第2話 森を生き抜く相棒
こちら作品は出来るだけバトルシーンを多くしたいですね。
少年は洞窟を出るとそのまま直進し始めた。足取りは覚束なくゆらゆらとしている。だが、その瞳は絶望に輝きを失ってなかった。
むしろ黒い炎がメラメラと揺らいでいる感じであった。そのおかげか不思議と空気も美味い。生きてる実感が湧く。
すると、すぐそばの大木の背後から複数体の一角ウサギが現れた。だが、少年は物怖じ一つせず、むしろ鋭い眼光で睨みつけるように見た。そして、醜い笑みを浮かべる。
「邪魔者は消す」
少年は小さく呟くとこちらに向かって飛んできた一角ウサギを半身で避ける。よく見れば捉えられない速度ではない。いや、もしくは自分の体が捉えられる領域に強制的に達したのか。それならそれで好都合。
少年は拳を強く握りしめるとそのまま一匹の一角ウサギの頭を殴り飛ばす。その瞬間、頭は弾け、少年の拳が赤く濡れる。そして、そのままの勢いを活かし、後ろ回し蹴りで次に向かってきた一角ウサギを遠くへ飛ばす。
少年は自分の体に驚きを感じていた。先ほどまで死にかけていた自分の身も心も最初の時よりもよほど活き活きしていて、よく動ける。強くなったような気がする。
恐怖心がなくなったからなのか、生への渇望によるものであろうか、復讐心によるものだろうか。わからない。だが、それでいい。神を殺せる肉体さえあればいい。
少年が蹴り終えて、元の体勢に戻った時、他の一角ウサギの姿が消えていた。逃げたのか?いや、まだ気配がする。注意深く辺りを観察していると不自然に穴が開いている場所があった。
それを見つけた瞬間、少年は咄嗟に身を引いた。するとその直後、少年の元居た地面から二体の一角ウサギが飛び出してくる。
しかし、実はもう一体いたのかその一角ウサギは少年のすぐ近くから飛び出してきて、少年に突撃した。
少年は咄嗟に左手を盾のようにつかい、手を一角ウサギの角によって貫通させながらも左手で受け止める。そして、そのまま地面へと押し潰した。頭がグチャっと潰れ、血が弾ける。少年はそれによって、口もとについた血を舐める。
少年は角を左手から引き抜くと、<超回復>で治す。それから同時に、頭が潰れてなくなっている一角ウサギに食らいついた。噛みついた瞬間、ぐちゅっと音を立て、血が噴き出し、口の中で泥臭い味がした。
しかし、美味い。今までで一番に美味い気がする。そして、ゴクンと音を立てながら無理やり飲み込む。
『スキル 瞬脚 を獲得しました』
頭の中でアンドロイドのような声が響く。その声を軽くスルーしながら、少年は自分に向かって飛んでくる二体の一角ウサギに目を向けた。少年はゆらゆらと立ち上がりながらも、目ではしっかりと二体の動きを追っている。
「瞬脚」
小さく唱えると少年の姿は消え、瞬時に二体の一角ウサギの間に現れる。それから、それぞれの手で頭を鷲づかみにした。
そして、思いっきり頭と頭をぶつけ合わせる。その衝撃で二体の一角ウサギの頭は跡形もなく潰れる。頭が消え、地面に落ちる一角ウサギを掴むと先ほどと同様に噛り付いて、肉を食らう。
「グウオオオオォォォォ!!」
森を向かって歩き始めた少年を引き留めた声の主は自身を傷つけたあの熊であった。熊は再び咆哮しながら向かって来る。少年は手に持っていた一角ウサギを投げ捨てると不敵で邪悪な笑みを浮かべた。
「はっ、力比べか?」
少年は身構えると突撃してきた熊を受け止めた。その瞬間の衝撃は強く体を揺さぶる。
「くっ!」
声が少し漏れ、押し込まれ、引きずられながらも少年は脚を踏ん張らせた。目の前にいる熊は喉を唸らせながら、少年を睨めつける。
すると、少年はその顔に向かえ討つように瞳孔を収縮させ、口角を上げた。ははっ、腹が膨れたおかげか力が漲ってきた。
すると、熊が顔前で口を開けた。そして、その口から熱波が伝わり、炎が溢れてくる。どうやら目の前で火球をぶっ放すつもりのようだ。だが、それでも依然として少年は不敵の笑みを浮かべている。
「そらぁよ!」
「グフッ!」
少年は膝を熊の顎に思いっきりぶつけると熊の口内でボォンと火球が弾けた。その瞬間、熊は黒い煙を発しながら死に体になる。
少年はその隙を見逃さず、顔面を思いっきり殴り飛ばした。そして<瞬脚>を使って追撃しようとした瞬間、熊は態勢を整うと爪を振るった。
「......ぐはっ!」
少年は瞬時に距離をとったが、その爪は少年に向かって伸びてくる。そして、その爪は白い軌道を持って胴体に突き刺さる。
突き刺さった個所から、大きく抉られ血が勢いよく噴き出す。それから、段々と薄くなってやがて消えた。どうやら魔法の効果らしい。まだこんな魔法を隠し持っていたのか。
