第14話 すれ違う思い
これで勇者サイドは終わります。明日からカチコミます
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「ガルドさん、今日はどちらまで?」
「ああ、そうだな。今日は昨日言った通り強い魔物と戦ってもらう。そのための場所だ」
響が聞いた相手は聖騎士団長のガルドで、ガルドは少し何かを隠すような素振りを見せながらも響の質問にしっかりと答えた。だが、やはり隠すのは忍びないと思ったのかしばらくして口を開いた。
「......実はな、教皇様から叱られたんだ」
「それは......もしかしなくても僕たちのことですよね?」
「すまんな」
「謝らないでください。僕たちはガルドさんに良くしてもらってますから」
響は思わず暗い顔をしたガルドにフォローを入れた。ガルドとはこの世界に来てからの付き合いだ。顔は渋く声も低めだが、来たばかりの僕たちに親切にいろいろなことを説明してくれた。わからないであろうと思ってこと細やかに。
そして、心に寄り添おうとしてくれた。戦いも魔物もいなかった世界で、唯一心の内を話すことができた。
だから、僕はガルドさんのことを信じている。そして、出来る限りのことでその思いに答えたい。最終的には魔王を倒すことで。
だが、分かっている。圧倒的にレベルが足りないことに。そのレベルは能力値によるものではない。能力値はこの世界の人々からみれば自分たち全員チートレベルである。
足りないのはこの世界の常識によるレベルの差だ。今も覚えている切った感触を、殺した実感を。それを未だ拭え切れずにいる。それは皆きっと同じだろう。
だが、僕は勇者だ。勇者ならもっと適任がいると思ったが、選ばれたのならその使命を果たさなければならない。
「ここだ」
「ここってなんにもいないっすよ」
弥人の言う通り見渡す限りの木々ばかりそして魔物の気配一つしない。するとガルドは周りの兵士に何かを命令すると兵士は袋からさらに小さな袋を取り出した。それをガルドに渡すと響たちの方を向いた。
「ここは悪鬼の森と言ってな、いわば人型の魔物が住み着く場所だ」
「人型の......」
「ああ、そうだ。君たちが戦うことになる魔王は人間でないが人であることには変わりない。故に君たちにはその悪鬼を倒すことによって、言い方は申し訳ないが『人を切る感覚』を養ってほしい」
響はガルドがなぜ言いづらそうにしているのかが、分かった。そして、同時に「ついに来てしまったか」という思いもした。心のどこかではこうなることは分かっていた。
だが、覚悟は今も全然足りない。「勇者であるのに情けない」そう叱咤しても手の僅かな震えが止まらない。
しかし、勇者がしっかりしなければ、周りの仲間達にも不安を与えてしまう。......こんな時、あいつならどう動いたろうか。ダメだダメだ、あいつはもういないんだ。
ふと過るのは明るかったあいつと目を合わせただけで人を呪い殺せそうなあいつ。ふと頼ってしまえば、過去の記憶がフラッシュバックして心を蝕む。
その時、肩になにかが置かれた。思わずその肩を見ると手があり、その手は弥人のものだった。弥人は響に向かってそっと言う。
「俺はバカだからこういう時なんて言っていいかわからないけどよ、お前の気持ちを素直に言えばいいんじゃねぇか?」
「弥人......そうだな。お前の言う通りだ」
響は弥人の心意気に感謝すると仲間たちに告げた。
「皆、聞いてくれ。僕たちは今から人と戦う。見た目も知能も低いだろうけど、この戦いは人と戦うための模擬戦ようなものだ。だから、僕はこう言った。俺は勇者だけど、まだ全然皆を引っ張るような言動も出来てないけど、それでも一緒に戦ってほしい」
「いいぜ、やってやるよ」
「私も頑張るよ」
「朱里もいっちょ頑張るよ」
弥人、雪姫、朱里と続くとその言葉に合わせて皆が反応した。響はその言葉に歓喜した。この胸が熱くなる感じ。その時、ふと震えが止まっているのを感じた。
「準備はできたようだな。いい覚悟だ......それでは行くぞ!」
ガルドは手に持っていた袋を地面に叩きつけた。すると全方位から微かに音が聞こえた。そして、それが次第に大きくなっていった。響たち勇者一行はそのことに戸惑いを見せている。
「ガルドさん、これは......」
