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神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~  作者: 夜月紅輝
間章 勇者の覚悟

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第206話 響の俯く心

読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)


長らく触れてなかったこっちサイドを少しやらせてもらいます

 ――――――クラウンが魔王となり、レグリアの計画が始動段階になる二週間ほど前、時は響がクラウンと衝突後に起きた転移爆発後まで遡る。


 その時の響はまるで何も見ていない、聞いていなかったような様子でただ茫然としていた。ひとえに思い出したくないだけかもしれないが、彼の状態を一言で表すならやはり心ここにあらずといった感じになるであろう。


 そんな響は転移爆発後、ただ報告のために一人で城へと戻った。そこでスティナや戦闘向きではないために居残りをしていた残りのクラスメイトに全てを話した。


 その時に響を傷つける者はいなかった。しかし、それぞれが複雑な葛藤を抱いていたことはよく分かる表情をしていた。


 そんな姿を見て響がかける言葉当然なく、ただ幽霊のように気配もなくその場をすぐに立ち去っていった。しかし、その姿をスティナだけはしっかりと捉えていた。


 そして翌日、響は初めて欠かさなかった修練を休んだ。昨日に起きたことをそう簡単に忘れるはずもなく、忘れていいものでもない。


 ただひたすら自室のベッドの上で寝転がっていた。その瞳にはあまり生気を感じられずぼんやりとしている。


 どうしようもない自己嫌悪に陥りながら、ただ眠れずに昨日のことを今まさに目の前に起こっているかのように思い出していた。


 それで思い描くはあの時はどんな選択肢があったのかということ。当然転移爆発などあまりにも突発的なことでその時に予測は不可能と言っていい。


 なら、その前は? それよりももっと前は? 仁に会ったことでやや冷静さを欠いてしまっていたかもしれない。その時にあった選択肢を見落としていたかもしれない。


 そう考えるのは無理じゃない。今も冷静に考えれば言葉一つだってもっと別の言い方が見つかったりする。


 しかし、結局のところ「後の祭り」なのだ。もう取り返すことも出来なし、戻れるわけでもない。


 あの時に「覚醒魔力」という固有魔法を欲したが、何も得られることはなかった。ということは、あの時に悲しみが全てではなかったということだ。


 .......分かっている、あの時にきっと無意識に生きていることに安堵してしまったのだろう。確かに悲しみもあっただろうが、それも同時に含まれていたのだろう。


「はあ.......」


 響は深いため息をついた。その顔は一睡も出来てないためもあり、ずっと堂々巡りの考えに答えを見つけようとしていたこともありでだいぶ酷い隈が出来ていた。


 一日で三日ほど食事もとらずに引きこもっていたほどのやつれ方で、それほどまでにあの時のことが精神に響いていたのだろう。


 仲間のことを想うと辿り着く先は全部同じ。全員がしっかりと生きているかということだけ。しかし、この世界のことはきっとまだ齧った程度のことしか知らないので不安ばかりが募る。


 誰かに会う気力もない。会ってしまったら自分を必死に守っている精神力さえも持っていかれてしまいそうになるから。


 それに話すことも何もないだろう。起きたことは全て話した。それでいて後は何を話せばいい? 仲間を守れなかったのに仲間の心配をする姿は実におかしく映ってしまうだろう。


 そんな半分ヤケになった精神と自分を守ろうとする精神がせめぎ合い、今にも爆発しそうになったその時、突然ドアがノックされた。


「響、大丈夫か?」


 その声はガルドであった。響は思わず驚いて起き上がると跳ね上がった心臓を落ち着かせて答えた。


「はい、大丈夫ですよ。問題ありません」


 響はとても丁寧に答えた。その声に淀みなど一切感じられないまるでプログラムされたロボットが流暢に離したかのようで―――――


「いつも通りじゃなさそうだな」


 一瞬で見抜かれた。そのことに響はまたもや思わず目を見開いた。


 正直、今の段階で響がもっとも会いたくなかったのがガルドであった。それは初めての魔族討伐という実戦で大失敗をしてしまったからだ。


 ただ単に魔族を逃してしまっただったら全然良かった。それどころか仲間や一緒に来た聖騎士数人の全てを失って戻ってきたのだ。


 帰ってきた昨日のうちにガルドがいなかったのですぐに報告できなかったし、いたとしてもこれほどまでの失敗に対してガルドからの失望を恐れて報告できなかっただろう。


 そんな響の精神状態を知ってか知らずかガルドはドア越しで提案してくる。


「今日は非番なんだ。たまには朝っぱらから飲み行くのも悪くない。ついてこい」


「.......」


 響はその言葉に何も答えなかった。しかし、響の中で何かを考えるとスッと立ち上がり、ドアノブへと手をかけていく。


「よお、あんまし眠れなかったようだな。なら、今日は暴れまくってぐっすり寝るぞ」


 ガルドは部屋から出てきた響にゴツゴツとした太い腕を回していくと肩を組みながら上機嫌に歩いて行く。


 そのことが響には意外だった。てっきりガルドのことだから既に情報を聞いていて、それに対する何かを言ってくると思っていた。それだけ任務には厳しい人であったから。


 しかし、それに一切触れることもなく、上機嫌に戦闘から離れた全く別のそれこそどうでもいいと思える内容を話してくる。


 恐らく気を遣ってくれているのだろう。そんな不器用な優しさが響のひび割れた心にはとてもよく沁みた。


 それから、響はガルド行きつけの路地裏にある店にやって来ていた。ガルドの友人であるミストが経営する「騎士の隠れ家」だ。


 その店の前には「クローズ」と表記された札がドアにかけてあったのだが、ガルドは構わず無視してドアを壊し気味に勢いよく開けていく。


 ドアベルが激しく金属音を響かせていく。その音にテーブル席のソファに頭に新聞をかけて寝ている人物はむくりと起き上がる。


「誰だ? 不法侵入だぞ――――――って一人しかいねぇか」


「違うな。今回は二人だ」


 店主であるミストは新聞を手に持つと入り口に立つガルドと響を見つめた。すると、「これは珍しいお客だな」とだけ呟くとカウンターの方へと歩いて行く。それに合わせガルドもカウンターにつくと響も席に着く。


