第130話 果たせなかった約束#2
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
最近、2度寝がやばい
「ふぅー、これで終わり」
「あ、ありがとうございます! そ、それであの......今度......」
「ごめんね。この後急ぎの用があるの。だから、またね」
「え、あ、うん......」
雪姫が本当に急いでいる様子を見るとその若い男性は悲しそうな表情で診療所を出ていった。その事を申し訳なく思いながらも、雪姫は身支度を済ませ出ていった。
本当は急ぐ用事などない。だが、もうこの時間帯は仁がボロボロになって戻ってくる時間なので、それで急いでいるのだ。
正直、もうこれを何回かやっている。それだけ、仁が無茶な訓練を続けているということだ。
一応、訓練指導者の彰にもあまり無茶させないように言っているが、「仁君が望むことだから断りにくくって」という始末。
とはいえ、自分にはその無茶な行動を止めさせることが出来る理由がなかったので、結局ズルズルとこのままだ。これは都合のいい女として思われてはいないか? まあ、仁に限ってはないだろうけど。
そして、聖王国王城に入っていくとその近くにある修練場へと向かっていく。その手には紙袋を持ちながら。その中身はフレッシュな果実とラムネ瓶のようなものに入っている果実水である。
これらも毎度お馴染みのものだ。仁に頼まれたわけではないが、訓練後はだいたい「腹減ったー」と言っているので、そのためのものだ。
「仁、お疲れ。ほら、買ってきたよ。それじゃあ、傷見せて」
「なんか最近、言葉の簡略化が激しいんだが。特に今話してねぇぞ?」
「文句あるならあげないし、怪我治さないよ」
「はい、ごめんなさい。痛いので傷を治してください」
「よろしい」
そう言って見せられた傷を治し始める。そして、その治している間に、診療所でどんなおもしろ会話があったかを話していく。その話を仁はしっかり聞いていてくれて、反応してくれる。
その事が嬉しくもあり、楽しくもあり、そしてこんな世界で、こんな状況でしかよりそう実感できないことに悲しくもあった。すると、そんな雪姫に仁は話しかけてくる。
「ごめんって。そんな暗い顔されると何だか間違ったことをしてる気分になる......いや、実際には間違ってる可能性もあるんだろうけどな」
「いや、仁の行動は正直正しいと私も思う。まさに生きようとしている行動だから。そんな仁が誇らしくあって、でも寂しくも感じてしまう」
それは仁がこれからどうなってしまうのか未来が見えない事だ。確かに、これまでにも未来が見えていたということは無い。それは雪姫の想像の範疇だ。
だが、少なくとも仁が死ぬ未来があるかもしれないということは想像してなかった。こんな世界でなければ想像すらしなかった事なのは確かな事だ。
『早死にするって相場が決まっている』
雪姫は思わず診療所で話した女性冒険者との会話を思い出した。そして、今はあの時よりもその会話の重みがよりしっくり感じる。
「頑張ってる人がバカを見る」という言葉がある。それは努力家の人がバカな行動をしている人を見るということではない。努力家の人がバカな出来事を味わってしまうのだ。
要するに、努力したからといって必ずしも報われるということは無いこと。不条理な世界が、理不尽な現実でその人を消してしまうことだってあるかもしれない。
そして、案外そういう人達の方がその理不尽に飲まれているのが現実かもしれない。
そう考えると仁の今の行動は「死に急いでいる」と思えてしまうかもしれないのだ。その事が雪姫には悲しくて、辛いことであった。
するとその時、そんな雪姫の肩を仁がそっと手を置いて告げる。
「そんな心配すんなって。僕も雪姫の幼馴染だ。だから、何となく何が言いたいかわかる。それを理解して言うぞ。雪姫は護ってくれるんだよな?」
「!」
雪姫はその言葉に思わず目を見開くも、すぐにそっと目を閉じる。そして、その表情は柔らかい笑みを浮かべていた。
自分はどうして忘れていたのだろう。仁に対して言った言葉を。仁が危ない目に合ってしまうと思ったから? 仁が死んでしまうと思ったから?
