第104話 エルフの集落
エルフは夢と希望が詰まってる(自論)
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ガックシとうなだれているリリスを見るクラウンはその反応に「どうしたものか」と頭を掻いた。その反応はいつかのリリスを彷彿とさせるものであったから。
「またよ、また......聖樹までの行き先はエルフしか知らないし、もうエルフには敵対しちゃったし、どうやって先に進めばいいのかしら......せめて、せめてこのエルフが生きてさえいれば......」
リリスは割とガチで落ち込んでいる。それが自分のせいなので何も声をかけることが出来ないクラウン。代わりにロキとベルが慰めているのが幸いか。
とはいえ、自分としては先に敵対行動を示してきたのはエルフの方なので、文句の一つは言える筋合いぐらいはあると思っている。
ただまあ、殺してしまってる時点でどちらが悪いかは一目瞭然なのだが。しかし、これは正当防衛だと思いたいところだ。
するとここで、エキドナがエルフの姿を見てあることに気付く。それはほんの僅かだか胸が上下していることに。
そのことがわかったエキドナはエルフの男に近づくと刺さった矢の位置をよく見てみる。
その男に刺さった矢は確かに左胸に刺さっている。しかし、完全に左胸というわけではなく鎖骨のやや下という辺り。
それに口元に手を当ててみれば僅かに息がかかる。どうやら上手く心臓を避けて矢は刺さり、それでおそらくはすぐそばの木から落ちた衝撃で気を失ったのだろう。
だとすれば、ここで手早く治療してしまえば、この男は生き返り、リリスの精神も生き返り、男を使ってエルフの集落へと入れるかもしれない。まさに一石三鳥。やるしかない。
「この矢の大きさから見るとあまり矢じりの大きさは大きくないみたいだわ。良かった、これなら矢を抜いても失血死で死ぬことはないわ。それじゃあ、剣の達人であるカムイに少し切り込みを入れてもらおうかしら」
「おう、任せろ」
カムイは気前よく返事すると男の周囲から全員をどかす。そして、引き抜いた刀を刺さった矢の付近へと向けた。
「痛っ!」
それから、刀の僅かなブレを調整してサッと切り込みを入れる。すると、エキドナが男へと近づいて矢じりがついた部分が折れないような力加減で素早く引き抜く。
その瞬間、男は痛みで目覚める。すると、エキドナはすぐに声をかけた。
「さあ、これを飲んで」
エキドナはポーチから半分に切った果実を男の口元へと搾り垂らしていく。すると、それを飲んだエルフの男の青ざめていた顔は段々と良くなっていき、傷口も塞がっていく。
「うぅ......ここは......」
すると、男は声を僅かに漏らしながら目を覚ました。そのことにエキドナは安堵の息を浮かべる。それから、周囲を見回した男はクラウンを二度見すると思わず驚く。
「ば、化け物がこんなところまで!? は、早く皆に知らせないと!」
「待て」
「ひっ!」
男はクラウンを見てそう言うと後ずさりする。しかし、背後には木が邪魔をしてそれ以上後退することは出来ない。
すると、クラウンは男の顔の横に前蹴りを入れた。その瞬間、クラウンの蹴りで木は揺れて、この葉が舞い落ちてくる。
つまりは足ドンという構図なのだが、この場合は脅し全振りといった感じである。そのため男は歯を、足をガクブルさせている。
「お前には話に応じてもらう必要がある。なに殺しはしない......お前らに敵意がないうちはな」
クラウンは二ィっと不敵な笑みを見せる。その顔に男はただただ頭を縦に振った。
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「はぁ~、良かったわ。生きててくれて。本当に良かった。ありがとうね、これで私達の目的も果たせるというものだから」
「は、はあ、どういたしまして?」
エルフの男カトスはリリスの言葉に思わず疑問形になりながらも返答した。だが、内心は戸惑いが隠せない。
なぜなら、死ぬ覚悟で攻撃したのにもかかわらず、なぜか助けられている。それに、なぜか敵の一人には酷く感謝され、食事まで振舞ってもらう始末。もうわけがわからないといった様子だ。
なので、また死ぬ前にたらふく上手い飯を腹に詰めるとクラウン達に聞いた。
「それでお前達の狙いはなんだ? 僕は殺す気でその男を射った......まあ、手が震えてズレたけど。それでも、その行動がどういうことを意味するかぐらいはわかってる。だからこそ、お前達が僕を助けた意味も何かあるんじゃないか?」
