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神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~  作者: 夜月紅輝
第9章 道化師は堕ちる

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第192話 道化の原点#8

読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)


新キャラとういうわけでもないですが、ガッツリ出てくるのは初めてですね

 仁はスティナから自分に会いたいという人物の情報を聞いてから数日後、再びスティナから手紙を渡された。


 恐らく仁宛であろうからとスティナはその内容を読んでいないらしい。なので、仁はその手紙を受け取ると自室でその手紙を読み始めた。


 その内容は簡略的な挨拶から始まり、自分への感謝の言葉が書かれていた。内容的にどうやらスティナと人助けをしている時に助けた人物の一人らしい。


 とは言われても、ピンとくる人物はいない。日本人らしき人に会ったような、会ってないような、というよりそもそもいちいち人の顔など覚えていない。


 だが、その手紙の主は自分の名前を知っていた。人助けの時に誰一人として明かしていない名前を。


 そのことに仁は少しの恐怖感を感じていた。目的も素性もわからない相手に会っていいのかと。下手したら自分一人の問題ではなくなる可能性があるかもしれないと。


 そして、一人で悩んだ結果、仁は会いに行くことにした。念のため、自室に誰に会うのかわかるように手紙を机の引き出しにしまっておいて。


 実は、手紙の内容は感謝の言葉以外にも、「指定した時間に会えないか?」というようなことも書かれていたのだ。もちろん、場所も指定されている。


 その場所はいつも自分が隠れて鍛えている森の一か所だ。そのことにも、仁は多少の恐怖感を抱えていたが、まだ自分はこちらに来て間もないはずで、この国全体にも勇者という存在はまだ公表されていない。


 なので、知り得るはずもないのだが.......とはいえ、相手が自分のことを知っているの事実。勇者最弱の自分が呼ばれているということは何かあるかも知れない。


 そんな気持ちで仁は少し強張っている足をぎこちなく進めていくと目的の人物は腰に手を当てながら背中を向けていた。


 そして、足音に気が付いたのか振り返るときさくに「よおっ! 初めまして」と声をかけてきた。そのこよに警戒心を高めていた仁は拍子抜けと言った表情で、思わず体から力が抜けていくのを感じた。


「あなたが【日下部 彰】さんですか?」


「そうだな。下の名前で構わないぞ。君が仁君だよね? 俺は君から見ればOBみたいな存在だ」


「というと、もと魔王に挑んだ一人ということですか?」


「そうなるな」


 仁の質問に彰はサラッと情報を開示していく。その潔さに逆に不安を感じてきた仁は少しだけ右手に魔力を溜めた。


 するとその時、彰はすぐに告げる。


「そんなに警戒しなくてもいい。別に俺は君に危害を加えるつもりは無い」


「!.......どうしてわかったんですか?」


「君よりはこの世界を長く過ごしているからね」


 彰は両掌を頭上に挙げながらにニコッとした表情を見せた。その目じりに見えるしわから本気で笑っているようだ。


 そのことに仁は彰を信じる意味で右手の魔力を霧散させた。すると、仁をすぐ近くにある倒れた木に座るよう促すと彰自身は仁と向かい合うようにしながら地面へとあぐらをかいていく。


 仁は少し緊張していた。それは目の前にいるのがOBだとすれば、これから自分達が経験することを知っているということだ。


 つまり、彰という存在は仁達が魔王討伐に失敗したという未来での結果なのだから。


 ということは、彰は少なからず仁の名前を知っているということは、仁の立場もわかっているはずだ。


 そうなると、彰は仁へとこの先での闘い方や鍛え方を教えに来てくれたということだろうか。だが、それだと気になることがある。


 それはなぜ仁にしか素性を明かしていないのかということ。それが目的なら響達の方が良いのは当たり前だ。


 それに加え、スティナが彰の存在をあまり知っていなかったということ。今現在の彰の容姿を見る限り3~40代といった感じなので、当然ながらスティナが生まれる前に召喚されたからというはあるが。


 だとしても、教皇は確実に彰という存在を知っているはずなので、しかも前の勇者の一人となると尚更何らかの情報は聞いているはずだと思われるのだが、結果は違う。


 仁はそんな疑問を浮かべながら直球で質問した。


「彰さんは先ほど僕に対して『OBだ』と答えましたけど、なんのOBか答えてください。それから、どうして僕の名前を知って、僕だけを呼び出したのかを」


「全てストレートだね。まさに勇気ある者って感じかな。なら、俺も信用されるために一つずつ答えていこう。まずは俺は君達よりも前に来た勇者の一人だ。そして、君の名前を知っているのはある人から頼まれたことがあってね。それから、どうして君だけを呼び出したかなんだけど.......ごめん、今は答えられない。けど、強いて言うなら君を強くするためかな」


