第118話 エキドナの想い
個人的にこの話は結構好きです
読んで下さりありがとうございます(≧∇≦)
クラウン達は疲弊していた。肉体的ではなく、精神的に。それは先ほどまで戦っていた神殿の守護者であろうカメレオンの魔物のせいである。
「この神殿のテーマは『亡者の楽園』だけど、あれは亡者というよりも幻惑に近いわね。それも相当な癇に障る奴」
「確かに俺の友は死んだとされている。だがな、俺はその情報を完全に信じているわけではないし、ましてや認めるなんて以ての外。それをああも容赦なく敵として出されるとさすがにキレるな」
「敵として現れたのは全員が自分と関係が深い人。しかも。まるでもう死んでいるみたいな解釈にも捉えられるから.......さすがの私も笑って済ませることは出来なかったわ」
「じいじは確実に死にました。ですが、死者を冒涜するような真似だけはしてはいけないです。ここまで感情が高ぶるのは初めてです」
「楽園要素はあの木ぐらいだったな。後は基本的に精神攻撃がメイン。全くむしゃくしゃするぐらいに腹立たしいことだったな。俺も含めてもう深く考えるな。考えるだけ無意味だぞ」
クラウンがそう言うと全員が疲れたため息を吐いた。もうしばらく心が落ち着ける場所に行きたいところだ。
それからしばらく、この場で興奮で火照った熱を冷ましていくと蔦の方へと歩いて行った。
その蔦はさながら某童話の豆の木のように太くねじらせながら上へと続いている。そして、その蔦の中に上へと続く螺旋階段がある。
クラウン達はその階段の中を進んで歩いて行く。すると、暇になったのかリリスが声をかけてきた。
「そういえば、外の様子は大丈夫かしら? ほら、魔物の侵入する数が多くなってきているし」
「私達がいない間に襲われているのではないかということかしら? だとしたら、大丈夫よ。エルフは矢を使うけど、いざとなれば魔法があるもの。森を傷つけたくないとは言っていたけれど、森全体が危ういとなれば使うでしょうね」
「それにエルフは私が心から鍛え上げた猛者達です。さながらハイエルフ......いや、エルフネオです」
「そんなエルフは見たくないな。まあ、すでにお前のせいでエルフのイメージはだいぶ崩れ去ってしまったがな」
クラウンはベルの言葉を聞くと思わずため息を吐いた。どうしたらあんなもやしみたいな体格から、短期間で筋肉だるまみたいになるのだろうか。
それでいて矢を放った時の精度は衰えていない。いや、それ以上に弓の射出速度を上げることに成功してしまっている始末。
近接戦でも有利な体格と筋力。遠距離攻撃でも有利な弓の扱い。それにいざとなれば、十八番の魔法がある。まさにオールバランサー。
ベルは一体何という生物を生み出してしまったのか。それだけでかなり頭が痛くなってくる。これは後でロキの毛に包まれねば。
「だが、本当に心配しなくてもいいのか? もうその魔物が誰かの意図的なものだとわかってるんだろ? わかってて見捨てるってのは俺の性分に合わないんだが」
「わかってる。だが、相手の動きを予測するなら、明らかに異様な俺達がいたらいつまで経っても襲いに来ることはないだろう」
「異様って自覚あったのね」
「ともかくだ。相手を引きずり出すには一度俺達が姿を隠す必要がある。そのために先に神殿に潜ったんだ。俺達が神殿に来る最中にも魔物は現れていたからな」
「そうね。調教された魔物なら、相手の動向ぐらいの情報は伝えられるものね。確かに、エルフとは違う私達がいれば襲撃なんて行動には出ないでしょうね」
「そういうことだ。だがまあ、思ってるよりも早く神殿を攻略してしまった気がしてならないのは仕方ないことだと思いたいが」
そして、クラウン達は何事もなく順調に階段を上っていく。上へ上へとどこまで続くかもわからず、むしろ外が見えない蔦の中の光景が続いていく。
