第215話 死ねない兵士
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
激しさを増してきましたね
響が超級巨人を倒してからすぐのこと。長らく頭の片隅で残っていた疑念の答えが現象となって現れ始めた。
それは響が地上に降り立って巨人に襲われた時のことだった。
響が巨人の振るう大剣の一撃を聖剣で受け止めると巨人がすぐに響へと告げた。
「早く俺達を殺してくれ」
まただ。またこの言葉だ。超級巨人を倒す前の巨人や魔物使いも同じことを言っていた。全く意味の分からない言葉だ。敵に殺すことを要求するなんて。だから、聞いた。
「どういうことだ? どうしてそんなことを言う?」
「俺達はもう生きることは許されねぇんだ。それは俺達でも自ら死ぬことが出来ねぇってことだ。この戦争が終わるまで死んでも戦わされる」
「どういう意味だ?」
「それを答える時間はねぇみてぇだ」
巨人がそう言った瞬間、三本の刃が胸から生えてきた。そのあまりのことに響は驚きながら咄嗟に距離を取っていく。すると、すぐに答えがわかった。
「大丈夫ですか! 勇者様!」
声をかけてきた見覚えのある聖騎士だった。どうやら響の助太刀として行動したらしい。恐らくは長らく鍔迫り合いをしていたことに超級巨人との戦いで疲弊したからと勘違いしたからだろう。
この戦場においてはフォローをしたり、されたりは当たり前で隙があれば攻撃していくのも当たり前。故に、普段ならその行動はありがたいことなのだが、また答えを聞きそびれた響は思わず歯噛みする。
とはいえ、勘違いではあるが助けてくれたことに感謝を伝えるとまだ息があった巨人は響へと手を伸ばしながら告げていく。
「早く.......早く俺を.......原型もなく殺してくれ........」
伸ばした腕で地面をかいていく。もう片方の手は胸を押さえながら、這って響へと進んでいく。そのあまりにもの死の執着に響は不愉快な戦慄を感じざるを得なかった。
すると、近くにいた聖騎士がトドメとばかりに頭へと剣を突き刺していく。見る限り当然絶命だ。巨人が望んでいた死だ。
その時、異変は起きた。確実に死んだはずの巨人がゆっくりと動き始めたのだ――――――頭に剣が刺さったまま。
そのことに響は思わず目を見開いているとその巨人が横なぎに振るった裏拳で三人の聖騎士の頭が吹き飛んでいく。
響は思わず魔物使いが乗っていたカメレオンのような魔物がフラッシュバックしたが、あの魔物とは違うと思って手足を斬り落とした。
そして、様子を見ていると響は気づいた。巨人の血のよって染まった赤い糸のようなものが巨人に纏わりついていることに。
細すぎて気づかなかったその糸は赤い水滴を滴らせながら、浮くはずのない手足を浮かせ切断面へと繋いでいく。
しかし、それはそれぞれ斬り落とした正確な位置の切断面ではなく、右腕は左足に、左腕は右腕に、右脚は左腕に、左脚は右脚にくっついていく。
当然腕の太さと脚の太さは違う。だが、そんなことはお構いなしと明らかな不格好さで地面に立っている。
響はその姿に思わずゾクッと鳥肌が立った。それはこれまでの巨人や魔物使いの言葉を正確に理解したからだ。
思わず周囲を見る。すると、死んで地に伏した魔族兵がゾンビの如く蘇り、切断された魔族は全く違う手足を適当にくっつけられ蘇っている。
そこに生や死という概念はなく、どこかの魔族兵の上半身と上半身がくっついたような姿や下半身と下半身がくっついたような姿、頭が腕にくっついている奴や頭の位置に脚がある奴など見るだけで吐き気がするような光景が周囲一帯に広がっていた。
『―――――死んでも死なない』
確か殺した魔物使いが言っていた言葉だ。その意味はこういうことだったのだ。死んでもなお人という尊厳すらも殺されて、敵を殺すための化け物となり果てる。
だから、先ほどの巨人は「原型もなく殺して欲しい」と言ったのだ。その死に方が唯一人の尊厳を持って死ねるから。
「どこまでも―――――――どこまでも死を弄べば気が済むんだあああああああ!」
響はこれまで無機質だった瞳に初めて怒りという色が宿った。その想いが爆発するように周囲に聞こえるように叫んだ。
そして、聖剣を上段に構えると思いっきり横なぎに振るっていく。その刃から放たれる閃光の一線は正面にいた魔族兵をしっかりと跡形もなく殺していった。
それから、響は動き回りながらやたら滅たらに斬撃を放っていく。それによって、多くの魔族兵が消滅していく。
すると、体を揺らすような地響きが鳴った。その正体は殺した超級巨人である。その巨人たちも同じように死ぬことを許されなかったのだろう。
響は大きく息を吸っていくと大声で叫んだ。
「全軍に告ぐ! これ以上の物理攻撃は意味を成さない! 魔法によって跡形もなく殺してやってくれ!」
その声は周囲にこだまするように響いていった。そして数秒後、この戦場には荒れ狂うほどの魔法が解き放たれていった。
あらゆるところから様々な属性の砲撃が飛び交い、衝突し、大爆発を起こしていく。幾重にも光の筋が飛んでいったかと思うとその光の筋に沿って爆発が起こり、やがて大爆発を引き起こす。
砲撃だけではない。竜のブレスかのようなの炎が周囲を埋め尽くすように揺らめいていけば、天から大量に雷が降り注いだり、動く地面が地中の中に引きずり込んだりしていく。
