第13話 罪の心
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「皆さん、そろそろ休憩してはいかがですかー?」
「ん?......ああ、スティナか。うん、そうさせてもらうよ」
スティナと呼ばれる法衣を着た少女は声に反応してくれた勇者の恰好をした人物へと駆け寄るとタオルを渡した。そして、周りにいる人たちにも次々とバスケットに入っているタオルを渡していく。
「ありがとう、スティナちゃん」
「いいえ、私にはこれぐらいしかできませんから」
「そんなことないよ。スティナが頑張っているから、朱里たちは頑張れるんだよ」
「雪姫さん、朱里さん!」
「「わあぁ!?」」
その言葉にスティナは思わず歓喜した。そして、嬉しさのあまり抱きついた。【倉科 雪姫】と【橘 朱里】はそのことに驚きはしたが、すぐに嬉しそうに抱きしめ返した。
その三人の空気はなんとも甘い感じで百合ワールドが全開していた。
「相変わらず、すごいなアレは」
「まあ、そういってやんなよ。おそらくあの聖女さんもわかってるさ」
勇者の恰好をした少年、【光坂 響】と軽戦士の恰好をしてトンファーの持ち手をグルグル回している少年、【須藤 弥人】はそんな三人を眺めながら思ったことを口にしている。
響は弥人の言葉に「そうだな」と一言だけ答えると三人のもとへ歩いていく。三人......というより特に聖女のスティナが少し前からあの二人に対して大げさなスキンシップを取ることが増えていった。
だが、そのことについて響と弥人がその行動に関して追及することはなかった。わかっているのだ。そのような行動をとり始める前に起きたあの事件のことだと。
「三人ともそろそろ周りの目も気にしてくれないか?」
「あ、あははは、そうだね」
「これはこんな面前でやるもんじゃないよね」
「私は別に構わないのですが......」
「「さすがに構って!」」
そうは言いながらも三人とも楽しそうに笑う。だが、スティナには分かっていた。雪姫の笑顔がまだ少し歪なことに。
だが、それは仕方がないことだとわかっている。自分の大切な人を自分の手で切り捨ててしまったのだから。正直、あの時の雪姫の行動はあまりにも残酷すぎた。まるで雪姫の姿をした誰かに成り代わったように。それだけ異常だった。
だから、私は私の信じる雪姫を救っていくつもりだ。少しでも心の支えになれればと。
そして、またスティナは気丈な振る舞いをする朱里を見抜いていた。いや、これに関しては全員といえるだろう。
それでも、一番最初に弾劾したのが朱里だ。あの時の朱里も様子が変だった。まるで言いたくない言葉を無理やり言わされているように。だから、私も気丈に振舞う。朱里がそれを望んでいるなら。
「まあまあ、二人ともこれぐらいが丁度いいんだよ」
「気張るときに気張って、気張らないときは気張らないだな」
「せめてメリハリって言いなよ」
響はどことなく分かりづらい言い回しを使う弥人に思わずツッコんだ。だが、その顔は明るい。ツッコまれた弥人の方もその言葉をあまり気にしていないようだ。
そして、響は周りにいる仲間たちの様子を見て、十分休憩できていると感じると仲間たちに声をかけた。
「それじゃあ、そろそろ午前最後の修練を始めよう」
「おうよ」
「「「「「オ――――――ス」」」」」
「「「「「は――――――い」」」」」
響きの言葉に全員が反応すると修練を始めた。
スティナはその行動を遠くから見ていた。そして、そのスティナのところへ一人の聖騎士のような恰好をした女性がやって来た。それから「元気かい?」と声をかけながらスティナに話しかけた。
「はい、おかげさまで」
「そうは見えないけどなぁ。あんま人のことばっか気にし過ぎて自分をないがしろにするなよ?」
「......そうですね。自分の気持ちは案外知らず知らず相手に伝わっていると言いますし、お言葉に甘えてそうさせてもらいます」
「そうしな」
スティナはそう言うとニコッと笑顔を見せた。その笑顔は人によればキュン死するであろう明るく、そしてどこか甘えたような計算しつくされた完璧な笑顔だった。聖女、いや、姫故の外交向けの笑顔に近いな。そう思いながらもその女性も笑顔で返した。
「それにしてもあの事件は酷かったな」
「そうですね......惨い裁判でしたからね」
「そうだな、あれはもはや裁判なんてものが始まる前にあの子はすでに死刑が決まっていたようなもんだ。そんでもって、あの子が言った言葉に対して心が抉られるように否定していっただけ」
「あんなのが裁判なんて言えるんですかね......」
「言えるわけねぇよ。だけどそれが本当なら私は絶対に許せない」
その女性は苦虫を噛み潰したような顔をした。そして、その気持ちを堪えるかのように拳を握りしめる。雰囲気からも怒りの波長が伝わってくる。だが、女性は一度深呼吸するとその怒りを鎮めた。
「私はあの子はやっていないと思う。話した数は片手で収まるほどだが、確かにあの子は自分の職業に悩んでいた。【糸繰士】なんて職業は私も初めてだったからな」
