第201話 道化の原点#17
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
これで過去編最後です
それとあけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
「そこからはお前らが雪姫と橘から聞いた内容とほぼ同じだ」
仁の過去編からいったん戻り現在、召喚されてから朱里にあの現場を見られる間までの全てを語った仁は暗いとも、悲しいとも言える表情をしていた。
いつものような男らしい覇気はなく、哀愁漂うその雰囲気はその場にいる仲間達に声をかけさせることを躊躇わせた。
だが、その中で少し感じ方が違ったのは雪姫と朱里だ。その二人はもとの世界から親交があり、今のようになる姿を知っている人物だ。
そして、過去の仁がどんな考えを持って、どのように行動してきたかわかった二人は、だからこそ自分達がしたことが悔やまれた。
どうしてあんな行動をしてしまったのか。どうしてあんな言葉をかけてしまったのか。悔やむことばかりが思い出されて、楽しかった日々が霞んでいく。
一度謝ったからといってそれだけで清算できる問題じゃない。もはややったことだけの問題じゃなくなっているのだ。
すると、ようやく口を開いたリリスが同情するような声をかける。
「大変だったわね。私が言える義理もないだろうけど。あんたはもともと人をすぐに信じれるタイプだった。そして、仲間のために頑張れるやつだった。だからこそ、気になるの。何があんたを決定的に変えてしまったのか」
「何が.......か。だとすれば、決定的なのはあの時しかないだろうな」
仁は過去に耽ったような目をしながら、雪姫と朱里に確認の視線を送っていく。それは二人にも関係していることなので、話していいのか確認が取りたかったのだ。
すると、二人は二人で顔を合わせると互いにうなづいて、さらに仁の方へと向くとさらにうなづいた。つまり、話してもいいということだ。
仁はそんな二人を少しだけジッと見つめると再び語りだした。
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仁が朱里と教会で会ってから少しだけ時は進む。そして、その時仁は牢獄の中にいた。
罪状は殺人罪。もちろん、殺した相手は彰だ。反論の余地もない一方的とも言える裁判の結果は当然有罪。今はそれまでの間を過ごしているというところだ。
仁の顔はやつれていた。無理はない、誰も信じてくれなかったのだから。自分が心から信じていて、信じられていると思っていた相手にも見捨てられた。
そして、その相手はあろうことか自分よりも圧倒的短い付き合いである教皇を選んだ。それがあまりにも信じられなかった。
当然感じ方は「裏切られた」という気分だ。それ以外適当な言葉が見つからないし、出て来もしない。故に、仁は絶望していた。
見方は一人もいなくて、今こうして掴まっている。迫りくる処刑の期間までに与えられている食事も微々たるもので、処刑が先か餓死が先かといった感じであった。
そのやつれた顔は以前の仁とは比べ物にもならない。頬はこけ、目はほとんど光を失っていて、牢獄の中で時が止まったかのように一日動かない。
だが、あくまで仁が光を失ったのはほとんどだ。その残りは死してでもなお果たしたい目的のために取っておいてあるのだ。
その目的とはもちろん教皇を殺すことだ。それ以外の目的が他にあるだろうか、いやない。裏切った仲間に対しての報復も考えたが、そこまで果たす体力はない。
しかし、そう簡単に上手くいかないとわかっている。教皇は確かにあの時心臓を刺されて死んだはず。にもかかわらず、生きていた。
ということは、思いつく限りだと彰と同じように生き延びる術を持っていたということ。考えうる限りだとそれぐらいしかない。