それは地味に精神的ダメージを与えていっているのだが、もう既に大きなダメージを与えられているのでこのぐらいなら気にならない。
それに相変わらず変わらないノリのリリス達と話しているので、むしろ気が楽になっているぐらいだ。
それからどれぐらい登ったのだろうか。とにかく呆れるぐらいに狭い階段を歩いて行くと真上から光が刺してきた。
先ほどから刺していたが遠くからの光だったので薄暗かった。だが、今は普通に明るく自分の姿を照らしている。ということは、終わりが近いということか。
そして、クラウン達がその蔦の最上部まで上がってくる。すると、目の前には黄色い膜で包まれたカプセル状の形をしたものがあった。
そのカプセルの中には光輝くオーブとそれを乗せた台座がある。また、そのカプセルの両隣りにはぶら下がっている紅いルビーのような果実が実っている。
また、カプセルは神々しく輝いていて、さながら聖樹の命を表しているかのようであった。
「奇麗ね。また一つ思い出を作った感じだわ......ってどうしての?」
「......」
その光景を見て思わず呟いたリリスはふと隣にいるエキドナが気になった。なぜなら、エキドナが何やら愕然とした表情を浮かべているからだ。
目は見開き、口は半開きになり、手はワナワナと震わせている。しかし、その表情は恐怖といった感じではなかった。むしろ、その逆だ。
エキドナはゆっくりとぶら下がっている果実の一つへと近づいく。その時も今が夢か現か探っているような足取りであった。
そして、エキドナがその果実を両手で優しく包み込むように掴んだ瞬間、麻痺したように目元から涙を流し始める。
そのあまりの行動の変化にクラウン達は困惑した。その行動が意図するところはわからない。ただもしかしたら、エキドナが自分に関わることに気付いたのだろう。
クラウンはエキドナに近づいていく。そして、その果実に人差し指で触れながら尋ねてみた。
「これが何か知っているのか?」
「......ええ、これはエルフに伝わる太古の果実。でも、その存在は伝説上なものとしてずっと語り継がれてきていたの。いわば、伝奇物語のようなものね。そして、その果実の効果は万物のケガや病気を治すとされているの。死にかけの人に果実の汁を一滴たらせば、完全復活するぐらいのね」
「なるほど。まさに伝説級の代物というわけか。そして、その果実がお前が諦めながらも捨てきれなかった望みの一つというわけか」
「!......わかるの?」
エキドナはその言葉を聞くと流した涙をそのままに驚いた表情をした。だがすぐに、その口を柔らかくして笑っていく。
すると、クラウンはエキドナに顔にそっと両手を寄せる。それから、顔に触れると親指で静かに涙を拭った。
その行動にエキドナは蕩けたような熱い視線を送った。そして、クラウンの手にそっと自身の手を重ねていく。
「当たり前だ。お前は俺のものだ。お前の事情くらい俺が把握してなくてどうする。そもそもお前が俺の旅に同行したのはそれが目的だったはずだ。違うか?」
「いいえ、違わないわ。でも、違うこともある。それは私の目的が万病に効く薬を見つけることだけじゃなくなったことよ」
「それは―――――――――」
クラウンが言葉を言いかけた瞬間、エキドナは自身の胸へとクラウンの顔をうずめるように抱きしめた。
左手はしっかりと背中に回して、右手は頭へと触れる。そして、少しだけ強く抱きしめた。なぜなら、こうしないと思いが溢れすぎて強くなり過ぎてしまうから。
「私の目的は旦那様といることよ。確かにあの時はただ息子を護れるための強い人を確保したという意味合いが強かったわ。でも、今はもう違う。強いけど弱くて、カッコいいけど可愛らしくて、器用だけど不器用な......そんな旦那様と私はずっといたい。今もこれからも」
「......」
「私はあの時の出会いを運命と感じているわ。楽しいことも、嬉しいことも、苦しいことも、悲しいことも、憎むことも、怒ることも、たくさんたくさんあった。でも、その一つ一つが私にとって全てが愛おしく、愛すべき思い出」
