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神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~  作者: 夜月紅輝
第8章 道化師は移ろう

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第163話 もう一つの再会

読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)


土日ほど食生活が不規則な日はない

「そろそろ見えて来たわね」


「あれか。お前の故郷があるっていう魔国大陸は」


 エキドナの背中から外を眺めると不自然に禍々しい空気が流れる大陸が存在していた。その大陸はある場所を境に光を嫌うように重たい雲が敷き詰められていて、常に夜のような暗さであった。


 リリスはここに来るまでにすでに全員に故郷へ寄っていいか許可を取った。本来ならそんな時間はないだろうが、カムイが許可を出したので先に寄ることになった。


 とはいえ、リリス的にカムイの答えは本当にそれで良かったのかと思うところもある。


「ねぇ、私が言うのもなんだけど本当に良かったの?」


「大丈夫だ。根拠はあんましねぇんだが、少しとんでもない憶測が頭の中に流れちまってな。しかもそれの可能性が一番高いような気もしてきて.......だとすると、俺の妹は大丈夫であると思えるんだ。ただあんまし時間はかけられねぇけどな」


「大丈夫よ。あんたの故郷に訪れて少し私も故郷を見てみたくなったのよ。といっても、ただの森だろうから数日かけてなんてことにならないわ。それで気になるのだけど、その憶測って何?」


 リリスは一旦スルーしようかとも思ったがやはり気になって聞いた。なぜなら妹を人質に取られているはずのカムイが根拠がないのに「大丈夫」と言っているのだから。


 すると、カムイも悩まし気な表情で頬を指でかきながら答えていく。


「俺の憶測の答えだけを告げるなら、あの神の使徒が求めている相手は俺じゃねぇ気がするんだ」


「カムイじゃない? 妹のルナさん......だっけ? が人質に取られてるのに?」


「まあ、そうなんだが.......なんというかそれはただの口実っていうか、誘導っていうかそんな感じで相手は別にいる感じの気がするんだ。だが、さっき言った通り根拠がないからそうじゃない可能性がある」


「でも、あんた的にはその可能性が高いんでしょ? で、別って誰よ?」


「闇抱えている奴はうちには一人しかいないだろ?」


 カムイは先ほどよりも悩まし気な表情でリリスに逆に問いかける。その質問にすぐに該当者が見つかると周囲を素早く見回していく。


 どうやら近くにはおらず、今はエキドナの頭の上にいるようだ。そのことが確認できるとリリスはその答えを告げていく。


「クラウンってこと?」


「まあ、そうなるな」


 リリスは自分の言った言葉をもう一度脳内で繰り返す。そして、頭の中で考えをまとめていく。


 カムイが言ったのは狙いは自分ではなく、クラウンであるということ。ということは、魔王城をおびき寄せる目的のためにカムイの妹を使ったということ。


 しかし、ここで疑問が浮かぶ。おびき寄せるならばどうしてわざわざカムイの妹を攫ったのかということ。


 カムイの妹が特別な能力を持ったとしても、それはクラウンをおびき寄せる理由にはならない。どうせおびき寄せるだったら宝玉を持っていると言った方が一番手っ取り早いはずだからだ。


 その後にカムイの妹を攫ったとしても遅くもないはず。にもかかわず、一度姿を見たその人は衰弱している様子はあっても傷のようなものはあまり見られなかった。


 しかし、そういうことをしたということは何らかの意図があちら側にはあるということだ。それが分からない。なぜならカムイと出会ってからの流れが奇跡的な確率でないとこうはならないからだ。


