第114話 亡者の楽園 クレイロータス#1
神殿突入です。
読んでくださりありがとうございます(≧▽≦)
「ここが聖樹か。確かに空気が清らかだな」
「おっきいわね~。というか、大きすぎないかしら? もともとこの森の木々は高かったというのに、それ以上に高いだなんて」
「ふふっ、やはり伊達に『世界樹』と呼ばれることだけはあるようね。とはいえ、聖樹をこうして目の前で見られるのは、もしかして私達ぐらいかもね」
「ほお~。こういう光景もやっぱり行ってみないと知らないもんだな~。やはり、俺はまだ大海を知らない蛙だったわけか」
「この木からはより嫌悪感を感じるです。集落にいた時よりもずっとずっと濃い感じ......長居はしなくないです」
「ウォン(激しく同意}」
クラウン達は聖樹を見ると各々の感想を口にする。ただベルとロキに限ってはとても嫌そうな顔をしている。おそらく、エルフの張ってある魔物除けの結界が聖樹によって強化されているのだろう。
聖樹の大きさは異常であった。この森の木々が周辺から中央に向けて段々と大きくなっていき、集落の部分では30メートルぐらいであった。
そして、それに比べて聖樹はというとその倍以上の大きさであった。近くで見れば、頭を上げ過ぎて首が痛くなるほどだ。
するとここで、リリスはクラウンへと声をかける。
「そういえば、朱里は連れて行かなくて良かったの?」
「連れて行ってどうする? 俺達と比べれば戦力など雲泥の差だ。それにあいつのメンタルは及第点に達したとはいえ、本番になってみればどうなるかはわからん。言うなれば、応急処置したようなものだ」
「なるほどね。わざわざ死に場所に連れて行く必要はないというわけね。いや、どちらかというと殺したくないのかしら?」
「ふふっ、そんな感じがするわ。だって、旦那様は優しくなったもの。前よりも断然に考え方が柔らかくなったわ」
「ですです。主様からは安心する感じがするです。とても居心地がいいです」
「だ、そうだぞ? お前さん?」
「......はあ」
クラウンは頭を掻きながら思わずため息を吐く。なんだか扱いずらさ増したような気がしてならない。否、確実に増した。
だからこそ、ため息が漏れる。めんどくささは身内の方が高いようだ。リリスとカムイにニタニタしたような顔は実に腹が立つ。
「でも、魔物が何体か入ってきたじゃない。そこら辺は大丈夫なの?」
「あいつも仮にもチートの一人だ。そこらの魔物に負けるはずがない。それにベルに鍛えられたエルフがいるしな」
「なるほど。そういうこと」
そして、クラウンは「行くぞ」と言って歩き始めた。それから、聖樹へと近づくと手を触れさせる。
「万物が出来始めし時に生まれた始まりの木よ。この創造の命を表しせし木よ。その始祖たる源を我らが求めに応じてどうかその力を授けたまえ。さすれば、我らは守護者としてこの場に居続けようぞ」
クラウンは族長からあらかじめ聞いていた詠唱をしていく。すると、聖樹は輝かしく発光し、幹から枝先の葉まで神々しい雰囲気を放った。
そして、根から幹に向かって裂けていき、人一人分の大きさまで広がっていく。それから、その裂けた先には森の神殿と同じような石造の神殿がすっぽりと聖樹の中に納まっている。
「どうやら神殿であることは間違いなさそうだが......まさか神殿が入っているとはな」
「なんというか、どうしてここに神殿なんて作ったのでしょうね」
「結局は作った本人にしかわからないものよ。気にしていても仕方ないわ。私達は目的のために進むだけよ」
「確かにな」
クラウンはエキドナの言葉に同意すると神殿に向かって歩いて行く。そして、神殿に入ってまず分かったことは......