「......そうか」
クラウンはエキドナの両肩を掴むとそっと顔を上げた。そして、エキドナと目を合わせる。それだけでエキドナは可憐な乙女のような可愛らしい笑みを浮かべた。
その表情はすぐそばにある聖樹の命から放たれる光によって幻想的な雰囲気を醸し出した。より少女らしさを見せるかのように。
「私は旦那様に助けられ、救われた」
「俺はそんなことはしてない」
「私が勝手にそう思っているだけよ。これまでも、そして今も。そのおかげで今の私があり、息子を助けるための最高の薬を見つけることが出来た。これは全て旦那様という存在があったおかげなのよ。だからどうか、私に旦那様を支えさせて。旦那様の誇れる女として居続けたいの」
「......勝手にしろ」
クラウンは思わず照れくさそうに顔をそっぽ向ける。しかし、エキドナの左肩に置いてあった右手はエキドナの頭を撫でるように置かれている。
これだけでどういう意味を表しているかを伝えるのは十分だろう。
すると、エキドナはクラウンの顔を強制的に合わせるように両手で向けさせた。そして、額へとキスしていく。
そのことに驚いたクラウンは思わず後ずさる。
「ふふっ、そんなに驚いた表情しなくてもいいじゃない。これでも堪えた方よ? 堪えられなかった今頃仲間には見せられない絵面になっていたと思うから」
「いつもの調子に戻ってきたな」
「戻してるのよ。今は旦那様にどういう感情で向き合えばいいか整理がつかないの。でも、そのぐちゃぐちゃとした感情が甘酸っぱくて愛おしく感じてしまうのは何ででしょうね」
エキドナは片方の耳へと髪をかけながら、クラウンへと微笑する。その時の表情は妖艶な雰囲気もありながら、先ほどの少女のような雰囲気もありで実に魅力的であった。
クラウンはその表情に思わず口角が緩む。しかし、同時に聞いておかなければいけないことも出来た。
「それで、お前はこれからどうするんだ? 息子のところへ戻るのか?」
「そうね。そうした方がいいと思うのだけれど、私は続けて旦那様の意向に従うわ。『こんなどうしようもない母親でごめんね』と息子に謝るほかないわね。でも、私の大切な人が弱っているんですもの。近くにいながら助けないのは竜の名折れだわ」
「お前がそれでいいなら俺は何も言わない。ただ行き先は空にある神殿になったと今告げておく」
「......気を遣わせてしまったかしら?」
「気にするな。俺がそうした方がいいと思っただけだ。お前は黙って従っていればいい」
「ふふっ、そうするわ」
エキドナは嬉しそうに笑った。そんなやり取りを傍から見ていたリリス達も思わず表情を柔らかくしていく。
そして、クラウンはオーブがあるカプセル状の膜の前に立った。それから、その膜に手を触れる。するとその瞬間、何かを読み取ったその膜は一気に弾けて跡形もなく消えた。
「これで4つ目の神殿攻略。残すところはあと4つか」
「ついに半分と言ったところまで来たわね」
「この調子なら余裕で終わると思うです」
「最後まで付き合わせてもらうわよ」
「一蓮托生ってやつだな」
「ウォン!(頑張ろー!)」
クラウンは振り返るとリリス達に少しだけ口角を上げてみせた。その表情に全員が驚くとすぐに、リリス、ベルの女性陣は甘い表情をする。
そして、クラウンはもう一つの果実を確保するとオーブのあった台座の後ろに道が続いていたので、その道を進んでいく。それから、光がが刺す出口が見えて来た。
その瞬間、クラウンは外から大量の気配を感じた。そして、その出口から近くにある太い枝へと飛び移るとその気配の正体を確認した。
それは魔物の軍勢が聖樹近くまで押し寄って来ていたのだ。
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