「僕を強くするため?」


 仁はその言葉に思わず疑問を感じた。正直なところ、現状一人で鍛えていることにずっと行き詰まりを感じていた。


 つまりは伸びしろが見えないのだ。自分がああだこうだと考えてもそれがあっているかどうかわからないし、上手く客観視も出来ない。


 だから、仁はずっと自分とは違う側面から物事を見れる人物を探していたのだ。それも出来る限り手が空いている人。


 聖騎士や魔術師の人達は指導や本職で忙しそうにしていて頼みにくいし、仲間に頼むなんて尚更無理だ。


 そういうわけで、彰の言葉は棚から牡丹餅。願ってもない好機であった。だが、だからこそその理由はしっかりと聞かなければいけない。


「どうして僕なんですか? 彰さんが僕のことをどこまで知っているかどうかわかりませんが、僕は呼び出された勇者の中では最弱です。そして、わけのわからない役職に選ばれて今も四苦八苦の状態で、どこまで伸びしろがあるかわかりません」


 自分で言ってて吐きそうな言葉だった。自分で自分を否定するのがなんとも胸糞悪い。だが、これが全て正しくて、現実なのである。


 それに強くするのだったら自分よりも響達を強くした方が、最終的な強さは自分一人が強くなった場合よりも大きくなり、その差は比べるまでもない。


 だからこそ、「効率的である」という意味でも仁は彰に対して言葉を告げた。自分で自分のもろいプライドをさらに傷つけてもうすでにグロッキーな状態だが。


 するとその言葉に対して、彰はさもなりなんと言った様子で答えていく。


「それは君が精神的支柱になっているからさ。だからこそ、その支柱が折れないようにするためにも君が折れない方が良いんだよ」


 その言葉に仁は思わず疑問部分を拾い上げていく。


「支柱? 誰の?」


「そりゃあ、勇者のだよ。その他にもそうだけど。君は君が思っている以上に君という存在は大きなものなんだよ? それをまずはしっかりと理解してもらわないと」


「.......」


 仁はその言葉にうなづくことは出来なかった。それは否定的な言葉が自分の頭の中で渦巻いていたからだ。


 自分を肯定する要素を見出そうとしても、それよりも先に否定的な言葉が見つかってしまう。「これが自分の能力」「これが自分の限界」と自分という存在を押し潰していくように。


 だが、これが現実なのだ。今こうして仲間と一緒に鍛えられていない時点で自分が響やその他にとって支柱であるとは到底思うことは出来ない。


 そんな思考が顔に現れ、仁は思わず顔を暗くしている。その顔を見た彰は苦笑いのため息を吐くとそっと言葉を告げる。


「俺はな、さっき言ったけど、ある頼まれごと(用事)のためにここにいる。そのために君たちのことを少し観察していた時期があったんだ。するとさ、気づいたんだよ。勇者君がどうして頑張れているかって」


「どうしてですか?」


「君がいるからだよ」


「........僕が?」


「彼の動きを見ているとね、自分のために動いていないんだよ。自分の意志では動けていないんだよ。そりゃあ、勇者という役職にはこの国の、ひいては世界の命運という責任がのしかかってくるから、自分のためには動けないことはある。だが、自分の意志で動けていないというのは問題なんだ。そのように感じる経験はなかったかい?」


 仁はその言葉をすぐに否定することは出来なかった。それは脳裏に過るつい数日前に響との会話があったからだ。


 あの時の響は自分に勇者の役割を背負わせたことを謝ってきた。それだけじゃなく、最終的に自分に対して「役に立っている」ということを言ったのだ。


 「彰さんが言いたいことはこういうことじゃないのか?」と仁は思わず思ってしまう。それを否定したい落ちもあるが、否定できない要素もあることもまた確かだ。


 そんな様子に彰は「やっぱり何かあったんだな」と呟くとさらに言葉を続けていく。


「今の勇者君はとても不安定だ。それに賢者ちゃんもな。その二人のせいで他の皆もグラグラとし始めてしまっている。つまり.......言いたいことはわかるよね?」


「僕が.......僕が二人の支柱になれば全体的に安定するということですか?」


「そういうことだ」


「でも、なぜ僕なんです?」


 仁はその質問をせずにはいられなかった。自分は、自分という存在はどういう存在なのか良く知っている。


 全体的なステータスでも皆に劣り、ファンタジーでイメージするような自由自在な魔法は使えないし、出来ることは糸繰士という謎の役職で唯一使える糸を作り出すという魔法だけだ。


 ああまただ、また自分で言って嫌悪している。否定的な言葉がすぐに思い浮かぶ割りにそんな自分は自分自身が一番嫌っている。


 そんな仁の暗い様子に彰は再びため息を吐くとその場で立ち上がる。そして、親指で押さえた人差し指をゆっくりと仁の顔に近づけていくと.......


「いたっ!」


 仁の額にデコピンをお見舞いした。その威力は思ったより強く、仁は思わず体ごと仰け反らせる。すると、そんな仁に構うことなく彰は告げていく。


「いいか? 糸ってのは『運命の赤い糸』って言葉があるぐらいすげーものだ。つまりはその糸は自分だけじゃなく他の人をも繋げていくためにある。だとすれば、君が糸繰士という特殊な役職であることも頷ける。よって、君はこれから俺の指導の下でまず強くなってもらう」


「彰さん......もとで?」


「そうとも。そして、いずれ挑むことになるであろうダンジョンで君が活躍出来れば、君は自信が持ているようになり、勇者君達の精神も同時に安定してくる。まさに一石二鳥。言っておくが、俺の修行は甘くないぞ?」


「は、ははは.......」


 思わず強制的に始まってしまった自分強化訓練に対して、今の仁は苦笑いを浮かべることしかできなかった。

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