「かなり暗いわね。私の夜目が効かないことからすると何か魔法がかけられているかもね」
リリスが言った通りこの場はかなりの暗さを誇っていて、言うなればまさしく闇といった感じだ。
そしてまた、サキュバスの特性の一つである夜目が使えないということは、進むには明りが必要になるのだが......現時点では見当たらない。
リリスは火の玉を手のひらに出してみるが、奧へ吸い込まれるように収束していく。
となれば、残すところは頼りになるのはクラウン、カムイの<気配察知>、ロキの鼻、ベルの耳である。とりあえずのところ、何かがいる様子はない。
クラウン達は進んでみることにした。ここにジッとしていても、進まないし、何も始まらない。しかし、こうも真っ暗だと自分達がどこに進んでいるのかわからなくなってくる。
なので、何かがあるまでは壁伝いを歩いて行く。
進むたびに入り口から刺し込んでいた柔らかな光は、飲み込まれていくように闇の中へと消えていく。
最初は見えていた足元も、段々と足首、膝、腰と上がっていき、ついには自分の手すら見えないほどに暗くなった。
その奥は当然何も見えない。見える余地すらない。背後にいるであろうリリス達をチラッと見ても何もいないように感じる。
まるでたった一人で方向すらわからない道を彷徨っているみたいに。すると、周囲から声が聞こえてくる。子供のような声だ。
『ははは、一人だよ。一人。孤独な少年がやって来たよ』
『今度は何をするんだろうね。人をどれだけ殺すんだろうね』
「何の用だ?」
クラウンは見えもしない何かに問いかける。すると、その2人の子供の声の何かは煽るような言葉を投げかける。
『ははは、怒った? 怒った? でもね、一人なのは君のせいでもあるんだよ』
『だって、君にある闇が孤独になりたがってるんだから。仲間は不要と叫んでる』
「何をわけがわからんことを......そもそもお前は誰なんだ」
『僕達? 僕達はね、この聖樹によって神殿を守護しているものだよ』
『といっても、力はないよ。僕達に役割はいざとなった時の守護なだけで基本的に干渉しない』
「なら、なぜ俺に干渉する」
クラウンは何もない闇に向かって話しかける。<気配察知>をしても相変わらず反応がない。しかし、変わらず話してくる。
『それは僕達が助言者だからだよ』
『聖樹は自浄作用を持っている。それによって影響するのは何も自身だけじゃない。それを浴びている人も同じ』
『でも、その闇を浄化するためには自らがその闇の存在に気付き、向き合わなければならない』
『このままでも先に進むことは出来るよ。でも、出来ればここで闇と向き合った方がいいかもしれない。それを決めるのは君の自由』
「......」
クラウンは思わず黙った。それは言っている意味が全く分からないわけではないからだ。
クラウン自身心に抱えている何かがあるのではないかと思っている。それは神に対してや、響達に対して一瞬湧きおこる異常な憎悪。
それを感じて制御できない自分がいる。まさに衝動的に動いてしまうようなそんな感じ。しかし、触れることのできない闇。
正直、この声が何かの魔物の声によるものと考えられる以上、ここで向き合うのは得策だとは思わない。
するとここで、クラウンはあることに気付く。それはこの声にクラウンだけしか反応していないということだ。
この声が全体的に聞こえていれば、少なくとも誰か一人は反応したような声を上げるはずだ。仮に、クラウン一人に向けられていたとしても、突然誰かに呼びかけた声は不審に思うはず。
なのに、その反応すら何もない。今は風もない静寂の場、耳を澄ませば簡単に小さな音が聞こえてくる。
しかし、リリス達の吐息一つ聞こえることは出来ない。そこでクラウンは全員に一声かけるが、全く反応はなかった。
クラウンは手を伸ばす。しかし、空虚を掴むように近くにいたリリスは存在しない。これはどこかへと飛ばされたのか。自分が先導して歩いていた以上、先に進むことは考えられない。
その何かにクラウンが思考していると2人の子供はクラウンの考えを察したように告げた。
『今、この場は闇の中』
『言い換えれば、ここは自身の内なる世界』
『向き合うのなら今のうち』
『他の人達は向き合った。あの動物は自力で辿ったけどね』
『オススメするのは向き合う方』
『『さあ、どうする?』』
その声はクラウンに選択をするように迫っていく。そして、出来ればクラウンに心の内で向き合うように押してくる。
そして、その声を聞いたクラウンの答えは......
「お前らが俺の何がわかる。ここがどんな場所であるか決めるのは俺自身が決めることだ。ここが安全であるかどうかもわからない以上、お前らが本当に聖樹が作り出したものかわからない以上、お前らの話に乗ることは出来ない」
『『......』』
「それにこの場から自力で出れるのだろう? だったら、俺は先に行かせてもらう。お前らは信用に値しない」
『そっか......残念だよ』
『でも、それが君の選択なんだね』
『でもでも、君はまだ完全に心を開けていないようだね』
『それは闇が君の主導権を握ろうとしている証拠』
『『どうか気を付けて。その闇にだけは。つけ込まれないようにして』』
「その言葉は頭の片隅に入れておいてやる」
クラウンはそう告げると再び壁を伝って歩き始める。すると、もう子供のような声は聞こえてこなかった。
ただ再び静寂で孤独な闇がクラウンを襲っていく。だが、恐怖なかった。もう恐怖などとっくの昔に置いてきたから。
そして、しばらく歩き続けると遠くから点のような光が見えて来た。歩くたびにその光の点は大きくなり、自身の体を照らしていく。
足元にかかった光はやがて脚全体を照らしていき、上半身、顔へと昇っていく。暗闇に慣れてしまっていた目のためにクラウンは光を少しだけ遮りながら、進んでいく。
それから、光量は増してきて、出口が見えて来た。
「クラウン! ようやく来たのね」
「主様、良かったです。リリス様が騒がしかったので、本当に良かったです」
「そうね。『え、あいつ来ないんだけど、何かあったのかしら? でも、クラウンに限ってそれは低そうだけど、でも可能性はなくはないわけだし』って」
「中々の本気具合だったぜ......くくくっ」
「ちょっと! そんなことをわざわざバラさなくてもいいでしょ! 別に嘘ではないけど、言う必要はないわけだし......」
リリスは顔を赤らめもじもじとした表情をする。どうやらそれだけ恥ずかしいようだ。そんなリリスの様子を見ながらクラウンは近づいていく。
「さっさと行くぞ」
クラウンは通り過ぎざまにリリスの頭に手を置いていく。すると、リリスは思わずクラウンの方を見つめた。
「そ、そうね。早く行きましょ」
その声は嬉しそうであった。
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