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神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~  作者: 夜月紅輝
第9章 道化師は堕ちる

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第191話 道化の原点#7

読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)


主人公や周りの不安定さが抜けないのはこの作品の特徴ですね

どんな特徴だよ(゜д゜)

 仁は個々に分けられた部屋のベッドに寝そべりながら、ぼんやりと天井見上げていた。その顔は心ここにあらずと言った様子であった。


 それもそのはず、つい数日前に自分は殺したのだ、魔物を。左腕を噛まれ、半狂乱といった感じで気が付けば短剣を魔物に突き刺していた。


 脳天に刺さった魔物はもちろん絶命した。そのことに仁は罪悪感を感じた。だが、それ以上に無意識に殺すという手段を取っていた自分を恐ろしく感じていた。


 それはきっとこの世界に適応していくためには実に良いことなのだろう。だが、いずれはもとの世界へと戻ることを考えている仁にとっては大きな爪痕を残した。


 それに問題はそれだけじゃなかった。それは殺した後に振り向いた時の皆の表情。いずれは誰かがやらなければいけないことであったとしても、仁は彼らの倫理観を破壊したのだ。


 それはこの世界においては勇敢であり、彼らの常識では恐怖の対象であった。故に、ガルドにその勇姿を褒められはしたものの、気持ちが晴れやかになることはなかった。


「はあ......」


 仁は左腕を掲げると少し曲げて見る。そこは当然ながら傷跡は見られない。怪我した時にすぐに治してもらったからだ。


 だが、仁はそのことを考えているのではない。その左腕を見るたびに思い出す魔物の表情と敵意。そして、鋭く感じた痛み。


 あの時、初めて死に近いものを感じた。左腕を噛まれているだけで命に関わらないにもかかわらず、その腕から痛みと共に伝わってくる恐怖は想像を絶した。


 それから気が付けば―――――――短剣を振り下ろし、殺していた。


 仁は左腕を下げると今度は右手を見た。その手はなんとも禍々しく、歪な手に見えた。まるで自分の手ではないように。


 この手で命を奪ったんだ。敵意を向けて、自分に攻撃してまで生きたかったその命を自分の手で刈り取った。


 考え過ぎと言われれば、そうかもしれない。だが、その気持ちは未だもとの世界へ戻れる希望を残しているようでどうしても忘れられずにいた。


 仁は手を握ったり、開いたりして感触を確かめる。別に右手に違和感があるわけじゃない。ただ紛らわしたいのだ、その手に残った感触を。


 ナイフを突き刺した時の固い骨に当たる感触。そして、骨を突き破った先にある感触。その感触が未だに右手を自分のものでないような感覚にさせる。


 それから何より、血だ。自身の左腕から、突き刺した脳天からとめどなく溢れていく真紅の液体。それは血を苦手とする仁に強烈な精神ダメージを与えた。


 魔物を殺してからの昨日までの日々はとても体調が悪かった。手に濡れた紅がいつまでも右手にこびりついているような感じがして、顔はすぐに青ざめていく。


「結局、自分の勇気とは何だったんだろう.......」


 血を苦手としながら、血が出るのをわかっている状態で誰も動かない中、恐怖に抗うように挙げた右手は自分の勇気を主張しているようだった。


 そして、未だ上手く役に立つ兆しが見えない中での自分の行動はこの世界に適応しなければいけない仲間()にとっても大きな一歩だと思っていた。


 だが、現実は非常で誰も仁を認めるような顔をしなかった。それは親友の響でさえ、幼馴染の雪姫でさえも。


 だが、彼らの心中からすれば当然の反応でもあるので、どちらが悪いという意見は出てこない。とはいえ、仁の心に確かなダメージを与えていたのは確かだ。


 するとその時、不意に仁の部屋をノックする音が聞こえた。


「少しいいか?」


「響?」


 聞こえてきたのは響の声であった。魔物の一件があってから少し疎遠になっていて未だ気まずい気持ちが残る中、響から出向いてきたことに仁は思わず驚いた。


 ともあれ、仁は響に許可を出すと響は少し気まずそうに、そしてなにより顔や鎧にある紅い飛沫を見せるに歩いてきた。


 そのあまりの姿に仁は思わず絶句。だが、何とか絞り出した声で響に尋ねる。


「.......それは?」


「仁は休んでいたからわからないだろうけど、今さっき魔物を殺してきたんだ。それも生きているのを。その時の返り血だ」


「どうしてそんなものを―――――――」


「僕は仁に謝らなければいけないことがある」


 仁の言葉を遮るように響は声を張り上げた。そのことに仁は少しビビりながらも、続きの言葉を聞くように耳を傾ける。


「最初の魔物を殺す時、僕は怖かった。もとの世界じゃ、生き物をむやみに殺すことはしてはいけないし、どこかで仕方なくそういうことをしている施設だってあることを知っていたのに自分は無関係だったと思って考えもしなかった」


「それは仕方ないことじゃ.......」


「仕方ないことかもしれない。この世界ではそれが当たり前で、僕達と考え方が違っていることは知っている。でも、心のどこかではどうになかると楽観的だった。けど、蓋を開けてみれば勇者であるはずの僕が憶病で動けずにいた」


