第139話 傲慢の使徒
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ここでついに今まで謎だった少年の正体が明らかですね。
その少年は悠然と歩いてくる。まるで何をされても問題ないように。
その少年は黒い服を着ていた。それは法衣のような感じで、言うなればラズリの格好と全く同じだ。
つまりは神の使徒。ラズリが怠惰の使徒だとすれば、色欲に乗り移っているリゼリアを除けば残りの五つのどれか。
その少年からは何も感じない。ラズリから抱いたような殺気も、見た目からヤバいと感じる威圧感も何も無い。ただそこにいる事が当たり前のように、空気のような自然さを持ち合わせていた。
ただ、だからといって、クラウン達が警戒を緩めることは無い。なぜなら、そいつが神の使徒であることは一目見ればわかることであるから。
「はあ、命令違反をしておいてやられるなんて......全く情けないとしか言いようがないね。でもまあ、魔王の因子を発芽させてくれたことには感謝しないとね」
少年は手を後ろで組みながら、堂々と歩いていく。そこが赤いカーペットで敷かれた王の通り道であるかのように。そして、ラズリのそば寄るとしゃがんで傷口を見る。
「深いね......でも、まだ微かに息はあるようだ。咄嗟に後ろに下がったことが生死を分けたとでも言うのかな。でも、ここで離脱されるのは面倒だし、これはこれでありがたいかな」
「なんだと?」
クラウンはその言葉に思わず反応した。だが、それは当然の反応だ。倒したと思っていた敵がまだ微かに生きているのだから。このままではまた戦わなければいけないことになる。その前に息の根は完全に仕留めなければ。
クラウンは上体を起こすとそのまま立ち上がった。そして、ラズリに肩を隠すように背負う少年に向かって刀を構える。幸い、聖樹の果実で完全復活した。なら、もう一戦ぐらいはいける。
しかし、少年はクラウンから放たれている殺気を気にすることも無く、クラウンの方を見据えた。
――――斬る!
クラウンは数歩前に歩いていくとそこから一気に地面を蹴った。瞳は三白眼のように収縮し、眉間にしわを寄せて限界まで一振りに意識を高めていく。
少年を間合いに捉えると地面を割るほどに踏み込みながら、蹴って蹴って走っていく。同時に、左手の親指で鍔を押し上げる。
あらかじめ構えていた右手は刀の柄を握ると瞬時に引き抜いていく。その刀は大気を真っ二つに切っていくように、もはや音も立たずに少年の首元に迫っていく。
「そんなことをしてもむ――――」
「うるせぇ」
刀は確かな感触とともに一気に少年の首を通り抜けていく。そして、クラウンは勢いのままに少年を通り過ぎていく。
それは誰から見ても確実な死であった。
少年の首ははね飛ばされ、頭が回転しながら宙に舞っているからだ。だが、一つ不自然なことがあるとすれば、それは頭からも首からも血が一滴たりとも流れていない事だ。
すると、その不自然はだんだん現実なものになっていく。
頭のない少年の体はクラウンに頭をはね飛ばされても、依然としてラズリを抱え付け、そして腰を支えている手を自身の目の前に伸ばすと落ちてきた頭をキャッチした。
その行動に全員が戦慄を覚えた。その事実は死ぬことはないと言っているようなものだからだ。
すると、少年は手に乗せた頭をクラウンに見せつけるように向けるとその状態で告げた。
「だから、無駄だと言ったでしょ? 人の忠告は素直に聞きいれた方がいいと思うけど」
「お前......まさか!?」
少年は笑って――――いや、その時の顔は少年ではなかった。その顔は忘れるはずもないあの時に戦った男の顔であったからだ。
見間違いなどでは無い。確かにその場に存在する。いや、もっと言えば存在しすぎている。
本来感じるはずのない無数の気配がその少年の容姿をし神の使徒から感じる。一つの容器に大小様々な何かを詰め込んだような感じだ。ラズリの時でさえ、一つであったにもかかわらず。
クラウンはその二重の事実に思わず混乱する。
得体の知れない何か、それこそラズリより人間らしい雰囲気で、人間らしくない存在。まさに不気味という言葉がふさわしいほどに。
少年はクラウンの様子から何かを察すると顔を少年の顔に変えて、丁寧に答え始めた。
「それでは、初めましての方が多いから自己紹介でしもしようか。僕の名前はレグリア。我らが主の七柱の一つにして、傲慢を司る神の使徒さ。どうぞお見知りおきを」
「傲慢......やはりお前もか」
「まあ、表立って行動してるのは僕ぐらいじゃないかな。それにしても、生きていてくれて本当に助かったよ。ラズリが勝手な命令違反した挙句に、キミを殺してしまうようなら目も当てられなかったしね」
「......何が言いたい?」
レグリアはクラウンの生存を喜ぶように声を張り上げた。その声は確かに嬉しそうでもあり、何かを企んでいるようにも感じる声であった。
クラウンはこの時点でさらに攻撃を仕掛けてもよかった。だが、これ以上攻撃すれば、わざわざ戦う意思を見せないレグリアを刺激することになり、戦う羽目になればこの場にいる何人かは確実に死ぬ事になる。
