第19話 襲撃の後
襲撃後のクラウン達と勇者達の後日談です
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クラウンとリリスはロキに乗って城を去ると壁伝いを駆けていく。すると暇だったのかリリスが先ほどの会話を思い出してクラウンに話しかける。
「仁、それがあんたの名前なのね。ねぇ、『クラウン』と『仁』どっちの名で呼んで欲しい?」
「好きにしろ」
「つまんない返答ね。なら、クラウンと呼ばせてもらうわ。個人的にもうそっちに慣れちゃったし」
それにその名前はもはや私たちの目的を指し示す象徴とも言える。ならば無理に変える必要も無いだろう。
加えて、この名はクラウンの意思の象徴とも言える。たとえ、道化師として誰に「無理だ」とバカにされようとも。
リリスは一回咳払いすると先ほどから聞きたかったことを聞くことにした。
「そ、そういえば、なんであんなことしたの?」
「あんなこととは?」
「わ、私の顔に急に触れたことよ!」
リリスは顔をほのかに赤く染めながら後ろに乗っているクラウンに強めの口調で言った。するとクラウンは冷めたような目でリリスを見ながら答えた。
「あれはあいつらに敵だと思わせるためだ」
「......なるほどね。さんざん痛めつけている相手を擁護するような行動をすれば、そりゃあ敵だと思うわね」
リリスはクラウンの言葉に納得した。したけれども、やはり急に優しく触れられた時のドキッとした気持ちは納得がいかない。
そして、後ろから抱きかかえられるように乗っている今の状況も。いつもより距離が近くて心臓の鼓動が早くなってしまうことも。その音が聞かれてたら恥ずかしいという気持ちも。それら全てに納得がいかない。
リリスはこの気持ちを紛らわそうと次の話題を振った。
「あんた、夢ってある?あ、ちなみにそれは目的が達成したあとの話よ」
「そんな話をもうするのか」
「いいじゃない。話すだけタダよ。......ちなみに、私は空を飛んでみたい。あんた達みたいに空中に立つ感じじゃなくて、漂う感じの」
クラウンはリリスの発言に言葉を発することはなかったが、ただ耳は傾けていた。リリスはそのことがわかるとゆっくりと話し始める。
「実はね......私には羽が無いの。本来、サキュバスは魔族の中でも有翼種に入るんだけど、私は突然変異みたいなものでね。まあ、まれにそういうこともあるみたいで、それがあたしだったのよね」
リリスの声は少し悲しそうだった。だが、顔はもう吹っ切れているといった感じであった。
「『小さい頃は周りの子は自由に飛べるにどうして私だけ?』って思って悲しかったし、寂しかった。でも、その子たちは私をのけ者にはしなかった。むしろ私が飛べるように応援したり、励ましてくれた。今思えば、そんなことをしても意味ないってわかるのにね。それでも当時の私はそれがとても嬉しかった。だから、その子たちのためにも私は夢を叶えたい。そう考えると仇を撃つことと同じぐらい大切ね」
「......それは良かったな」
クラウンは小さく呟いた。だが、それはリリスに聞こえていたらしく。リリスは耳まで真っ赤に染め上げた。
正直、クラウンのことだからバカにしたような言葉を言うと思ってた。というか、いつもなら絶対言っているはず。なのにこんな不意打ちはずる過ぎる。幸い、仮面のおかげで表情はバレてないが、若干心臓の音がうるさい。
「それで、あんたに夢ってあるの?」
「夢か......残念ながらなさそうだな。そもそも神を撃った時点で朽ちるつもりだったからな」
「なによ、今までで一番つまらない回答だわ」
リリスは思わずため息を吐く。ある意味可哀そうとも思える発言だったからだ。
つまりは、今生きているのは全て復讐のためで、それが終われば自身に生きる価値を見出していない。復讐によって生かされているようなものだ。それはあまりに悲しい。ならば......
