第180話 魔幻の地獄 ティデリストア#6
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おさらい
クラウン→雪姫の体
リリス→クラウンの体
雪姫→リリスの体
地の文はそのまま本人たちのことを表しています
「現在の記憶.......」
クラウンが危惧していたまさにのことが進むべき試練として現れた。そのことにクラウンは苦虫を噛みつぶしたような顔が隠しきれない。
だが、「現在」とはどのことを指しているのか明確でない気がする。
そもそも今のクラウンは精神体だ。とはいえ、もとに記憶を引き継いだまま他人の体に移っているわけでもあり、さらに雪姫の体から伝えられる記憶もあるわけであり、そのどちらかが良くわからない。
恐らくこの体に乗り移ってその記憶の一部が流れてきたことを言うのが正解なのだろと思う。
しかし、それが記憶を共有させるというためのただのブラフである可能性でないこともない。
ただその場合の「罰が下る」という言葉がやたらと気がかりだ。内容も書かれずに「罰」の一言で済まされては二人を危険にさらす場合がある。
いや、厳密には自分と雪姫か。自分の体に移っているリリスは毒ガス類なら体の体勢で耐えきれるはず。とはいえ、代わりに心が死んでしまう可能性もあるが。
クラウンは苦悩する。この場合で自分の考えが正しいとすれば、ここで言うことは本人でも知り得なかった(正確には思い出さなかっただが)情報が共有されるということになる。
「誰から行く?」
リリスはクラウンと雪姫を見ながら複雑な表情をして聞いてくる。恐らく自分の考えと近い所まで辿り着いているのだろう。
またそれは雪姫も同じだ。雪姫は心配そうにクラウンを見つめてくる。その行動はつまり知られたくない記憶があるということなのだろう。
だから、リリスの質問に対してすぐに二人は答えることが出来なかった。何と切り出せばいいのかもわからなかった。
静寂な時間がこの場を支配していく。ここは外のような草原が広がっているが、中身は神殿そのもの。感じるはずのない風の、それも肌を突き刺すような寒さを感じてくる。
僅かに感じてくる手足がかじかんでいく感覚は手の感覚を刻一刻と鈍らせていく。流れていく冷汗は止められず、「沈黙」の二文字が完全にこの場の状況を表している。
―――――パキッ
何かが割れる音がした。それは少し丈夫な板を折った時の音で、感覚としては池に張った薄い氷を割った時の音に近い。
その音はすぐ近くで聞こえてきた。そして、三人は思わず雪姫の足元を見る。すると、雪姫の足元は――――――僅かに凍り付いていた。
そのことに驚いた三人は咄嗟に周囲を見渡す。そして、気づいたのは先ほどまで緑のじゅうたんのように一面に広がっていた芝生が白く凍っている光景であった。
さらにその周囲のある木も雪が積もったような感じではなく、冷凍されているかのように若干薄い水色に近い色をしていた。
となるろ、先ほど感じていた寒気は感覚ではなく本物。それもここまで何もなく、ここに来て起きたということは......
「制限時間か」
「え、嘘。だって、何も書かれてないわよ!」
「だが、現実に起こっていることが全てだ。早く答えないと氷漬けにされる」
クラウンは全身に感じる寒気に思わず身震いする。そして、少しでも手の感覚は維持しようと左手拳を作り、さらに右手は杖をしっかりと握る。
正直、久々の感覚でかなり堪えるがそれ以上に危険なのは雪姫だ。雪姫が移っているリリスの恰好はこの場の状況で一番相応しくないだろう。
必死に寒さに耐えようとしているが、それでも限界は来る。するとその時、リリスは雪姫にあることを言う。
「雪姫、私の指輪からコートを取り出しなさい! そうすれば少しはマシになるはずよ!」
「だ.......だめ.......寒くて痛くてうまく集中できない......」
「なら、リリス。今のお前ならこの寒さに余裕のはずだ。それにここは魔法が制限されてるわけじゃない。周囲に一気に炎で薙ぎ払え!」
「わ、わかったわ」
リリスは周囲に連続で<火炎弾>を放っていく。本当はそれよりももっといい魔法があるのだが、リリスに見せたことがないのでイメージがあまりないのだろう。
もしその考えが本当ならば戦闘においてほとんど雪姫を知らない自分はあまり役に立てない可能性がある。
とはいえ、その考えはともかく後だ。今はこの場を乗り切ることが最優先だ。
リリスが放った炎の弾はだんだんと吹雪のように勢いを増してくる風に対してほとんど意味を成していなしていなかった。
地面を溶かした個所は風によってすぐさま元通り。なら、この場の状況をどうにかするより、早く答る方が良い。
しかし、自分はまだ根性で耐えれるが、雪姫はかなりグロッキーだ。顔が青白くなっており、小刻みに唇を震わせている。
そんな雪姫に対して、クラウンは凍り付いたように動かない右腕を雪姫に向かって伸ばしていく。
「リリス、<火炎弾>を維持したまま近づけ」
クラウンは雪姫の肩を抱くとそのまま体の横を密着させる様に押し付ける。そして、その意図を酌んだリリスが反対側から雪姫の肩を抱いて、右手の火の玉を雪姫に近づける。
すると、雪姫の瞳に僅かに光が灯った。そ個を見逃さずクラウンは素早く聞いていく。
「雪姫、お前の見た記憶をすぐさま答えろ」
その言葉に雪はポツリポツリと言葉を告げていく。
