃんの名前の由来って?」
「北欧神話からつけた名前だ。呼びやすくて意味も悪くない」
「北欧神話?まあ、わからないってことはきっとあんたの世界のものなんだろうけど。それで、意味は?」
「意味......というか存在と言うべきか。ロキはその北欧神話では悪神として名が通ってる。やはり神に対抗するには悪神であろう?」
「はあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
リリスはもはや露骨に「コイツ、頭もやられてる」といった大きなため息を吐いた。そう考えるとロキもベルも名前が随分と可哀そうだ。いいのよ?たまにはこんな主を殴ったって。
リリスはもうこれについて考えることは止めた。考えている自分がバカらしい。
「そういえば、さっきから全然しゃべらないわね」
リリスの言う通りベルは自分がクラウンと合流してから実は一度もしゃべっていない。現在もロキの体に抱きつきながらじっとしている。
てっきり、クラウンに恐怖してしゃべることもままならないんだろうと思いきやベルの目からはあまり恐怖という感情は見受けられない。もしかしたらただの無口かも知れないが。
するとここでクラウンが口を開く。
「ベル、紹介してやる。目の前にいるリリスっていう女がお前の家族だ」
「「......え?」」
クラウンの発言にベルもリリスも驚きの声が漏れた。
ベルは「このクラウンっていう人がなってくれるって言ったんじゃなかったっけ?」といった感じで、リリスは「また何を急にわけわかんないことを言い始めるのか」といった感じだ。
だが、そんな二人に構わずクラウンは話始める。
「何を驚いてやがる。俺は『実現させてやる』と言っただけで、『俺が実現させてやる』とは言っていない。お前は俺の駒であればそれ以上の情はいらない。それにそんな面倒なことをするつもりはない。となれば処理係のリリスの出番だ。ベル、お前的にもこっちの方が良いだろう?」
「あんた、なんて暴論を......」
クラウンの言う通りベルのためにはきっと私の方が良いだろう......ここでは急に面倒ごとを押し付けられたこと、処理係と言ったことは後に置いておくとして。
それにしても、クラウンの言葉はベルにとって慈悲もない言葉だ。
ベルは奴隷として人間に捕まって酷く惨めな人生を送る予定だった。
だが、クラウンのおかげでそれから解放されたと思いきや結局クラウンの忠実な手足として動くしかないとは。まあ、正直これはわかっていたことではある。
クラウンとは同盟関係であるからこうして会話が出来ているが、未だ私は信用はされていない。
クラウンが私を信用してくれるにはもっと多くの時間がかかるだろう。それだけクラウンは「裏切り」という言葉に強い抵抗感を持っている。
そんなクラウンにベルを信用しろと言っても無駄でしかない。なら、私がクラウンの分の優しさを注いでやるか......と行きたいところなのだが......
「主様がなってくれるのではないです?」
「違うと言っているだろうが。おい、さっさと離れろ」
「......」
何をどう考えたらこうなるのかわからないが、なぜかベルはクラウンに懐いている。自分がクラウンのもとへ辿り着いたのはクラウンが暴れてから一日後だ。
もしかして、その間になにかあったのだろうか。クラウンが何かしたとは到底思えないから。
「あんた、ベルに何かしたの?」
「何もしていない。強いて言うなら俺の目的を話しただけだ。そして、なぜそんな思考に至ったかしつこく聞かれたからしょうがなく話しただけだ」
「......なるほどね」
簡単に言えば奴隷であるにベルにクラウンは同情されたのだ。そして、少しでも心の支えが増やせればと思ってのさっきの発言だろう。
それに自分の願いも口実にすればクラウンは支えが増え、あんな幼いベル自身は家族がいない心細さが拭える。おそらくそういうことだろう。
......それにしても奴隷にまで同情されるとはクラウンの闇は深すぎるのではないか?
「ねぇ、ベル。嫌なこと聞くけど、あんたの家族はまだ生きてるの?」
これはベルの素性とこれからのためにも必要だった。だが、あまり期待していない。リリスは魔族であるが人族の奴隷制度について知っているからだ。
奴隷にはいくつかの役割に分けられる。
その中で最も大きな分け方は男児やひ弱な男性、そして老人が配属される労働奴隷、一部の女児や若い女性が配属される性奴隷、体が強く、武術や魔法に秀でている者が配属される戦奴隷の3つである。
そして、獣人はその中でも性奴隷と戦奴隷に多く配属される。その二つは長く重宝されるものの奴隷自体が持たなくなることが多く、要するに死んでしまうのだ。
ベルが捕まったのが早ければ未だしも1週間以上経っていたなら生存確率は極端に低くなる。なので「まだ」と付けたのだ。
この質問に対し、ベルは静かに答える。それはベルも人族を奴隷制度を知っているという発言だった。
「おそらく死んでいるです。おじさんもおばさんも私を逃がすために自ら犠牲になって、そこから3日はなんとか逃げていましたが捕まってしまったです。そして、そこから1週間近くかけて帝国まで連れてこられたので......もう家族はいないです......」
「そっか、嫌なこと思い出させてごめんね」
リリスはそっとベルを抱きしめると優しく頭を撫でた。「もう一人にはならないから安心して」と呟きながら。
「大丈夫です、もう慣れてますから」
「......慣れてる?」
リリスはベルの言葉が気になった。慣れているということは少なくとも2回以上は人の死と立ち会っているということになる。それはあまりに酷で残酷なことだ。こんな幼い子が死にもう触れている。それだけで悲しいというのに。
リリスは悲しみを堪え慈愛の笑みでベルの頭を撫でる。
「クラウンのせいで辛い経験をいっぱいすると思うけど、その分私がいっぱい優しくするから」
「ありがとうです」
ベルはそのときはじめて優しく笑い、フサフサの尻尾をゆっくりと揺らした。
「そういえば、お前はなぜそんなに魔力がある?」
「ちょっと、今良い雰囲気なんだからもう少し後にしなさいよ」
せっかくの優しさ溢れるこの空気に水を差すようなクラウンの発言にリリスは思わず怒鳴り返す。だが、クラウンはどこ吹く風といった感じで無視した。
「それでどうなんだ?」
「......私が魔力が多いのは先祖返りの影響です」
「先祖返り?」
「え?ちょっと待って、てっことはベルの年齢は?」
リリスは獣人の先祖返りについて知っていた。その昔獣人はもともとは一匹の神獣だった。そして、その神獣は人間に恋し、自らを人型へと変えると子孫を残した。
それが獣人の始まり。そして、その神獣は狐の姿をしていたという。
そして、ベルは金色の髪をし、尻尾の先だけが白い狐の獣人。最初に見た時はただの杞憂だと思っていたが、違った。その言葉が本当ならばとんでもない子を攫って、奴隷にしたことになる。
「私ですか?私は15歳です」
「はあ......終わった」
リリスは膝から崩れ落ちた。
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