第209話 受け入れがたい現実
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
ここから響にも異変が起こりますね
「それでは行ってきます」
「ああ、行ってらっしゃい」
「「「「「いってらっしゃ~い」」」」」
響は正門にてスティナが馬車に乗る姿を見るとそのまま馬車が消えていくまで見送った。その時の響の様子はまだ少し顔に赤みを帯びているという感じであった。
響の咄嗟的に無意識にした告白から翌日が経っていた。スティナに対して告げた言葉に彼女は返事をすることはなかった。
それはどういう意味が籠っているのかはわからない。響なりの解釈をするならば死亡フラグを避けるためとでも言えよう。
しかし、返事をしなかっただけで答えを出していないというわけではない。先ほど、スティナが響に告げた時の表情はいつもの営業スマイルであったが、それは恐らく周りのクラスメイトの目が合ったからなのだろう。
そう考えると昨日告げた後のスティナのまるで熟れたリンゴのような赤みを帯びた表情は異常とも言える。まあ、それを知っているのはその時にその場にいた響だけなのだが。
一方で、響は未だ引きずっていた。その時のスティナの可愛らしさがだいぶ目に焼き付いてしまっているのか、スティナと別れるまでの間ずっと挙動不審な動きを繰り返していた。
そんな響の様子を見て確実に何かあっただろうと思いつつもそのことを何も聞かない弥人は別の質問をしていく。
「そういえばよ、これは何の見送りだ? 皆が向かって行くから思わず流れのままに来ちまったが」
「あー、弥人は義手や義足の調整でスティナが集めた時にいなかったっけな。これはもうすぐ始まる決戦のための段取りを決めるんだよ。帝国グランシェルのエルザ様直々のお呼び出しということで向かって行ったんだ」
「なるほどな。まあ、こっちは頼む側の立場なわけだし向かうのは仕方ないということか」
弥人は響の言葉に納得するように腕を組みながら頷いていく。すると、響は皆と一緒に城へ戻ろうと思ったが、ふとその行動を止めた。
「なあ、弥人。少し時間空いてるか?」
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「珍しいな、お前から遊びに誘うなんて。この世界に来てから初じゃねぇか?」
「そうか? というよりも、そんなに修練ばっかやってるわけじゃないぞ」
「それは否定出来るな。知ってるか? お前は実は俺以上に脳筋なんじゃないかと思われてるぜ? ストイックにやり過ぎて皆から心配されるほどに」
「マジか.......」
響はその言葉に多少なりともショックを受けた。皆に心配をかけているうえに、その心配が脳筋だなんて。別に批判しているわけじゃないが、自分は弥人ほど脳筋にはなりたくない。
「ともあれ、お前が背負っている重さを全員がわかっているから何も言わないだけで、心配はされてるってことだ。俺達はお前が要だ。そこんとこ忘れないでくれよ」
「.......分かった」
「要」――――――響はその言葉に引っかかった。弥人の言っていることは間違っていないし、むしろ正しいとも言える。
しかし、自分が思う「要」は自分ではなかった。そして、自分が思うそれは今はいないもう一人の友の存在。
そいつが一緒にいてくれたからこそ頑張れた。頑張ってきた。しかし、自分がその「要」をぶっ壊してしまった。
そして、感じる重圧。そいつがいた時にはそんなにも重く感じなかった責務だ。常にかかっている重さは同じだというのに、あの時を境にやたらと重く感じてくる。
―――――ドゴオオオオォォォォン!
「あーあー、また派手にやってるな。前よりも数増えていないか?」
響が思わず暗い思考に陥っていると城の方から爆発音が聞こえてきた。その音に対して、弥人はあっけらかんとした表情で答えていく。
響もふとその音が聞こえた方を見ると煙が複数上がっている方向は修練場の方だった。ということは、また誰かが強力な魔法の試し打ちでもしたのだろう。
弥人の言う通り最近この爆発の数は増えてきた。その数は今いる二十人ほどの六割にものぼる。そして、その爆発を起こした張本人は決まって狂ったような笑いをする。
しかし、声をかけてみれば何事もなかったかのようにいつもの様子で、いつもの声が戻ってくる。それにおかしくなっているのはその時だけで、他には特に変わり映えはしない。
そんなクラスメイトの様子を響は気になりつつも、深く怪しむことはしなかった。恐らく魔族に襲われた時の恨みや未だ帰って来ないクラスメイトの憎しみが募っているのかもしれない。
それだけじゃ、少々理由としては足りないような様子も見られるが、響は全面的に信じることにした。もう二度と同じ過ちを繰り返さないために。
するとここで、弥人が「そう言えば」と言って、響に話しかけていく。
「実は俺、仲間の一人が力を授けてもらうところを見たんだよ」
「本当か? いつ?」
