第113話 クラウンの思惑
はーい、重ためな話が続いたので、一旦リフレッシュしましょう。うちのベルがはっちゃけますから生暖かい目で見てあげてください。
読んでくださりありがとうございます。(≧▽≦)
「せいれーつです! さて、お前達にはこれまで鍛えさせてきた日頃の成果を主様達に見せつける時が来たのです!」
「「「「「おおおおお!」」」」」
「「「「「......」」」」」
温度差が凄い。クラウン達とベル達の温度差が火山と氷山並みに違いがある。にもかかわらず、ベルはエルフ達を鼓舞し続けながら、告げる。
「今までのお前達は貧弱であったです! 体力、気力、力、パワー、筋肉とです!」
「ねえ、後半一緒じゃない?」
「つまりはそう言う意味よ。ベルちゃんにとって最重要事項は筋肉なのよ。まあ、もっとも旦那様の筋肉には誰も勝てないでしょうけど」
クラウン達が見つめる先にはベルとエルフ?達がいる。そして、ベルはエルフ?達を整列させながら、まさしく指揮官のように告げていく。
「何が魔法に優れているのかです! そんもの筋肉の前には無力! さて、復唱するです! お前達が学んできた全てを!まず、遠距離の敵に対しては!」
「「「「「大胸筋! 三角筋! 大円筋に広背筋! そしてとどめの上腕三頭筋からの前腕屈筋群! 」」」」」
「その通りです! 弓なんか使わずとも石を弾丸並みに投げればイチコロです! はい、次です! 中距離に対しては!」
「「「「「中距離なんて存在しない! 我らが戦うは近距離、遠距離の2つのみ! 」」」」」
「なら、近距離に対しては!」
「「「「「前腕に上腕二頭筋! の上腕三頭筋! そしてとどめのラリアットおおおおお!」」」」」
「そうです! 自分の筋肉に自信を持つのです! 今のお前達は強い! それは筋肉という鎧をその身に纏っているからです! お前達なら出来るです! その努力によって鍛え上げられた筋肉はお前達を裏切らないです! さあ、言ってやるです! 魔法ばかりにかまけている貧弱者どもに!」
ベルがそう言うとエルフ?達は声を揃えて言った。
「「「「「魔法がなんぼのもんじゃ~い!」」」」」
「「「「「......」」」」」
クラウン達は思わず押し黙る。目の前で繰り広げられる筋肉至上主義どもの軍隊式のような復唱が。それを見たクラウンは思わず頭を抱える。
それは目の前にいるエルフ達の大概がそれはそれはたくましい筋肉を身に着けているからだ。さながらボディービルダー。もしエルフ達だけを切り取って見てみるならば、世界観が違い過ぎる。
「さあ、主様達に見せつけてやろうです! お前達が鍛え上げたその肉体美を!」
「フロントダブルバイセップス!」
両腕の力こぶを見せつけるように。
「サイドチェスト!」
体を捻って胸板と腕を見せつけるように。
「アブドミナル・アンド・サイ」
頭で手を組むようにして、胸板と腹筋を見せつけるように。
「モストマスキュラ―」
体を少し前傾にしつつ、腕に力を入れながら下に向けて曲げる。腕の筋肉を見せつけるように。
「「「「「......」」」」」
クラウン、リリス、カムイは頭を抱えた。「もう何がどうなったらこうなるのか」と。ベルが筋肉を拗らせていたということはわかっていたけど、限度がある。
頭痛がする。久々に別ベクトルで苦悩した気がする。前回も筋肉が気に食わないとベルがエルフを育てていたことは知っていたが、ここまでなるとは想定外だ。放置し過ぎた。
そして、ベルは「褒めて褒めて!」とばかりに目をキラキラとさせてクラウンを見る。だが、クラウンはそれに対してノーコメント。
というか、返せるはずもない。誰がどうして筋肉至上にしろと言ったのか。なので、逆に言えば返したら負けなのだ。返したくないのも本音だが。
すると、ベルはクラウンから望んでいた言葉が聞けなかったのが悔しいのか、もはや私的理由で再びエルフ達を鍛え始めた。
その光景をもはや止める気も失せているクラウン達。するとその時、クラウンの隣にいたリリスがクラウンへと声をかける。
「そういえば、ベルの光景を見て思い出したけど、あんたも朱里に対して何かしてるんだよね? 何してるの? というか何してるの教えなさい」
「随分と高圧的だな。お前が心配することもないだろ。というより、心配されるようなこともしていない」
「ダウトね。だとしたら、朱里があんな死にそうで、疲れたような顔をするはずがないわ。そして、あんな顔をするなんてあんたしかいないじゃない」
「決めつけも大概だが......間違ってはいないな」
クラウンはリリスにそう返答するとふと数日前のことを話した。
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数日前、クラウンと朱里が一応穏便という形で話が済んだ後、実は続きがあった。
それは朱里がクラウンに対して雪姫の捜索を依頼した事。そして、その依頼に対するクラウンの返答はイエスでもノーでもない回答であった。
「マシなメンタルってどういうこと?」
「あの時会ったお前らの様子を見る限り人を殺すことに抵抗を持っている......響は除くがな。だが、正直な話、もう一度は人を殺す経験はしていると思っていた。しかし、そうでないとなると......お前らは一体どうやって魔王を殺す気だったんだ?」
「殺すだなんて......普通に倒すじゃいけないの?」
「それは強い奴の理論だ。別に瀕死の状態で何かされても対処できるということだからな。だが、大概の場合は最悪の自体を想定して殺すだろう。最も危ない時は標的を狩った時と言うしな」
「でも、朱里に人を殺すだなんて......」
「その倫理観は今更だろ。あの場に魔族がいたということは......響の反応からして戦闘していたんだろ?」
「!」
