第22話 強奪
クラウン、、またやらかすそうです(´-ω-`)
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クラウンは人だかりの方へ向かうとその内の一人に話しかけた。
「今から来る奴隷はどんな奴なんだ?」
「ん?ああ、聞くところによるとこの通りを通っていくのは獣人みたいなんだよ。それも年端のいかない女の子らしいんだ。この国の王族様の誰かがそういう性癖をお持ちだったろうな」
話しかけられたおじさんはクラウンの存在を不気味に思いながらも返答した。そして、なにやら不穏な笑みを浮かべるクラウンに親切にも忠告も言う。
「お前さんこの国出身じゃないみたいだから言うけど、この大通りに出ようとするなよ?殺されちまうから。それから俺たちの目の前を通るときはひれ伏すことだ。決して立ったままじゃいけない」
「なるほど、わかった」
クラウンはその言葉に了承の意を伝えたが、おじさんの目は依然として疑り深いものだった。いや、それは仕方がないことだろう。
なぜなら、ファンファーレが近づいて来るほどになぜか先ほどよりクラウンが深い笑みを浮かべているからだ。なので、「本当にわかってんだろうな?」と思ってしまう。
そして、次第にファンファーレの音は近くなっていき、兵士が列をなして歩いてくる。兵士の足取りは一糸乱れぬといった感じで、この国がどれだけ兵士に力を注いでいるかがうかがえる。
すると、奴隷の姿も見えてきた。その奴隷は馬車で運ばれながら厳重な檻の中へと閉じ込まれており両腕は太い鎖で釣り上げられ、両足は錘のついた鎖で繋がれている。
そして、その馬車の周りにも多くの馬に乗った兵士と歩兵がその馬車を囲っている。
ちなみに、おじさんの言った通り獣人はまだ小学生といった体躯で、頬もコケて痩せている。そして、その目は絶望で死んだような目をしていた。
その目がクラウンにはたまらなく好印象だった。欲望で頬が醜く緩んでいく。
「おい、もうすぐにここを通るからひれ伏せ。そして、通り過ぎるまで決して顔を上げてはいけない、分かったな?」
「ああ、わかっている」
おじさんは気を遣ってか、不安がってかわからないが親切にもクラウンに自分と同じような行動をするよう言ってきた。それに対し、クラウンは返答する。
だが、それがクラウンにちゃんと伝わっているかは別問題で......
「おい、貴様!なぜ立っている!」
「ほら、言わんこっちゃない......」
クラウンはものの見事に目をつけられた。そのことにおじさんは見てられないとばかりに目を瞑る。もうダメだ。この少年は完全に終わった。
良ければ奴隷堕ち、最悪死刑になってしまうだろう。「なんか自分と話した相手が奴隷堕ちになるのは嫌だな」と心底思っている。
そう思ってもおじさんの体は既に恐怖で縮こまっており動くことはない。ただ隣で不気味な少年が兵士に連れて行かれる時の会話を耳で聞くだけ。
おじさんは思わず耳を手で覆う。心臓は自分のことのようにバクバクとなる響き、耳を塞いでもかなりうるさい。
だが、そのどうにかしたいという雰囲気は伝わったのかクラウンはそんなおじさんを見て一言だけ告げる。
「なかなか骨のある奴だな。今から面白い強奪を見せてやる」
「し、ショー?」
クラウンはおじさんを尻目に大通りの中心、馬車を先導している馬に乗ている兵士の前に歩いていく。そのことに兵士達からどよめきが耐えない。だが、もちろん兵士はそんな異常とも言える行動をそのままにするはずもない。
「おい、そこのお前!今すぐ止まるんだ!」
「止まってどうするんだ?」
「今ならまだ奴隷堕ちで許してやる!だが、あと一歩踏み出せば、即座にこ――――――」
「あっそ......で?」
クラウンは兵士の言葉を聞き終わる前にすでに最後の一歩を踏み出していた。さらにその兵士を煽るような言葉を添えて。その態度に兵士はもちろん激昂。
そして、クラウンに槍を構えて向かって来る。
「警告はしたぞ。この選択をしたのはお前だ」
「なら、俺がぶっ壊してやるよ。ここで俺が死ぬという運命を」
「そうか、やってみろ」
そう言うと兵士は槍を突き出した......が、なぜかクラウンには当てずにそのまま通り過ぎる。
この光景を見守っていた他の兵士もひれ伏せていた庶民もその謎な行動に不可解さが隠しきれないといった表情だった。
だが、すぐに理解できた。
音も静まり返った空間にカチンという金属同士が接触した音が鳴り響く。