「二、三日前のことだったかな。左腕の調子が悪くてさ、遅くまで調整してもらってたんだよ。そんで自室に戻る時に山田がフラフラーっとどこかへ歩いて行くもんだからよ。足取りもなんだか怪しかったし、声をかけたんだよ。けど、何にも反応しなくて不審に思ってついて行くとある部屋に入っていったんだ」
「どの部屋?」
「何にも使われてない空き部屋だ。そんで、俺は扉をそっと開けて中を覗いたんだよ。そしたらいたんだよ」
「何が?」
「教皇様が」
「本当か?」
響は思わず耳を疑った。しかし、全面的に疑っているわけではなかった。それはおかしくなったと思われるクラスメイトの様子から見ても信用できる部分はあったからだ。
というのも、前に聞いた時には力を授けてもらった三人のクラスメイトは教皇から力を授けてもらったということを聞いていたのだ。
そして、それはその三人以降おかしくなったであろうクラスメイトからも同じような証言を聞いた。誰一人、例外もなく。
それから、それは「教皇様が起こした奇跡」という形で半ば強引に処理されているが、それも疑わしいものである。
しかし、何も変わりない弥人が実際に見たとなるとかなり信用できるかもしれない。
「それから? 弥人はどうしたんだ?」
「それがな、覗いててふと目が合った時に思わず扉を閉めてしまったんだ。そんで、思いっ切ってもう一度覗いた時には教皇の姿はなかった。ちなみに、誰かがなりすましで逃げたという線は薄いと思うぜ。俺が扉を閉めたのは数秒だし、その時に部屋から物音一つ聞こえなかった。カーテンも動いてなかったから、外に出たということもない」
「まさしく消えたってことか?」
「そうなるな」
弥人の言葉を全て信じるなら、それは「教皇の起こした奇跡」を信じることとほぼ同じだろう。しかし、響はどうにもその聞いた話を信じ切れずにいた。
百聞は一見に如かず。自分が実際に教皇の姿を見れたなら早いだろうが、実際にそう言う場面には出くわしていないので何とも言えない。
響はしばらく腕を組んで唸り続けながら考えるも、自分なりの結論を見つけることは出来なかった。よって、保留することにした。考えてもわからないことは今わかることではないということだ。もう少し情報を集めた先に答えがあるのかもしれない。
「そういえば、お前はどこに向かおうとしてるんだ?」
「確か弥人も一度来たことある場所だ。ここ最近ガルドさんを全く見てないからミストさんなら知って無いかなって。まあ、それは二の次で本当はただ静かなところでゆっくりしたいだけなんだけど」
「だからって昼間っからバーに向かうとはなー。お前も変わったな」
「ここでは多少は変わらないと生きていけないだろ」
「そりゃそうだ」
それから二人は雑談を交わしながら、ミストが経営する「騎士の隠れ家」へと向かった。そして、響はその店がある路地へと進み、「オープン」と板が吊る下げられた扉を見て不思議に思った。
なぜなら、「騎士の隠れ家」は基本夜に営業しているので昼間に店が開いていることはないのだ。だから、本来はガルドに教えてもらった合言葉を使って入るつもりだったがその必要がない。
もしかして、板の掛け違いかと思ってドアノブを握ってみるとグルリと回転していく。つまり施錠されていないということだ。
いやまだ否定出来る可能性はある。前回ガルドと訪れた時はガルドがドアを壊し気味に無理やり開けたので、まだ修理されていないだけかもしれない。
そう思うがなぜか嫌な予感が止まらない。急に冷汗をかき始め、手汗でわずかにドアノブを滑らせる。加えて、日が当たらない路地裏が不思議と涼しく感じてくる。
「大丈夫か?」
「.......大丈夫」
響はゴクリと唾を飲み込みながらも弥人に返答した。そして、ドアノブを回したままゆっくりとドアを引いていく。
すると、部屋の明りはつけっぱなしだった。まるで生活感が残っているような感じだ。それから、周囲を見渡しながら進んでいくと弥人から「あれを見ろ」と命令される。
その指を指す方向を見ると割れたジョッキが目に映った。それは確か自分と一緒にこの店に来た時にガルドが飲んでいたものと一緒である。
さらに、その近くにはグラスが置いてあり、それは自分の―――――――
「なあ、響。外がやけに騒がしくないか?」
「え?」
響はそう言われてドアから外へと顔を覗かせると路地から見える大通りを大勢の人が走っていくのが目に入った。
その慌ただしさはなんとも以上とも思え、響はこの店を気がかりに思いながらもその走っていく大勢に流れていくようにある場所へと向かって言った。
そこは聖王国エルメストのほぼ中心にあるシンボル的な意味合いがある噴水の場所であった。
そして、その噴水の前には不自然に二つの磔台が横並びに設置してあり、その磔台には二人の男性が血を流し拘束されていた。
響は思わず自分の目を疑った。疑わざるを得なかった。信じたくなかった。嫌な予感がしたが、まさかどうして―――――――
「ガルドさん.......ミストさん.......」
どうして自分の信頼する人は次々に目の前から消え去ってしまうのか。これは悪い夢だ。そうだ夢に決まっている。
そう思いながらも周囲から、肌から感じるのは紛れもない現実であった。
響は呆然としたまま膝から崩れ落ちた。




