第145話 迷える心
読んでくださりありがとうございます(≧▽≦)
心理描写が多くいため、スピード感が欲しいこの頃
クラウンとリリスが後ろを向くとそこには青を基調とした甚兵衛を着て、何か職人の仕事をしているのか紐で裾をたくしあげ、服は少し汚れている青年がいた。
その青年は突然クラウンの背後へとやってくると「刀を見せてもらえないか」と尋ねてくるのだ。そのことに二人は害意を感じなくとも一応警戒する。
「なんだ突然? この刀は大事なものだ。見ず知らずのお前に見せるものじゃない」
「そこをなんとか。俺もただ確かめたいだけなんだ」
「諦めろ。俺は素性もわからないやつに親切に貸せる柄じゃないからな」
「――――なら、カムイ兄さんのことを知っていると言ったら?」
「「!」」
クラウンとリリスは僅かに目を開かせる。それはカムイのことを「兄さん」と呼ぶことに対して。
カムイはこの国にとって英雄である。となれば、その存在は普通なら「様」をつけて言うだろう。だが、ここでそう言ってきたということはこの青年はカムイの近親者の可能性が高いということ。
だが、その可能性を考えると一つ疑問が生じてくる。それはカムイに弟がいたかということだ。カムイがバカがつくほどの妹好きだということは知っているが、さすがに弟がいればその存在を言ったりするだろう。そういう場面はいくつもあった。
しかし、それを言わなかったということはカムイと仲が悪いのかということになるが、この青年の様子から見るとそういうわけでも無さそうだ。
なので、先に素性を明らかにしてもらうことにした。
「お前は誰だ?」
「......俺はカムイ兄さんの友達の弟。その『守狩』を愛用していた男の弟だ」
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場所は移ってエキドナ、朱里、雪姫サイド。その三人は茶屋で団子を買うと仲良く外の長椅子に三人座って食べていた。
「ん〜♡ 美味しい〜♡ 一日ぶりの食事はなんでもより美味しく感じるわね」
「空腹は最高のスパイスと言うからね。とはいえ、エキドナさんの食事はそれでいいの?」
「そうそう、あれだけの魔法を使えば体力の消費もすごいと思うし、もっと食べた方がいいと思うけど」
「そうね、確かにそうかもしれないわ。でも、私的には食事は皆で取るものだと思っているの。だから、今は少しだけ満たすだけにするつもりよ。ただ、お腹減っている時に食べると余計にお腹減るのよね」
「「わかるわかる」」
エキドナは右手に持った串をかかげたまま、左手でお腹をさすっていく。そして、エキドナの言葉を聞いた雪姫と朱里は深くうなづいていた。
どうやら種族は違えど、感じ方は似ているようだ。そう考えると種族による差というのは思っているよりも小さいものなのかもしれない。
「そういえば、私が飛行中の時に旦那様とは仲良くなれたかしら? 旦那様の戦いが終わって、王城で休息していた時もあまり話していなかったように思えるけれど」
「私は単純に距離感が分からないの。仁とは幼馴染と言ったけど、その時の距離感が何も分からない。どういう調子で、どういう声で、どのように話しかけていたのか」
「ふふっ、それは少しだけ勘違いしているかもね」
「勘違い?」
雪姫は思わずエキドナの言葉を繰り返した。それは当然雪姫の中では勘違いした部分がなにもないからだ。しかし、今言った言葉にはエキドナからすれば勘違いだという。なら、一体何がなのか。
すると、エキドナは優しさ笑みを見せた後、通りの方に目を移していく。その通りには色鮮やかなデザインの和服を着た人達が右から左からと通り過ぎていく。
ガヤガヤとうるさ過ぎず、しかし賑わいがある大通りの光景は見ていて楽しいものがある。そして、その光景を見ながらエキドナは雪姫に告げた。
「あなたは本当は気づいているのよ。自分が抱えている本当の気持ちを。ただ、それを怖がっている。認めるのが怖いんじゃない。認めたとして、その気持ちを拒絶されるのが怖いのよ」
「......」
「だから、居心地が良かった方を求めている。言い方を悪くすれば、逃げている。けど、それは決して悪いことじゃないわ。なぜなら、それはその距離をどうにかしようと考えているということだから。でもね、男っていうのは存外鈍いものなのよ。気づいていても、変なプライドを持って何も言ってこなかったりね」
「なら、どうすればいいんですか?」
「どうすればいいってそんなの決まっているじゃない」
エキドナは椅子に置いてある皿に手に持っていた串を置いた。そして、雪姫の方へと向くと手で雪姫の前髪を少しだけかきわける。同時に、目を合わせて告げた。
「あなたから言えばいいのよ。直接的な言葉でね。大丈夫よ、こんなに可愛い顔をしているんだもの。それに旦那様もその気持ちを蔑ろにするような人じゃないわよ」
「~~~~~~!」
雪姫はエキドナにそう言われると思わず顔を赤らめていった。それはまるで心を見透かされたように図星のことを言われたから。
確かに、最近雪姫がクラウンとの距離感を測りかねているのは、自分のしでかしたことに対する気持ちもある。だが、同時にクラウンに対する溢れる気持ちがあるから思わず距離を取ってしまうというのもある。
