第137話 うそだ......
読んで下さりありがとうございます(≧∇≦)
ハロウィンが近いですね。全く関係ない話ですが!
――――ドガ―――――ンッ!
「何!? なんの音!?」
「恐らく、クラウンがラズリ......雪姫をさらった敵と戦っているのよ。どっちがどれほどの何をしているかはわからないけど、きっとクラウンがやってくれているはずよ」
朱里は突然頭上から鳴り響く音に驚いた。そして、そのあまりの衝撃音に耳を塞ぎたかったが、今は人を背中に背負っているので何も出来なかった。
すると、そんな朱里にリリスが察していることを話していく。そして、リリスも同じく重力で十数人もの地下にいた男達を城の外へと運び出していた。
そして現在は、残り最後となっている男達を運び出している。だが、通っている場所は最初に通ってきた道ではない。そこは何回か運んでいるうちに、女兵士にバレて潰されてしまったのだ。
なので、強硬手段で城の中を走り回っている。城の外までの案内はシュリエールがやってくれている。
しかし、派手に動きすぎたのか弓矢や剣、槍をもった女兵士達の集まりが早くなってきている。
「シュリエールちゃん、あと外まではどのくらいかしら?」
「この道の突き当たりを曲がれば、正面階段へと出ます。そこまで行けば、あとは下りて扉を抜けるだけです。ですが......」
「恐らく読まれているだろうな。意表を突くとしたら、たとえば横にある窓から飛び降りるって感じなんだろうが......」
カムイはそう言いながら、朱里とシュリエールを見る。すると、二人は全力で首を横に振った。「それは飛ぶなんてムリムリ」ということを示していた。
その事をわかっていたようにカムイは苦笑いを浮かべる。すると、ここでエキドナはリリス達に告げた。
「ねぇ、リリスちゃん。あなたはここで旦那様の方へと向かった方がいいんじゃないかしら? 旦那様がいくら強いとはいえ、あの敵は一度私達が無様な敗走を期した相手よ。確実なら、そっちの方がいいと思うわ」
「あの海堂君が逃げたって本当なの?」
「ええ、本当よ。そして、それは私も、リリスも、ベルも同じ。本当に情けない話しよね。でも、あの時に旦那様が『逃げろ』という命令をくださなかったら、それに今は亡き仲間の命がなかったらきっと今ここにいないでしょうね」
「それほどまでに恐ろしい相手なのですね」
「前のお前さん達のことをあまり知らないが、まさか仲間を失ってしまってるとはな。それで生きれている相手......確かに1人では分が悪いな」
「リリス様、どうするです?」
リリスはその言葉に咄嗟に考える。今優先すべきことはクラウンのもとへ行くことか、男達を城の外へと救出させることか。自分が選びたい方は......
「ごめんなさい、私はクラウンのもとへ行かせてもらうわ。この人達を任せてもいいかしら?」
「ええ、それがいいと思うわ。私が竜化すればリリスちゃんの運んでいる数人程度なら簡単に運べるわ。まあ、この城を少し壊してしまうことになるけど」
「民のためです。それぐらいなら仕方ないと思います。そして、エキドナ様、申し訳ありませんが、私もお父様の安否のためにリリス様と一緒に向かわせてもらってもよろしいでしょうか?」
「そ、それなら、朱里も雪姫が心配だよ! 朱里も行かせてください!」
「おう! 行ってこい! ここは俺達に安心して任せればいいさ」
「私はいざとなればすぐ駆けつけられるように待機しておくです。危険だと思ったら、外へと合図のようなものを送ってくれるとありがたいです」
「ありがたいのはこっちよ。それじゃあ、行ってくるわ」
そして、リリスは重力で浮かせていた男達を床へと降ろすとシュリエールの案内のもと朱里と走り出した。
だがすぐに、リリス達の前に女兵士達が立ち塞がる。そして、指揮官のような一人の女兵士は右手にもった剣をリリス達に掲げ、告げた。
「この先は一切通させん! 総員迎撃用意―――――放て!」
その瞬間、女兵士達は弓を構え、大きく弦を引くと一斉に矢を射出した。その矢は風を切り裂きながら直進していき、さながら横殴りの雨のよう。
「邪魔よ!」
「すいません!」
「申し訳ありません!」
リリスと朱里はシュリエールを庇うように目の前に出る。その時も時間が惜しいとばかりにずっと走り続けている。
そして、リリスは超重力を前方へと発生させると目の前から来る無数の矢を強制的に床へとたたき落とした。
それから、次の装填された矢が来る前に朱里がホルスターから銃を両手で持ち、雷の弾丸で体の一部を掠めさせていく。
それによって、女兵士達は体が痺れたような状態になり、そのまま体を硬直させたまま床に倒れ伏した。
すると次は、剣や槍をもった女兵士達が突撃してくるが、それはリリスの重力によって床に這いつくばらされた。
そして、その状態の女兵士達に朱里が弾丸を撃って動けなくさせる。しかし、数はまだまだ来る。女兵士に限らずメイドのような姿のものもやってくる。
「仕方ないわね。朱里、シュリ、二人とも時間短縮するわよ」
「え?......わ、わああ!? 体が浮いた!?」
「こ、これは先ほどからリリス様が使っていた魔法ですよね? まさか自分も陸から離れる日が来ようとは......」
