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神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~  作者: 夜月紅輝
第7章 道化師は攻略する

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第147話 向き合う現実

読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)


カムイ視点です

 ここは焦土のある一角、周りは当然ススだらけの木材やもはや炭と化した人姿が今未だ残っている。


 どこからも焦げた臭いがしていて、あるところでは未だ燃えているかのように黒い煙を天まで伸ばしているところもある。


 足の踏み場もないような空間、見るだけで気分を害する空気、これが現実であるとは到底思いたくない。一体何が起こればこんなことになるというのだろうか。


 どうしてあの時自分はいなかったのだろうか。どうしてあの時外へと行くと決めてしまったのだろうか。そう考えるたびに心が狭くなっていく感じがする。


 窮屈で息苦しい。だが、何もしなかった、出来なかった自分がどういう気持ちでこの地を踏んで歩いて行けばいいというのだろうか。


 何もない。自分がいなかった間に何もかもがなくなっている。


 賑わいに溢れた空気も、ウザったくなるような人の数も、美味しそうな匂いも、剣術を励み合った友でさえも何も......何も残っていない。


「ははは......ここは変わり過ぎだろう......」


 カムイは思わず言葉を呟く。その言葉からは覇気のようなものは感じず、ただ頭に思い浮かんだものが勝手に口から漏れたような感じであった。


 黒い大地となっているそこは昔の面影など全く残っていない。「こんなに土地って広かったっけ」と思わず現実からも目を逸らしたくなる。


 しかし、それをしてしまうとまだ生きているであろう妹のルナからも逸らしてしまうことになる。


 捉えたくない現実を直視しなければいけない状況になっている。それほど辛く、苦しいことはないだろう。


 それは友の、護ってきた国の人々の、この国に溢れていた活気や文化を全てなかったと認めることなのだから。


 特に友の死を認めることは辛かった。未だ心の奥底では認めていない。というより、認めたくないという方が正しいか。


 この現実を見れば友が生存している可能性がどんどん低くなっているように感じてくる。だが、まだ希望は持ち続けたい。たとえどれほどまでに可能性が低くとも。


 カムイは止まっていた足を動かしていく。やたらと重い。まるでこの先に行くことを体自身が拒んでいるかのようだ。


 つまりはこの先に何かがあるということを気配(直感)が告げているらしい。そのことにカムイは苦笑い。この笑みも気丈に振舞おうとして精一杯で苦笑いだ。


 黒い道を踏み分けて進んでいく。なんとなく覚えがあるかつての道は今は黒い炭で塞がれている。


 そして、その炭の下には誰かに助けてもらおうとして焼け死んだのか腕を伸ばしたままの人の姿があった。


 その人は下半身を瓦礫に挟まれていて動けないような様子であった。必死に助けを求めている姿が脳内で肉付けされてより鮮明に伝わってくる。


 それにその人は完全に燃えてしまっているせいか男か女かもわからない。ただ伸ばした腕の手の大きさは思っているよりも小さい。


 つまりは子供ということだ。少なくとも、自分よりも年齢が低いことは確実だろう。この子はどういう気持ちでその腕を伸ばしたのだろうか。そう考えるだけでも胸が苦しくなる。


 カムイはその子供であろう炭にゆっくりと近づいていく。そして、目線を合わせるようにしゃがむとその手を掴んでいく。


「辛かったよな―――――」


 カムイがそう言葉を投げかけようとするとその握っていた手は手首辺りからポキッと折れて、その手はさらにカムイの手で粉々に砕け散る。


 その炭は突発的に吹いた風によってどこかへと飛ばされていく。さらに、その炭は限界を迎えていたのか腕をボロボロと細切れに地面へと落としていき、やがて挟まっていた上半身が折れて地面へと砕け散らせた。


 その出来事を目の前で見ていたカムイは握っていた手をそのままに思わず唖然とした表情をする。そして、ただ頭が真っ白になったかのようにありのままの光景を目に焼き付けていた。


 それから、その目のまま自身の差し出した手の平を見る。そこには握った時についたであろうススと炭の欠片が残っていた。


 その炭の欠片はまたもや風で舞っていく。一体どこへと向かおうとしているのか。


 いつもなら「天国へと向かっているのだろう」と思うことが出来る。しかし、今のカムイにそんな余裕はなかった。


 カムイはその手を見ながら、苦しそうな顔でその手を握る。やはり悔やまれる。どうして自分がここにいなかったのか。どうして何も知らなかったのか。


 知らないのはこの国から離れた本土の方へといたので当然なのだが、今のカムイにはそんな事すらも自分を責めてしまう対象に入ってしまうのだ。


 それで何が変わったかはわからない。しかし、変わった可能性だってあるかもしれない。そう考えると余計に責めてしまう。


「クラウンにはああいったのにな......まるで恰好がついてねぇな、俺......」


 カムイはその汚れた手を拭わずに立ち上がるとここに来る道中で聞いた生きていた知り合いからの情報をもとに戦地の中心付近へと歩いて行く。


 しばらく歩いて行くとある場所に一切の瓦礫が円を作るように排除されていて、その中心付近に四角い形をした自然石が地面に刺さっていた。


 そして、その石の周りには大量の花束が置かれていた。まるで誰かの死を弔ったお墓のようである。


 その時点でカムイは全てを察した。そして、両手を強く握り、肩を震わせていく。顔はうつむき、歯を強く噛みしめる。


 その墓は友の中であった。その石に友の名前が強く刻まれている。死んだという事実を伝えるには十分すぎるぐらいであった。


 カムイのうつむいた顔から涙がポツリポツリと地面に落ちていく。そして、その涙は地面に当たるとそのまま染み込んだ跡を作っていく。握った拳を小刻みに震え、まるで何かの衝動を抑えているように見える。