「目的がなくなったなら、私の夢に付き合ってよ」
「お前の夢がこの目的の間で果たされたらどうするんだ?」
「あら、私がどれだけ欲深い乙女だと思って?あんたをヒイヒイ言わせるぐらい振り回してあげるんだから」
「それだと俺は神を殺した後もお前とつるんでいることになるのだが?」
「何か問題でも?」
自信満々に言うリリスにクラウンはため息を吐いた。まあ、そんな不遜で横柄で豪胆な所が気に入ったのだが。
そして、クラウンたちは城門へとやって来た。そこには一人の少年が壁に寄り掛かりながら、誰かを待っているようだった。
「やあ、ようやく来たかい」
「悪い、待たせたようだな。それで例のものはあるか?」
「あるよ。はい、これ」
その少年、リックはクラウンに小さな小袋を投げ渡すと仕事は終わったと去ろうとする。
「随分と早いな」
「コネは自慢なんだよ。それに情報屋を名乗っておいてこれぐらいは軽くこなせないとね」
「そうか、ならこれをやる」
そう言ってクラウンがリックに渡したのはこれまた小さな子袋。リックはその中身を見ると思わず目を見開いてクラウンを見た。
「優秀な働きに対価を払うのは当然だろ?それにこれからも贔屓にって意味だ」
「なるほどね。次にまたなにか頼まれたらこれは断れそうにないね」
リックはそう言いながら、クラウンに背を向けながら手を軽く振った。「じゃあね」という別れの意味だろう。そんなリックの姿を見届けるとリリスに話しかけられた。
「それは何よ」
「これはお前のものだ」
「?」
クラウンの言葉に不思議に思ったリリスは渡された小袋の中身を見てみるとクラウンを二度見した。その中に入っていたのは見覚えのある薬。だが、これは母さんにしか作れないはずだ。いや、でも......本当に?
リリスはクラウンを信じて恐る恐るそれを口に含む。するとそれは確かに母が作った薬の味だった。
「今回はお前が興奮しきる前に俺が止められたから良かったもののそうそうに起きて欲しくないからな。これでお前の特性とやらも防げるだろ?」
「......!」
リリスはその瞬間、気づいた。あの時、頬に触れてきた真の意味を。あれは仲間だと教える意味もあったかもしれないが、殴られて激情にかられ興奮しかけた私を止めてくれたのだと。
そのおかげで特性を発動させることもせず、さらにはそれを抑える薬まで用意してくれた。そんなさりげない優しさが心に染みた。最初の印象が最悪だったから、余計にそう感じるかもしれない。
「ありがと、クラウン」
「ふん、お前には役に立ってもらうからな」
「素直じゃないわね。ロキちゃんもそう思うでしょ?」
「ウォン」
リリスの言葉にロキは元気に返事すると闇に向かって走り出した。
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あの襲撃の夜から一週間が経ち、今は各地で復興作業が続いている。
突然現れた未曾有の白いオオカミの被害は大きく破壊され崩れた建物に下敷きにされたり、燃え盛れる炎によって焼かれたりでそれでも多くの死傷者が出た。
そしてまた、この国の王である教皇が死んだ。それは多くの国民に悲しみと殺した者への憎しみに包まれた。
それから今は死んだ者の名が刻まれた墓碑の前でスティナ、響、ガルドの三人が筆頭として他の勇者達も含め多くの民が供養のための合掌をしている。
三人とも複雑な顔をしていた。それは襲撃の首謀者が誰であるか知っているためだ。
ガルドが知っているのは襲撃の翌日、情報伝達が行われたからだ。さすがにこの国を敵に回すような者はたとえ知っている人物であったとしても隠すわけにはいかない。
そして、その情報はあっという間に広がり、直接目撃していないクラスメイトにも多大なる衝撃を与えた。
それから、すぐさまその首謀者は指名手配されたが、未だ討伐隊が組まれる目処は立っていない。理由は単純で犬死させるだけだからだ。
この国、いや世界から見ても勇者は凄まじいスペックと伸びしろを有した職業である。
そして、レベル1であったとしても勇者達を除くこの国で一番強いガルドでさえも、力押しでは負けてしまうぐらいまさにチートレベルの強さなのだ。
だが、そんな勇者でも手も足もでない相手がいる。それはあまりに衝撃的で残酷な真実であった。なので、この国の民や兵士は憎むことしかできない。そのことがとても辛かった。
