第133話 現れた宿敵
ここで因縁の敵と遭遇
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クラウン達は死んだ目をしながら働く男達に近づくとまず声をかけた。だが、その声に反応する様子を示す者は誰もいない。なので、今度は体を揺さぶってみる。
まるで人形のようだった。頭をグッたりとさせていて、体にも力が入っているような感じはしない。
肺は動いているので息はしていることは分かる。ということは、生きているということで良さそうだ。
だが、その目は生気を感じさせない。外にいた女性達と違って魔法での精神の縛り方が強いのかもしれない。
「リリス、なんとか出来るか?」
「分からならないわ。でも、これはもしかしたらいけるかも」
そう言ってリリスはクラウンが押さえた男へと近づいていく。そして、リリスは男の胸元に手を当てると目を閉じて集中し始めた。
リリスは手に魔力を集めると一気に解き放った。その瞬間、魔力の塊は衝撃波のように男の体を通り抜けていく。
「ふぅー、残念ながらここまでみたいね。魔力を縛られている心臓に当てれば多少はマシな方になる程度。完全消去にはやはり術者を止めるしかなさそうね」
「そうか。なら、この人数で全員を相手にするのは骨が折れるし、今はあまり時間をかけてはいられないだろう。一先ずこの男達を動けないよう縛ってここじゃないどこかに移した方がいい。余裕がありそうなら症状を軽くすることもすればいい」
「そうね。それがいい――――」
「そんなことする必要ないネ」
「「「「「!!!」」」」」
「お前ら離れろ!」
リリスが言いかけた直後、その言葉を否定するような声。そして、その言葉が聞こえた瞬間、クラウンの激昴した声。
それまで動きを見せなかった時間が急速に密度を濃くして早くなる。
先ほどまで風すらなかったこの空間にクラウンの大気を切り裂くような刀の突きによって周囲に風が広がっていく。
「きゃっ!」
その刀は正面にいるリリスの横、彼女の後ろにいた雪姫を通り過ぎて最奥にいる猫背の男を狙った。だが、猫背の男はその攻撃を避けるように大きく退いた――――雪姫を連れて。
「お前にこんなところで会うとはな......ラズリ!」
「俺っちも会いたかったネ。お前らを取り逃した屈辱、我らが主から見放されたあの目は今も忘れないネ。けど、どうだったネ?俺っちの仲間の首という素敵なプレゼントは」
「クソが」
「今度はこの女にするネ......いや、待て? そうだ、全員手足動けないぐらいに痛めつけて、お前とそこの鬼族の目の前でここの男らっちを使って犯させればいいネ。それなら、死ぬよりよっぽど屈辱的で精神的にお前らをめちゃくちゃに出来るネ」
「......なんだと!」
クラウンの瞳が収縮する。周囲に鋭い殺気が放たれていく。地面に広がっていた石ころはその殺気でカタカタと揺れ始める。
そして、今にも飛びかかろうとした瞬間、最初に動いたのはリリスだった。
「あんまり舐めないでくれる?」
「ぐっ!」
リリスはラズリに手を向けると横方向に重力を発生させた。それによってラズリは急速に壁へと押し付けられるような衝撃に吹き飛ばされていく。
そしてそのまま、壁に叩きつけられた。そこへ畳み掛けるようにベルが斬撃を放ち、いつの間にか竜化(砲)へと変化していたエキドナが極光を放っていく。
その衝撃はこの空間全体を揺らしていき、天井から大小様々な石ころを落としていった。そして、クラウン達の正面には砂煙が立ち込める。
しかし、奴はすぐに現れた。
「まさかこんな力を持っているとはネ。とても痛かったネ。でも、こんなものじゃ俺っちを倒すことは出来ないネ」
「え?」
ラズリはダルそうに立ち上がるとダルそうに答えた。だが、次の瞬間にはその場から消えていた。
――――そして、再び現れた時には小脇に雪姫を抱えていた。その事にも雪姫が気づいたのも、連れ去られた後であった。
相変わらず速すぎて見えない。その動き出しも、雪姫を連れ去ったら瞬間も、風が遅れてやってくる程で何も見えない。気配も、姿ですら。
「俺っち、こいつがキーマンだと思うネ。さあ、取り返したければ取り返してくればいいネ。最もお前らが俺っちを捉えられることはないネ」
「うるせぇ! お前にはもう逃げねぇ! 負けることもしねぇ! 死ぬのはお前だ!」
「やってみるネ――――光罰」
クラウンが地面を抉るほど強く踏み込んだ瞬間、ラズリは空いている手を真上に上げた。そして、抵抗する雪姫を無視しながら、その手から光を放っていく。
人間の罪を浄化するような優しい神々しさに包まれた光は天井へと突き刺さる。そして、直撃した箇所から周囲に広がっていくように割れていく。
それから、天井から大小様々な岩盤が落下してきた。そして、その岩盤は入口を塞ぎ、ラズリともども姿を隠した。
また他の岩盤は地面に直撃すると大きな音を轟かせながら砕け散って積み重なっていく。どうやら生き埋めにするらしい。
クラウンは咄嗟に動こうとするがすぐに止まった。それはたとえリリスの重力で防ごうとしても、全員は守りきれないからだ。その全員とはリリス達を除けば、この国の男たちだ。
