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神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~  作者: 夜月紅輝
間章 勇者の覚悟

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第211話 失楽園

読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)

間章ラストです

 響は自身の目を疑った。本来ならいるはずもない人物が自分の目の前に立ち、自分の目にはしっかりと映っていたからだ。


「どうして.....教皇様の姿が.......」


「どうしてと申しされましても、こうして生きていることが真実なのではないですか?」


 響は混乱した。ただでさえ正常な判断が下せないような精神状態にもかかわらず、死んだ人が生き返るという天地がひっくり返るような出来事に衝撃を受け止めきれずにいた。


 そんな響に対して、教皇は実に淡々と告げていく。


「恐らく何らかの噂は聞いているでしょう。私を見かけたという噂や私に力を授けてもらったという噂を。今やそれは私の奇跡として崇められているようですね。実に滑稽なことですよ。私から見れば知能のない猿が仲良く群がっているようにしか見えません」


「.......っ」


 響は静かに息を飲む。今まで聞いたことない教皇の口から出た侮辱の言葉。それは響が持っていた教皇という像を傷つけているようなもので―――――――


「お前は誰だ.......!」


 思わず怒気の声を出した。壁に触れている右手は拳の形になり、僅かに震えている。そして、響の顔は目つきが鋭くなり、眉間にしわが寄っていた。


 そんな態度を見せる響に教皇は涼しい顔をしながら話を続けていく。


「私は私ですよ。他の誰でもありません。魔族が化けているとお思いならそれは勘違いですよ」


「それを決めるのは僕だ!」


「なら、私が私であることを簡単に紹介しましょうか」


 そう言うと教皇は響に向かって右手を掲げた。そして、親指を曲げていく。


「まず一つ目に私はあなた達を召喚し、自己紹介をした後に魔法を教えました。その魔法の名は『天罰』。我らが神トウマ様に代わってこの世に裁きの一撃を加えるための魔法です」


 人差し指を曲げる。


「二つ目に勇者である【光坂 響】様について。君は仲間に恵まれていた。その中でも特に大切な友人がいた。その者の名は【海堂 仁】、古くからの幼馴染であり、かけがえのない理解者であった。しかし、君は彼が窮地に陥った時に見向きをしなかった」


「.......!」


「そして、挙句の果てに君は君自身の手で彼に止めを刺した。とはいえ、結果的に生きていたので、君の罪は未遂となるでしょうが――――――君はそうは思いませんよね?」


 中指を曲げる。


「月日は流れ、ある夜のこと。突然この国は襲撃された。その襲撃の首謀者は君が()()()()()人物であった。哀れで滑稽な姿に君はあまりにもショックを受けた。だが同時に思った。また絶望を植え付けられるのではないかと。とはいえ、君の力不足で結局逃げられてしまいましたが―――――――」


「黙れ!」


 響は右手の拳を壁に思いっきり叩きつける。その壁は拳を中心に小さなクレーターが出来るほどの勢いで殴られていて、怒りの度合いを示しているかのようであった。


 響はもう聞いていられなかった。教皇の形をした何かが思いもしない戯言を吐くことに。最初の方は本物だと思ってしまった。だが、最後のは明らかに悪意と捉えられるような言い方であった。


 それはつまり目の前にいるのは教皇の姿をした別人であり、自分が知っている教皇は既に死んでいるということ。


「お前は偽物だああああああ!」


 響は激情のままに飛び掛かった。右拳を大きく振りかぶっていき、一瞬にして詰め寄った教皇へと殴り掛かっていく。


 しかし、教皇は両手を後ろに組んだまま動かず―――――――両肩から生やした腕によって響の拳を受け止め、もう片方で首を掴んだ。そして、背中から壁に叩きつけるように押さえつける。


 響は左手で首を掴む腕を引きはがそうとし足はばたつかせてもがくが、教皇の腕は微動だにせず、教皇の足から生えた手によって両足も固定された。


「うっぐぐっ......がっ.......」


「君が信じようが信じまいがどっちでもいいのです。ただ私は真実しか言いませんよ。私は教皇で、そして君の仲間達に力を授けた張本人であります。それからまた――――――つい最近見たであろう磔台の人物も私がやりました」


