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神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~  作者: 夜月紅輝
第6章 道化師は惑う

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第138話 光の復活

読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)


あのままでは終わりませんよ

 リリスは泣いた。逆に言えば、泣くしか何も出来なかった。自分の魔法ではクラウンの目を治すような魔法はない。その事が悔しくて悔しくてたまらなかった。


 だが、リリスはまだ諦めきれていなかった。当然、クラウンとこの先の世界を見た光景をともに共有したいからだ。


「なにか、なにか他にないの? 探せ、もっと頭の中から捻りだせ!」


 リリスは頭の中にある記憶をフル稼働させる。そして、その記憶の中から一つだけヒットした。まだ可能性があるという範疇だが、現状を打破するにはそれしかない。


 リリスは指輪を掲げるとそこから一つの果実を取り出した。その果実は砂漠の国で手に入れた果実で、食えば体の傷を回復させるというものだ。


「クラウン、口開けて」


 リリスは指輪からさらに包丁も取り出して、その果実を一口サイズに切り分ける。そして、そのうちの一つをクラウンの口の中に入れた。


 クラウンはそれを噛み砕くと喉の奥にゴクリと流し込む。すると、クラウンの体にあった無数の切り傷はすぐさま収まっていく。その事にリリスは思わず希望を見いだした。


「クラウン、目の方はどう? 開けられそう?」


「......」


 リリスは少しだけ弾ませた声でクラウンへと尋ねる。だが、その言葉にクラウンが返すことはなかった。その表情は頑なに言葉を発言することを拒んでいるようにも見えた。


 その表情にリリスは思わず固まった。瞳孔はただクラウンの目の一点を見つめていて、口は少しだけ開けっ放しになっていた。それは理解してしまったからだ。


 クラウンの行動の意味を。


 リリスがクラウンのことをよく知ってしまったが故に察してしまったこと。どちらにせよ、いずれ知ることになるとはいえ、それだけ心の距離が近くなった状態でそのように知ってしまうと心には大きく響いていく。


 つまり、クラウンの目は復活していないのだ。


 その事を一番最初に知ったクラウンは希望を見ているリリスに対して、直球で言うことが出来なかったのだ。それはリリスが自分に対してどのような気持ちを抱いているか知っているから。


 事実をありのままに伝えてしまえば、リリスが気づくことは明らかだった。いや、本当はクラウン自身が言った言葉でリリスを傷つけたくないというのが本音なのかもしれない。


 しかし、どのみち真実にはたどり着いてしまった。リリスはその事実を理解してしまった。だから、ただただ何も反応出来ずに見開いた目から涙がこぼれ落ちるばかり。


 リリスの頭はその事実を拒もうと必死だった。だから、何も反応することが出来ない。しかし、もう現実は何も変わることは無い。


 ――――現時点では。


「リリス、来たよ! それにさっきの爆発音でエキドナ達も来たみたい!」


「雪姫様! それにお父様まで!」


「とにかく今は治療が最優先よ! すぐに二人とも旦那様のそばに連れてきて!」


「了解です」


「おうともよ!」


「みんなぁ......」


 リリスの背後から頼もしい声が聞こえてきた。それは先ほど一緒に来ていた朱里とシュリエール、それから先に行くよう言ってくれたエキドナ、ベル、カムイの五人。


 そして、いち早く状況を理解したエキドナがすぐさまベルとカムイに指示をする。


 その声を聞いた瞬間、リリスは涙で歪ませた顔で五人の姿を見る。そんなリリスの顔を見た全員が(特にエキドナ、ベル、カムイの三人は)今まで見せたことのない顔をリリスがしていること驚いた。


