第20話 ただの同盟関係とそれはおかしい
第2章始まります。シリアス展開が続いていたんで今回はジャブです
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「ねぇ、どうせだったらその仮面取ってしまわない?」
「......」
リリスがクラウンにそう聞くとクラウンは少し考えるような素振りを見せた。
現在、クラウンたちは【帝国 グランシェル】に来ていた。
そして、いつも通り門番をたぶらかして中に入ると宿を探しながらリリスはそんなことを聞いた。ちなみに、ロキは前回と同じで外でお留守番である。
「そうだな、変えるべきか」
「そっちじゃないわよ。外したままにしてもいいんじゃない?ってこと。あんたが私に顔を隠すのって、私に見られたくないというのもあるけど、本当はその目の傷に触れられたくなかったからじゃないかしら?」
「......」
クラウンはその質問に答えることはなかったが、リリスはなんとなくその沈黙が肯定的な意味を表していることがわかった。ながらく一緒に行動を共にしているせいだろうか。
だが、クラウンはあまり多くを語らないのでこれは自分でもいい能力が出来たと嬉しく思っている。
「......その通りだな。俺も初めっからこの傷があることは知らなかった。俺が目を覚ました時は記憶が飛んでいたからな」
「復讐ってことよね?」
「ああ、そうだ」
リリスは少し気持ちを察することが出来た。あの夜、クラウンが仲間と対峙した時の憎悪にまみれた雰囲気はあまりにおぞましかった。
それだけ、仲間だったあいつらになにかされたのだろうか。だとしたら、体が勝手にその記憶を消そうとしたのも頷ける。
けど、きっとそのままじゃクラウンは今頃こんな風に生きてなくて、私とも出会うことはなかった。
なんだかそれはとても複雑な気持ちだ。クラウンはもとは優しかったはずだ。変わってしまった今でもさりげなく私に気を遣ってくれるところとか。
そして、もしかしたら今の私とも仲良くなれていたかもしれない。まあ、それはあくまでクラウンという人間を知ったからそう思うだけだけど。
私にとってはクラウンは今の方が都合が良い。だけど、それはクラウン自身はどうなのだろ。クラウンはそうなりたくてそうなったのか。いや、きっとそうならざるを得ない状況になってしまったのだ。
そして、生きる希望として生まれたのが自身を貶めた仲間と教皇、そして神への復讐。いわば、クラウンは復讐という亡者に取り付かれているのだ。しかもそれをクラウン自身もわかっていながら、身を任せている。
けど、まだ回復の兆候が見えたことはその中でも最良と言える。それはクラウンがその仲間を殺さなかったことだ。
クラウンは苦しませるつもりだろうが、本当にそうなのだろうか?私にはそうは捉えられなかった。本当は何かに気づいて殺さなかったとか、それともまだ仲間への良心が働いたからか。
個人的には後者の方が嬉しい。私自身も仲間という存在のありがたみは知っているから。
リリスは軽く息を一つ吐いた。まあ、これは追々ね。これが治れば少なくとも衝動的な殺戮衝動は収まるでしょう。
「なんかその仮面を壊れてもつけられていると信用されてないみたいだわ」
リリスは冗談交じりにそう言うとクラウンは急にその場に止まった。そして、正しく殺人鬼のような瞳でリリスを見た。
「信用?ふざけているのか?俺たちは同盟でこうしているだけだ。お前など最初から信用してない」
「......!」
その言葉はリリスにとってあまりにショックだった。信用されるためにやってきた行動は全て無駄で、まるでこれまで一緒に過ごしてきた時間を全否定されたかのように。
だが、ここでリリスは込み上がる悲しさと怒りをグッと堪えた。これはもとよりわかっていたことではないか。
だから、こんなことでいちいち腹を立てていたら仕方がない。それに、私ももとよりクラウンを利用する立場だ。クラウンの言っている方が正しい......でも、やはり少し悲しい。
リリスは軽く深呼吸して気持ちを切り替えて、話題を変えた。少しでも雰囲気を良くしないと。
「そういえば、あの首なし死体っておそらくあんたが殺したかった男の一人でしょ?殺せて良かったじゃない」
「いや、あいつはおそらく生きている」
「......は?」
リリスはクラウンの発言に思わず呆けた声を出した。だが、それは仕方ないだろう。自分自身の目でその死体を確認してピクリとも動かなかった男が生きているなど冗談でしか済まされない話だ
しかし、クラウンは茶目っ気で嘘をつくような男ではない。なら、クラウンの言っていることが正しいとなるが、それもなんか腑に落ちない。
すると、クラウンがそんなリリスの考えを察したのか言葉を付け足す。
「あいつの死体を見た時、なにか変だと思わなかったか?......あいつの死体からは血が一滴たりともこぼれていない」
「......あ、そういえば」
リリスはその時の光景を鮮明に思い出した。自分がクラウンのいる場所に着いた時、クラウンのすぐそばにある死体を目撃した。
だが、確かに首とそれの下がキレイに切れていたのに赤く染まっているところがどこにもなかった。
