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神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~  作者: 夜月紅輝
第9章 道化師は堕ちる

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第189話 道化の原点#5

読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)

「いらっしゃーい! 安いよ安いよー!」


「今日はリュウードラ王国から手に入れた魚が旬だぞ! 今なら特別価格で売っている!」


「武器屋でーす! うちの武器の切れ味を少し試してみませんかー?」


 城下町で賑わう声。通りで屋台を開いている店主が声を張り上げて集客している。その中には試飲や試食をさせるみたいに街を練り歩いて、リンゴのような果実を切らせてナイフの切れ味を試させようとしている人もいる。


 そんな人達の姿をおのぼりさんのように見ながら仁は隣にいるスティナへと声をかけていく。


「随分と賑わってるね。まだここに来たことなかったから知らなかったけど、活気なら僕達の世界よりも断然溢れてる」


「仁さんの世界はそれほど静かなのですか?」


「静か......というか、せわしないんだよね。それにそもそもこうして通りで店を開く人はまずいないから、日常がお祭りのようで新鮮なんだよ」


「なんだか仁さんの世界に興味が湧いてきました」


 スティナは少し瞳を輝かせて、少し興奮したような顔を向ける。そのことに仁は「どこに興味がそそられる要素があったんだ?」と疑問に思いつつも口に出すことはなかった。


 仁は現在のことに感謝していた。それは単純に城下町に連れ出してくれたということで。もとの世界では部活には入ってないにしろ、ジョギング程度の運動は続けていた。


 その大半が息抜きだ。ずっと家に引きこもりっぱなしはさすがに不味いし、少し気分を変えたいという意味でもあった。


 つまりは息詰まった環境からの解放だ。ここ一週間はずっと考え事や調べごとで図書館に閉じこもっていたので、こうして強引でも外に連れ出してくれたことには感謝しているのだ。どうせあのままだとまたずるずると同じことを繰り返していたと思うので。


 とはいえ、同時に少しの罪悪感を覚えていた。それは単純で自分一人がこんな風に城下町へと行ってしまって良かったのかと。


 自分は他の皆と比べて体力的にはなんの問題ない。あるはずもない。にもかかわらず、自分一人が遊んでいる今の状況には罪の意識――――――みんなへ悪いことをしているとを感じなくもないのだ。


 しかし、戻れるわけもない。それはまだスティナの目的を果たしていないからだ。それ即ち、自分が役に立たなくない証明というもの。


 強引に戻るという手段もあるのだが、スティナが自分よりやる気だし、それに加え教皇の娘であるので無下には出来ないだろう。


「にしても、聞きたかったんだけど、どうしてわざわざ着替えたの?」


 仁は先ほどから気になっていた質問をした。それはスティナの恰好について。城にいるまではドレスであったのに、今は少し粗野の服に茶色のコートを羽織っている。さらに顔バレを防ぐようにフードも。


 正直、自分の証明をするだけであったら、わざわざそのようなお忍び服でもなくていいはずだ。だが、その質問にスティナはさもありなんと答える。


「もし私がドレス姿で仁さんのために仕事を探していますと店主に告げたら、すぐにその方は仁さんに仕事を与えるでしょう。ただ、それは仁さんの役に立つ証明になにもなりません。ですので、この恰好の方が都合が良いですよ」


「なるほど」


「では、試しにあの方に声をかけてみましょう」


 そう言ってスティナが指差した方向にはおばちゃん店主が何やら困った様子でいた。そして、二人は近づいていくと声をかけていく。


「どうされました?」


「え? ああ実はね、この荷物を配達してもらおうとしてもらっていたんだけど、いつも頼んでいる人が急病で困っているのよ。店は盗まれちゃうといけないから空けられないし、かといってすぐに頼める知り合いは今はいないしで.......」


「なら、私達が手伝いましょうか? 丁度時間を余らしていて退屈していたんですよ。もちろん、届けた場合はその人のサインの紙をもらってもう一度ここに来ます」


 スティナはにこやかな笑みを浮かべる。その明るい笑みは「もとの学校にいれば間違いなく世の男子をノックアウトしていただろうな」と思う仁。そう言う自分も少し当てられていたりして。


 すると、おばちゃんはスティナの言葉を信じたのか。三箱を「通りを歩いて端にいる知り合いに届けて欲しい」と頼んできた。


 それをスティナが一箱、仁が二箱を抱えると通りを歩いて行く。通りを歩く人の波を縫って歩きながら数分後、行く前に聞いていた特徴から届け先の人を見つけた。


 そして、そこで荷物を届け、サインを受け取り、もとの場所へと戻っていく。すると、おばちゃんは報酬に謝礼金と店のフルーツをくれた。


 そのことにスティナはドヤ顔で告げる。


「どうですか仁さん。これも立派な役に立ったですよ? もちろん、他の人からすれば小さすぎることかもしれませんが、あの方からすれば大きなことなのです」


 仁はその言葉を聞くとおばちゃんの嬉しそうな笑みを見ながら「そうだな」と呟ていく。するとそぐに、スティナは仁の手を取ると「次行きますよ!」と告げてきた。


 それから、スティナに手を引かれること数分、大きな荷物を地面に置きながら困っているおっちゃんを見つけた。そこへスティナが警戒心解放スマイルを駆使して、困りごとを聞くとどうやら紐が切れてしまったということらしい。


 というのも、その方が運んでいたリュックは許容量を明らかにオーバーしているにも関わらず無理やり詰め込んだような感じであった。そして、入りきれなかったところを紐を使って補強していたのだ。