「私もこれまでそんな職業は聞いたことがありませんでした。ですが、あの水晶はその人の最も潜在的な能力や最も所縁のある職業が選ばれます。ですから、聞いたことない職業がでることもあります」
「確かにその通りだな。で、あの子は悩んではいたが仲間には恵まれていたな。なんせ勇者がいる中心グループにいたんだ。そんで、変に気を使って遠慮することもなく、場を壊すこともなく、良い立ち位置にいた。もちろん、人は思ったより何考えているかわからないもんだが、それでもそんな子が殺したとは思えない。なにしろ、彰の大のお気に入りだったからな」
女性はふとその時のことを思い出した。まるで自分のことのようにあの子のことを楽しそうに話す彰のことを。思わずそのなつかしさに涙が出る。だが、もういない。彰は死んでしまったから。
「それじゃあ、私はここらで失礼するよ」
「わかりました。また、遊びにいらして下さい」
「ああ、そうさせてもらうよ。......それとすまないが、出来る限り情報を集めてくれると助かる」
「はい。私もあの事件は気がかりですから、そうさせてありがたくやらせてもらいます」
スティナは丁寧にお辞儀しながらその女性を見送った。
「......それに嫌な予感もしますからね」
そして、姿勢を戻すと修練の風景を見ながらそう呟いた。
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「ん~~~!っと修練終えた後の息抜きは最高だね」
「そうね。お昼を食べた後なのにこの匂いに誘われてまた食べたくなっちゃうよ。ダメね、これじゃあ太っちゃう」
「大丈夫だよ、その分消費してるから」
雪姫の言葉に朱里は明るく答えると近くにある露店でパン菓子を買って雪姫に渡した。「ありがとう」と雪姫が答えるとすぐに食した。
「「ん~~~~~~~!」」
二人は口いっぱいに頬張るとその美味しさに唸った。顔も幸せそうな表情をする。そして、あっという間に食べ終えてしまった。
「美味しかった~」
「うん。また食べたくなっちゃうよ」
「なら、もう一個いく?」
「今じゃないよ」
二人はそうは言いながらも実に楽しそうな雰囲気だ。だが、分かる人にはわかる。その笑みには互いに影があることを。
それから二人は少し遠くまで歩いていき、見晴らしの良い場所にやってきた。ここは二人が見つけた二人だけのお気に入りの場所だ。すると朱里がふと話題を提示した。それはこれからのことに関してだ。
「そういえば、明日から本格的に魔物を狩りに行くんだってね」
「そうだね。正直、自信はないけど。......でも、ダメね。私の職業は重要ポジションだもんね。」
雪姫は暗い顔を浮かべる。そもそも戦うことすらなかった世界にいたのだ。あったとしてもそれはゲームという二次元の中だけ。それに魔法なんてもってのほか。それを便利に使うぐらいならまだしも、戦に使うなんて......今でも考えられないと思っている。
しかし、この世界においては常識であり、日常でありで受け入れるしかないというのも分かっている。それでも怖さが抜けたことは一度だって抜けなかった。覚悟が足りないと言われればそれまで。
でも、心が休まるときはあった。それは――――――――――
「雪姫、これ以上はダメ」
雪姫が何を考えているか察した朱里はその考えを払拭させようと雪姫の顔を両手で押さえた。そして、言葉は続ける。
「怖かったらいけないの?怖がることは悪いことなの?確かに、時と場合もあるかも知れないけど、それでも怖いって感情は悪いことじゃないよ」
「......!」
その言葉は朱里の心からの叫びだった。そして、その気持ちが雪姫は痛いほどわかった。あの事件で心に傷を負ったの自分ばかりじゃない。朱里もそうなのだ。それから、響君も弥人君も。そして、皆も。程度は違えど同じなんだ。
「ごめんね......ありがとう」
「大丈夫だよ......朱里はもう雪姫には償いきれないほどの罪を負っているから。これぐらいは......ね」
「朱里だけのせいじゃないよ。私も同じ罪人だよ」
雪姫は朱里に思わず抱きついた。強く強く引き寄せるように。その瞳から涙が零れ落ちる。
朱里も負けじと抱きつき返した。強く強く思いが伝わるように。嗚咽交じりの声が漏れる。
どうしてあんなことが起こってしまったのか。どうしてこんなことになってしまうのか。この世界に来なければ、こんなことには絶対にならなかった。
もとの世界が退屈だと思った時もあったけど、彼がいればそんな気分にはならなかった。なのにどうして!?私から彼を奪うの!?彼がなにをしたって言うの!?
けど、あの時はなぜか体が言うことを聞かなかった。自分の意思とは無関係に動いているようだった。そして、結局......私は彼を裏切った。
「朱里たちはきっと幸せにはなれないね」
「そうだね。それを感じる資格はもうないね」
二人は抱き合ったまましばらく無言の時間を過ごした。そして、皮肉のように優しい風が二人をそっと包み込んだ。
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