第182話 魔幻の地獄 ティデリストア#8
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これでこの章は終わりです
クラウン達が進んでいく先には石で作られたであろう大きな扉が存在していた。恐らくその扉が最後なのだろう。
そして、クラウンが力強くその扉を押していくと大きな空間が広がっていた。今にも巨大な魔物と戦うぞと言っているようなものであった。
しかし、クラウン達の前には何も存在しなかった。いや、存在しなかったのは魔物だけであって、目の前には円形状の模様が描かれた床の上にある祭壇に宝玉が一つあるだけであった。
周囲を確認してみる。魔物の気配は感じられない。ただ意味深に宝玉が置かれているだけだ。そのことに罠でないと疑う方が少ない。
「とりあえず、何もいないみたいだけど......いつもの感じだと守護者がいるはずよね? 宝玉を護るための?」
「それがいないとなるとここはまだ試練の途中ということか?」
「いや、それはないです。床をよく見るです」
リリスとカムイが周囲を見渡しながらこの状況においての感想を述べていく。すると、カムイの言葉に引っ掛かりを感じたベルは先ほど気づいた床の違和感について話し始めた。
「祭壇は円形の模様が彫られた床にあるですが、ほらここに穴があるです」
「それって模様として彫られただけじゃないかしら?」
「私もそう思ったです。ですが、その穴に指を当ててみると僅かに風の通りを感じるです。ということは、この穴は底がある穴ではなく、底がない穴ということです」
「ベル、お前はこの床の下に何かあると言いたいのか?」
「はいです」
クラウンはベルに場所を移ってもらうと僅かに空間内にある光を取り込みながら、その穴を覗き見る。
すると、その穴はベルの言った通り僅かだが通り抜けて下に何かあるように感じる。そして、その下にある黒い大きな物体は.......
「なるほど、初見殺しか」
クラウンは一人小さく呟くと「一人で取りに行く」と言って全員を円より後ろに下がらせた。それから、真下を警戒しながら一歩一歩足を進めていく。
そして、クラウンが祭壇の目の前に近づいた瞬間、真下から強烈な気配が一気に近づいてきた。
クラウンが背後に思いっきり跳躍すると同時に円形の床を食い破るように破壊し、現れたのは三つのドーベルマンのような犬の頭であった。
その三つ全てが黒く染まっていて、歯茎まで見えるほどに歪ませている口にある牙は全てのものを貫通させるように鋭く尖っている。
しかも、特徴的なのはそれだけじゃない。現れた三つの頭から魔物が三体かと思われれば、胴体は一つであった。
つまりは三つの頭を持つ一匹の犬の魔物。地獄の門番という異名を持ったそいつの名は――――――
「ケルベロスか。まためんどくさそうなのが出てきやがった」
クラウンは思わず愚痴を吐きながら、距離を取る。するとすぐに、ロキが空中のある一点に対して吠えた。
その方向を見ると宝玉がある祭壇が宙を舞っていた。しかも、その祭壇はケルベロスの頭に真っ直ぐ落ちてくると真ん中の頭がその祭壇を口に咥えて飲み込んだ。
そして、いつの間にか修復されている円形の床に立つと威圧するように唸った。
これにより、隙を見て宝玉を奪取して脱出という手段が取れなくなってしまった。そのことに僅かにクラウンは歯噛みするが、まあもとよりあまり期待していなかったので問題はない。
なら、やることは一つ。
「全員、殺るぞ!」
クラウンは一気に前に飛び出すとその後にカムイとベルが続いていく。またエキドナは竜化(闘)で飛翔し、リリスは重力で浮き上がっていく。
それから、朱里と雪姫はロキに乗ってケルベロスの側面へと回り込み、リルリアーゼも同様にロキとは反対側を回り込み始めた。
それに対し、ケルベロスは三つの頭がそれぞれ大きく息を吸い込むと左から順に氷、風、炎のブレスを放ってきた。
狙いは正面から迫ってくるクラウン達。そのブレスそれぞれが大気を震わせながら床へと直撃していく。