だが、少年にはあまり意味がない。それは<超回復>ですぐに治すからだ。そして、その魔法を使って行くと穴が開いた胴体は傷口を塞いでいく。それから、少年は近くにあった一角ウサギの角を掴むと<瞬脚>で一気に間合いを詰める。
「おらぁ!」
熊は突如として現れた少年に咄嗟に噛みつくが、少年は左手を噛ませるとがら空きになった頭に思いっきり角を突き立てた。
すると、「ガア!」という声を上げながら、頭から血を垂れ流した。さすがに熊も脳を破壊されては敵わない。
熊は静かにぐったりとしながら地に伏した。少年は頭から角を抜くとそれを使って熊の腕を切り落とす。そして、その腕に食らいつく。
『スキル 火炎弾 流爪 を獲得しました』
再び頭の中に音声が鳴る。それを確認すると<火炎弾>を使って腕、他の残りを焼き始めた。やはり焼くといい匂いがする。
自分を殺しかけた敵が焼けていくのは、見ていて実に気分がいい。そして、焼けたのを確認するとそれを食らった。
「........うまっ。やはり焼きだな」
そう独り言ちるとひたすら食らいついた。どういうわけか食えば食うほど腹が減っていき、食欲が増進される。少年は食って食って食って食って食った。熊の肉一つ残らず。熊は文字通り骨だけになった。
「「「「グルルルルル」」」」
すると、後方から唸り声が聞こえる。そして、見てみれば多くの魔物が自分を睨みつけるように見ている。大方、匂いに釣られてやって来たのだろう。ははははは、いいだろう。全て食らって力を奪い取ってやる!
少年は背後にいる複数の敵に笑いながら、突貫していった。
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少年は現在、空中をものすごい勢いで飛んでいる......否、飛ばされていた。周囲にある木々は視界に入らぬ速さで通り過ぎていき、宙に待っている木の葉で肌に切り傷が出来る。そして、少年は大胆に地面に激突すると抉っていく。しかし、それでもなお止まらない。
「がはっ!......はあはあはあ」
しばらくして、大木にぶつかったことでようやく止まった。少年は大木を支えにしてなんとか立ち上がる。服は大きく破れ、擦り切れた肌からは血が溢れである。
だが、その傷はすぐに修復していく。しかし、傷はすぐに癒えるが、一瞬でも流し過ぎた血のせいで体力は戻らない。
すると、前方からは地響きを立てながら、巨大な化け物が迫ってきていた。その化け物は巨大な腕を大きく振りかぶって少年に振り下ろした。
「クソッ!......瞬脚!」
「ウホオオオオォォォォ!!」
少年は大きく後ろに飛んで避ける。すると、その化け物が振るった拳は地面を揺らしながら、砂塵を巻き上げる。少年が戦っていた化け物は巨大なゴリラの魔物だ。
大きさはまさにキングコングのような大きさで、強さも機動力も知能も他の魔物とは桁違いだ。戦闘を始めてからかれこれ1時間以上戦っているが防戦一方がいいところ。
すると、ゴリラの魔物は大木をなぎ倒し一気に向かってくる。その威圧は大気を震えさせる。正直、今の時点では勝てる気がしない......だが、あいつを倒せばより強くなれる!
「流爪」
滞空している少年はその状態から右手を引っ掻くように振るう。その瞬間、五本の爪の斬撃がゴリラの魔物の顔面に向かって伸びていくが、左手を薙ぎ払われただけで簡単に打ち消された。そのことに少年は思わず舌打ちする。
「......まずい!」
少年に向かって巨大な手が迫り、そのまま叩き落とされた。少年はすごい勢いで地面へと叩きつけられ、肺に溜まってた空気が吐き出された。その威力はその場にクレーターを造るほど。そして、ゴリラの魔物はさらに追撃とばかりに拳を振るう。
「なめんな!」
少年はイラつきながら奮い立つと迫ってきた拳を避け、その腕に飛び乗った。そして、そのまま腕を駆け上がって行く。
「おらぁぁぁぁぁ!!」
少年は<瞬脚>で迫る右手を避け、眼前に迫ると進んできた勢いをすべて使ってゴリラの魔物の左頬を殴った。その衝撃で右腕の骨は粉砕したが、ゴリラの魔物の体勢を崩すことには成功した。
そして、少年はすぐさま距離をとり、<超回復>で右腕を治癒していく。
「!」
すると、突如として少年の体は巨大な手に覆われ、空中に放り出された。少年は思わずゴリラの魔物へと顔を向けるとその魔物と目が合う。あれだけ強く殴ったのにもう回復したらしい。
すると、ゴリラの魔物は大きく腕を広げると手を交互に胸に当て始めた。いわゆるドラミングだ。そして、ゴリラが叩くたびにドラミングによって、震えた大気の衝撃が骨まで響く。
ゴリラはそれを続けながら空気を思いっきり吸い込んでいく。その瞬間、少年は「やばい!」と直感の告げるままに腕でガード―――――――――