「獅子は子を強く生き残れるようにするために千尋の谷に突き落とすという......すまない、出来る限り早く強くさせるためにはこうするしかないのだ。だから......武運を祈る」
「.....はい、任せてください」
響はガルドに大きな声で返事を返すと仲間たちに指示を出して、陣形を取り始めた。
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「討伐任務、見事な活躍をされたと聞きました」
「見れなかったのは残念ですが、それはさぞかし大活躍だったんでしょうね。あ、このお料理、美味しいですよ」
「私は、勇者様御一行が討伐し終えて帰って来られるところ見ましたわ」
「私は―――――――――――――」
「はは、ははははは」
勇者である響に多くの貴族の娘が我先に寵愛を受けようと必死にアピールしている。そんな娘たちに対して響は苦笑いを浮かべている。
響は基本値が高いルックスやスペックから高校に通っていた時もかなりモテていたが、正直ここまで押しが強い人はいなかったためどういう対処をすべきかわからず困っている。
そんな響を見て嫉妬に狂う男子たち。そんな男子たちに飯を夢中で食っていた弥人は呆れた顔をしながら歩み寄る。
「お前ら、その時点で負けてるぞ」
「「「「「うるさい、脳筋が!!!」」」」」
「おいこら、誰が脳筋じゃああ!!」
「まずい、ゴリラがキレたぞ」
「逃げろ!......できるだけ慎重に」
すると男子たちはできるだけ速い速度で歩くと蜘蛛の子を散らすように逃げていく。弥人はそんな男子を見て呆れたような顔をすると再び飯を食い始めた。
今更ながら、ここはパーティ会場だ。そして、今は隣国と勇者一行との催しが行われている。前からこんなことはたびたびあった。最初は召喚されたとき。次は王族と古株貴族と。三回目は中小貴族も含めた。
そして、今回はかねてから勇者一行と会いたがっていた隣国のハザドールとである。それからある場所では女子同士年齢も近いせいか楽しく会話していた。
「光坂くんもこんな所でもモテるなんて隅に置けないね~」
「すみません。私の国の貴族のものが......」
「大丈夫ですよ。響くんならなんだかんだで上手く切り抜けますから」
【ハザドール】の姫、シュリエールは響に群がる自国の貴族の娘たちを見て申し訳なさそうな顔をする。そんなシュリエールに雪姫はフォローの言葉を入れた。そして、ついでに聞きたいことも聞いた。
「そういえば、シュリさんは響くんに挨拶とかはいいのですか?」
「それに関しては大丈夫です。もうすでに挨拶は済ませてありますから。それに私てきには女子同士で話していた方が気が楽なんです」
「へ~、意外ですね。姫様なら勇者に憧れると思ってました」
「そうですけど、そうじゃないんです......」
朱里の言葉にシュリエールは言葉を暗くした。だが、表情からはそのような悲しい印象というのは受けない。
しかし、これは姫故のポーカーフェイスであることをスティナは見抜いていた。そして、言いづらそうにしているシュリエールに代わって説明を始めた。
「雪姫、朱里の世界は確か自由恋愛でしたよね?ですが、私たちは王族として世継ぎを残さなければなりませんので、自由恋愛はできません。その意味がわかりますか?」
「「あ......」」
「そんな深刻に捉えないでください。私にも多少は選ぶ権利というのはありますから」
深刻な表情をした雪姫と朱里にシュリエールは慌ててフォローを入れた。それでも、二人には「多少」という言葉がなぜか強く残った。
ほとんどの人は誰にも強制されず自由に人を好きになれて、付き合うことが出来て......そんな世界で生きていた二人にはそのことが酷く衝撃的だった。
だが、部外者が言えることはなにもない。嫌いな人でも好きにならなければならないといけないことはとても辛いことだ。それだけはわかる。
「少しだけ言葉を悪くしていいのなら、私はスティナが羨ましいわ」
「どういう意味ですか?」
「聖女様の結婚相手は勇者様ってことよ」
「「え~~~~~~!」」
二人は声をそこそこに大きくして驚いた。いや、これは驚いても仕方ないことだろう。なんせ本人のあずかり知らぬところではあるが、スティナという聖女で清楚で美少女との結婚が決まっているのだから。これは男子たちによる嫉妬の嵐が吹き荒れるだろうが、それは本人に対処してもらおう。
