第203話 仲間割れ
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
眠気が日々増してきすぎる
「狂乱の宴の下準備? お前はここで終わる。その時は永遠に来ない」
「言ったでしょう? 今の君に私は殺すことは出来ない。いや、そもそも一度死んだところで死なないんですけどね」
レグリアは意味深な言葉をクラウンに向かって告げていく。その言葉にクラウンはハッタリと真実のそれぞれ二つの考えを頭の片隅に入れておくと刀を上段に構えた。
「お前らは手を出すな」
「『手を出さない』の間違いでしょう? それから『しゃべれない』もありますが」
「お前には聞いてねぇ。お前は俺の手でキッチリ決着をつけるんだ。お前が殺した彰さんのことを俺は忘れた時など片時もない」
クラウンは目を見開くと瞳孔を収縮させていく。そして、真っ直ぐレグリアを捉えると両手に持っていた刀から左手を離し、標的を定めるように掲げた。
それに対し、レグリアは何も構えない。ただ悠然と手を後ろに組んだまま立ち尽くしている。その余裕にイラ立ちを少し感じながらも、冷静に頭を回転させていく。
静寂が場を支配する。クラウンは言葉に反応しなかった仲間のことが気になりはしているが、それ以上にこの好機だけを邪魔されるのは嫌だったので好都合ではあった。
僅かな呼吸音さえこの場には聞こえない。まさに息を飲むという状況である。誰もがその空気に意識を注ぐ中、時間は急速に動き出す。
クラウンは床を一気に蹴るとレグリアに向かって小細工なしに一直線に突き進んでいく。そして、上段に掲げていた刀を一瞬で中段に切り替えるとそのまま突き出す。
風を切る音を響かせながら、刀はレグリアの心臓を捉えていく。その攻撃をレグリアは半身逸らして避けると巨大化させた右腕で殴り掛かる。
だが、クラウンは一時的に<超集中>を使うことでその右腕を左腕一本で逸らしていく。同時に体をやや前方へと動かしていくと刀を逆手に持ち、上から下へと振り下ろす。
白と黒で描かれたモノクロの世界観の中で、黒い刀身は僅かな軌道を描きながら、レグリアを袈裟切りに襲っていく。
しかし、世界がまるでほぼ止まっているような時間の中でもレグリアはクラウンと同等ぐらいの速さで容易く避けていく。
だが、クラウンの攻撃はそこで終わりではない。避けられたとわかるとすぐさま体をさらにねじって、遠心力を活かした右脚のサマーソルトキックをした。
それはレグリアの首と左肩辺りに直撃したが、まるで鋼か何かのような固さで受け止められた。恐らくは当たる刹那に腕か何かを生やして衝撃を減らしたのだろうと思われる。
クラウンは体勢を立て直しながら、レグリアから距離を取る。そして、すぐにでも対処できるように構えていく。
しかし、レグリアが動くことはなかった。
「やはり私と戦うにはまだ完成していないですね。あと一歩なんですが、この一歩がまた難しい。それにしても――――――まさかこれが本気ですか?」
「ふざけるな。まだこれからだ」
クラウンはそう言うが実のところかなり強めに蹴り込んだ。しかし、レグリアの性質と言うべきか、特質と言うべきものでまるでダメージを与えられていない。
故に、ハッタリではある。だが、肉体で負けていて精神的に負けるのはかなり不味いので、この行動しか今のクラウンには選択肢がなかった。
すると、教皇は肥大化させていた右腕を元に戻す。それはまるで戦闘行為を止めたとも言える行動だ。
「なんの真似だ?」
「いえ、先ほど一つ施していたのを忘れていましてね。それを思い出しただけですよ。まあ、本音を言えば、あの時の再戦でかなり楽しみにしていたのですが、あまりのショックで思わず忘れてしまい.......」
「お前がショックを受けようが受けまいがどっちでもいい。だが、お前が何かしようとしているのを俺がさせるとでも思ったか?」
「思いませんね。ただまあ、時すでに遅しというやつですよ。君の戦う相手は私ではありません」
レグリアはニヤリと笑う。
「―――――――仲間です」
「な.......!」
クラウンはその言葉に反応すると同時にリリス達の方から来た斬撃を体を逸らして避けていく。その風は壁に直撃すると爆発音とともに壁に穴をあけた。
その壁を見ながらクラウンは思わず呆然とした表情をする。そして、僅かに切って血を流した頬をそのままにしながら、リリス達の方へと向いた。
すると、そこには足を頭上近くに上げて、攻撃した後の恰好をしたリリスの姿があった。そのことにクラウンはさらに目を見開く。
「―――――リリス?」
「.......」
クラウンの呼びかけの声にも反応する様子はない。ただ泣きたそうな顔でクラウンの目を見つめ返すだけだった。
そのことにクラウンは混乱する。そして、よく見るとリルリアーゼ以外の全員が同じように苦しそうな顔をしていて、リルリアーゼは意識を失っているかのように棒立ちでうつむいていた。
クラウンはリリス達に体を向ける。そして、もう一度声をかけようとする瞬間―――――――リリスはクラウンに向かって跳躍した。
ただ真っ直ぐ、泣きたそうな顔を向けたまま――――――右足に炎を纏わせていく。