 .......いや、神の使徒ならばそれが可能なのか? 不可能とは言い切れない。だけど、仮に上手くクラウンを呼び出したとして何をするつもりなのだろうか。


 まさか魔王にでもさせるつもりだろうか。いやいや、さすがに人族を魔族に転身させることは出来ないだろう。


 魔族と人族では肉体構造が違うし、ましてやクラウンは異世界人。他の世界の体に干渉することは出来まい。


「うーむ、わからないわね~」


「出たとこ勝負になるだろうな。まさしくいつもの俺達だ」


 カムイはそう言うと明るく笑う。不安な感情はあるもののそれだけ笑えるということは勇気や自信といった正の感情の方が高いのだろう。


 すると、エキドナから「そろそろ下降するわよ」と声がかけられた。そして、エキドナは大きな体を斜め下に傾けてゆっくり下降していくと海の上スレスレを飛んでいく。


 近づいていく度に空気が変わっていくのがわかる。冷たく暗くどこかおどろおどろしい雰囲気が伝わってくる。


 そして、エキドナは大陸付近までやってくると少し硬度を上げて樹木スレスレの上を飛んでいく。


 その間にエキドナの頭の上へとやって来ていたリリスはある場所まで来ると「ここで降ろして」と告げた。


 クラウン達が訪れたのは薄暗い森の中。紫色の霧のようなものが僅かに立ち込めていて異形の木々が周囲を囲むそこは恐怖をよりそそらせる。


 森の隙間からは大きくそびえたつ魔王城が見える。その魔王城はRPGさながらといった雰囲気で城を囲うように赤い膜のようなものが張られている。


 朱里と雪姫がその空間に小心になっている中、リリスは一人深呼吸してこの空気を懐かしんでいた。


「何か月ぶりかしらね。ここに来るのなんて。あ、ちなみにあれが魔王城よ」


「わかりやすく禍々しいな。それであのの赤い膜は結界か?」


「恐らくそうでしょうね。でしょ? リル」


「はい、分析するにあれは特殊な魔力で出来ているようで普通の侵入は不可、あれに触れると物理、魔力を完全遮断するようです」


「困ったです。どうすれば入れるです?」


 話を聞いていたベルはリルリアーゼへと尋ねていく。すると、リルリアーゼは何かを閃いたような表情で告げた。


「ルート検索には地形を調べる必要があるので少し時間がかかります。マスターどうかこんなポンコツを嬲ってください」


「お前の閃きはその言葉か。スクラップされたくなければさっさと働け」


「それはむしろご褒美!!」


「な、んだと!?」


「旦那様から引き顔を引き出すなんてなかなかやるわね、リルちゃん」


「エキドナは何に対して対抗心燃やしてるのよ」


「朱里ちゃん、私もあれだけ個性必要かな?」


「雪姫だけは純粋でいて!」


「収拾がつかねぇ......」


「ウォン!」


 カムイはロキの柔らかな毛並みに触りながら呆れたように告げていく。とはいえ、こちらの方が自分好みだったりするので表情は随分と柔らかいが。


 すると、リリスが案内するように先へと歩いて行く。そんなリリスの様子にクラウンは少し不安げな目で見ていた。


 それはリリスの故郷が焼滅ぼされたという事実を知っているからだ。今のリリスがどんなの懐かしさに浸ろうとその事実だけは変わらない。


 あの楽しそうな表情の裏に無理があるのではないかと思ってしまう。だが、リリスがそう言う雰囲気なら自分はそれに合わせるだけ。クラウンはそう思いつつ後ろをついていく。


 リリスが歩いて行く道はエルフの森を彷彿とさせた。それだけ入り組んでいて特徴的な木々ばかりで逆にわかりづらい。


 カラスのような黒い鳥の声を聞きながら歩くことしばらくして、クラウン達は目的の場所へと辿り着いた。そこは不自然に焼けて黒くなった木々が残っていた。


 しかし、その場所を見てリリスは思わず呆然とした顔をする。


 そこにはまだ新しい家が数える程度であるが確かに存在していたのだ。しかし、少なくともリリスが過ごした村は全てが炎に包まれて、ここから少し離れた場所にある自分の家以外は焼失したはず。


 リリスは思わず走り出す。クラウン達を置き去りにして。それ以上に今は確かめたいことがあったのだ。


 それは自分の家が存在しているかどうかということ。古びて昔からいつ崩れてもおかしくないと思っていた愛着のある家が。


「.......」


 目的地に着くとリリスは思考が停止した。それは自分の見覚えのある家がそこにはなく、ただポツンと新築の家がその場にあった。


 そのことがリリスには無性に悲しく感じた。それは自分の思い出が風化してどこかへ消え去ってしまったような気がして。


 しかし、憎むに憎めなかった。なぜなら魔族はたくさん種類が存在しているから。


 そもそも魔族は人族、エルフ、鬼族、竜人族、魚人族といった大まかな種族を除いて魔国大陸に住む種族の総称なのだから。


 そして、その数多くの種族間で手を取り合って国を形成している。その国の最たる種族は有角族であるのだが今はその話はいいだろう。


 しかし、それらの種族は一貫して仲間意識が強いと言うのが特徴でそれが適応されるのは同じ種族のみ。


 つまりどこもそこも多少のいざこざを抱えているということだ。そして、そのいざこざで争い負けた種族は住んでいた土地を手放して新たな土地で開拓を始める。


 故に、今リリスがいる場所はその負けた種族による開拓された土地である可能性が高いのだ。


 とはいえ、たとえそうだとしてもリリスが恨むのは筋違いということになるだろう。焼滅ぼされリリス以外誰もいなくなって、その最後の一人だったリリスもこの村を出ていった。


 そうなればこの土地は村という権利を無くしたただの土地だ。誰がここで新たな村を作ろうとも文句を言われる筋合いはないということになる。


「うぅ.......」


 リリスは顔を下に向ける。そして、スカートの裾を両手で強く握っていく。その方は小刻みに振るえ、顔の辺りからは滴が落ちていく。


 わかっていた。どこかで予想は出来ていたことだ。だけど、もしかしたら奇跡的に生き残っている同胞がいて迎えてくれるとか、そうでなくても自分の唯一の家さえ残ってくれていればそれだけで良かった。


 しかし、現実は無情だった。たった僅かな望みでも容赦なく潰していく。見覚えのあった場所は見覚えのない場所へと変わっている。


 何度も何度も「仕方ないことなんだ」と自分を説得しても溢れる涙は止まらない。思い出が勝手に脳内で再生されていく。


 ここはもう誰かの居場所で自分が帰って来れる居場所ではなくなってしまった。自分が育った場所はどこにもなくなってしまった。


 それはなんだか過ごしてきた思い出が、母リゼリアとの記憶が否定されていくようで――――――


「リリスなの?」


「!」


 その時、後ろから声が聞こえた。その声にリリスは思わず驚いて振り向く。すると、そこには赤ん坊を抱いた同い年ぐらいの少女が立っていた。


 その姿を見た瞬間、リリスの涙は悔し涙から嬉し涙へと変わり口角も柔らかくなっていく。


「セレン.......」


 その少女は死んだと思っていたかつての同胞だったからだ。

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