第187話 道化の原点#3
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
時間を上手く使いこなす!
翌日、仁達は再び召喚された場所に呼び出されていた。その場所はどうやら王の間であるらしく、教会のような雰囲気であったがそれはまた別のところにあるらしい。
そして、仁達の目の前には紫色のフードを被り、額辺りに紅い宝石をつけた女性が台座に置かれている水晶に手をかざしている。
街でもよく見そうな占い師さながらの恰好である。まあ、もとの世界に比べれば言葉の説得力など計り知れないだろうが。
「それでは、今から皆様の適正について調べたいと思います。ほとんどの方は前衛、中衛、後衛のいずれかに分かれますが、数名ほど補佐的な役職が与えられる場合があります」
「補佐的?」
頃合いを見て話し始めた教皇は声を張り上げながら、全員に聞こえるように言葉を伝えていく。すると、教皇の言葉を聞いた響はすぐにひっかかった点について尋ねる。
その質問に教皇は快く答えていく。
「補佐的とは簡単に言えば治癒士や鍛冶師といった戦闘向きではないけれど、重要なサポートを担っている役職のことです。ただ全員が全く違うということはなく、人によっては同じ役職になることも悪しからず。さらに、私達でも知り得ない役職が現れる場合もございます。その時は私達が全力でその能力の向上、開発をサポートさせていただきます」
聞いてる限りでは、最後の言葉などまさに至れり尽くせり。だがまあ、逆に言えば勝手に呼び出しておいてそのぐらいの協力もしてもらえないとなるとそれは実に不満がたまるのだが。
とはいえ、ここまで言ってくれるということは信じてもいいのかもしれない。それに、一部のヲタク脳の男子はまるで新しいおもちゃに期待する少年のように瞳を輝かせている。
「それではどなたからでも構いません。その水晶に魔力を通していただければ、その魔力によって適正結果が反映されますので」
「そんじゃあ、俺がいっちばーん!」
「おい待て、ずりぃぞ」
「おい、二人とも」
ヲタク派の三人の男子が真っ先に動き始めたことで順に他の男子が列を作りながら並んでいき、仁達も並ぶとその後を女子が続いていく。
そして、次々に「大剣士」「魔術師(火)」「弓兵」と役職が述べられていく。その中には「錬金術師」や「武士」、「呪術師」、「付与士」など珍しい役職も次々に上げられていく。
それから、もうそろそろというところで仁達の番がやって来た。仁、響、雪姫、朱里、弥人と五人がいる中でまずトップバッターを務めたのが弥人であった。
「んじゃ、行ってくる」
弥人は怪しげな女性の前に近づくと水晶へと魔力をかざしていく。
「軽戦士......それも拳闘士寄りですね」
「へぇ~、やっぱりか」
弥人はその言葉に予想がついていたようにうなづいていく。それは弥人がもとの世界でボクシングをやっていたことに起因する。
もしこの適正というのがその本人が身近に感じて、「慣れ親しんでいるものであれば、それが適応されるのでは?」と思っていたので、こうも予想通りだとリアクションも薄くなるというものだ。
そして、次に朱里が移動していく。すると、朱里は「弓兵」であった。これは朱里も弓道部であったので、恐らくその考え方は正しいのだろう。
とはいえ、それは他にあまり才能のない人の話である。その証明をしたのが響であった。響は他の皆と同じく魔力を流すと水晶が輝かしく発光し始めた。
その発光は周囲を眩く照らしていき、誰しもが咄嗟に手で光を遮る。するとその時、女性の驚くような声が聞こえた。
「光坂様の適正は――――――勇者です」
「え?」
ここに来てようやく「勇者」という言葉が出たことに周囲にどよめきの声が走る。それもそのはず、残る仁を残して男子が終わるところだったのだ。
もしここで仁まで過ぎ去れば女子生徒の中で勇者がいるということになる。それは男子からしても、選ばれた女子からしてもあまりいいとは思えない結果だろう。
とはいえ、大半はこうなることを予想していたが。残る仁と響でどちらが勇者になるかと予想すれば、間違いなく後者に票がほとんど入るぐらい。
それはルックス、運動能力、頭脳、リーダーシップ性のどれをとっても響に軍配が上がるからだ。伊達に学級委員を務めていない。だが、当の本人がそのことをあまり意識していないのが何とも言い難いところだ。
響は思わず仁の方を見る。すると、仁は嫉妬という感情もなく「すげー」という感情を全面に押し出したような顔をしていた。
その様子に響は思わずホッと息を吐いた。仁は明らかに響よりヲタク質が高いので、変な感情を抱かれないか心配していたが、そうやら杞憂のようだ。
そして、安心していたのは何も響だけではない。それは仁も同じだった。というのも、単純に背負いきれないだろう重荷を背負うのが嫌だったから。
人には個々で能力に差があり、その能力次第でいかように活かしたり殺したりできる。いわば適材適所というやつである。