氷が化け物となった魔族兵を氷漬けにしていくとその氷漬けにした魔族兵の足元から天に向かって光の柱が立っていく。当然ひとつだけではない。何本も地上からそびえ立っていく。
他にも竜巻が振りまかれている火炎を取り込んで火災旋風になったり、横なぎに放電の一撃が放たれていったりとこの戦場はおおよそ知っているような互いの策略がぶつかり合うような戦いではなく、まさに表すなら――――――
「地獄だ.......」
響は顔を大きく歪めながら目の前に広がる光景を見て一番に思うことを呟いた。自分でそうしておきながら、その言葉はもっとも今の現状を端的に表している言葉と思えた。
いや、もしかしたら地獄の方がよっぽどマシなのかもしれない。それほどまでに圧倒的で、残酷で、残忍で、無慈悲で、無惨な光景であった。
荒野と呼ぶには相応しくないほどこの地は荒れに荒れてこの場所だけ別世界のように感じるほどであった。まさに永久的に語り継がれるような戦い――――――否、地獄絵図。
響は一番暴れられると厄介な超級巨人へと向かっていた。その巨人はやはり相当な耐久力を有しているのか地獄以上の何かとかしたこの地においても平然と立ち上がっていた。
響は超級巨人の真下へとやってくると両足を斬り落とし、さらに両腕を斬り落としていく。すぐに攻撃に移させないためだ。
そして、バラバラになったその巨人に対して真上から巨大な光の斬撃を放っていく。その斬撃は超級巨人を巻き込み、地面に大きく切り込みを入れながら爆発した。
大きく地面に空いた穴からは黒い煙が立ち昇り、その煙は近くの竜巻へと吸い寄せられていく。
響はすぐに二体目へと動き出した。砲撃、落雷、火炎放射などを交わしながら振り上げていた右腕を通り過ぎざまに斬り落とす。
そして、魔法陣で壁を作りながら、強制的に方向転換していくと左脚を斬る。それを繰り返して右脚、左腕と切断すると再び真上から斬撃を放つ。
これで残すは後一体である。その一体は自軍へとかなり進行していて同じように攻撃を放てば味方も巻き添えにしかねないだろう。そこで響は一先ずその巨人を自軍から引き離そうと考えた。
響は超級巨人の正面に回り込むと加速の勢いを活かして、その巨人の額へと思いっきり蹴り込んでいった。
その巨人は頭を大きく仰け反らせながらも、バランスを取るように後方へと後ずさりしていく。そのことに響は思わず目を細める。
どうやら死んでもただ死んだわけではないようだ。まるで生きているかのようにバランスをとる行動はまるで思考があるみたいで、恐らくは術者の思考がそのまま流れていたりするのだろう。
そしてそういえばの話だが、これを操っているのは魔物使いの証言からすれば魔王ということになる。となると、それをしている魔王は相当頭がイカレて、それでいて化け物なのだろう。
この荒野から魔王城まではかなりの距離がある。その距離から何万もの死んだ自軍の兵を操っているのだから。
それでいて、先ほどの自分の意見を組み合わせれば―――――――もはや強さは絶望的とも言えるかもしれない。
だが、それでも自分は勝たなければいけない。そのために大切なものを捨てた。この戦いにおいて負けは許されない。
そのためにも少しでも自軍を生かす!
響は体勢を立て直した隙を見て通り過ぎ去りながら右腕を斬り、超級巨人の背後で反転すると左腕を斬り落とす。
そして、もとの位置に戻ってくると同じように右脚、左脚を斬った。するとその時、響に向かって右腕が飛んでくる。
響はそのことに驚きながらも、斬撃で消滅させていく。すると、続いて左脚、左腕、右脚と次々に迫ってくる。
それも同じように斬撃で消滅させていくと残りの巨人の体に向かって大きく聖剣を振り落としていく。そして、地面に到達した斬撃は大爆発を起こしていく。
その光景を見ながら響は一先ず一つ息を吐いた。これで超級巨人による自軍の被害は抑えられた。だがそれでも―――――――多くの自軍がやられ続けている。
魔法でしか倒せなくなった相手に魔法を行使しても限界がある。それに前線で戦うような兵士は特に魔力量という素質が低いから兵士になったのであって、魔術師も限界が見え始めた今はこのままではジリ貧というところだ。
それを打破するには一刻も早く魔王を倒すことを要求されている。故に、早く急がなければ―――――――
「どうだ? オレのイカすプレゼントはよぉ?」
「.......!」
響は突如として背後から聞こえる声に戦慄した。そして、反射的に振り返ると再び反射的に振り下ろされた一撃を防いでいく。
だが、勢いを殺すことは出来ず、鍔迫り合いのまま真下へと押し込まれていく。
響の聖剣越しに見える醜い笑みを浮かべたような半分白と半分黒で出来た三日月形を上にしたような目と口の仮面は響を思わず複雑な気持ちにさせた。
そして、その仮面の男が押し切るように刀を振るうと響はそのまま地面に叩きつけられていく。その光景を見ていた近くの兵士達は思わず時が止まったかのように動かなかった。
だがすぐに、叩きつけられた衝撃で立ち込める砂煙から響は飛び出していくと聖剣を構えた。すると、その煙を振り払うように仮面の男は刀を振るうと告げる。
「さあ、この戦場に相応しい笑いを咲かせてやろう」




