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神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~  作者: 夜月紅輝
第9章 道化師は堕ちる

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第190話 道化の原点#6

読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)


久々の何も無い土曜!

「良し、準備完了」


 仁は少し体をほぐした後、すぐに両手に魔力を集中させる。そして、その手からまるでス〇イダーマンさながらの動きで、あらかじめ地面に置いておいた木へと糸を飛ばしていく。


 それが糸に付着すると軽く振り回しながら手元へと手繰り寄せる。それから、糸を外すともう一度投げてそれを何度も繰り返していく。


 現在仁がやっているのはイメージから魔力を素早く糸に変換して飛ばす練習だ。この無駄のない動きで、最弱と思われるこの役職を少しでもカバーしようとしているのだ。


 それに使い方次第では案外悪い魔法ではないと思われる。大きな決定打となる攻撃は出来ないものの、搦め手となる攻撃は相手次第では有効になる。


 それに糸の性質次第では罠とも捕獲用とも十分になり得る。たとえば、糸を見えにくくして足を引っ掻けたりとか、投網のようにしたりとか。まあ、そう思いたい節もあるのだが。


 スティナとの出会いから仁は少し考え方が変わった。最初の方は、戦闘でどうにか役に立てないかとばかり考えていたが、別のアプローチなら存外あるものだ。


 それに気づいてからは早かった。図書室に入り浸るのは前から変わらないが、その調べる対象が役職から戦闘前の小細工や罠の張り方へと移り変わったのだ。


 そして、今はその知識を自分の体に覚え込ませる練習だ。今行っている遠くにあるものを糸で引き寄せるという単純なものだ。


 だが、それは案外に難しかったりするのだ。もともと魔力が存在しない世界で暮らしていたので、魔力という存在がわかってもまだ意識が弱いし、それをすぐに糸に変換できない。


 自分が思っているよりも数秒のラグがあるのだ。それは傍から見れば誤差とも思える刹那の時間だが、「こういう差が意外と危ないのでは?」というヲタク脳からの判断でその誤差を無くそうとしている。


 それからしばらく、別の動作の練習をしながら数分後、仁は休憩のために近くの()()()()()()()


 するとその時、遠く方から声が聞こえてきた。


「おーい、仁ー!」


「ん? 雪姫じゃないか。どうした?」


「お昼休憩に入ったから、少し仁に会いに行こうと思ってね。あと伝達も。それにしても、どうしてここにいるの?」


 そう言って雪姫は見渡した。というのも、現在仁がいるのは雪姫や響達が鍛えている修練場ではなく、そこから少し外れにある森なのだ。


 もちろん、森の中と言ってもすぐ手前で傍からも仁の居場所は視認できる。とはいえ、わざわざ修練場という場所があるのにここで、しかも一人で鍛える必要はないだろう。


 そんな疑問が頭の中に抱えながら、ふと仁を見ると仁は()()()()()()()


「まあ、なんというか、ここには枝とか木とかが周囲にあるおかげで凄く色々試しやすいんだ。それにそもそも僕の役職が未知数だしね。皆のところへ参加する前に自分の役職ぐらい自分が良く知ってないと」


「そっか。応援しているよ」


 雪姫は仁の言葉をそっと押すように温かい言葉を送りながらも、内心では「嘘だ」と感じていた。それは仁の本音に対して。


 長年幼馴染をやって来たからわかる。仁の表情や言葉の端々から伝わってくる感情の機微。それから、仁は本音では語っていないとわかった。


 いや、先ほどの言葉も全く本音じゃないと言えば、嘘になるだろう。だが、その言葉以上にある感情が表情から如実に表れている。


 それは「恐怖」だ。仁は内に抱えている恐怖を必死に雪姫に知られないようにと隠している。だが、それが半端に隠しているからの苦笑い。


 仁が抱えている恐怖を雪姫は正確にはわからない。幼馴染とはいえ、いや幼馴染だからこそわからないのかもしれない。


 ただわかることは仁は恐怖しているということ。そして、それは雪姫達に対してということ。恐らくは仁が抱えているプライドが邪魔をしているのだろうということは雪姫も理解している。


 仁はただでさえ、無能の烙印を押されている。それは皆から直接言われたわけでもないが、雰囲気からはいくらでも察することが出来た。


 当然だ、一人修練もせずにただひたすらに自分の魔法の使い方を調べているのだから。そして、分かったとしても、それでどう変わるわけでもない。


 それが今の状況だ。仁は心の中で掲げた目標に対して頑張っている。だが、こんな森の中で一人コソコソ鍛えている時点で「自分は無能のまま」ということを示しているだけ。


 その潜在的恐怖が存在しているからこそ、仁は皆の中へと参加できないのだろう。


 参加したとして遅れている分足を引っ張り、そうなると全体的に遅れてくる可能性だってある。そして、その遅れの責任はというと言わずもがな。


 故に、仁はここで一人で鍛えているのだ。ここならだれに脅かされるわけでもなく、皆の視線、表情、態度を見て余計なことを思う必要は無くなる。


 雪姫が仁の表情から考えられたのはここまでだ。きっとこの先にも仁は複雑に絡み合った感情を抱えているのだろうが、それを解きほぐす能力は今の雪姫にはなかった。


 そんな考えに雪姫は耽っているとふと仁が何かしていることに気付いた。それは昔懐かしいあやとりであった。


 すると、その視線に気づいた仁はあやとりを続けながら言葉を発していく。


「これな、指の駒かな操作にもってこいなんだよ。今はこんな風に順調にやってたけど、最初は指が固まっているように動かないのなんの。あ、そこの糸を人差し指に引っ掛けて」