朱里はクラウンの言葉に思わず口ごもる。まるで全てを知っているかのような疑いもない言葉だったからだ。
そのことに朱里は思わず疑いの目を向けてしまう。すなわち、クラウンがあの魔族と関わっていたのではないかということだ。
だが、それだといくつか矛盾な行動をしているような気もするが、一度疑い始めたらそのような感じがしてならない。
だから、恐る恐る聞いてみた。出来るだけクラウンの逆鱗に触れないように、触れないようにと。
「海堂君、あの時の魔族をどう思うの?」
「不可解な点がある。それが俺達にはまだわからない。だが、少なくとも俺達とお前達とで関わりがありそうな気がしてならないな。あくまで予想の範囲だが」
「そっか......良かった」
朱里はクラウンの反応を見ると思わず安堵の息を吐いた。少なくともあの魔族とクラウン達はグルではないようだ。
すると、クラウンは朱里へと告げる。
「話を戻すぞ。それでお前には人を傷つけても問題ないメンタル......偽善的な言い方をすれば、人の命を奪った罪を背負って生きるメンタルだ。それをお前にはつけてもらう。今更怖気づけると思うなよ? 雪姫の捜索はしてやる。だが、そこまでだ。救出ぐらいは自力でやってみせろ」
「どうして......雪姫は幼馴染なのに......」
朱里は思わず暗い顔をする。その言葉は小さい頃からずっと一緒であった人物とは思えない言葉であったからだ。
だが、もう一度お願いをしておいて、厚かましくもう一つお願いをすることは出来ない。今も安全な生活させてもらっていて、立場的に言えるわけがない。
とはいえ、クラウンをずっと心配し続けた雪姫を見てきたのは朱里である。雪姫の苦しさも悲しさも辛さもずっと見てきたのだ。
だから、思わず言葉が漏れる。すると、クラウンは左手で左目の傷をなぞるように触った。
「お前もこの目の傷を誰がつけたか知らないわけではあるまい。それにお前はお前、雪姫は雪姫だ。お前にどんな事情があれど、俺にしたことは変わらない。それはまた雪姫も同じだ」
「......」
この時、朱里はやはり謝罪の時に過去の話をするのは悪手だったかもしれないと感じた。
クラウンが言った通り自分がたとえどんな状態で、どんな気持ちであったとしても事実こうなっていることは変わらない。
言えば、クラウンからしたら言い訳しているようにも聞こえなくもない。言えて信じてもらえるのは、クラウンが心を見せてくれた時のみ。下手な行動は余計に拗らせるもとになる。
なので、言えるのはせめてこれだけ。
「......なら、せめて雪姫の話を聞いてあげて」
「......考えておく」
そして、クラウンはため息を吐きながら、頭を掻くと告げる。
「お前は話を脱線させ過ぎだ。それに答えている俺も俺だがな......いい加減本題に入るぞ。それでお前のメンタルを強制するためにはまず俺に向かって矢を射ってもらう」
「海堂君に!?」
「俺に矢を射れれば、赤の他人なんて簡単に射れる。射れるようになっていれば、勝手にメンタルは強制される」
「そ、そんな.....」
朱里は思わず怯む。人に向かって矢を放ったこともなければ、クラウンになんて殊更に。だから、体は思わず硬直する。
そんな朱里の様子にクラウンは思わずため息を吐いた。そして、すぐに朱里へと魔物が威圧するような殺気を放った。
その瞬間、朱里は背中に背負っていた弓と矢をクラウンに向けて構えた。その行動はほぼ無意識に動いていて、朱里自身も気づいたのは構えた後のことだった。
「どうやら戦闘の基本に関しては問題なく叩き込まれているようだな」
「こ、これは......」
「それでいい。お前には人を殺せるようになってもらうからな。人を助けに行くということは、時にはそのために人を殺すということだ。それで怯んでいたら、お前は人を助けることは出来ない」
「......」
「いい加減、お前も腹をくくれ。お前が気にかけているのは何も雪姫だけではないんだろ?」
「!」
クラウンは朱里の心情を察しているように言葉にした。そして、そのことに朱里は思わず目を見開く。
朱里が気にしているのは事実であった。それは響に対して一人だけ殺しの罪を背負わせていること。それがどうにも気にして仕方がないのだ。
だからこそ、クラウンにそう言われて言葉を返すことが出来なかった。すると、クラウンは無言で殺気を出しながら、朱里へと歩いて行く。
「ま、待って......」
朱里は弓を構えつつも、少し涙目になりながら後ずさる。だが、クラウンは構わず歩いて行く。そのことに朱里は咄嗟に弦を引く。
今、朱里が感じている殺気は魔物が自分を食らおうとしているそれと同じなのだ。殺らなければ、殺られる。そんな感じ。
だが、理性の部分では相手がクラウンだとわかってる。だから、腕は振るえ、弓はかなりブレている。
「死にたくなかったら、殺せ。それがこの世界の鉄則だ」
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「だがまあ、これでも進歩した方だ。ようやく矢を放てるようになったんだからな。あいつらがいずれ魔王を殺すにしても、あのままでは使い物にはならないようだからな」
「その様子だと今のところ大きなわだかまりはなさそうね」
「お前らがいたから、考えの捉え方が変わっただけだ。あの時のままだったら、俺は変わらなかっただろう」
「なら、私に感謝しなさい」
リリスはそう言うと隣にいるクラウンに少し寄り掛かる。それに対し、クラウンは目の端で見ながら、少しだけ目元を優しくさせる。
「ともかく、あいつが及第点に突破次第、神殿に突入するぞ。もう瘴気は浄化されたようだしな」
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