その瞬間、床は凍ったり、抉れたり、炎で焼き焦げたりし始める。しかし、クラウン達はケルベロスの首が横に対して可動域が狭いということを利用して、隙間を縫って突き進んでいく。
その一方で、空中にいるエキドナとリリスは攻撃を仕掛け始めた。
「「背中ががら空きよ!」」
エキドナの鋭く振り下ろした拳と重力によって加速したリリスの炎を纏わせた飛び蹴りがケルベロスの背骨へと突き刺さる。
「「!」」
しかし、それで与えられた傷は僅かだけ。どうやら皮膚があまりにも固いらしい。すると、鞭のような尻尾が背骨辺りまで迫ってくるので、二人は大きく跳んで上に避けていく。
だが、その尻尾は二股に分かれるとさらに二股に分かれ......とネズミ算的に増えてき、やがて総計六十四本となった尻尾は二人を突き刺しにしようと襲いかかる。
その一方で、両側面に回り込んだロキ達とリルリアーゼはそれぞれ雷と光を収束させた砲撃を放っていく。
その砲撃はケルベロスに直撃するも、リルリアーゼの驚異的な破壊力を持ってして火傷程度で終わった。
そのことにリルリアーゼはすぐさま解析していく。
またリルリアーゼ達と同時に、クラウン達はケルベロスの首を切ろうと斬りかかっていた。だが、三人の刃はケルベロスの牙がコンマ早く迫ってきたことで、牙に当たり攻撃を与えられなかった。
だが、残りがケルベロスの体に対してほとんどの通常攻撃は意味がないという結果を残してくれていたので、むしろ攻撃が当たらなかったことは余計な隙を生むという意味では良かったかもしれない。
しかし、それでケルベロスの攻撃が止むわけじゃない。ケルベロスはそれぞれの頭から無数の氷、風、炎の魔弾を空中に展開し、一斉に放ってきた。
それはまさしく雨のように隙間なくクラウン達を襲っていく。またエキドナとリリスを襲っていた尻尾の数はさらに倍の百二十八本の鋼鉄の鞭となってそれぞれを襲っていく。
それを紙一重で避けていくも攻撃に展開できないことに歯噛みしているようだ。すると、全ての一部の尻尾の動きを止めると今度はそれはリルリアーゼ達に向かって襲わせた。
それをロキとリルリアーゼは素早く避けていく。その時、リルリアーゼは「分析完了」と呟くと拡声器を使ったように空間内に声を響かせた。
「この魔物はどうやは物理攻撃、魔法攻撃ともにかなりの耐性を持っているようです。そして、弱点はなし。ただ演算結果、皮膚を石化させて部分破壊を繰り返していくのが良いかと」
「なら、私の出番だね!」
「朱里ちゃん、私も手伝うよ。ロキちゃんもお願い」
「ウォン!」
朱里は二丁の魔法銃をケルベロスに向ける。その朱里の両肩に雪姫が手を置くと魔力を流していく。それは雪姫の<魔力譲渡>という魔法によるものだ。
それによって全身に力が漲ってきた朱里は銃口の先に紫色に輝く銃よりも大きな光の玉を作り出していく。
後のやり方はわかっている。思考イメージを言葉にして弾に乗せるだけだ。それはクラウンにニ度も味わされたからわかる。
そして、ロキが鋭く爪を立て一気に加速していくと同時に朱里は連続で魔法を放っていく。すると、当たった個所から鼠色の跡をつけていった。恐らくあれが石化したところなのだろう。
「カムイ、空中を頼んだ! ベル、投げるぞ!」
「あいよ!」
「わかったです」
カムイは一瞬の隙に右手に持った「炎滅」を左腰の方に寄せると一気に頭上に向かって振った。その瞬間、カムイの刀の軌道よりはるかに大きい炎の斬撃が降り落ちる雨のような魔弾を消滅させた。
「ついでだ!」
さらにカムイはケルベロスの注意を引くように連なった氷の山を床から生やしていき、顔面を襲わせる。
その一方でクラウンはベルを糸で手繰り寄せると胸ぐらを掴んで石化箇所へと投げる。
そして、投げられたベルは短剣を前に突き出して構えると石化部分へと着地しながら突き出し、大きく抉っていく。
さらに朱里が雪姫の魔力を借りてどんどん体を石化させていくとその個所をベルが動き回りながら抉っていく。