違う。当たり前の光景を壊されたくなかっただけ。
だから、雪姫はその笑みのまま仁へと告げる。
「そうだね。そして、仁は私を支えてくれるんだよね?」
「ああ、そういうことだ」
雪姫と仁は互いにクスクスと笑い合う。こんな日々が続いて欲しい。これは雪姫が心から願うことであった。
それから、雪姫は仁の治療を終えるとポケットから一つの魔道具を取り出した。それを見た仁は思わず尋ねる。
「雪姫、それは?」
「これは彰さんがくれた。魔道具だよ。見た目そのままのカメラ。まあ、現代のものとは違って一枚一枚しか写真撮れないし、撮った写真は少し放置してないと撮ったものが映らないタイプだけど」
「この世界にもあるんだな。そういうの」
「魔道具があるぐらいだからそれなりに科学もあるんだよ。そして、彰さんが知識を活かして作ってたみたい」
雪姫は「一枚撮るね」と言って仁へとカメラを向ける。それに対して、仁はノリ気でピースサイン。
それから、仁は「まだ彰さんと用がある」と言ったので、その場で解散した。
そして、一度自室に戻ると撮って現像された写真を見て微笑む。
「まさかこっちでも増えるなんてね。でも、思い出はたくさん残したいからいいよね」
雪姫はその写真をそっとしまう。それから、まだ時間があったので気分転換にスティナに会いに行こうと出かけた。そうして探していると、スティナはパーティーとかを行う大広間にいた。
その広間にいくつもの円形テーブルがあり、その上には目でも鼻でも魅力するような、きらびやかな食事が並んでいた。
「スティナちゃん、こんな所にいたんだね。今日は何かあるの?」
「そうですね。今日は雪姫さん達が来てから三ヶ月が経ちますから、そのたまにはこういうのもありと思いまして。ほら、来てから一ヶ月経っても何もしなかったでしょう? それが心残りでして」
「しょうがないよ、あの時はまだバタバタしてたの知ってたから」
「たとえそうであったとしても、この世界の救済を任せっきりというのは、私にとってとても心苦しい事なのです。本来ならば、一人一人に労いの言葉を送って差し上げたいのですが、あいにくその時間が取れなさそうなので、いっその事無礼講の立食パーティーでも開こうと思いまして」
「そっか。スティナちゃんがそれを望むなら、私はありがたく受け取らせてもらうよ」
「もう既に大方の準備は済ませております。そして、他の方々にもその趣旨を伝えに行っております。もうしばらくだけお待ち下さい」
そして、雪姫はスティナともに他の冒険者が来るのを待った。
もう既に雪の記憶に残る出来事のカウントダウンが始まっていることを知らずに。
それからしばらくして、続々とクラスメイトの面々が集まってくる。しかし、その中に探せど探せど仁と朱里姿は見られない。だが、まだ始まるまでには少しある。
なので、始まるギリギリまで待った。しかし、その二人だけの姿はなかった。
そして、今にもパーティーが始まろうとした時、両開きのドアは思いっきり開かれた。
雪姫は仁と朱里が来たのだと咄嗟にその方向を見るが、目に映ったのは異様な光景だった。
それは教皇と朱里が一緒に出てくるのはまだいい。ただ朱里はどこか冷たく感じるが。
だがその後に、この場に似つかわしくないほどしっかりと武装し兵士が続々と入り込んでくる。
そして、その最後尾には――――後ろ手に縄を縛られた仁の姿が。
仁はクラスメイトに晒されるように前へと放り出されると何かを訴えかけるように口を動かしている。しかし、その口は縄で喋れないようにされている。
すると、教皇は大きく両腕を広げ、高らかに宣言する。
「今からこの場において裁判を始めたいと思います。被告人は【海堂 仁】。彼は恩人であり、師である【天霧 彰】を殺した容疑がかけられています。もっとも、殺したのは事実でその承認は私なのですが」
その言葉に全員がざわめく。当たり前だ。突然クラスメイトの一人が人を殺したなどと言われているのだから。
とはいえ、全員がまだその事を信じているわけじゃない。簡単に信じられるはずもない。
そんなクラスメイトに教皇はさらに言葉を続けていく。
「共に同じ世界から来たとはいえ、彼は犯罪者であります。そんな仲間に背中を任せられるでしょうか。いや、無理でしょう。だからこそ、その全てを白日のもとに晒し、仲間である皆様の判断に任せようと思います。さあ、存分に批判してください」
その瞬間、雪姫は一瞬の体の痺れの脳なものを感じた。だが、それは気のせいかと思うほどすぐに収まったため、仁へと教皇の言葉が本当なのか聞こうとした。
だが、不条理にも現実はねじ曲がっていく。
「仁、どうしてそんなことをするの? 仁だけはそんなことをしないって信じていたのに」
「......雪姫?」
仁は思わず思考を停止させたような表情で雪姫を見る。あまりの衝撃に耐えきれていないようだ。
そして、その言葉には雪姫も苦悩していた。
違う、言いたい言葉はそんな言葉じゃない。そんなはずがない。なのにどうしてこんな言葉がでるの? やめて、そんな目で見ないで!