そして、その男達がいる場所は点々としているので、リリスの重力を発生させられる範囲外にも多くいる。そうなれば、そいつらは完全に死ぬだろう。ただでさえ、死んだような目をしているのだから。
するとその時、リリスは叫んだ。
「あんたは雪姫を追いなさい! これぐらい私達にはどうってことないわ! 私の、私達の屈辱はあんたに託した! ヘマするんじゃないわよ!」
「安心しろ、そんなことはしない。その事をお前が一番わかってるだろ?」
クラウンはニヤッとした笑みでリリスに問いかける。すると、リリスも返すように笑みを浮かべると告げた。
「当たり前よ。サッサと行ってきなさい」
「ああ、行ってくる」
クラウンは入口を塞いだ岩盤を破壊して道を作るとラズリを追っていった。そして、そんな姿を眺めながらリリスは残りの全員に告げる。
「さあ、気合い入れなさい! 何がなんでもここから全員脱出するわよ!」
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クラウンは雪姫の気配を辿りなからその道すがら走っていく。その道中で女兵士達に見つかろうが構わず突破していく。
そして、追った先にたどり着いた場所は堅牢で巨大な両開きの扉が存在感を放つ王の間であった。
クラウンはその扉を蹴破るように開けるとちょうど王の椅子の前にぐったりした様子の雪姫とラズリがいた。そして、椅子の方には王冠を被った少し肥えた男が。恐らくあの人物は王様なのだろう。
だが、今のクラウンにその人物のことは眼中になかった。それよりも目の前にいる人物に対しては怒りに顔を歪ませていた。
「お前、雪姫に何をした?」
「うるさいから黙らせただけネ。殺してはない。けど、聞いていた情報と違うネ。お前はこいつらを恨んでいたんじゃないのかネ?」
「そんなことはお前には関係ない。だが、少なくともまだ何も終わってないのに死なれては困るだけだ。もっとも死なせる気も微塵もないが」
「まあ、確かに関係ないネ。ただ俺っちはお前をこうして釣れれば良かっただけ。お前さえいなくなれば、すぐさまあいつらも殺しにいける。あの時の人族のようにネ」
「......あのジジイのことか」
クラウンは刀を引き抜くと持った右手を上段に構え、左手で狙いを定めた。そして、脚は少し広めに上下に広げ、腰を落とす。
――――瞬間、クラウンは床に亀裂を走らせるほど強く踏み込んで突撃した。その向かう一歩一歩で割れた床の破片が宙を舞っていく。
空間な急速な流れでもって後へと置き去りにするように進んでいく。そんな光景の中でもブレずに捉える先はラズリの姿。
そして、空気を切り裂きながら突き出した刀はラズリの胴体を捉える。しかし、その突きはラズリに簡単に躱される。
だが、その動きは想定済みだ。なので、動いた先にすぐさま刀を振り下ろす。すると、ラズリはサッと振った袖から短剣を取り出すとその一撃を受け流していく。
さらに、二撃、三撃と続けざまに振るっていくが簡単にいなされる。まだ、ラズリの方が速いといった感じだ。だが、逆に言えば手も足も出なかったあの時よりは格段に差を縮めたということになる。
クラウンは咄嗟に距離を取った。それは未だ倒れ込んでいる雪姫と距離が近づいたためだ。すると、そんなクラウンの行動にラズリは口元を歪ませる。
「戦闘に卑怯も何も無いネ。ただお前っちは俺っちに恨みを持たれるようなことをした。それだけのことネ」
「クソ野郎が!」
ラズリは床で横になっている雪姫に近づくと短剣の先を下に向けた。そして、しゃがみこむと勢いよく短剣を振り下ろしていく。
クラウンはその光景を目にすると思わず怒号にも似た叫び声をあげた。そして、刀を地面に刺して無理やり勢いを殺すと床を抉るように踏み込んで走り出した。
――――速く! もっと速く!
踏み込んだ足は床を砕き、砕かれた破片が弾けるように飛んでいく。まるで冷え込んだような空気の中、ただ一人クラウンが怒りの炎を滾らせていた。
――――殺られる前に殺る!
勢いよく過ぎ去る景色がクラウンの走り出した速さを物語っていく。まるで歪んだ空間に一人飛び込んだように周囲の景色は流れていく。
そして、先ほどまで遠くにあったラズリの姿はすぐ目の前へと迫る。それから、走り出した勢いと体重を全て乗せるように踏み込んだ状態でそれらの重みを乗せた突きを放った。
「バーカ」
「!」
だが、それは罠だった。クラウンが雪姫を助けに来るだろうと見越してのブラフ。
そして、ラズリはその刀を紙一重で避けていくと短剣をクラウンの胴体に向かって下から上へと振り上げる。
「――――させない!」
だが、その凶悪の一撃はクラウンに届くことは無かった。
なぜなら、その前に――――雪姫がクラウンをぶつかって吹き飛ばし、立ち塞がったからだ。
その瞬間、雪姫の胴体は大きく切り裂かれ、その箇所から鮮血が宙を舞っていく。
光に当たってまるで光の粒子のようにも見える紅い滴はそのまま地面へと落下して床を紅く染めていった。
ドキワクな展開ですな