それによって、ケルベロスの全ての意識がベル一人へと注がれるとその隙にリリスは重力によって全ての尻尾を束ねることに成功した。
そして、その尻尾を朱里が咄嗟に石化させ、それをエキドナが全体重を乗せるようにして根元から手刀で斬り落としていく。
「ウオオオオオオオンッ!」
その時、初めてケルベロスの痛がる声を聞いた。ダメージは効いているようだ。なら、後は畳みかけるだけ。
「――――――ねぇ、トドメは私に任せてくれない」
その時、凛とした色気のある声が突如この空間に響き渡った。そして、同時に周囲を包み込むような温かさ。それはさながら子供の頭を優しく撫でるような慈愛が伝わってきた。
全員が思わず仲間の一人を眺める。すると、その一人は体を眩いピンク色の光に包ませると肉体が少しずつ変化していく。
そして、その光が弾けた瞬間、誰もが目を奪われるような美貌をし、大きな羽を生やしている。さらに長く伸びた真紅の髪に、見た者の警戒心をすぐに解いていくかのような優しい笑み。
「これが古代サキュバス.......いわばサキュバスの真祖よ。そして、この魔国大陸を最初に統べた偉大なる女王の姿」
リリスは艶やかに言葉を告げていくと顔を赤らめながら叫んだ。
「さあ、この私に無様な姿を見せつけなさい!―――――――愛の散布」
リリスは両手を大きく広げると自身の体からピンク色の粒子をばら撒いた。それままるで雪のようにシンシンと振ってくる。
そして、それは仲間達に当たると力を増強させていき、ケルベロスに当たると弱体化させていく。さらに効果はそれだけじゃない。
その雪に触れた瞬間、リリスからの指示が頭の中に流れてきたのだ。それを理解した全員は合図もせずに動き始める。
まず朱里がケルベロスの前足の膝に石化弾を放っていく。だが、ケルベロスは何度も受けたその攻撃を危険だと感じ、すぐさま跳躍の体勢に入った。
そこに雪姫の<反射板>が僅かに軌道をずらしていき、前足ではなく後ろ足へと狙いを変えて直撃させた。
それによって、弱体化したこともありバランスを崩していく。そこに畳みかけるようにロキが爪の斬撃を、リルリアーゼは砲撃で完全に後ろ足を切断した。
「「「あああああ!」」」
そして、前方に倒れ込んでくるケルベロスに対して、アッパーをかますようにクラウン、ベル、カムイがそれぞれの顎下をかち上げていく。
その攻撃でケルベロスは頭を天井に大きく体を仰け反らせていく。そこに追い打ちのエキドナの拳がケルベロスのあごを捉え、天井にお腹を見せるようにひっくり返りながら宙に浮いた。
その光景にリリスは興奮し叫ぶ。
「無様ね! でも、それがあんたの真の姿よ!―――――慈愛の一撃」
リリスは真下に向かって大きく羽を動かして急降下。そして、体を前回転しながら体勢を変えると飛び蹴りの姿勢に変えた。
すると、リリスの突き出した右脚にはハート形の膜のようなものが大きく出来上がっていく。
それからやがて、その蹴りはケルベロスの腹部に突き刺さると床に叩きつける。さらに、追撃とばかりに右脚のハートの膜は弾けるとともにケルベロスを一気に衝撃で床に押し付けた。
すると、ケルベロスは口から祭壇を吐き出すとともに壊れた円形の床の底へと姿を消していった。
そして、リリスは祭壇にある宝玉を取ると元に戻りながら床へと降りてくる。それから、クラウンの方へと近づいた。
「そんな力があったとはな」
「あの村で手に入れたの。実戦でどんなものか試したかったから使わせてもらったのよ......酷く恥ずかしかったけど」
「いつも通りだぞ」
「そんなことないわよ!」
そうリリスは言いつつも、クラウンは優しい笑みでそう言うので、案外言葉に覇気はない。そして、その周囲では朱里と雪姫が喜びを分かち合うようにハイタッチしたり、カムイやベル、エキドナがロキやリルリアーゼを労ったりしている。
一先ずいつも通りの空気には戻れたようだ。そのことにクラウンは思わず胸をなでおろす。すると、そんなクラウンを見てリリスが一言。
「さあ、行きましょ」
「そうだな」
そして、クラウン達は開かれた先に向かって歩き出す。