その瞬間、馬に乗っていた兵士の頭が劣化したフィギュアのようにポロっと地面へと落ち、胴体は首から盛大に赤いしぶきを上げながら、すぐそばの地面に降り注ぐ。
「「「「「......」」」」」
多くのものが兵士の死を理解したとともにその光景が理解できなかった。なぜなら、クラウンは鞘に左手を触れたまま歩いていたで、右手はいつもの位置に(鞘に触れてなく)あったのだ。
そして、それは殺される直前まで変わることがなかった。
故に、この場にいる全員があの言葉を最後に少年が死んだと思ったのだ。だが、クラウンの言った通り運命は壊れ、死ぬことはなかった。
そして、気づけばクラウンの右手が腰にある刀の柄を触っているのだ。これが理解できるというのか、いや出来ないだろう。
クラウンはそんな周りの様子に目を向けることは露ほど度にもなく、檻に向かって歩みを進める。この場に広がる静寂を支配しているかのように。
「と、止まれ!」
「そうだ!でないと今度こそ殺すぞ!」
兵士はクラウンにそこはかとない不気味さを感じながらも必死に止めようと呼びかける。だが、もちろんそんなことで止まるクラウンではない。
「「おらあああ!」」
すると、二人の歩兵がクラウンに切りかかった。そして、切ったと確実に思われるタイミングでもいつの間にかクラウンはその歩兵達の後ろにいる。そして、その歩兵達はまたもや血しぶきを上げた。
それから、クラウンは同じようにただ歩きながら歩兵達を切っていき、どんどん邪魔する奴を殺していく。
それは、その兵士の死体が上げる血しぶきを手筒花火に見立てたショーのようなもであった。もちろんん、その言葉の前には「殺戮」という言葉がつくが。
それを見ていた庶民はパニックすら起こさず、ただその光景を見ていた。中には「死神様がこの国を処罰しにやってきた!」と崇拝し始める者もいた。
その庶民たちが動けなかったのは単純だ。動いたら死ぬ。声を上げても死ぬ。ただその恐怖が思考よりも先に体が理解していただけに過ぎない。
故に、兵士が次々と目の前で殺されていくというのにこの場は実に静かなものだった。
だが、兵士達はこの男を止めるしかなかった。そうしないと王族達に殺される。つまり後にも先にも死が待っている。
故に、挑むしかない。もう死ぬことがわかっていても。だから、震える手で剣や槍を握りしめながら、自らを鼓舞していく。
「援軍が来たぞ!!」
一人の兵士が叫んだ。すると多くの馬の足音を響かせ、クラウンの後方から兵団がやって来る。その中には杖を持った魔術師の姿が多い。
おそらく、クラウンに近づけば殺されるのなら、近づかずに遠くから攻撃すればいいということだろう。それは短絡的な考えかも知れないが、そうでしか攻撃を与える方法を知り得ない。
......いや、一つだけあったが、それは国対国の戦争で使えわれる魔術砲台。
だが、それを使うにはここでは多くの犠牲を伴うことになる。また、それの使用権は王族にあるので許可を取りにいかなければならない。この男一人にそれを使うのはあまりにおかしいだろう。
しかし、そんな悠長なことをしていればこの男の目的もわからない上に、多くの兵士が殺されてしまう。故にこれは時間稼ぎの一手。許可を取るかどうかはこの手ごたえ次第だ。
クラウンは立ち止まると後ろの兵団を一瞥した。そして、興味なさげに向きを直すと再び歩き出す。その行動にその兵団の指揮を執っているであろう男は怒りに震えた。
それは、目の前にいる少年の不遜な態度もそうだが、それ以上に地面に広がっている無残な兵士達を見て。そして、大声で叫ぶ。
「総員、攻撃用意!......放て!」
「「「「「風刃、雷槍、焔の矢、氷弾、土針」」」」」
指揮官が剣を掲げると多くの魔法がクラウン目掛けて射出された。風でできた斬撃、雷でできた槍、炎で出来た矢、氷で出来た弾丸、土で出来たランス、そしてそれらがクラウンのもとで大爆発。同時に大きな爆音が周りを包み込んだ。
「さあ、これで死んだ―――――――」
「と思えれば良かったのにな」
「......!」
指揮官は爆発からすぐに後方から聞き覚えのない声がした。そして、その声がする方へ振り向いて先ほど目の前にいた男を捉えら瞬間、振り向く前の位置へと視界が戻って来ていた。
指揮官は訳が分からずそのまま視界が暗転した。
その指揮官の最後を周りの魔術師は顔を真っ青にしながら見ていた。いや、見てしまった。爆発直後、気が付けば指揮官が乗っている馬の尻に先ほどの少年が立っていて、指揮官が振り向いた瞬間その顔を蹴って首を捻じ曲げた。