しかし、雪姫と朱里の反応に対しスティナはあまり変わりない表情だった。てっきり、響とよく話しているところを見かけていたので、顔を赤らめるぐらいすると思ったのだが。
「勇者様......この国を救ってくれる偉大な方。私には過ぎた相手ですよ」
スティナはそう言いながらふと懐かしそうな顔をした。
『聖女様は頑張ってますよ。だから、僕たちが頑張れるんです』
ありふれたお世辞のような言葉。だが、裏表のないその表情によって深く心に刺さった。たった一言で胸が熱くなった気がした。
そして、無性にその人のことが知りたいと思った。でも、もうそれは出来ない。
「私は案外、庶民派なんですよ。ですから、平凡でも誠実な方が好みです」
「これまた意外ですね」
「そうね、スティナってロマンティックな考えが多かったから」
「ふふっ、そうですか?なら、一本取ってやりましたね」
スティナは嬉しそうに笑うとそれから四人でいろいろな話題に対してしゃべりつくした。
「ふー」
「お疲れですか?」
「ん?......スティナちゃん」
催しはまだ続いている。だが、少ししゃべり疲れた雪姫はバルコニーへと出て疲れを癒そうと夜風に当たっていた。
するとそこに、スティナもやって来た。「こんなところにいても大丈夫なのか」と思ったが、スティナはそういう分別はついていると思い直すとスティナの方を向いた。
「......気持ちいですね、夜風が」
「そうね、とても気持ちいい。それに満月がキレイね」
二人は心地よい風に髪を揺られながら、ポツリポツリと話していく。テンポはゆっくりであったが、それが丁度良かった。するとスティナがふと雪姫の方を向いた。その目はどこか真剣味を帯びていた。
「私......好きだったのですよ」
「......!」
雪姫はたったその一言で全てを察し、思わず開いた口が塞がらなかった。一体いつから......なんて言葉は聞く必要はない。だが、それをなぜ今に?それからなぜ言おうと思ったのか?
その答えを知るために雪姫は尋ねた。
「どうしてそのことを?」
「私なりのケジメでしょうか。身を引くという意味です。もとより立場上不釣り合いでしたから」
「そんなことないよ。誰が誰を好きになろうと不釣り合いなんてことはない。だって、どうせその人に近づこうと努力するんだもの。気づけば釣り合ってるよ」
「そう言ってもらえてとても嬉しいです......私がこのことを言ったのは、なぜか嫌な予感がしたからです。とても悲しい何かが。なぜでしょうね、こういうのは結構わかってしまうんです」
スティナは哀愁漂う表情をしながら遠くに見える城下街の景色を眺めた。そして、もう一度雪姫の方を向くと言葉を続ける。
「雪姫さんほど強い気持ちは持っていないですけれど、なにかあれば助けになりますよ。前置きが長くなってしまいましたけど、私はそれが言いたかったのです」
「......ありがとう、スティナちゃん」
雪姫の目から一筋の涙が零れ落ちた。その言葉だけで今どれだけ救われたか。小さい頃からずっと好きで、でもその思いを伝えられなくて。関係を壊したくなくて。
そんな日々を送っている時に起きた異世界召喚。だが、彼がいれば問題なかった......そう思っていた。
私は彼を殺した。
大好きな人をおかしかったとはいえ自らの意思で。もう死んでも死にきれない日々をどれだけ過ごしたか。そして、今もそれは変わらない。けど、スティナちゃんが助けになってくれると言ってくれた。それがとても嬉しい。
スティナはそんな雪姫を見て、静かに会場へと戻った。
「もう一度会いたいよ......仁」
雪姫は仁が好きだった月を眺めるとスティナに続いて戻ろうとする。
「......?」
その時、尻目に月明かりに照らされた誰かを捉えた気がした。だが、ここは城の最上部に近い位置でここと同じぐらいになるには国を囲っている外壁に立つしかない。そして、そんなところに立てる人など仲間にもいない。
念のため見てみたがやはりいなかった。そして、雪姫はあまり気にせず会場へ戻っていった。
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「さあ、襲撃開始だ」
月明かりに照らされた仮面の男はその仮面の奥で深い笑みを浮かべた。
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