それから、その一撃をクラウンに向かって跳び蹴りで当てようとしてくる。咄嗟にその攻撃を避けるクラウンであったが、すぐに背後からほんのわずかな殺気を感じる。
すぐに横っ飛びをするともと居た位置にはベルが両手に持った短剣で首を掻き切ろうとしていた。そのことに驚きが隠せないクラウンだが、それをずっと考えていられる時間はなかった。
それは真上から二本の刀を逆手に持ったカムイが降って来たからだ。それを前方に転がるように避けていくとすぐに立ち上がる。
だが、その動きが読まれていたかのように両サイドには半透明の壁が出現したこれは恐らく雪姫の魔法であろう。。そして、その壁はプレスするようにクラウンを襲う。
クラウンは言葉にする様子もなく両肘を立てて押し潰されないように耐えていく。すると、前方から朱里が放った無数の風弾が風穴を開けるように頭に一直線に向かっていく。
他の個所ならまだしも頭を狙われては<超回復>でも回復できない。そう考えたクラウンはパッと両肘を緩めると背後の壁へと糸を飛ばした。
そして、押し潰される前に脱出。だがすぐに、ロキが眼前へと迫っていて鋭利な爪で持って切り裂こうとしてくる。
クラウンは前髪の端を切られながらも、紙一重で避けていく。しかし、ほんの少しタイミングをずらしてやって来たエキドナの竜化で肥大した右腕の攻撃を避けることは出来なかった。
なんとか両腕でガードするもその重い一撃はクラウンを簡単に吹き飛ばし、床へと小さくクレーターを造りながら叩きつける。
それでも連続の猛攻をほぼ全て避け切ったクラウンはまだ体力的に余裕があった。それ故に、すぐに跳ね起きで起き上がると刀を構える――――――ことは出来なかった。
すると、そんなクラウンの行動を見て面白がっているレグリアは思わず口を開いていく。
「いやー、素晴らしい! こんなにも素晴らしいものが見られるなんて! これが崩壊! これが悲劇! これが裏切り! これが絶望! ああ、こんなにも甘美なものをいつまでも感じられないとは君も哀れな人間ですね~。なら、その真実を聞いてみてはいかがかな? さあ、胸の内にある思いを全て吐き出しなさい!」
レグリアは両手を大きく広げると高らかに笑っていく。その光景にクラウンは――――――見ることも出来なかった。
「避けて、クラウン!」
「リリス.......!」
リリスは突撃してくると迫ってきた勢いのまま回し蹴りをしてくる。クラウンは脚甲で覆われた鋼の蹴りを刀で流していくとそのまま後ろ回し蹴りをしてくる。
それをバックステップで避けると背後から威圧を感じた。
「違う。違うんだ、これは!」
震えて上ずった声で言うカムイは炎を纏わせた刀を横なぎに振るっていく。それを跳躍して、地面と平行になるように姿勢を変えて避けていく。
そして、着地した所でカムイの冷気を纏った刀をすぐに弾いていく。
「やめて、お願いだから.......!」
どこかへと切実な思いで訴えかけるエキドナの声はとても心に刺さるものがあった。しかし、その声と表情とは真反対に行動は攻撃的。
クラウンを狙って振り下ろした拳は避けられると地面へと僅かにめり込ませていく。そして、周囲に大きなヒビを広がらせていく。
「主様、どうか罰をです!」
「ウォン!」
クラウンはエキドナからすぐに距離を取ると両サイドから襲ってきたベルとロキの横なぎに振るった短剣と爪をバク転しながら避けていく。しかし、咄嗟に斬撃を飛ばしたのか両脇腹には浅く抉られていった。
その傷を<超回復>で回復させながら、クラウンはすぐに周囲を探る。だが、それは自分を上、左右、後ろと囲む結界によって遮られた。
そして、ふと正面を見ると涙を流している朱里と雪姫の姿があった。
「嫌だ! もう嫌だ! これ以上は嫌だ!」
「どうして、どうしてこうなるの! 何が起こっているの!? もう止まってよ!」
二人はそう言いつつも行動は止まらない。雪姫はクラウンを囲った結界を急速に縮めていき、朱里は前から出るしかないクラウンに火、氷、雷、風、土と様々な属性の弾丸を連続射出していく。
クラウンはその光景を見ながら、思わずあの処刑の日を思い出した。状況と場所は違えど、またあの時みたいに二人が攻撃してくる。
しかし、今ならわかるこの異常性を。二人だけじゃない。リリスも、ベルも、エキドナも、カムイも、ロキも全員が全員あの時と同じ行動をしている。
そうだ、あの時もそうだった。突然様子がおかしくなったのだ。あの時は自分を守るために必死で周りに目を配る余裕がなかったからわからないが、この様子になる時―――――――必ず教皇がいた。
クラウンは歯噛みする。そして、左拳を床に叩きつけると<超集中>を使って、朱里が放った銃弾を避けたり、斬ったりしながら元凶へと進んでいく。
瞳孔を極限まで収縮し、溢れ出る殺気とともにクラウンは目に留まらぬ速さで走った。そして、クラウンから黒いオーラが死神を連想させるとその死神が鎌を振るうように――――――刀を振るった。
「レグリアあああああああああ!」
その刀はレグリアの目前に迫りながらも――――――その男は笑っていた。