「うん、わかった」


 雪姫は仁に指示された通りに動かしていくとそこから黙々と仁はあやとりをしていく。そして、何かを作り上げると雪姫に見せた。


「タワーだ。凄いだろ」


「わー凄い!」


 今や雪姫には出来ないあやとりを仁は難なくとやってみせる。しかも、その作品が昔仁に気まぐれに教えたやつだったので、その喜びも大きい。


「そういえば、伝達ってなんだ?」


 仁は一度元に戻すともう一度あやとりを再開していく。そんな様子を見ながら、雪姫は途端に重くなった口をゆっくりと広げていく。


「魔物へ攻撃する訓練だって。それも生きた魔物を」


「.......」


 仁の指はピタッと止まった。その言葉の意味を理解したからだ。そして、糸を魔力に変え、霧散させていくと黙って立ち上がる。


 その不自然な様子に雪姫は思わず尋ねる。


「仁?」


「ああ、なんというかいずれ来ると思ってたんだ。だから、余計な感情を作らないようにしてただけ。場所は修練場だよね?」


「う、うん.......」


「なら、遅れないうちに行こう」


 仁はそう言うと修練場に向かって歩き始めた。その後ろを雪姫は少し不安げに見つめたまま後ろを追いかけていく。


**************************************************************

「皆に集まってもらったのは他でもない。今日から慣れてもらう魔物の感触だ」


 聖騎士団長であるガルドは全員の前ではきはきと告げていく。そしてその右手には魔物の首から伸びている紐を持ち、魔物は瀕死に近い状態でありながら鋭い牙を見せつけ、喉を唸らせ、敵意を露わにしている。


 そのことに仁達のほとんどがビビりがちだ。それもそのはず、魔物の威圧もそうだが、その魔物は全身を紫色に染めながらも犬のような容姿をしているからだ。


 そして、全員が理解している。自分達が今まで鍛えてきたのは何を倒す、否、殺すためのなのかを。


 そんな恐怖に染まった様子にガルドは思わず申し訳ない気分になりながらも、心を鬼にして全員に告げていく。


「今から一人一回、魔物をナイフで刺す練習をしてもらう。だが、見ての通りまだこの魔物は生きている。故に、誰かがこの魔物にトドメを刺さなければいけない。この意味は分かるよな?」


 その言葉に誰も反応を示さない。それこそ当然の反応だ。彼らは動物すらまともに自らの手で殺すような世界にいなかったのだから。


 「生き物を殺めるのはいけないこと」「むやみに殺生しない」そんな暗黙の了解で生きてきた彼らにはあまりにも高すぎる壁であった。


 しかも、誰かが魔物を殺めなければいけないということ。いずれ全員がやるとしても、トップバッターになりたいとは誰も思わない。


 人間は孤独を嫌う。それは集団で共存して生きてきたからの自然の理。故に、彼らは一人別次元に立ってしまうような気がして、周りの目を気にしながら一人になること避ける。


 そのことにガルドも周りの聖騎士や魔術師達も気まずさを増々感じていく。そして、ガルドが「まだ早かった」と告げようとしたその時、一人の男子生徒が動いた。


 その生徒はわずかに震えた手を頭上に上げながら、ゆっくりと集団から抜け出ていく。


「僕が行きます」


 その生徒―――――仁は腰にセットしてあった短剣を引きぬくと右手に持った。その手は汗をかいていて、しっかり持っていないと滑り落ちそうであった。


 さらに仁が歩いたことで擦れる砂音はやけにハッキリと聞こえてくる。それに静寂を守るように吹いたいた風もやがて止まる。


 仁はガルドが押さえつけている魔物目の前へと恐怖を抱えた表情で立つ。


「グルルルル」


「.......」


 魔物は敵視するように先ほどよりも大きく喉を唸らせて、仁へと目線を向ける。その目を見た瞬間、仁はわず固まった。そのことにガルドは思わず苦しそうな顔をした。


「目を見ちまったか。殺すうえでは絶対に見てはいけない部分だ。感情が流れ込んでくるからな.......やめるか?」


「いえ、やります」


 仁は右手の短剣を逆手に持つと大きく振りかぶっていく。そして、勢いよく振り下ろした。


「クゥ~ン」


「!」


 魔物が懇願するように泣く。その瞬間、思わず仁は動きを止めた。だが、それは悪手であった。


「ウォン!」


「.......っ!」


 魔物は仁の動きが止まったことを見計らって、ガルドの制止を振り切り仁の左腕へと噛みついたのだ。その動きに仁は咄嗟に後ずさるも逃げられなかった。


 牙がグイグイと強い力で食い込んでいく。刺さった腕からは血が溢れ出し、抉れたような激痛が仁の表情を歪めていく。


 痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い!


「ああああああああ!」


 仁は雄叫びを上げながら右腕をもう一度振りかぶると魔物の脳天へと思いっきり振り下ろした。

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