「.......!」


 響はその言葉を聞いた瞬間、瞳孔を収縮させながら怒りに顔を歪ませた。そして、その怒りで拘束を逃れようとするが、勇者の力を持ってしても微動だにしない圧倒的な力で押さえつけられて動くごとが出来ない。


 そのことに響は歯噛みすることしかできなかった。すると、教皇はあることを提案してくる。


「君は力が欲しいですか?」


「どう......いう......意味だっ」


「私はね、私の目的のために魔王という存在を君達に消して欲しいのですよ。そのために君の仲間に力を授けていった」


 教皇は響を押さえつけていた手を離すと体の中に引っ込めていく。響は崩れ落ちるように四つん這いになるとせき込みながら荒っぽく呼吸していく。


 そして、少し落ち着くとその言葉を聞いての疑問を投げかけた。


「だったら、どうしてガルドさん達を! ミストさんを殺した!」


「それはあなたとの大切な交渉のためですよ。そのための材料であり、たまたま居合わせていたミストさんはまあ.......運がなかったということですよ」


「ふざけんな.......!」


 響はギリッと教皇を睨む。しかし、先ほど圧倒的な力の差を見せつけられてしまったからなのか動くことは出来なかった。睨むことで精いっぱいだった。


 すると、教皇はそんな響の顔を見て嬉しそうな笑みを浮かべていく。


「いいですね。その表情、自分の荒ぶる感情がありながら、それをどうにもできないという現状によって生み出される独特な表情。これはまさしく人間だから出来る表情ですね」


「何をわけのわからないことを! 皆を元に戻せ!」


「おや? いいのですか? これからあなた達は魔族と一戦交えるというのに戦力を削るような真似をしてしまって。その願いを聞き入れてもいいですが.......仲間の死ぬリスクが高まるだけですよ?」


「.......っ!」


「私は別に構いませんよ。魔王さえ殺してもらえればね。ですが、君も実際に見たでしょう? 君の仲間の大幅な戦力アップを。まあ、多少好戦的な姿勢になっていますがそれもご愛敬というやつでしょう」


 響は何も言えなかった。確かに、バリエルートの一件で魔族と戦うことに恐怖するクラスメイトは多かった。


 それ即ち実際に戦場へ出たら戦えずにすぐに殺されてしまうということ。そうなるよりは今の方が状況的にはマシに思える。


 しかし、それは教皇のしたことに賛同するという意味であり、交渉するためにガルドを傷つけ、ミストを殺したことを認めるということになる。


 もちろん、切り分けて考えるのが普通なのだろうが、強者と敗者という上下関係がハッキリしている今は切り分けた考えなど露ほども聞き入れてはもらえないだろう。


 響は思わず右手で拳を握ると床を殴った。どうにもやり切れない気持ちが溢れ出して涙が流れてくる。


 憎い相手と思いながらもそんな相手に手も足も出ないことが悔しくて悔しくてたまらない。どうしてこんな目に自分ばかりが遭うのか。今更考えても意味ないことが頭の中を駆け巡る。


 するとここで、教皇が「そういえば」と言いながら話しかけてくる。


「ガルドさんはあのままでは目覚めませんよ。それに君の仲間も、君がそのままでは元に戻ることはありません」


「どういう.......ことだ?」


 響は頬に伝った涙を拭うこともせず、教皇へと目線を合わせた。すると、教皇はニヤついた笑みで答える。


「単純なことです。君が私の目的を果たしてくれるまで彼らにかけた呪いは解除されないということですよ。ちなみに、似たような呪いを君の仲間にも付与してありますが」


「どうしてそれを僕にかけないんだ?」


 それは響が純粋に思った疑問であった。このような回りくどいことをしているが、教皇の狙いは自分にもあるとわかっている。なら、直接自分に呪いをかけた方が早いのではないかということだ。