これはもはや事実を見てきたかのような直感とラズリとの戦闘から得た経験による判断だ。なので、いつでも何かが起こった時のために動ける体勢は取っておくが、こちらから動くことはしない。
そんなクラウンの様子を見たレグリアは思わずため息を吐く。その態度は先ほどの喜びの顔とは打って変わったような顔であった。
「なんだよ、その態度は。せっかく発芽したというのに、そんな調子はあんまりじゃないか」
「だから、何が言いたいだ?」
「僕は君の存在を強く必要としている。だけど、キミじゃない。どうしたんだい? 僕と戦った時のような狂気だった目は? もしかして、忘れてしまったのかい?」
「お前は俺の何かを知っているのか?」
「いや、知らないよ。単純にキミが僕の知っているキミとは変わってしまったことに思わずガッカリしているところなだけだから。あの時のキミだったら、仲間のことなんか考えずに今すぐ僕に斬りかかってきただろうに」
「お前に戦う意思を感じれば、すぐにでも叩き斬ってやるつもりだ」
「その時点でダメだよ。本当に僕が望んでいたキミじゃない。はあ、本当にガッカリだ」
レグリアはクラウンにも分からないことを吐きながら、大きなため息を吐いていく。その事に、クラウンはだいぶイライラしているが、それでも動くことはなかった。
すると、レグリアは手に持っていた頭を首へとくっつける。そして、回しながら位置を微調整していくと頭から手を離した。
その瞬間、首にあった傷はキレイさっぱりに消えて、レグリアは何事も無かったように首を回していく。
「でもまあ、まだ希望はあるし、なんなら発芽した時点で僕の勝ちだ。けどまあ、まだ準備は必要だから僕はここら辺で......おっと、いけないいけない。」
ラズリは空間に手をかざすとその位置が波紋のように揺らめいでいく。そして、その空間に手を突っ込むとわざとらしく何かを落とした。
それは人の姿をしており、着物を着ている。手足は刻印がある魔法的なもので縛られていて、口も同様なのか閉じていて動くことは全くない。
そして、ピンク色の長い髪をして、額からは特徴的な日本のツノを生やした――――鬼族の少女の姿であった。
その姿を見た瞬間、一人の男が反応した。その表情は唖然とした様子で、事態を理解しきれていないような顔であった。
しかし、その言葉はおのずと勝手に出てくるものだ。
「ルナ......」
カムイはジッとその少女を見つめる。やはり、そうだ。見間違えるはずもない、妹の顔である。
そんなカムイの様子を知ってか、知らずかレグリアはその少女の腕をを掴むとおざなりに持ち上げる。
――――その瞬間、カムイは思いっきり走り出した。その顔は激情に全てを染めていた。
「俺の妹から手を離せえええええ!」
カムイはカタナを引き抜くとその白き刀身を炎で真っ赤に染め上げていく。その熱量はまるでカムイの怒りの状態を表しているかのようであった。
そして、カムイはレグリアへと接近するとその刀を両手で一気に振り下ろす。少女を掴んでいるレグリアの手を切り離すように。
だがその瞬間、その攻撃は横から来た刀によって弾かれた。その黒き刀身はクラウンの持つ刀で、ふと見ればカムイの攻撃を確実に弾くような体勢であった。
その事にカムイは思わず怒号のような声をあげようとする。しかし、その直後にカムイの首筋を僅かに何かが切り裂いて通り抜けた。
カムイがそれを後目で確認するとそれは人の腕であった。だが、軟体生物のようにうねうねと動いているが。
「残念、はずしたかー」
レグリアはおどけたように言いながら、少女を掴んでクラウンとカムイから距離を取る。そして、再び空間に揺らぎを作るとその中に少女を放り投げた。
レグリアは異様な姿であった。少年のような姿でありながら、ラズリの腕を掴んでいる手の肩から、もう一つの腕が生えているのだから。
そしてさらに、もう片方の肩からも腕を生やすと四本の腕でもってラズリを支える。
すると、レグリアは面白そうに告げた。
「いいかい? 僕を殺そうだなんて愚かな考えはやめた方がいいよ。キミ達じゃあ、僕には勝てることなんてないから。なんせ、僕の攻撃モーションにも気づかないぐらい視野が狭いんだから。でも、唯一勝てる見込みを作るとしたら、その少年をもとのあるべき姿に戻すことだね。もっとも、今のキミ達ではしようとも思わないだろうけどね」
レグリアは揺らぎの中に片足を突っ込む。そしてそのまま、体全体を突入し始めた。
入ったであろう箇所には何も見えない。別の次元に移動しているかのような感じだ。気配すらも感じない。
すると、レグリアはその揺らぎから顔だけ出して、カムイへと視線を向けながら告げた。
「あ、そういえば、もし助けに来たかったら、たまには里帰りしてみればいいと思うよ? もしかしたら、生まれ変わった姿でいるかもね。もちろん、生死は別としてね」
それだけ言い終えるとレグリアはその揺らぎに入っていく。そして、その揺らぎはピタッと初めから何も無かったように存在を消した。
そして、クラウン達がいる王の間には静寂が空間を支配した。
初の日間ベスト300入り! 順位はともかくここにこれたのは読者様のおかげです。本当にありがとうございますm(_ _)m




