第132話 潜入
読んで下さりありがとうございます(≧∇≦)
ようやく物語はもうひとつの話へと移行する
「結局、一睡もしなかったのね。寝なきゃダメよ? むしろこういう時はね」
「自分の心がざわめいてるんだ。雪姫や朱里がしたことをそのまま受けてしまうべきなのか、だがそれだと俺のされた事の精算が出来ないと思ってしまう」
「......」
「簡単に言えば、『許せ』と言っている俺と『許すな』と言っている俺がいるからだ。全く......最近は何かと悩まされることばかりで気が滅入る」
「あんたでも気が滅入ることなんてあるのね。けっこう意外だったわ。でも、それは......いいえ、なんでもないわ」
リリスは外の空気を吸おうと外に出るとそこにはクラウンがいた。そのクラウンは階段に座りながらぼんやりと眺めている。
そんなクラウンの横に座るとリリスはそっと距離を詰める。
そして、話してるうちに思わず自分の思いが漏れ出てしまいそうだったので咄嗟に控えた。一先ずクラウンが気にする素振りを見せなかったことには安堵の息だ。
まあ、特にバレても今のクラウンなら差し当って困ることは無い。しかし、個人的にまだ控えた方がいいとリリスが思っただけだ。
「そういえば、昨日は何を話してたの?」
「起きてたのか」
「サキュバスは本来夜行性よ。とはいえ、時代のうねりによって日中でも活動できるようになっただけ。でも、本能というのには抗い難いから、夜に寝ようと思っても割と浅い睡眠になるのよ。だから、物音が立てば起きるほうよ」
「なら、会話は意図的に聞かなかったみたいだな」
「聞いて欲しかったのかしら? まあ、そういう意味で質問したわけじゃないことぐらいはわかるわよ。それに聞かなかったのは二人だけで話したいことがあるんじゃないかと思ったから」
「そうか」
クラウンはリリスの回答に少しだけ優しい笑みを浮かべる。
昨日の夜の会話はとくに聞かれても困るような内容ではなかった。ただ、何となくあの場面は雪姫と向き合わなければいけない時間であると少しだけ思っていた。
なので、途中で介入されることはあまり嬉しいことではなかった。そういう意味ではリリスは実に自分のことをわかってくれているような気がする。
その事をクラウンは嬉しく思った。それなりに色濃い旅をともにしてきた間柄であるからして、自分のことを理解してくれていることに。
しかし同時に、その事を心の底からは喜べなかった。それはその気持ちを、感情を否定するような何かが存在しているから。そいつが何かは定かでない。
だが、良くない何かであることはわかる。恐らくはあいつ――――もう一人のオレの存在かもしれない。あの時、リリスが取り払ってくれたばかりだと思っていたが、もしかしたら影に潜んでいるだけかもしれない。
あいつは俺が負の感情を強く持った時に現れる。そして、より深い深い闇の沼の底へと突き落とそうと煽ってくる。感情の振り幅が大きくなっている今は気をつけなければいけないだろう。
あいつが完全に目覚めた時、俺は恐らくは闇で存在ごと消されるだろう。そうなる前に、早いとこ自分の気持ちにも決着をつけなければいけないということか。
クラウンは立ち上がると軽く伸びをする。夜が明けるまで割と没頭して雪姫と朱里とかかわった過去について思うところを調べていたせいか、あまり夜が長かったとは思わない。
「出発ってところかしら? けど、その前にしっかりと朝食は食べてもらうわよ。一日の始まりのエネルギーは大切なんだから」
「わかってる......期待している」
「!」
リリスはクラウンがボソッと言った言葉が聞こえていた。その言葉にリリスは思わず口角が上がっていく。そして、勢いよく立ち上がるとクラウンの前に立って告げた。
「今に見てなさい! 最高なのを用意してやるわ!」
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「それで、城までにはどうやって行くんだ? 秘密の脱出路のようなものがどこかにあったりするのか?」
「いいえ、あいにくそのようなものはありません。ですが、裏口はありますのでそこから侵入するような形になります」
「そうか......なら、この人数はちょいとキツイかもしれねぇぜ? なんせこの黒いコートは人数用もないんだろ?」
「いや、俺の分を雪姫に貸してやればなんの問題もない。俺は魔力温存のために着ていただけだからな」
そう言うとクラウンは雪姫に自身のコートを渡した。すると、何かに感激した雪姫はサッと内ポケットからカメラを取り出してそのコートを撮った。
「あっ、気にしないで」
雪姫は恥ずかしそうにカメラをしまうとコートを着込む。すると、そのコートに対してぶつくさと呟いていく。そんな雪姫の行動にリリス達は頭を傾げる一方で、朱里はため息を吐きながら頭を抱えていた。
「まあ、雪姫のことは置いといて海堂君はどうするの?」
「お前らが中に入るまで適当に撹乱しておく。お前らの場所は俺が作ったコートの残留魔力を辿れば分かるしな」
「それじゃあ、私達は旦那様の仕事を邪魔しないように素早く移動するわよ」
「んじゃ、行ってくるぜ」
「主様、念のためお気をつけてです」
「わかった」