 カムイはその墓に向かってゆっくりと歩みを進めていく。その度に現実が迫っていく。


 かすかな希望も泡のように簡単に弾けて消えていき、絶望という重苦しい気持ちだけが心の中で積み上がっていく。


 認めたくない認めたくない。あいつはまだ生きている。どこかからひょっこりとやってくるはずだ。あいつはたまにそう言う行動を見せるやつだ。


 そう思いたいだけなのかもしれない。そのこと自体カムイもわかっている。しかし、そう考えてしまう。もはや心だけが自分の意志と反しているような感じだ。


 その度に現実が精神をゴリゴリと削っていくようで苦しい、辛い、気持ち悪い、そんな気持ちがずっとグルグルと回り続けている。


 そして、カムイはなんとかその墓の前までやって来た。それから、その墓の前で膝に地をつけるとその墓に刻まれた名前を改めて見ていく。


「......グレン・アイルバッカー、ここに眠る。彼はこの国のもう一人の英雄である。彼がいたからこそ、この国はまだ微かに希望を見せる形で生存している。彼には最大の祝福と安らかな眠りを送る。どうか幸せな世界へとご冥福をお祈りする」


 カムイは墓に刻まれていた字を手でなぞりながら読み上げていく、流した涙はそのままにして。そして、読んでいるうちにもうカムイの心は抵抗する意思を見せなくなっていた。


 死んだとここに書いてるのだ。もうこれが現実なのだ。認めるほかに何があるというのか。いや、もはや心が疲れていて認めようとしているだけなのかもしれない。


 空はどんよりとした雲を運んでくる。その雲から覗く隙間から太陽の光が僅かに刺し込んできてその光が墓を照らしていく。


 するとその時、カムイは目の端にある光輝くものを見つけた。それは墓のすぐ足元辺りにあり、積まれた花束によって見えていなかったようだ。


 カムイはその花束をわきにどけて光るものを見た。それは――――――折れた刀身の先であった。


 その折れた刀身をカムイは手に持つ。そして、思い出す。忘れるはずもない。これはグレンが持っていた「守狩」の刀とは別のもう一つの刀だ。


 グレンはその刀と「守狩」を使って二刀流であった。確かその刀身の名は―――――――


「!......ああ、朱里か。どうした?」


「カムイさん......」


 カムイは何かの気配を感じて振り返るとそこには朱里の姿があった。一体いつから後ろにいたのだろうか。いつもの自分ならすぐに気づいたことであろうことも、今じゃ全然ダメらしい。


 すると、朱里は何やら深刻そうな顔を見てカムイを見る。そのことにカムイは最初気づかなかったが、頬を伝ってくる涙で自分の顔が泣き顔であったことに気付いた。


 なので、カムイはすぐに涙を拭いていく。そして、いつもの明るい調子で振舞おうとする。


「よう、こんな所までどうしたんだ? これは俺の友の墓だ。どうにも寂しそうだったからよ、俺が会いに来てやったんだ」


「......」


「気分でも優れないのか? 先ほどから顔が暗いぞ? 俺のことを心配しているなら、あまり気にしなくていいぞ。俺は頼れるお兄さん的ポジ―――――」


「もういいですよ、カムイさん......」


 朱里はカムイの言葉を遮るように言葉を告げた。その言葉にカムイの無理やり釣り上げていた笑顔をだんだんと緩めていく。そして、哀愁を見せるような表情をした。


 どうやら自分の気持ちは朱里に見透かされているらしい。そこまで自分が弱っているのだろうか。全く年上であるのに情けないことだ。


 すると、朱里は小さく「良し」と呟くとカムイへと近づいていく。そして、目線を合わせるようにしゃがんだ。


「カムイさん、こちらを向いてください」


「お、おう......わかった!?」


 カムイは朱里に言われた通りに体の向きを朱里と向かい合うように直した。すると、朱里はカムイの頭へと手を触れさせていく。


「もう我慢しなくてもいいんですよ。カムイさんは頑張ってくれています。だから、もう無理しなくてもいいんです。朱里はカムイさんに対して出来ることは少ないかもしれないけど、それでも話を聞いてあげることぐらいはできると思うんです。だから―――――」


「!」


「―――――どうか今は先に気を落ち着かせてください」


 朱里はカムイを引き寄せるとそのまま抱擁した。そして、その状態からさらに頭を撫でていく。その優しさがカムイには染みたのか朱里にしがみつくように服を掴んで静かに涙した。


 そんなカムイの泣きすする音を聞きながら、朱里はそっと目を閉じて撫で続ける。

こういうの嫌いじゃないんですよねー

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