「あいつは人間ではない。正しく人形といったところか、それも意思のあるな」
「でも、そんなことを言ったら殺しようがないじゃない!」
「それはまだわからないだろう?もしかしたら頭を潰せば殺せていたかもしれない。それにあいつは神を酷く崇拝していた。なら、そいつに何か関係があるかも知れない。となれば、大元を叩くのが一番早い」
「まあ、それはそうかもしれないけど......」
リリスは思わず不安がった。それがもしクラウンの言う人形で神が作り出したものだとすれば、クラウンがやっとで倒せる人形を量産できるかもしれない。そうなれば、おそらく勝ち目はない。なのにどうしてそうも強気でいられようか。
そんなリリスを見てクラウンは思わずため息を吐いた。「あの時の妙な頼もしさはどこにいったのか」と思わざるを得ない。
「リスクを考えて踏みとどまってどうするつもりだ?そんなものどこにだってある。そもそもお前が殺したい奴もその相手に殺されるリスクがあって、お前はそれを承知で殺しにいくと決めたんじゃないのか?」
「.....!」
リリスは思わずハッとさせられた。クラウンが言っていることは何一つ間違っていない正論であったからだ。自分も覚悟を決めて旅に出たはず。
その相手は人間だ。あの時以来、自分が殺したい相手がクラウンと同じ相手だと錯覚していた。
そして、その強大さに勝手に怖気づいてしまっていた。全く、私ははいつの間に同盟関係を度外視してしまっていたのか。
それだけクラウンから知らず知らず影響を受けてしまっていたのか......あれ?私ってこんな流されやすかったっけ?
リリスは思わずクラウンの肩を小突く。なぜか急にムカついてきた。
そんなリリスの行動に我関せずといった行動を続けたクラウンはやがて宿を見つけた。
そして、そこにいたのは女性店主だったがリリスが問題なく誑かしてタダで部屋を借り、それから一つの部屋に集まると今後の予定について話し始める――――前に。
「お前の特性って女相手にも使えるんだな」
「まあね。でも、それは若い子に限るわ」
「やはり性欲か?」
「なぜそれをわざわざ口に出すの!わかっているなら、あえて濁したことをわかりなさいよバカ!」
リリスは思わず顔を赤くしてクラウンにつっかかった。だが、クラウンはなぜそんな言われ方をされたのかまるでわかっていない。
なのでとんでもないことを平気で言える。
「なあ、あの女でさっさと貫通させてこいよ」
「......ふぇ!?」
リリスは言っている言葉の意味が理解できてなかった。なので、思わず素っ頓狂な声が出る。
......女同士でこのバカは処女を捨ててこいと言っている。ダメだ、理解しようにも全くわからない。こいつ、狂い過ぎて頭おかしくなったか?
「ないのか?ピ―――――――――てきなやつは?」
「初めて聞いたわ。なにそのピ――――――――――ってのは?」
そう言ってクラウンはそれについて説明し始めた。只今、クラウンが説明していることはシリコンのような素材でできた男のアソコを模したやつだ。そして、それをあの女性店主につけさせて貫通してこいと言っている。
これに関するクラウンの意図としては、リリスに薬を渡したが、やはりまた面倒ごとになるのは避けたいので女同士でもできるのならそれに越したことはないと思っている。
だが、説明を受けて耳まで熟れたリンゴのように真っ赤になっているリリスはもちろん承諾するはずなく......
「あんたバカ!?!?!?」
「出来ないのか、サキュバスのくせに」
「出来る出来ないの問題じゃないでしょうが!!そんなこと思いつく仲間は誰一人だっていなかったわよ!!」
「なら、あればできるのか?」
「だから、そっちに話題を持っていくんじゃないわよ!!!」
リリスは思わず立ち上がると外の人にも聞こえるような大声でクラウンに抗議した。だが、クラウンは顔色一つ変えることなく涼しげな表情だ。そして、さらっと告げる。
「なら、誰ならいいんだ?」
「やらないわよ!やるわけないでしょ!前に言ったよね、やるなら好きな人だって!まさかこの流れで女の人を好きになれって言わないでしょうね!?」
「.......」
「何考えてんのこのバカは!」
そう言うと疲れてしまったのかベッドの上にバタリと倒れた。なぜこんなに疲れなければいけないのか。甚だしく理解しがたい。
だが、クラウンもあまりの抗議に腑に落ちない顔をしているが、それ以上言うことはなかった。
リリスはそれだけでも救いに感じた。
「てか、あんた達の世界はそんなものがあるのね。......私たちよりもよっぽど淫魔じゃない。どれだけ性に異常な世界に生きてるのよ」
「案外否定できないところが面白いかもな」
「そんな世界、サキュバスでもごめんよ」
そう言うとリリスは大きくため息を吐いた。まさかこの会話がこんなカオスを潜ませているとは思ってもいなかった.....はあ、さっさと本題に入って休もう。
そう思って姿勢を正すとリリスは本題を切り出す。一秒も早くクラウンをその話題から遠ざけるために。
「それじゃこれからの話を始めましょ」
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