 これから急ぎの用事があり時間もない中で紐が切れてしまって一大事。どうしようかと悩んでいたとことに仁達はやって来たのだ。


 それを聞いたスティナは何かに気付くと仁の両手を思わず手に取った。そして、仁の手を顔近くまであげると「これですよ!」と仁の手を主張するように見せつけてきた。


 そのことに最初こそわからなかった仁だが、スティナの言いたことがわかると仁はすぐに動き始めた。


「少しいいですか? 実は丁度いい紐を持ってまして」


 そう言うと仁は一度両手を合わせるとすぐに広げていく。すると、切れた紐と同じ太さの糸を作り出した。


 そして、その糸を手に取って切れた部分に接合させてリュックを補強していく。それから、危うい個所も全て。


「ありがとう! これで安心だ! あ、お礼ね」


 おっちゃんは仁へと謝礼金を渡すとすぐに背負ってその場を走り出す。どうやら相当の急ぎの用事らしい。


「どうですか? 仁さんの魔法で喜んでくれた人がいてくれたことは?」


「嬉しいね、やっぱり。僕の使えない魔法がこんな形でも役に立ったのだから」


「それなら良かったです」


 それからも二人はしばらくの間、困っている人を見つけては手伝いを続けた。その姿を一部の人が見ていたのか、何でも屋みたいな扱いをされてこっちが困ってしまうということもあったが。


 しかし、おおむね順調に役に立っていた。その意味は仁の持っていた意味とはそれほど近くないけれど、それでも困っている人達を助けられたことは良かったことだ。


 するとある時のことだ。 スティナは突然ムッとした表情になると仁へと少し強めの口調で告げてくる。


「というか、そもそも仁さんは考え過ぎじゃないですか?」


「え?」


 その様子に仁は思わず驚きの声が漏れた。急にスティナが何を言い出したのかわからなかったからだ。しかし、次の言葉ですぐに理解した。


「『役に立つ』はそもそも誰もためにですか?」


「そりゃ......皆のためだよ」


「それが原因です。多すぎなのです。まずは減らしてください!」


「減らす?」


「いきなり多くの人の役に立とうというスタンスが間違っているのです。仁さんのお仲間はそれぞれ悩みがあって、それを自分の魔法一つで解決できるとお思いですか? あれもこれも取ろうとしているから動こうにも、誰から動いていいのかわからなくて動けないのです」


 スティナの言葉は仁の抱えていた問題を鋭くえぐるようであった。つまりは図星。言い返す言葉もない。


 スティナの言う通りかもしれない。自分は最初は響のためにと思っていた。だがすぐに、雪姫、弥人、橘とその数は増えていき、今やそれだけじゃない。


 クラスメイトの枠から外れ、自分の役職や魔法のために手伝ってくれた人に至るまで増えていっている。そして、現在進行形でスティナまで含めて。


 しかし、ここまで自分によくしてくれたのに何もししない、してあげられないというのはあんまりだろう。


 だから、いつまで経っても誰かに絞るという考えを移行することが出来ない。くれた優しさを蔑ろにしてしまうような気がして。


 すると、突然スティナは「少し休憩しませんか?」と提案してきた。その発言に仁は乗ると案内してくれたベンチへと二人で腰をかける。


 その時、スティナは口を開いた。


「私はこの国の民が好きです。だから、この民のために役に立てるよう努力しているのです」


「もうスティナの存在自体が役に立っていると思うけど」


「私の今はまだただのお飾りですよ。私の存在―――――姫という肩書ががこの国の安泰を生み出しているだけで、私自身は何もしていません。きっと私自身にも務まる方はいるでしょう」


「.......」


「だからこそ、私は努力しているのです。数年後、十数年後とわかりませんが、私も教皇となる夫と一緒になり、この国を支えていく。その時のための努力を。恐らく、この時初めて私は本当の意味で『役に立てる』でしょうね。これまで学んできたことを活かして、この国をより豊かにしていくために」


「.......大変だね」


「!」


 スティナは仁がポロっと口に出した言葉に驚いた。それは悪い意味ではなく、いい意味で。


 スティナはこれまで多くの人に支えられながら教養を培ってきた。そして、その時多くの方から応援されるのだが、その時は大抵「期待の目」なのである。


 それは王女としては当然なのかもしれないが、誰かに辛さをわかって欲しい、同情して欲しいという気持ちがないわけでもなかった。


 それ故にほぼ初対面で、仲良くなったばかりの仁からそう言われたのはとても驚きであり、嬉しいことであった。


 とはいえ、自分語りになってしまっていたことに気付いたスティナは一つ咳払いすると仁へと告げる。


「ともかくですね、仁さんはまずは誰を助けたいか絞ってください。そして、その人達の役に立てるように努力するのです。それから数を増やすのです。そうすれば、数を増やしても問題ないぐらい動けると思います。これに近道なんてありません。あっても後で後悔するだけです」


「......そうかもね。ありがとう、僕の悩みに付き合ってくれて」


「いえいえ、お気になさらず。これも私―――――聖女の役目ですから」


「......え? 聖女? 初めて聞いたけど?」


「当然です。初めていいましたので。驚かせるのもなんだと思いまして」


「.......」


 仁は聖女という存在に一種の憧れ、つまりは仁の好きなキャラランキングでも上位に食い込むぐらい好きなのだ。


 それ故に、「遅すぎる」と思うぐらいに仁は固まったまま動かなくなった。それは大方緊張という意味で。それに気づかないスティナは不思議そうに眺めるだけであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 過去編は大事です。(笑) でも、何でこうなったんだろうというもやもやがすスッキリするのはいい。
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