「私は失望したよ。信じられない。でも、そのことは本当なんだよね?......朱里ちゃん?」
「やめろ......」
「うん、そうだよ。海堂君は天霧さんにあげた短剣で確かに刺した。胸を一撃でね」
「やめてくれよ!」
「仁は私が治療してる時にはそんな言葉を考えていたんだね。信じられないよ。仁がそんなことするなんて。でも、そう考えると都合のいい言葉ばかりを言っていたことはすぐに納得出来たよ。こういう事だったんだね」
「仁さん......私も失望しました。仁さんだけは心から信じられる人だと思っていましたのに」
「やめろって言ってんだろうがああああああああぁぁぁ!」
仁は雪姫、朱里、スティナからの無慈悲な言葉に叫びながら、額を床に叩きつけた。それはゴンッと鈍い音を響かせ、額を切って血が出るほどに。
雪姫は困惑していた。心にもない言葉が口からボロボロと勝手に漏れ出てくることに。しかし、感情のない瞳で仁を見ることが止められない。自分の意思では何も。
すると、次は響と弥人が動き出した。
「仁、僕は最低な友人を持った気分だ。今までは最高だっただけにとても落差が酷い。とても心が辛い」
「それはこっちのセリフだ!」
「だがよ、罪を償えばまだどうにでもなる余地は残っていると思うぜ? もっとも犯罪者という信頼ゼロどころかマイナスからのスタートだろうがな」
それから、他の仲間からも容赦なく弾丸のような鋭さを持った言葉が放たれていく。その最中で、仁が何を言っても聞く耳も持つ仲間はいなかった。
むしろ、仁の言葉によって朱里が泣き出し、それに対しても責められる始末。もうこの場に置いて仁の味方は一人もいなかった。
だが、仁は諦めきれなかった。
「僕は何もやってない! これは冤罪だ! 雪姫、信じてくれよ!」
仁はもはや最後の望みとばかりに雪姫を見る。そして、なんとか立ち上がると覚束ない足どりで雪姫へと近づいていく。
「雪姫......信じてくれ......」
「やめて......」
「お願いだから......」
「お願いだから......」
仁はもう狂乱者の目となっていた。もう今の現状を現実として受け入れたくない顔がありありと現れていた。
そんな仁に雪姫は杖を両手で抱えながら後ずさる。まるで本当に怯えているかのような表情で。
その時、仁は叫んだ。
「護ってくれるって言ってたじゃ――――」
「来ないで!」
雪姫は杖を前に突き出すと風の斬撃を放った。その斬撃に仁は咄嗟に避けようとするが、覚束ない足どりでは上手く動けず、左目を抉られ吹き飛んだ。
そして、そのまま動かなかった。もう全てを諦めたかのように体をぐったりさせて。
雪姫は発狂でもしたい気分であった。だが、そんな言葉は微塵も口から出てくることは無い。
もう何が何だか、どうしてこうなったのか、それすら一つも理解ができなかった。出来るはずもなかった。
「素晴らしい! これが心美しき勇者様方の答えです! さあ、どうですか? 恩師を殺しておいて許されるとでも思いましたか? ここは聖王国、神トウマ様を崇める神聖なる宗教国家。そんな神聖なる地をあなたは汚したのですよ。これはこうなって然るべきだとは思いませんか?」
「......思わねぇ」
「はい?」
「僕は絶対にこんなところで終わらねぇ。覚悟しろよ」
その時の仁の言葉はゆっくりで小さな声であった。なのに、酷く重たく、空間全体に響き渡っていった。
雪姫は流せない涙を心で流しながら必死に謝っていた。
ごめんなさい......何もすることが出来なくて。ごめんなさい......約束を守れなくて。
それから、数日後に仁の処刑は開始された。そして、雪姫が開放されたのはそれが終わった後だった。
昨日の内容から見ると落差が酷いですね