「ガッハァッ」
―――――――したが、何の意味もなかった。ゴリラの魔物は口から衝撃波を収束させ、砲撃のように放った。その衝撃波は少年とその射線上の大木を吹き飛ばし、地を抉った。
少年は内臓が傷つけられ、盛大に口から血を吐く。すると、ゴリラの魔物は再びドラミングし勝利の雄叫びを上げた。
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「うっ......クソが......!」
少年は目を覚ます。ゴリラに対する愚痴だとか、想像以上に飛ばされたとか思うことはたくさんある。しかし、考えてる暇は少年には与えられていなかった。
突如、黒いオオカミが集団で襲ってきたのだ。少年は急いでその場を退く。だがすぐに、少年を取り囲むように並んだ。数は六体。数的には問題ないが、この種類は初めて見る。この数も能力次第で厄介かもしれない。
周囲から臭う獣の臭い。オオカミは相当腹を空かせているのか涎を垂らしている。すると、正面のオオカミと背後のオオカミが同時に攻撃を仕掛けた。速さは<瞬脚>を使った自分以下......なら問題ない。少年は右に避けるとその右にいたオオカミが襲ってくる。
「キャウン」
少年はわざと右腕を噛ませ、噛みついたオオカミに空いている手で<火炎弾>をぶち込んで焼き殺した。辺りに焼き焦げた臭いが漂う。残り五体。
そしてすぐに、少年は<瞬脚>を使うと指を揃え手刀の形にして後ろへ振り返り、最初に襲ってきた二体のオオカミの首筋をそれぞれの手で貫く。残り三体。
首から手を引き抜くと正面から襲ってきたオオカミに対しては、バク転すると同時にその勢いを使ってオオカミの頭を蹴り上げた。そしてすぐに、体勢を整えると他のオオカミ達が右方向から襲ってくる。
少年は<瞬脚>でそのオオカミに迎え撃つと無理やり顔面を掴んで地面に叩きつけ、さらにそこから足で踏み潰す。さらにそこから、空中に浮かんでるオオカミの尻尾を掴むともう一体のオオカミに叩きつけた。
オオカミは互いの頭が当たったことで脳震盪を起こし動かなくなる。すると、少年は確実な死をもたらすために二体のオオカミの心臓に手を突き刺して潰した......駆逐完......!
少年は咄嗟に裏拳で背後にいる何かに攻撃をしかけた。この距離でなければ<気配察知>でも捕らえられなかった。そのことに若干の旋律を感じた。だが、少年の攻撃は届かなかった、否、届かせなかった。
少年はその何かの顔前で拳を止めたのだ。その何かの正体は先ほどのオオカミ。そして、先ほどのオオカミとは違い全身が純白......アルビノか?少年はすぐに距離を取る。
少年は自身でもなぜ攻撃を止めたのか不思議であった。強いて言えば、力強い眼差しに目を奪われたというところか。少年は警戒を緩めなかったが、少なくとも目の前にいるオオカミからは敵意はない。
「お前、俺を殺れただろ。なぜ、殺らない」
答えれるはずがない。それをわかっていても少年は問いかけた。すると、オオカミは一旦少年の前か姿を消し、すぐに戻ってきた。
ただし、初めに消えた時にはなかった魔物を口に咥えている。そして、それを少年の前に置くと体を伏せた。
「俺への献上品ってことか?」
「ウォン!」
少年の問いに対して肯定するような返事をした。言葉は理解しているようだ。だが、まだ警戒は緩めない。少年は普通の人間なら失神するような殺気を出した。
その殺気は周囲の木々の葉を物理的干渉を持って揺らしていく。だが、オオカミは動じることもなかった。少年は殺気を解くと再びオオカミに問う。
「お前は俺の支配下に入るつもりなのか?」
「ウォン!」
「証拠を示せ」
少年がそういうとオオカミは自らの足に噛みついた。その部分だけ白から赤へと色が変わっていく。少年はその光景をすぐに止まるだろと見つめていたが、止まるどころかますます流れる血の量が増えている。
このままだとあの足は使い物にならなくなるだろうな。奴の俺への忠誠心はそこまでということか。なぜそこまでするのかはわからないが、奴を信じる......いや、違うな、利用だ。
「もうよせ、止まれ」
「ウォン」
オオカミは少年の言葉に反応する。少年は思わず笑みを浮かべ、上から目線でオオカミに告げた。
「......ふん、いいだろう。いいか?お前はこれから俺の支配下となり、絶対の忠誠を誓え。俺の許可なく勝手に死ぬな。お前を骨の一本も残さず利用してやるからな」
「ウォン!」
「......物好きめ」
少年はオオカミを立たせると森の奥へと歩き始めた。
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それではまた次回