 響は悔やむように両手を握りしめる。そして、溢れ出す感情を無理やり抑え込んでいるのか僅かに肩が震えている。


 開けていた窓から風が吹いてくる。その風は部屋中に行き渡ると響に付着している返り血の臭いを仁へと運んでいく。


 鼻腔に残る生臭い匂い。しばらく落ちなかった右手の臭いと同じだ。僅かに気持ち悪さが込み上げてくる。


「あの時、僕が一番に動くべきだった。けど、結果的にその役割を仁に押し付けてしまった。ただ一人必死にこの世界に適応しようとしている仁を僕は見ることしかできなかった。そして、仁が魔物を殺した瞬間、仁が全くの別人に見えてしまった」


「.......」


「僕が謝りたいのはそれらのことだ。まずは僕がやるべきことを仁にやらせてしまったこと。そして、勇敢だった仁を恐怖の対象として見てしまったこと。だからというわけでもないけど、今回は僕が率先して動いた。そしたら、皆もついてきてくれた」


「そっか.......お前も相変わらず生真面目だな」


 仁は大きくため息を吐くと思わず苦笑いを浮かべた。正直、自分を認めて欲しかったという気持ちはあったが、こうも正面からぶつけられると何だかそんな気持ちはどうでもよくなってくる。


 別に自分は響達を憎んでいるわけじゃない。確かに、あの時の目や表情にはダメージを受けた。だが、それは後々考えてみると当然だとわかった、わかっていた。


 それでも、今の今までその気持ちが認められずにいた。自分の頑張りが無駄になったかのような喪失感がずっと邪魔をしていた。


 そして、その気持ちは響の謝罪の言葉とともにどこかへと霧散していった。もう今の自分にその気持ちは存在しない。


「もういいよ。むしろ、いずれ当たり前になる行為の一番最初で頑張りを見せて『自分は役に立つ』って主張したかっただけだったかもしれないし」


「そんなことない。仁は僕の心を確かに突き動かしてくれた。勇者でありながらいつまでも覚悟もなく行動していた僕がおかしかったんだよ」


「おかしいなわけあるか。僕達はもともとただの高校生だぞ? この世界に呼ばれなきゃこんな覚悟を決めるという考えすら思いつかなかったんだ。何も間違っていない」


「.......ありがとう、仁。やっぱり、仁はしっかりと役に立ってくれてるよ」


 響の顔色は仁の言葉によって幾分かマシになっていた。まるで「心が救われた」とでも伝えてくるような歪であるが、良い笑みであった。


 すると、仁は「そうかい。これからも役に立つぜ」とにこやかな笑みを浮かべて、右腕を突き出していく。


 その握られた拳を見て、響も思わず動き出す。そして、同じように握った拳を突き出すと仁の拳と小突き合わせる。


******************************************************

 場所は変わって、仁はスティナの部屋のベランダへといた。そして、その隣には少しラフとも言える衣装を着たスティナの姿があった。


 仁がここを訪れたのは助けてもらった時のお礼だ。本来はお礼自体はすでに済ましてあるのだが、これは仁の個人的なお礼で、いわばスティナの言いたいことがわかったことに対するお礼である。


 二人はその場所から一望できる城下町を景色に酔い、心地良い風に当たりながら話していく。


「スティナの言いたいことがわかったよ。『役に立つ』がどういうことか」


「といいますと、響さんと何かありましたか?」


「!」


 スティナの直球の言葉に仁は思わず驚く。いつの間に自分と響が仲良くしていたという情報を聞きつけたのか。


 すると、そんな仁に「案外聖女の情報網は広いんですよ」と言って、さらに言葉を続けていく。


「実は私、今回の魔物を殺す演習、見学していたんですよ」


「どうして?」


「なんといいますか.......私達の勝手な都合で呼び出した皆さんをそのまま投げやりには出来なかったんですよ。聞けば魔物もいなく、私達の国より遥か先の文明を生きている。その世界では多くのものが安全と安心の空間で生活できている幸せな国と」


「まあ、この国に比べれば、この世界に比べればそうなるのかな」


「そのような世界から呼び出して、私すら魔物を殺したこともないのに、皆さんに魔物殺しを、あろうことか魔王討伐まで依頼する。それなのに、私は知らんぷり.......とはさすがにしたくなかったんです」


「そっか」


 仁は「気にするな」という言葉をかけようとしたが、少なからずスティナがそう捉えているのなら無理に考えを否定させるのはやめた。


 特に深い理由はない。いわば直感、言わなくてもいいと思っただけのことだ。そんな仁の様子がスティナには嬉しかったのか夕暮れでやや赤く染まった顔を仁へと少しだけ向けた。


 すると、スティナは話しを変えるように一つ手を叩くと仁へと伝えていく。


「そういえば、仁さんにお伝えしたいことがありました」


「ん? 何?」


「実は先日、仁さんのお会いしたいという人物が私宛に手紙をくださいまして」


「僕に?」


 仁は思わず頭にハテナが浮かんだ。正直なところ、仁にはこれといって知り合いはいない。自分の役職について調べを手伝ってくれた人とか多少はいるが、そんな誰かに会うことを求められるような人物は当然ながら知らない。


 だから、仁はふとその差出人の名前を聞いた。


「その人の名前は?」


「【日下部 彰】という人です」


 全く聞き覚えのない名前であった。

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