「それだけ言える余裕があるようなら大丈夫そうね。それじゃあ、行くわよ!」
リリスは多少なりとも走るスピードが落とされていたことを危惧して、どうせここに一気に集まっているなら、「さっさと突破すれば他の箇所は手薄なのでは?」と考えた。
そして、そう思ったなら善は急げ。リリスは自分や朱里、シュリエールを重力で持ち上げて一気に横へと落ちた。
「「わあああああ!」」
リリス達は一気に横移動し始めた。しかし、それは重力で落ちる向きが変わったということだけなので、結局落ちている感覚を味わうことには変わりない。
なので、飛ぶように移動するんだろうと思っていた二人はイメージと違う移動の仕方に思わず叫び声を上げた。
「リリス、前隠して! 前!」
「別に隠す必要ないじゃない。だって、今ここには女しかいないのよ?」
「それでも!」
朱里はシュリエールがドレスのスカートがめくれ上がるのを抑えていることに気づくとふとリリスに視線を移した。すると、リリスは隠す様子もなく、ガッツリ下着が見えてしまっている。しかも地味にエロい。
その事に自分の事のように恥ずかしさを感じた朱里は思わず近づいて、そのスカートのヒラヒラを手で押えた。そして、思わずリリスに言ってみるが、リリスが気にしている様子はあまりない。
「そんなことよりも、シュリエール。ここからどこへを通れば王の間へと着くの?」
「と、とりあえず、階段を全部登ってください!」
「わかったわ。それじゃあ、階段はと......む、あの階段は中央が空いているタイプじゃないみたいね。はあ、仕方ない。少し揺れるけど我慢してよね」
「「え?」」
そして、リリス達は階段付近までやってくると先ほどまで横を向いていた足は斜め上に上がって階段を登り始めた。そして、踊り場で途中一時停止したかと思うと今度は背中側を強い勢いで引っ張られ始めた。
そして、それを階段を登りきって最上階に行くまでに何度も何度も繰り返した。そのせいで、朱里とシュリエールは若干酔ったように顔を青ざめさせていた。
そして、最上階に至ると少しだけ休憩。もちろん、これは朱里とシュリエールのためである。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ......」
「は、はい......私もうぷっ」
「全然大丈夫そうじゃないわよ。ほら、少し水でも――――」
リリスがそう思って指輪から水筒を取り出そうとしたその瞬間、城を揺らすような巨大な振動と轟音が鳴り響いた。その振動はリリス達にもしっかりと届いており、王の間で何かが起こったのは明らかであった。
すると、リリスは指輪に込めていた魔力を抜いていく。そして、シュリエールへと告げた。
「ごめんなさい、私は先を急いでいいかしら?」
「ええ、是非ともそうしてください」
「朱里達は少ししたら追いつくから」
リリスは二人の言葉をしっかりと聞くと背中を向けて走り出す。そして、開かれたままの状態の王の間へと突入した。
「......っ!」
リリスは自分でも思わず息を飲むのがわかった。それは王の間にある悲惨な光景を見たからだ。
王の間は床も壁もどこもそこも大きくヒビが入っていたり、壁に至っては外が見えるほどに大きく崩れていた。
そして、その空間の中に王の椅子に座る一人の中年。壁にもたれ掛かる一人の少女。それから――――それぞれ仰向けとうつ伏せで床に横たわっている二人の男。
リリスは思わず雪姫かクラウンかどちらを先には向かった方がいいか迷った。そして、迷った挙句にクラウンはまだ生きていることを信じ、先に雪姫の方へと向かっていった。
そして、雪姫に近づくと呼吸を見る。胸がしっかりと上下しているし、首から測った脈からも振動を感じる。それがわかると雪姫は朱里に任せることにして、ボロボロのクラウンの方へと向かった。
リリスはクラウンを仰向けにして抱え込む。クラウンの表情はいつもの顔をしており、口からはまだ新しい血がついている。
そんなクラウンにリリスは声を掛けながら肩を揺さぶった。
「クラウン! クラウン! 生きてるわよね!」
「......ああ、大丈夫だ」
クラウンはか細い声でありながらも、しっかりと声に出した。しかし、何故か一向に目を開けてリリスの顔を見ようとしない。その事に一抹の不安を抱えつつ、リリスは聞いた。
「クラウン......目はどうしたの?」
「......あいつにやられた......もう完全にやられていて、俺の〈超回復〉ではどうにもならないレベルだ......」
「そんな......」
リリスはその言葉に思わず二の句が告げなかった。そして、その現実をすぐに受け入れられることが出来なかった。
もうクラウンはこの世界を、仲間の姿を自分の姿を見てくれることは無い。自分がどんなに嬉しい笑顔を見せたとしても、クラウンがその事にわずかでも笑みを浮かべることはない。
もうこれから、クラウンとともに世界を見ていけない。
「うそよ......こんなのうそよ......」
リリスは溢れ出る涙を堪えようともしなかった。ただ麻痺したように目を見開きながら、涙を流し続ける。
その涙の滴はクラウンの頬に落ちても、奇跡の一つも起きやしなかった。
戦い終わっても冷たい温度差を出すのが、この作品の作風である