 それに対し、教皇は嘲笑った。


「その必要がないからですよ。君は人質を取れば勝手に従順になる。一人では何もできない愚か者だからです。ほら、今もその言葉を聞いて動かないのがよい証明でしょう?」


「.......っ」


 響はまたしても歯噛みする。自分の性格のことを逆手に取ったような行動に腹が立つ。しかし、教皇の言う通りでそれで動いてもし呪いが本当にあって、それが発動したなら目も当てられない。


「ちなみに、呪いは言わずもがなですが、一応言っておきますと当然死の呪いですよ。私の意思に背き次第すぐにでも死にます。まあ、皆一緒に死ねるのだからまだ寛大だと思いますよ」


「.......」


「それであなたは力を受け取るのですか?」


 教皇はまるでもはや答えが一つしかない選択肢を響自らに選ばせるように問いかけた。それで自分で選んだという責任を負わせて逃さないようにするためか。


 その答えを告げる前に響は一つ教皇へと尋ねた。


「一つ聞いていいか?」


「なんでしょう?」


「まさかスティナも偽物なのか?」


 響のボロボロの精神の中で未だ微かに残る光。それがスティナのことであった。


 響は教皇が偽物と思いながらも、心のどこかで本物ではないかと考えるような思いが残っていた。そして、もし教皇が本物だとしたら、今までずっとそばで支えてくれたスティナは偽物である可能性が高くなり――――――


「あの娘は本物ですよ。この国唯一の王族です」


 教皇はあっさり答えた。そのことに響は思わず俯きかけた顔を上げる。


「彼女は先代国王の末っ子。生まれた時に母を亡くしましたし、国王があまり妾という存在を持ちたがらない人でありましたから国王と彼女の姉と二人だけでした。ですが、今や姉の姿も先代国王の姿もありません。そして、私が国王―――――――さあ、さすがに読み間違えませんよね?」


 響は思わず拳を強く握りしめる。握った指の爪が刺さって血が出るのではないかというぐらい強く握った。それはスティナの代わりに抱く怒りの感情であったからだ。


 恐らく教皇が言いたいのはスティナがまだ物心つく前の頃に先代国王とスティナの姉を殺したと言いたいのだろう。


 そして、スティナは親の存在も姉の存在も知らず、教皇(化け物)に育てられて生き、今も化け物を信用している。


 そんな無垢な少女を操っている目の前の存在が響には許せなかった。


 だが――――――


「さて、選択の時です。ここに禁断の果実があります」


 そう言って空間に手を突っ込むと一つの赤いリンゴのようか果実を取り出した。


「これはあなたに神代にも似た力を与えるとともに大事な何かを一つ代償にします」


「代償......!」


「ああ、安心してください。君の仲間にも与えましたが、効果は押さえてありますので代償は存在しませんよ」


 教皇はその果実を差し出す。


「さあ、受け取るか受け取らないかはあなた次第です」


 響はゆっくりと涙を拭いながら立ち上がるとその果実を手に取る。もはや選択肢などないのだ。


 現状この場から逃げ出せない。確かめようもない。圧倒的な力でねじ伏せられ、呪いが真実であった時が恐ろしい。


 そして何より――――――響の精神はとうに限界を迎えていた。


 まともな思考回路も持ちえず、ただ多くの仲間を救える方を選んだ。ただそれだけのことだ。


 今の光景はまるで失楽園。蛇がイブを唆して禁断の果実を食べさせるような光景だ。もっとも誘惑ではなく、強制なのだが。


 響はもはや虚ろとかした目でその果実を齧った。その瞬間、響の体は輝かしく光を放ち始める。


 その光景を見た時、教皇は思わず両手を広げて大声で喜んだ。


「さあ、喜びなさい! これであなたも人の身ではなくなりました! 半人半神! 私達と近しい存在になりました! これにより、君も悠久ともい言える時を過ごせるようになりました! 故に代償は記憶! さあ、()()()()()()()()!」

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