 だが、その様子について聞くことはしなかった。聞く必要もなかったからだ。リリスがいつだって本気で悲しむのは仲間とクラウンのときであるからだ。


 エキドナは雪姫と王様へそれぞれ向かったベルとカムイに声をかけていく。


「ベルちゃん、カムイちゃん、様態はどう?」


「大丈夫です、眠っているだけみたいです。斬られた箇所にも傷はないです」


「こっちは僅かに意識があるような感じだ。だが、衰弱気味であるようだ」


「そう、それならいい物があるわ」


 エキドナはベルには気付け薬を、カムイには例の果実を渡した。そして、ベルが雪姫に気付け薬を嗅がせると雪姫はむせたように咳き込みながら、目を覚ました。


「よかった! 雪姫!」


「朱里ちゃん?......私は......」


 雪姫は夢と現実を混同させているようで、まだハッキリと意識を回復していないようだ。


 一方、カムイの方では王様の口に果実の汁を流し込んでいく。それから、王様がそれを飲んだ瞬間、一瞬の体に走る痺れと共に青ざめていた顔が少しずつ良くなっていった。


 そして、王様は疲れたようにスースーと眠りについた。その様子を見てシュリエールは泣きながら、王様――――自分の父親に抱きついて泣いた。


「私は何を......仁を庇ってそれで......仁!」


 意識をハッキリさせた雪姫は上体を起こすとクラウンの方を見る。しかし、すぐに言葉を失った。それはクラウンのこともそうであり、リリスの表情も悲惨であったからだ。


「エキドナぁ......仁の目が......目が回復しないの......」


「リリス、強く心を持ちなさい。あなたの心が折れるにはまだ早いわ。それに信じてる男ぐらいにはいい顔しときなさい」


 エキドナはそう言いながらクラウンの閉じたまぶたに触れていく。そして、リリスの言葉からも大体のことを察していたが、どんな状態かハッキリとわかってしまった。


 その事にエキドナは思わず歯を食いしばる。しかし、悔しがる前に頭の中にある前知識を呼び起こした。


「クラウン......目を開けてよ......」


「......バカが......そんなに肩震わせて泣くんじゃねぇ。いつもの気丈なお前はどうした? 俺は大丈夫だ。それはお前が一番知ってる事だろ?」


「でも......」


「大丈夫だ、俺はお前達を()()()()


「......うん」


 クラウンはリリスの首に手を通して、頭を抱える。そして、自身の頭を持ち上げながら、額と額をくっつき合わせる。その時の表情は不敵な笑みを浮かべていた。


 その突然の行動に驚くリリスであったが、次第に表情を緩めていき、嬉しそうき返事をした。


 その時、エキドナの脳内サーチがヒットした。そして、エキドナはすぐにリリスへと声をかける。


「盲点だったわ......でも、旦那様は大丈夫よ。それで、リリスは空き瓶かなにか持っているかしら?」


「空き瓶? あるけど......」


 リリスは指輪から一つの空き瓶を取り出すとそれをエキドナに渡していく。すると、エキドナは自身のポーチから一つ果実を取り出した。


 それは紅い宝石の方な果実。その見た目やほのかに香る匂いからもどこか神々しさを感じさせるそれは聖樹で手に入れたもののひとつであった。


 すると、その神聖な気配を感じたクラウンは思わずエキドナに尋ねる。


「エキドナ、それを使っていいのか?」


「いいのよ。息子やみんなを助けるに必要な量を確保すればいいだけだから。それに病気にかかわらず、この果実はそもそも全てに効く。恐らく旦那様の目も回復するわ。そういえば、旦那様は一つ持っていたと思ったけれど?」


「勢いで一つ丸々使ってしまった」


 クラウンの言葉に雪姫は思わず暗い顔する。雪姫はクラウンを助けるために行動したのに、それが結果的にクラウンを苦しめたようなことになってしまっているから。


 だが、その暗い気持ちはクラウンの次の一言で簡単に霧散した。


「......別に使ってしまったことに後悔はしてない」


「!」


 雪姫は思わずクラウンを見た。もちろん、何も変わっていないが、見えてないはずの目からはどこか視線のようなものを感じた。その事に雪姫は顔を覆うようにして涙する。その肩を朱里はそっと触れた。


「それじゃあ、旦那様は口を開けて」


 エキドナは空き瓶に分けた果汁の残りを旦那様へと流し込む。すると、クラウンは咄嗟に両目を両手で押さえつけるように覆って、体を仰け反らせた。


「あああああ!」


 クラウンの口から苦悶の声が聞こえてくる。その声に全員が心配そうにクラウンの様子を見続けた。


 クラウンの声以外に耳をすませば、僅かに炙られたようにジューという音が聞こえてくる。それは目が再生している証拠なのだろうか。


 そして、その音がなり止むと同時にクラウンの押さえていた手はバタリと力なく倒れた。その事にリリスは心配そうな声を上げる。


「く、クラウン?」


「なんだ? リリス......俺はしっかりと見えてるぞ」


 クラウンはリリスの顔にそっと手を触れさせる。そして、ゆっくりと目を開けた。それから、親指でリリスの頬を少しだけ撫でる。


「クラウン!」


「普段見せない表情だな」


「うっさいバカ! 黙って心配されてなさい!」


「......悪かった。心配かけたな」


 リリスは抱えていたクラウンの体に思いっきり抱きついた。自分の存在をこれでもかと教え込むように。そのことにクラウンはそっと腕を背中に通して触れる。


 また、リリスが泣き止むのを待ちながら、クラウンは隣にいる雪姫へと視線を移した。その目は僅かに優しい目をしているようにも見えた。


「生きてるな」


「うん......生きてるよ。ありがとう、仁」


「全てのことがつくまでに死なれては困るからだ......だがまあ、良かったな」


「うん!」


 雪姫は流した涙をそのままに笑顔でうなづいた。その表情を見るとクラウンは疲れたように目を閉じる。


 そんな光景をエキドナ、ベル、カムイ、朱里、シュリエールといい顔をして眺めていた。それはクラウンが復活したこともあり、おおむね雪姫との関係性も良くなったこともあり、クラウンが丸くなってきたこともだ。


 もしかしたら、最後の気持ちが一番強いかもしれないが、それもいいだろう。過去がどんな形であれ、こういう風に収まったのだ。


 当然全てを解決したわけではない。しかし、これはいい兆候であることに変わりはない。


 そんな柔らかい空間に――――音もなく一人の男が現れた。


「ラズリが殺られてしまってるじゃないか。これはめんどくさいことになったね」


 その男は少年の姿をしていた。

また新たに誰か来ましたね

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