クラウンはベルの頭に手を置いてそっと撫でる。その事にベルは嬉しそうにしっぽをふわりふわりと揺らしていく。そして、クラウンがこの場から姿が消えるのを確認するとリリス達は移動を開始した。
それから、女兵士達に見つからないようにコソコソと城の近くまでやってくる。また、城門前にいる二人の女兵士にはリリスが上空からこっそり近づいていく。
「眠りなさい」
リリスは女兵士の間に降り立つとそっと魔力波を当てていく。それはサキュバスの特性の一つ催眠波である。それによって当てられた女兵士は崩れ落ちて地面に倒れた。
そして、その様子をうかがっていたベル達に手招きして呼び寄せる。すると、ベル達は素早く城門前まで集まってきて、そこからはシュリエールが先導した。
それから、ちょうど城の正面からぐるっと回った反対側に移動していく。
「少しだけお待ちください」
そう言うとシュリエールは何も無い壁をじっと見つめるとある箇所を順番に押し始めた。すると、押した箇所から僅かに凹んでいく。
そして、最後の箇所を凹ませた瞬間、ガコンという音ともにドアほどの大きさの壁が凹みながら横にスライドしていった。
「お待たせしました。ここは脱出路でもありますが、城が占拠された時の突入路となっているためここからでも侵入出来るのです。」
「なるほどね。なら、入る前に少しだけ待ってくれないかしら。クラウンを呼ばなきゃならないしね」
「その必要は無い」
「!」
リリスは手を上にあげると発煙筒代わりの魔法を放とうとした。だが、その前に背後から突然聞き覚えのある声が聞こえてきた。その事にリリスはとっさに驚きの声をあげようとするが、それはクラウンに口を防がれて止められた。
その事にもリリスはプチパニック。顔を赤らめながら咄嗟に距離を取る。
「く、クラウン! いつの間に!」
「お前らがちょうど城の中に入っていくのが見えたからな。適当にあしらいつつ追いかけてきた。すると、タイミング良く着いただけだ」
「そ、そう......でも、勝手に乙女の唇に触れるのは禁止よ!き・ん・し!」
「それはお前が叫びそうになったから――――」
「禁止! いいね! わかったわね! ちなみに、私からはありよ! そこ重要!」
「......はあ、行くぞ」
反論することが面倒になったクラウンはそう呟いてシュリエールに目線で促す。そして、その視線を受け取ったシュリエールは城内を案内していく。
入った道は一度階段でに降りていき、そこから右の角を曲がっていった。すると、そのにも壁があり先ほどと同じようにシュリエールが順番にある箇所を凹ませる。
すると、その場所は地下であったらしくすぐ左手側には牢獄があった。だが、その牢獄には人っ子一人見当たらない。
その時、シュリエールはあることを思い出した。
「まさか地下労働させられているのですか!?」
「シュリちゃん何か知ってるの?」
「......この国が建国される前にはもともと別の国の跡があったらしいのです。そして、建てた後に気づいたのですが、この城の地下には巨大な地下労働空間が広がっているのです。いわば、知る人ぞ知る地下の楽園を作ろうとしたのでしょう。そして恐らくはそこにいるかと思われます」
「そこはどんな場所なの?」
「簡単に言えば犯罪者が死ぬまで働かされる場所です。日にちはまだそれほど長くは経っていないですが、多少の死者は出ている可能性があるかとか」
「まあ、ともかく行ってみるべきだな。こんなとこにいてもなんの解決にもならん」
「そうね。とりあえず案内してくれる?」
「分かりました」
そして、シュリエールは一番奥の牢獄に向かっていくとその牢獄の中にある鎖のついた四角いブロックをどかした。するとそこには、ちょうど一人ぶんの大きさで下へと続く階段がある。
それから、その階段を順に降りていく。そして、通りを歩くこと数分後、クラウン達は目にした。
――――城の地下に広がる山を切り崩したような大空間を。
さらにそこには、多くの男たちがボロボロになりながら土砂を運んでいたり、壁を掘っていたりしている。
「なんともリアリティある地獄ね」
「酷い......」
「朱里もこれは惨いと思う」
「強制労働所か......あの様子じゃまともな飯にもありつけてなさそうだな」
「あんな小さな子供まで......許せないわ」
「主様、どうするです?」
「どうするもなにもとりあえずあいつらの様子を確かめるしかないだろう。まともであれば救いようはいくらでもある。行くぞ」
そして、クラウン達は死んだ目をしながら働く男達に近づいていった。
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城の王の間、そこには二人の男がいた。一人は死んだ目をしながらぐったりと王の椅子に座っていて、もう一人はダルそうに猫背である。
しかし、その猫背の男は嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「まさかここで会えるとはネ。あの時の人族に与えられた屈辱は忘れてないネ。必ずいたぶって殺すネ」
そう言うとゆっくりと歩き始め、王の間を出ていった。
懐かしの人物の影が見えましたね