だとすれば、教皇を殺すのはその魔法が使われる前であるということ。やる時は処刑の時の不意打ちだ。それぐらいしかタイミングはないだろう。
幸い、今は捕まった時の服である。何日も着続けたせいで沁み込んだ自分の臭いはだいぶ汗臭くなっていたが、今は慣れきってしまって感じることはほとんどない。
仁は右手を見るとそのひらに糸を作り出そうとする。だが、勝手に集めた魔力が霧散して作り出すことは出来ない。
それは手首につけられている魔道具のせいだ。それによって魔法は強制的に使えないようにさせられている。
なら、教皇をどうやって殺すか。簡単だ、削って作った石を使えばいい。
どうやら運はまだ自分を見捨てていないらしい。与えられた食事の中に混ざっている食器を使って、年季が入っている壁を削っていく。
当然、自分が処刑するまでにどのくらいの規模かもわからないこの場所から脱出など無理だ。それに、そもそも自分に脱出するつもりがないからな。
どうせ死ぬんだったら、しっかりと目的を果たして死んでやる。もう自分の先のない自分の命なんて守ろうとするだけ無駄だ。
そして、数少ない時間で兵士の目を欺きながら、削った壁から鋭利にした破片を作り出した。それが出来れば後は時が来るまでジッとしていればいい。
それから数日後、仁の運命の時がやって来た。
「立て、移動だ」
冷たい目線を向ける聖騎士に続くように仁は立ち上がる。その時、不自然にならないように石を袖の内側に隠すと聖騎士の跡をついて行く。
すると、周囲から響き渡る怨嗟のような声。同じ受刑者だ。どいつもこいつも凶悪な顔をしていていかにも「人を殺してますよ」といった顔であった。
そんな人達を横目に見ながら仁は階段を上っていく。そして、数日ぶりの陽の光というものを感じた。
というのも、牢獄は地下にあるために光をまるで感じることはない。感じるのは大体処刑の日だけだ。
「おや、主役の登場のようですよ?」
「........っ」
仁は一度教皇のいる場所へと連れて行かれると虚構の第一声がそれであった。そのことに仁は思わず鋭い目つきで睨みかえす。
しかし、教皇は涼しい顔をしていた。そして、視線で横を見るよう促してくる。気づいている。気づかないはずがない。横にかつての仲間達がいることぐらい。
「それでは少し場所を移しましょうか。特別な場所を用意しているのです」
教皇は立ち上がると先導するように歩き始める。その後をかつての仲間達が仁に目線すら合わせずついて行き、その後ろを怒りで歪んだ表情の仁が歩いて行く。
そして、教皇によって連れてこられたのは城にある大時計の場所だ。そこは仁の何十倍という大きさの歯車がせわしなく時を刻ませている。
すると、教皇は時計の裏側まで歩いて行くとそこにある何かを弄っていく。
「実はですね.......この城は遥か昔にあった城の跡地を再利用したものだったりするんですよ。そして、ここの大時計の場所はかつて公開処刑の場所だったのですね――――――意味はもう分かりますよね?」
「......」
教皇が大時計を押していくとそれは扉が開くように外を覗かせた。その大時計の位置からは障壁に囲まれた城下町が一望できる。
また開けた瞬間、強烈に吹く風はゴオオオオオオと地面を鳴らすような音を響かせていく。その風によって髪や服は激しく揺れていく。しかし、そんな絶望的な瞬間でも仁は顔色一つ変えることはなかった。
すると、その反応が詰まらなかったのか教皇は手を後ろに組みながら、仁へと歩み寄る。
――――――あと少し、もう少しだけの辛抱だ。
仁は前に縛られた両手の縛られ具合を確認しながら、教皇へと襲いかかるタイミングを計っていた。確実に、一撃で自分の想いの一発が乗るように。
「もう少しリアクションが欲しいですが?」
教皇が仁の様子を伺うように顔を近づける。
―――――――今だ!