「私.......私はリリスちゃんが.......リゼリアさんという人と.......の記憶を見た」
その言葉を聞いたクラウンはリリスへと視線を移していく。本当は何の記憶を見たか確かめたいが、そんな猶予は残されていない。
「私はクラウンと雪姫、それから多くの友達と楽しく過ごしている光景を見た」
そして、バトンタッチするように視線を返していく。その視線を受け取ったクラウンはあらかじめ決めていた答えを告げた。
「俺は叫んでいた」
その瞬間、目の前の結界は霧散して消えていき、背後から襲ってきていた凍える風も段々と勢いを無くしていく。
そして、凍っていた服も温かさを取り戻すように溶けていき、芝生も周囲の木々も本来の緑溢れた色を取り戻し始めた。
先ほどまで暑くもなく、寒くもない温度が体に体温が戻り始めたとともに異様に温かく感じてくる。
その感覚が全身を襲うと三人は方を組んだままどっと疲れたように地面に座り込んだ。
そして、クラウンと雪姫は特に心身ともに溜まった疲れを荒い呼吸と共に吐き出していた。またリリスは二人に難の異常がないことに安堵の息を吐いていた。
そんな中、助かったとは別にもう一つ別のことで安堵している人物がいた。その人物であるクラウンはリリスの口に出した言葉に対して安堵の息を吐いた。
それはリリスの言葉から自分の過去に関することが出なかったこと。正直、これは助かったことの次に喜ぶべきことだ。
出来ればリリスには自分の過去を知って欲しくない。それは単純に知られたくないというのもそうだが、大切だからこそ隠したこともある。
特に悲惨な過去の話とかは話したところでリリスの得になるわけでもないし、気分を害すだけだ。だったら、いっそのこと話さない方が良い。
それに過去は自分だけの過去だ。その過去に決着をつけるのは自分だけでいい。知ってもらって慰めや同情が欲しいわけでもなければ、それ以上に巻き込みたくはない。
もう既にこれ以上にないほどかかわってしまっているかもしれないが、少なくとも最終決戦だけは自分でケジメをつける必要がある。
「仁、リリスちゃん。ありがとう、もう大丈夫だよ」
クラウンが別のことを考えていると耳元から雪姫の呟く声が聞こえてきた。その声にふと顔を見ると雪姫の顔は正常とまではいかないが、それでもかなり回復してきたように見える。
クラウンは雪姫が回復したのがわかると回していた右腕を放して立ち上がる。そして、リリスは右手の炎の玉を消すと同じく立ち上がり、雪姫に手を差し伸べる。
その手を戸惑いながらも握った雪姫はやや顔を火照らせて、リリスから顔を背けながら引っ張り上げてもらう。
「二人とも大丈夫か?」
「ええ、私はあんたの体で問題ないわよ。それよりも、雪姫はどう? 歩けそう?」
「うん、大丈夫だよ。もう迷惑かけないから」
「別に迷惑だなんて思ってないわよ」
リリスは気さくに雪姫に返答していく。その一方で、クラウンは雪姫の顔を少しだけジッと見ると「行くぞ」とだけ告げて歩き始める。
それからしばらく、また魔物一匹出てこない草原の上をクラウンを筆頭に歩いて行く。そして、その間にリリスの指示で雪姫はコートを取り出し、クラウンと雪姫はそれを身に纏った。
すると、少しだけ余裕のあるリリスがふと呟いた。
「そういえば、ほぼ一本道のような場所を歩いてまだ次に進むべき洞窟が見えないということはまだあるのかしら?」
「恐らくあるだろうな。だから、今度は時間をかけずに答えていくぞ。もう見た記憶を言うことは躊躇うな。時間がかかればまたああなる」
「わかった。ごめんね、リリスちゃん」
「別にいいわよ。仕方ないことだからね。クラウンもそういう認識で良いわよね?」
「......ああ、構わない」
そして進んでいくと、遠くの方からまたもや結界と祭壇が見えてくる。それから、その祭壇にはこう書かれてあった。
『本人の嫌な記憶を一つ晒せ。偽りは天罰が下る』
「「「!」」」
クラウンはその言葉を見た瞬間、ついに来たかと思った。いや、来ないはずがないと思っていたが、まさかこんなに早く来るとは。
ともあれ、この条件を飲まなければ前には進めないし、答えるほかない。ここまで来る途中に少しずつ流れた記憶を頼りにするべきか。
だが正直、その見てしまった記憶の中には本人の嫌そうな記憶は特に当たらなかった。その間で思い出したことは全て言葉だけであり、何かの映像として見ていない。
クラウンは二人に目配せしていくと順に答えていく。
「夜に菓子を食い過ぎて少し太ったこと」
「うぅ.......それを見たの? えーっと、性癖がバレたこと」
「ぐふっ、ま、まあいいわ。それじゃあ、死の森で死闘を繰り広げたこととか」
クラウンはその言葉に思わずリリスを見る。すると、リリスは「わかってるわよ」とウィンクで返してきた。
それは恐らくリリスと行動を共にした時の記憶だ。どういう意図でそれを言ったかわからないが、一先ずありがたかった。とはいえ、自分の体でウィンクはやめて欲しい。
すると、スッと結界が霧散していく。どうやらあれでよかったらしい。ということは、リリスの言葉は偽りではないということか。
まあ、「本人」という言葉何なのかはわからないが、ともかく嫌な記憶は確かに告げた。復讐の炎に身をやつし過ぎていた自分は確かに嫌いだ。
そして、クラウン達が祭壇を通り抜けたその瞬間―――――――
「「「あああああ!」」」
三人は激しい激痛に襲われた。