いわゆる「好き避け」というやつかもしれない。別に雪姫自身避けているというつもりは無いのだが、クラウンとあれから上手く話せていない以上はそれとあまり大差ないのかもしれないが。
とはいえ、そうハッキリ言うように催促されるとなんとも恥ずかしさがある。まあ、これ限ってはもとの世界からの因縁なのでいずれは決着をつけたいところではあるが。
「ち、ちなみになんて言ったらいいのかな?」
「そうね......あなたを食べちゃいたいとか」
「そんな意味深的な!?」
「あー、それに限っては相談する相手間違ってると思うよー」
雪姫はエキドナの妖艶な雰囲気で言った言葉に対して顔をさらに真っ赤にさせた。どうやらどういう意味か伝わってしまっていたらしい。
そのことに朱里は思わず呆れたため息を吐きながら、雪姫に言葉を伝えていく。朱里も散々通ってきた道なのだろう。その苦労が顔に浮かびでている。
「他にはむしろ食べてもいいのよ? とか、下腹部が熱ぼったいのだけど慰めてくれない? とか、あなたの子供が欲しいとか」
「もうそれ完全に誘ってるよね!? というか、私が期待していたのもう少しフラットな告白文だったのに、どうしてそんなにディープなの!? 告白を勢いよく通り過ぎだよ!」
「ふふっ、これぐらいの方が伝わるでしょ? むしろ、伝わらない方がおかしいと思うわ。安心しなさい。これで雪姫ちゃんも立派な人妻よ」
「なんか嫌だよそんなの!」
「雪姫、反論するだけ無駄だよ。この人に何言ってもライフを削りきること出来ないから。あの海堂君でもお手上げなんだから」
「私は違う意味で心配だよ......」
雪姫はそう呟くと朱里とともに疲れた遠い目をして、まともに戦ってはいけないのだと二人は認識した。その一方で、エキドナは久々に言いたいことが言えたような感じでスッキリしたような表情をしている。団子を食べていた時よりも清々しい笑顔だ。
雪姫は一度深呼吸をした。それは動揺しっぱなしの心を抑えるためである。そして、それをし終わると雪姫はあることを聞いた。
「そういえばなんだけど、エキドナさんはさっき何を話していたの?」
それは三人がこの茶屋へやって来て少しの時、エキドナは店主のおばあさんと何かを話していたのだ。その内容は外の賑わいで上手く聞き取れなかったのだが、話していたおばあさんの表情が悲しそうだったのは覚えていた。
すると、エキドナは立ち上がる。そして、椅子にお金を置いていくと「少し歩きましょう」と促してきた。なので、雪姫と朱里はそれに従って立ち上がり、エキドナに並んで大通りを歩いていく。
それからしばらくして、エキドナは話し始めた。
「私は職業柄ね、色んな人と話すのよ。まあ、私が話すのが好きというのもあるんだけどね。それで私はこの国にあったことを聞いていたのよ。出来る限り詳しくね」
「この国にあったことって?」
「そうね......そういえば、二人は知らなかったわね」
そう言うとエキドナはカムイのことを話し始めた。正直、話していいのかは迷ったが、仲間意識の高いカムイのことだし、それに出来る限り今の目的の理由を知っていた方がいいと判断したので話した。とはいえ、勝手に話したことに対してカムイに詫びを入れようと思いながら。
そして、カムイのこと聞いた二人は思わず暗い顔をする。特に朱里は。
カムイはずっと励ましてくれた存在である。朱里がクラウンに対してどうすればいいか迷っていた時、自分が弱気になっていた時に暖かい言葉をかけてくれた恩人である。
その恩人の知られざる過去聞いて、それがとても辛く悲しいことだと知って朱里は思わず顔をうつむかせた。だが、同時に「このままでいいのか?」とも思っていた。
だからこそ、朱里は聞いた。
「エキドナ、朱里はカムイさんに対して何か出来ることはあるかな?」
「あるわよ。ただ、それが何かは私には分からない。それでも確かに出来ることはある。その答えを朱里ちゃんらしく答えればいいのよ。焦らなくてもいい。真っ直ぐな気持ちを捉えればいい。そのためにも少し見ておいた方がいい場所があると思うの」
「見ておいた方がいい場所?」
エキドナは朱里にそう聞かれるとただニコッとした笑みを見せるだけ。そしてそのまま大通りを歩いていく。そんな様子に朱里と雪姫は一度互いに顔を合わせるとその後をついて行く。
すると、ある所でエキドナは大通りから外れの道へと進んでいく。それから、進むたびに次第に新しかった街並みは廃れたものへと変わっていく。しかも、どこまでも続いている。まるでこっちが本当の街並みであるかのように。
さらに進んでいくともはや廃屋のような家々がところせましと存在していた。少しでも力を加えれば壊れてしまいそうな家に粗野な服を着た大人や子供が出入りしている。
「ここは......スラム街?」
「まあ、そんなところね。でも、私が見せたいのはそれじゃないのよ」
そしてその道をさらに進んでいくとだんだんと開けた場所が目に入ってきた。
その場所はある所から家が一切なく、家らしきものが崩れ、燃えて黒い煙を天まで伸ばしている焦土であった。




