第214話 光の象徴
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響視点はもう少し続きます
「どういうことだ.......?」
その響の疑問が全てを物語っていた。目の前で大きく口を広げて今に襲いかかろうとしている魔物は、確かに魔物使いを殺すうえで先に殺したはずなのだ。
その証拠にカメレオンのような魔物の頭からあごにかけて風穴が開いているはず。脳が破壊されればさすがに死ぬはずだ。
にもかかわらず、目の前の魔物はまるでもともと生きていたかのように何事もなく動き出している。
響は咄嗟に周囲を見る。だが、見える光景は争う兵士達と死んで地に伏した兵士達。もちろん、両軍ともにだ。他に明らかに死んでいるであろう状態で復活した人や魔物は見当たらない。
なら、この魔物だけであるということなのか? もしくはどこかに死霊術士のような存在がいて自分を倒すために魔物を復活させたとか。
魔物に傷跡が残っているということからして考えられるのは後者だろう。しかし、それだけだと腑に落ちない点がある。
「ガアアアアアア!」
「!」
突如として、大きな口を開けた魔物は息を大きく吸い込むと響に向かって灼熱のブレスを放った。その攻撃に咄嗟に反応して響は避けていくが、その直線状にいた多くに兵士や魔族兵が巻き込まれていく。
響はその光景を目の端に捕らえて歯噛みするとすぐに思考を魔物討伐へと切り替えていく。そして、魔物に接近していくと魔物は一定の距離を取るように下がっていく。
それから、魔物は距離を詰めさせないように長い尻尾を使ってその先についた鋭い針で攻撃してくる。その攻撃を躱しながら、避けられない攻撃は聖剣で弾いて―――――――
「重い.......!」
響は咄嗟に攻撃を受け流すことに切り替えた。それは魔物の一撃が明らかに増しているからだ。一度刃で交えた時には感じなかった圧力が聖剣から伝わってくる。
響の攻撃によってそれた針は地面へと突き刺さると小さくクレーターを造っていく。その針尾を響は聖剣を振り上げて斬り落としていき、さらに斬り落とした尾の先を魔物に向かって投擲していく。
それを魔物が残った尾で防いでいくが、その僅かに空いた隙を響は一気に駆け抜けていく。そして、魔物の顎下に到達するとその場で跳躍して一気に頭を斬り離した。
今度こそ完全な絶命だ。さすがに頭を切り離してしまえば動かすことは出来ないと思われる。そう考えていた響だが、その想定は甘かった。
「なっ.......!」
ブオンッ! と勢いよく音を立てて向かってくるは巨大な尾。自分が頭を斬る直前まで尻尾を動かしていることはなかったので、動いてきたのは頭を斬り離した後ということになる。
つまりは死んでも尚攻撃してきたということだ。そのことに響は驚きが隠せなかった。だが、その攻撃の軌道を見極めながら、剣を突き立て尻尾と一緒に動いていくかのように自身の体を固定した。
そして、尻尾が振りきれると聖剣を引き抜いて距離を取った。すると、ふと目の前にいる魔物姿が目に焼き付くように入ってくる。
魔物使いを無くしてもなお戦わなければいけないその姿は頭がないという生物としては致命的な欠損をしている姿であった。
まるでホラゲームに出てくるようなその姿は響を酷く不快にさせた。それは気持ち悪さというわけではなく、この姿になってまで戦わせる魔族について。
誰がこの魔物を操っているのかはわからない。しかし、その魔族は酷く頭がイカレている人物だと言えよう。
だからこそ、やはり疑問に思うのだ。魔物使いが自分に言った言葉に対して。
先ほどは考えないようにしていたが、どうにも答えが出ないのは気持ち悪い。そもそもどうして魔物使いは敵である自分にアドバイスのような言葉を告げたのか。
様子からして魔王に恐怖している感じであったが、それが何かに関係しているのだろうか。それに「人の死を容赦なく弄び、狂った笑いをする化け物だ」と戦った魔物使いは言っていた。
ということは、この魔物を操っているのは魔王ということか? 城からこの荒野までかなりの距離があるのにそれが可能なのか?
この世界の魔法を全て知っているわけではないので、一概に否定することは出来ない。だが、もしそうだとするとなぜこの魔物一体なのか。
魔王ともなれば操れる数は一体なはずがない。他にも多く操れて人海戦術で攻撃すれば自分もかなり危ないだろう。
それが出来ないのか。はたまた、自分を勘違いさせるためのブラフなのか。予想し得るに後者であろう。
まだハッキリとした答えが出ない。まだ情報が足りないということなのか。とにもかくにも、自分は魔王城へと急がなければ。十分以上も足止めを食らっている。このままではジリ貧だ。
そんな響をさらに足止めさせるような事態が起こっていく。
――――――ドン! ドン! ドン! ドン!
地面を揺らす巨大な足音が迫ってくる。立っている自分が僅かに跳ねるような感覚がするほどだ。それも数は一つではない。
薄暗く感じていた視野がさらに暗く感じていく。自分を覆うように巨大な影が縦に伸びていく。真上から視線を感じる。
響はふとその視線に顔を映した。その瞬間、誰かが叫んだ。
「超級巨人だ――――――――――」
―――――――ドゴオオオオォォォォン!!!