「それで今日はどうする? 何もかも忘れられるどぎつい酒かポロポロと言葉が勝手に漏れていく魔法の酒か。もしくは――――――少しだけ自信が持てる酒か」


「そんなの一つに決まってるだろ? こいつのために来たんだ。自信が()()()()()やつだ」


「了解」


 ミストは背後にある棚から一つの酒をチョイスすると酒瓶のコルクを外していく。キュポンッと良い音が鳴るとそれグラスとジョッキに注いでいく。


 そして、それを響とガルドの前にそれぞれ置いていく。白ワインにも似た淡い黄色っぽい色をする飲み物だ。炭酸ではないらしい。すると、ジョッキを持ったガルドが響へと嬉しそうに告げる。


「せっかくの酒だ。お前の世界じゃ違法らしいが、この世界じゃ立派に成人している。ここでお前を取り締まるやつは誰もいない。思いっきり飲め」


「.......分かりました」


 響とガルドはグラスとジョッキを軽く小突き合わせると一気に飲んだ。そして、喉に襲いかかる不思議な感覚に響は思わず驚く。


「――――――甘い」


「そりゃあ、そうだ。なんせそれはただの果実水だからな」


「え?」


 響はその言葉に困惑する。そして、飲み干したグラスとガルドの顔を交互に見合わせる。そんな響に対し、ガルドとミストは楽しそうに笑っている。


「時に響、どうしてそれをお酒だと思った?」


「それは――――――ガルドさんがミストさんとお酒の種類について話していたので」


「確かに話したな。だが、俺は『酒』とは一言も言ってねぇぞ?」


「それはそうですけど.......それにそのボトルだって――――――」


「ボトルに入っているものが全て酒とは限らないだろ? 先入観にとらわれ過ぎだ」


 ガルドはそう言うとジョッキに口をつけていく。そんなガルドの様子を見ながらも、響は未だ困惑が拭えずにいた。


 すると、ガルドは告げる。


「見えてるものがな、全てじゃないんだよ」


「―――――――え?」


「確かに起きてしまったことはありのままの事実だ。それは変わらない。だけどな、見ていないところでも自分とは関係ない人が動き回っているように、飛ばされたお前の仲間もきっとどこかで動いている」


「.......」


「どこにいるかわからないから捜索のしようもない。それに他の国にもかけあってみるが、どうなるかはわからない。しかしな、先ほどお前が見た目と先入観でボトルに入ったものを酒と思ったように、その転移爆発も実はたいしたことがないかもしれない」


「でもそれは―――――――」


「自分を守るための考えって思ってんだろ? わかってるさ。でも、まずは自分が自分を守れなくて誰が守れるってんだ」


「........」


「必要な自己犠牲はある。しかし、それは命を張る時だ。今のように命も張れずに精神を消耗させている時に使うべきじゃない。本当に必要な時に張れなくなる。だからな、まずは自分を守るんだ。そうすれば、必然的に自信を取り戻していき、影響力の大きいお前のことだ、お前が信じれば今残されている仲間もきっと信じて進んでくれるはずさ」


「簡単にはいきませんよ.......」


「そりゃあ、簡単に行くと思うな。どこの世の中にももっとも積み上げるのが難しくて、もっとも壊すのが簡単なのが『信用』ってやつだ。簡単に行く方がおかしい」


「........」


「ともかくだ、お前はお前が信じたいことを信じろ。仲間が無事と思うなら無事と信じろ。生きていると思うなら生きてると信じろ。お前は勇者という辛い役目を背負っている。だからこその希望の象徴でもあるんだ。そのためには俺が一肌でも二肌でも脱いでやるさ」


「.......ありがとうございます」


 響はその言葉に思わず嬉しそうな笑みを浮かべると自分の気持ちを整理するために一足先に店を出ていった。


 そんな響の後ろ姿を見ながらガルドは思わずぼやく。


「あんな言葉で良かったのか? こういうのは正直苦手だし、後半なんて聞こえ方によってはただ勇者の役目を押し付けているようにも聞こえなくないんだが」


「あんなもんでいいだろ。さっきも見たろ? あの子の嬉しそうな笑みを。俺が思うにお前はあの子の憧れなんだ。恐らくこの世界に来てからのな」


「別に憧れるようなことをしてないがな」


 ガルドはジョッキの中身を飲み干すとそれをミストに渡した。すると、ミストはそのジョッキに果実水を注いでいくとガルドに渡していく。


「そんなもんさ。別にお前が気張る必要はない。あの子がお前の背中を追っているのなら好きに走らせてやればいい。あの子は頭が良いからな。勝手にどうやって近づけるか考え始めるってもんさ」


「なるほどな」


 ガルドはミストの言葉を聞きながらジョッキに口をつけようとすると不意にドアベルが鳴った。その音に二人は響が忘れ物でもしたのかと思い入り口を見ると全身をコートで纏い深くフードを被った男が現れた。


「誰だい? あいにく貸し切りだが」


「不審な奴だな。捕らえるか?」


 そんな二人の警戒する態度にその男は歯を見せるように醜い笑みを浮かべた。

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