「死ねえええええぇぇぇ!」
仁は僅かな隙間から鋭利な破片を取り出すとそれを最短距離で教皇の左胸に突き刺そうとする。しかしその瞬間、世界がブレたかのように自分以外の周りが突然霞み始めた。
人の姿が左右に思いっきり引き延ばされ、人だけではなく壁も床も空でさえも急激に横伸ばしに歪んでいく。
そして、仁が気づいた時には一人であった。しかも、先ほど大時計を背にしていた教皇が自分の位置にいて、代わりに自分が大時計を背にして正座している。
仁は今の状況が理解できなかった。先ほど確かに教皇へと刺しに行き、それは確実に避けられない一撃だったはずだ。なのにどうして―――――。
気が付けば手に持っていた武器もない。そして、明らかにおかしい位置替えまでしている。わからない、なにがどうしてこうなっているのか。
仁はこれまで持っていた信念が折れた音を聞いた。復讐が果たせなかった今、何が起こったかわからなくなった今、仁は途端にとてつもない恐怖に襲われた。
そして、先ほど怒りとは打って変わって恐怖で顔を青ざめさせると震えた声で叫んだ。
「誰か! 誰か助けてくれ!」
死にたくない。急に湧き上がってくる生への執着。まだ何もしてない。何も果たしていない。それでなお冤罪で死ぬなんて嫌だ。
先ほどの覚悟が嘘みたいに仁は「生きたい!」「嫌だ、死にたくない!」「俺は殺していない!」と懇願の言葉を叫んでいく。
しかし、その言葉が誰かに響くことはまるでなかった。反応すら帰って来なかった――――――ただ一人を除いては。
「ははは、いい! 実にいいですよ! その表情を待っていた! 生かした甲斐があった! ああ、その豹所が見たかったのです! その絶望に染まる表情が! 自身の光を見失って、闇に恐怖するその顔が! ああ、やはり君は素晴らしい! 殺すのが勿体ないほどだ!」
教皇は高らかに笑っていく。その表情に仁は怒りを感じたが、恐怖が上回っている今はまるで表情が変わることはない。
すると、教皇は何かに気付き、増々歪んだ笑みを浮かべていくと仁へと近づいていく。そんな教皇に仁は恐怖し、後ずさる。
教皇が一歩進むごとに仁は三歩ほど下がっていく。しかし、その距離はいつまでも続かなかった。それは仁が大時計のあった淵まで辿り着いてしまったからだ。
それ以上、下がれば真っ逆さまに落ちて死亡。強烈な風を背中に感じながら、教皇がただ近づくのを待つしかなかった。
すると、教皇はゆっくりと仁へと手を伸ばしていくと肩に触れた。そして、告げる。
「あなたにはこの世界を笑いに染めてもらいましょう。多くの人を笑わせてあげるのです」
「?」
仁は理解が出来なかった。ただわかることは、教皇が不気味なことを発したということだけ。
「さあ、皆さん。この者に裁きの鉄槌を!」
教皇が高らかに叫ぶと一緒についてきたかつての仲間は一斉に仁に向けて手をかざした。そして――――――詠唱する。
「「「「「天地神明の理において」」」」」
「やめろ......」
仁は麻痺したように涙を流しながら懇願する。しかし、止まらない。
「「「「「我らが粛清すべきは確かな悪なり」」」」」
「やめてくれ.......! 俺は何もしてないんだ! 俺達は仲間だろ!」
仁はごちゃごちゃな思いをごちゃごちゃのまま吐き出す。それでも止まらない。笑っている。全員の顔が笑っている。
「「「「「自らの大義を持ってその悪を撃ち滅ぼさん」」」」」
「嫌だ! 死にたくない! まだ生きたい! 嫌だ! 嫌だ!」
仁は自分の願望をとにかくぶつける。だが、止まらない。その時、仁から見た仲間は全員まるで三日月形の目と鼻をした笑ったような仮面をつけているようで不気味に映った。
「さあ、告げるのです! 最後の言葉を!」
「「「「「悪しき罪に正義の鉄槌を。裁きの光で焼き付きたまえ――――――光罰」」」」」」
「嫌だああああああ―――――――」
仁は目を見開いたまま、その巨大な砲撃を目の当たりにした。そして、周囲を白く埋め尽くすようなその凶悪な一撃は仁をいとも簡単に飲み込んだ。