そしてこの場合、勇者と言う役職に適材適所の意味で響がその枠に収まったということ。ただそれだけのことで、当然の結果でもあると思えた。
それに仁自体がそもそもあまり戦うを避ける傾向があった。というのも、単純に血が苦手という意味であるだけに。
だがまだ、自分の適性役職がわかっていない以上何も言えないが、弥人や朱里とかの結果から見れば恐らくわざわざ苦手なところに放り込まれるようなことはされないと思う。
「僕の番だな」
「仁はきっと良い役職かもね」
「そうだね。騎士辺りとか?」
「止めてくれ。俺が血が苦手なことを知っているだろ?」
雪姫と響はイタズラっぽい笑みを浮かべて発言してくる。もちろん、言葉の端々から「冗談だ」という雰囲気が伝わってくるので、仁も深くツッコんだ発言はしない。
それに仁は水晶へと向かう途中で響の様子に少しだけ安堵していた。というのも、勇者となれば、最終目標である魔王と最前線で戦うということになる。
つまりは一番死にやすいのだ。だから、仁は選ばれたことに感嘆の声を発しはしたものの、「良かったな」とは言えずにいた。
またそれだけじゃない、勇者となれば自分達に関わらず、多くの聖騎士や魔術師を率いていくことになるだろう。
そうなれば、前から来る自分を殺そうとする殺気という名の重圧、威圧や国を救ってくれるという民衆の期待という名の重圧、多くの仲間の命と罪を背負っていくという覚悟という名の重圧。
そして、何より死ぬかもしれないという恐怖という名の重圧。
これから響はそんなものをあの小さな背中で背負っていくことになる。今の今まで高校生をやってきた人が背負いきれるものでは当然ない。
先ほどの響のあの態度は恐らくそのことをあまり考えてないからこその笑みだったりするだろう。まあ、まだ考えなくてもいい。自分のように無意識に過ってしまわないだけマシだ。
そういう意味では自分が勇者でないことを願ったのは逃げだったかもしれない。自分には響よりも才能がないとか、リーダーシップがないとか軽い言葉で言い訳して押し付けただけだったりするかもしれない。
本当は潜在的に気づいていた恐怖を意識にも感じさせないように隠しておきながら。それは極端に言えば友達を売ったも同然かもしれない。
そう考えると自分が騎士になって勇者の響をすぐ横から支えるという手は存外ありだったりするかもしれない。
血が苦手であるとかを言い訳にして逃げないで、少しでも響の負担を減らせるように努めていく。うん、この路線が自分にとって最も妥当かもしれない。
そう思うと仁は「騎士になれ騎士になれ」と何度も願いながら近づいた水晶へと手をかざす。すると、すぐに魔力を流し始めた。
「おおー! 見たことない役職です」
「そうなのか!?」
女性が発した言葉に周囲からどよめきの声が響き渡る。その一方で、仁は「騎士じゃないのか」と思いつつも、その見たことない役職に期待を膨らませていく。
そして、女性は告げた。
「糸繰士です」
「.......え?」
「糸繰士です」
女性は仁が聞き取れなかったのかと思い、ハッキリと二度も役職名を告げていく。だが、仁は一度目でしっかりと役職名は聞けていた。その上で理解できなかったから、思わず言葉が漏れたのだ。
糸繰士.......字体からすれば「糸」を「繰」り出す者である。というとあれか? 自分は糸を使って攻撃するということなのだろうか?
糸を使って不安定な場所を補強したり、糸を使って何か束にしたものまとめたり、糸を使って.......ダメだ。全く攻撃に転じる方法が見つからない。
ただわかることは自分は今のところ最弱なのでないかということ。響の支えとなるように、負担とならないようにという以前にクラスの皆の足を引っ張りかねない。
もちろん、それはこの役職の元来の使い方を知ってからの話になるだろうが、現段階の情報ではそう思っても仕方ないことではなかろうか。
周りからもクスクスと笑い声のようなものが聞こえてくる。恐らく自分と同じ反応をしたうえで他人事であるから笑っているのだろう。
そんな他の皆が仁には羨ましく見えた。また弥人や朱里、響もなんと声をかけたらいいか戸惑っている様子であった。
するとその時、仁は次の番である雪姫の役職が耳に入ってくる。
「おおー! これは素晴らしい! 賢者です」
「賢者?」
「いわば魔法攻撃に特化した役職と言えばいいでしょうか。もちろん、それだけじゃなく回復魔法も使えるので、近接戦以外ではオールマイティーに戦える役職ですね」
「そ、そうなんですか.......」
雪姫はあまり嬉しそうな表情じゃない。それは当然だ。大抵の女子は「敵をバンバン倒せますよ」と言っても喜びはしないだろう。むしろ嫌がる。
すると、雪姫はふと仁の方を見る。目が合う。だが、仁がその言葉に何かを言うこともなかったし、雪姫からも言葉はなかった。
ただ仁は何の問題もなさそうな顔をする。周囲に響達がいることに気付くと三人にも同じような笑みを振舞っていく。
その笑みがなんともぎこちなく、張り付けたようだと感じることに四人はそう時間はかからなかった。