そして、その指揮官は腕をぐったりさせたまま動くことはもうなかった。
その魔術師達は理解し難かった、目の前で立っている少年のことが。あの時、確実に当たって爆発した。
なのに、無傷で服すら燃えていない。得も言えぬ恐怖とはまさにこのこと。魔術師達はただ歯をカチカチと鳴らしながら震えるばかり。
そんな魔術師達をクラウンは笑って見る。
「お前たちは俺を攻撃した。ということはお前達は俺に殺される覚悟がある......ということでいいんだよな?」
その問いに魔術師達は答えなかった。恐怖で言葉が出てこない。ただ、否定はしようと全員が首を横に振った。
その行動を見た瞬間、クラウンから笑みが消え、目が冷徹なものへと変わる。そして、ただ「そうか」と答えるとクラウンはその場から離れ、檻の方へと向かっていく。
魔術師達は思わず安堵の笑みを浮かべた。なぜあんな冷たい目が向けられたのはわからないが、とにかく生きれたんだ――――――――
「なら、初めから攻撃をするな。だが、攻撃をした時点でお前らの死は決まっているがな」
そう言うとクラウンは振り向きざまにその場で抜刀した。するとすぐに、その兵団全員の頭と馬の頭が空中を舞った。クラウンは斬撃を飛ばしたのだ。
そして、それらの首なし死体から赤い噴水が出来上がる。その血は周囲に紅い水たまりを作っていく。
「無駄な時間をかけさせやがって」
クラウンはそう独り言ちると檻へと向かった。もうクラウンを止めようとする兵士はいなかった。ただ時が止まったかのように制止したまま、恐怖に怯えたままクラウンがその場を通り過ぎるのを待った。
やがてクラウンは檻に辿り着く。そして、檻の柵を両手で軽く広げると中に入っていく。
その獣人は鮮やかな黄金色をした髪と瞳。尻尾も全体的に黄金色だが、先の方だけ白色であった。すると、クラウンはその幼女へと話しかける。
「お前は良い目をしている。闇のように暗くて淀んで濁っている。その目は絶望を知っている目だ」
「......」
「お前には今二つの選択肢がある。俺に絶対服従かと絶望に飲まれたまま死ぬかの二つの選択肢だ......さあ、お前はどっちを選ぶ?」
「......」
その幼女は何も答えない。答える気力もないのかずっと顔をぐったりと下に向けたままだ。するとクラウンは少女の顎を掴み、強制的に目を合わさせた。すると、周囲は重たい空気に包まれていく。
「俺の目を見ろ」
「......!」
そして、少女がクラウンに目を合わせると初めて少女は反応を示した。それは驚きと恐怖。
目の前にいる男の目は暗すぎるほどに暗く、底が見えないほど深い。まさに深淵。それは自分が不幸だと思っていたことを軽く飛び越えるように。
だからこそ、恐怖した。金縛りかのように体が硬直して動かない恐怖を。この男を無視してはいけない。逆らってはいけない。ただ、望む答えを答えなければ―――――――――
「偽れば殺す。今、お前が望むものを答えろ。そうすれば実現させてやる......ただ俺の忠実なる駒になるのと引き換えにだがな」
「......わ、私は......」
少女は必死に声を振り絞った。嘘をついてはいけない。だが、沈黙もダメだ。とにかく今、自分が望むことを!
「家族が欲しいです!」
「......そうか」
さすがのクラウンもこの場でその回答には面を食らった。だが、すぐに表情を戻すと少女に告げる。
「いいだろう、くれてやる。そして、お前は俺の駒だ」
クラウンは少女の顎から手を外し、立ち上がると少女に向かって刀を振るった。少女は思わず目を瞑るが、痛みはなくむしろ体が軽く感じる。
そして、目を開けると自身の両手首、両足首から鎖が外れていた。
少女は何が何やらわからず目をパチクリさせる。そんな少女に構うことなくクラウンは指笛を高らかに鳴らすと遠くからオオカミの声が轟いた。
そして、空中から真っ白いオオカミ、ロキが下りてくる。
「ロキ、馬車を奪え」
「ウォン」
クラウンの命令に従ってロキは馬車の馬と兵士を襲うと手綱を掴んで馬車を引き始めた。そして、そのまま帝国から抜け出した。
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『凶気が 5上がりました。現在の凶気度レベル 20 』
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