「運命は......なんて残酷なんでしょうね」
「......」
「そして、仁の憎しみが、恨みがわかってしまうこともこの気持ちを複雑にしている原因なんだろうな」
スティナの言葉に響は反応を示さなかったが、代わりにガルドが答えた。そして、ガルドの言葉はまさに今の三人が胸に抱いていることであった。
首謀者である仁が操るオオカミによって城が半壊し、この国自体にも大きな爪痕を残した。
未だインフラの整備は間に合ってなく、城が無事であれば被災者は仮設住宅が建てられるまでそこで仮暮らしができたのだが、その城すら機能していない今はその者達の居場所はもうない。
本来ならこんなことをした相手には恨み一筋しかないはずなのだが、こんな原因を作り出した原因は自分達にもある。そして、仁があれだけ恨む理由も知っている。
「その裁判ってのは、どれだけ酷かったんだ?」
だが、ガルドだけはその詳しいことまでは知らない。というのもその時は別の国で使者として仕事をしていたのだ。
そして帰ってくれば、一人の神の使徒が処されたと一方的な報告を受けたのだ。
その質問にスティナが答えた。
「裁判って呼んではいますが、イメージしているようなものではないですよ。あれを簡単に言うならばイジメですよ。寄ってたかって仁さんを死に追い込んだだけ。そして、私も当事者の一人です」
「スティナ様......もですか」
ガルドは思わず耳を疑った。スティナには赤ん坊の頃から仕えているが、品行方正で清廉潔白、まさに聖女といった少女であり人を貶めるようなことは一度たりとも見ても聞いてもしていない。
だからこそ、その言葉は衝撃的だった。
スティナは言葉を続ける。
「私は仁さんを庇うつもりでした。彼には罪を犯す明確な動機が無かったから。ですが、体は自分の意思とは正反対の方向に動きました。全く言うことを聞いてくれない、それもよりによってあの時に」
スティナは目を閉じると静かに涙を流した。悲しくて、苦しくて、辛くてたまらない。
けど、生まれた時から聖女という立場のおかげか何とか心は壊れずに済んだ。しかし、同じ境遇で私よりもつらい思いをしている人がいる。
「雪姫さんは大丈夫ですか?」
スティナは今この場にいない雪姫について響に尋ねた。というのも、あの日以来雪姫はあの時の光景をトラウマに思っているのか体調を崩している。
夜になるとあの時のことがフラッシュバックするようで全く眠れていない様子で、隈も酷く顔色はことさら悪い。
そして、思い出の写真をクシャクシャになるまで握りしめながら仁の名前を呼び続けている。仁と幼馴染の雪姫だからこそよりショックも大きかったのだろう。
「今は橘がずっと寄り添ってる。未だ男の人が近づくだけで拒絶反応が凄いので経過観察としか言えない」
「それは仕方ないな。無神経な言葉になるが、魔王討伐のためにはあの子の職業は必須だ。だから、一日でも早い立ち直りを願ってる」
ガルドは何もできないことが悔しいと思っているのか唇を噛む響の頭に優しく手を置いた。
「さあ、そろそろ戻りましょうか。まだまだやることは山積みですから」
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壊れ果てた大教会の中でそんなスティナ達の様子を眺める二人の人物がいた。
一人は小柄な少年のような体格をしていて、もう一人は立っていることすらつらいのかだいぶ猫背の人物だ。だが、共通して黒い法衣のようなものを着ている。
そして、猫背の人物が小柄な人物に話しかける。
「死んじゃったけど良かったネ?」
「本当は良くないんですがね。まあ、これはこれで面白くなると思うので急遽予定を変更したんですよ」
「口調、戻ってないネ」
「おっと、ずっと長く教皇として化けていたもんだったからつい」
小柄な人物はそう言いながら軽快に笑う。
「で、これからどうするネ」
「そうだね。予定は変更したものの神の遊戯に逆らう者であることには変わらないから殺してきてよ」
「えー、めんどいネ」
「相変わらず、怠惰だね~」
「それがおれっち。まあ、たまたま見つけたら殺るよ」
そうして、猫背の人物は自身の影へと潜っていった。小柄な人物はそれを横目に見ながら不気味な笑みを浮かべる。
「さてとこれからどう狂わせようかな」
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