超級巨人は真下にいる響に向かって大きく振り下ろした。その瞬間、地面を殴った振動と衝撃が同時に周囲一帯を駆け巡っていく。
近くにいた多くのものは振動で体が宙に浮き、爆風にも似た衝撃波が地面の欠片と共に差し迫り直撃していく。
その近くにいた者は目の前でクラスター爆弾を食らったかのように全身に風穴や瓦礫が刺されていき、少し遠くに離れていたものも衝撃波に吹き飛ばされる。
地面に突き刺さった拳は巨大なクレーターではなく、ホールを作っており、底は見えたがかなり深くまで地面に穴が開いたことがわかる。
超級巨人は地面から拳を引き抜くとその拳についた血を見る。ゴツゴツした突起した骨の部分には血がベットリと染みついていて、原形のない何かがくっついているようであった。
「間一髪だったな」
響はその姿を見ながら空中へと大きく跳躍していた。多少衝撃波には巻き込まれたが、特に怪我をしたということはない。
ただその圧倒的な大きさから繰り出される攻撃はとても厄介だと思った。ふと周囲を見渡せば、超級巨人の攻撃を目の当たりにして戦意喪失している兵士が多数だ。その一方で、魔族兵が勢いづいている。
さすがにあれだけの巨体と攻撃力だと仲間に倒させるのは酷だろう。現に魔法で攻撃しているが、あまり大したダメージは与えられていない様子だ。
もしこのまま仲間に任せて魔王城で魔王と戦っている間にこの巨人に軍が全滅させられていたら目も当てられない。
仲間を信頼しているが、その仲間では殺れそうにない。ならどうするか? 決まっている。仲間を守るために自分が殺せばいい。
響はスタッと地面に降り立つとすぐに超級巨人へと走り出していく。走るたびに迫る敵や味方の針穴に糸を通すかのような隙間を正確に無駄なく潜り抜けていく。
そして、超級巨人の一体に辿り着くと足に向かって跳躍した。すると、その巨人と目が合った。その瞬間、巨大な拳を自分めがけて振り下ろしてくる。
その攻撃を響は超級巨人の脚を蹴って進行方向を変えることで避けていく。自身の数十センチ近くを強烈な風を伴った拳が通り抜けていく。
「天脚」
響を押し返そうと風が吹く中、響はそっと呟いた。すると、自身の足元に小さめの魔法陣が浮かび上がり、響はその魔法陣を蹴って空中を駆けていく。
それはクラウンの<天翔>にも似た魔法で響はグングンと超級巨人の頭へと進んでいく。そして、眼前まで迫ってきた。
その瞬間、超級巨人は巨大な頭を思いっきり突き出してきた。風を割っていくようなゴオオオオオオという音を聞きながら、響は聖剣を剣先をその巨人に向けながら中段に構えた。
「雷光一閃」
響は超級巨人の頭突きに合わせるように魔法陣を蹴って進み始めた。そして、僅かな隙間を探りながらスレスレで避けていき、首に向かって鋭く刃を振るった。
―――――――ザンッ!
鈍い音が鳴り響く。太すぎる首が切断されたのだ。圧倒的な体格の差がありながら、たった一人の少年の手によって。
超級巨人は分断された頭とともに地面に倒れ込んでいく。大きな地響きを立てて、粉塵をまき散らしていく。
「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」
味方の兵士が吠えた。響の姿がまさしく勇気ある者の象徴として映ったのだろう。たった一撃で周囲一帯の兵士を殺した巨人をたった一撃で殺した少年。
その化け物じみた力の栄光がいつまで続くかわからないが、現段回の話で言えば勝利の女神と同等視されているであろう。
それ故に、士気が上がる。士気が上がれば生きる意思が湧く。生きる意思が湧けばそのために勝とうとする。
響は結果としてだが、味方の兵士の崩れかけていたメンタルを救ったのだ。そのことに本人は気づいていない様子であるが。
突然上がった声に響は驚きながらもすぐに周囲へと目を配る。残るは二体。それほど数が多くなくて助かったというところだろうか。ならば、これからやることも変わらない。
響は次の一体に向かって駆け出していく。すると、超級巨人は響に向かって腕を大きく横なぎに振るっていく。
拳に当たらなくとも周囲に乱気流が発生していく。しかし、それはあくまで腕を動かした数メートルの範囲の話であろう。真上に跳んでしまえばいいだけの話だ。
「光滅の刃!」
響はその巨人の頭上に来ると真下に向かって魔法陣を蹴った。そして、聖剣を突き出しながら、刃を眩く光らせていく。
それからそのまま、頭部に突き刺して刃から光の波動を放っていく。それによって、脳を焼かれた超級巨人は後ろ向きに倒れていく。
その姿を見ながら、響はもう一体。別の方向に意識が向いている間に後ろから心臓に向かって同じように<光滅の刃>を放った。
すると、その波動はその巨人の心臓を貫き、地面へと崩れていく。その光景を響はただ虚しく見つめていた。