「ある。だが、それを聞いてお前はどうするつもりだ」
「どうにもしない。というか、出来ないと言った方がこの場合は正しいだろ。だが、少なくともお前達が僕達に用があるというのなら、要件ぐらいは聞く権利はあるはずだ。それに、この森はしっかりと集落に続く道を辿らないと着けないようになっているしな」
「チッ、面倒だが仕方ない」
クラウンはため息を吐くとカトスにこの森を訪れる目的を話した。その際、神殺しに関しては話してはいない。ややこしいことになるのを避けるためだ。
すると、カトスは顎に手を付けながら、考え込むように言った。
「なるほど、聖樹内部にある神殿にね......まあ、入ることは出来なくないけど、それはあくまで族長の判断次第になるな。しかし、その宝珠とやらを集めて何をする気だ?」
「それ以上はお前に話すことではない。お前らに用があるのはあくまで神殿のためだけだ」
「そうか......まあ、連れて行ってもいいけど、お前達の負担を背負うつもりは無いよ。最も仲間達からはもう死んでると思われてそうだけど」
「別にそれで構わない。俺は聖樹に入れればそれでいい」
「わかった。なら、早速移動しよう。ここは危険だからな」
カトスは立ち上がると「こっちだ」といって手招きする。そして、歩き始める。
クラウンはカトスを見失わないように背中に糸をくっつけるとその後ろをついて行く。
カトスの道を進むほど森の緑の濃さが深くなっているような気がする。また、そう感じてくると木の隙間から刺し込む光の量も少ない。なので、少し薄暗く感じる。
空気は冷えており、涼しいという感じだ。それに木と木の感覚は割と近く、多少動きにくさを感じるかもしれない。
「そういえば、お前さん、出発する時に『危険だから』と言ったのは魔物がいるからか? 今もずっと俺達の様子を見ているような感じだが」
「凄いな、わかるのか! というか、ここに鬼族がいるのも不思議なんだが、それはまあいいか。よくわからないけど、ここ最近やたら魔物が増えてるんだ。前まではこんなことなかったのに」
「あら? あなた達エルフのことだったら、魔物除けの結界ぐらい張ってると思ってたのだけれど。魔法に長けているのだから」
「張ってるさ。張ってるけども、なぜか結界の効果が効いていないんだ。だから、困ってるんだ。もちろん、結界の効果が切れてないか確かめたけどそうじゃなかった。だから、今は割と森に侵入しようとする者に対して、ピリピリしてんだよ」
「なるほどです。でも、結界が発動しているのは本当です。半分獣の血を引いている私でも嫌悪感はしっかりと感じるです。ですが、それでも魔物が侵入することが出来るとすれば......」
「その魔物が人によって調教された場合か、召喚された場合ね。どちらにしても人為的なことと考えた方がいいわ」
「やはりそうなのか.......」
カトスはリリスの言葉を聞くと思わず俯く。そして、その考えはやはり思い至ってたようだ。
だが当然、そんなことは信じたくはない。なぜなら、それは誰かが自分達を滅ぼそうと証明に他ならないからだ。
それにおそらく狙いはエルフを滅ぼすことではない。そして、予想できる目的は聖樹を殺すこと。それだけは絶対に避けなければならない。
そんなことを考えるとカトスは思わず拳を強く握った。
するとその時、クラウンがカトスへと声をかける。
「お前らを脅かす魔物の原因がもしあいつらだとすれば、それは俺達の管轄だ。手伝うわけじゃない。そいつは俺達が相手をする」
「あいつら? それが誰だかわからないが、そうしてくれるなら助かる」
そして、森の奥へとどんどん進んでいく。時には左に曲がったり、右に曲がったりとカトスの先導に従いながら。
だが、ただついて行ってるクラウン達からすれば、多少なりとも不安があった。それは別の場所に案内されているのではないかということ。
現時点でカトスからは敵意は感じられない。しかし、それは上手く隠している可能性も否定できない。なぜなら、エルフは排他的であるから。
エルフにとってこの森は聖樹に続く神聖な土地である。そして、その森に侵入されるというのはその土地が汚されていると認識してもおかしくない。
それに、この森は方向感覚を狂わせるようにほぼ同じような木が乱立している。そして、上は葉で覆われていて、方向の目印となる霊山を見ることが出来なければ、空さえほとんど見えない。
もちろん、空中へと出てしまえばそんなことは関係ないのだが、カトスの口ぶりからするに集落までの正しい道があるのなら、おそらく聖樹までの正しい道も存在しているはず。
となれば、ここで変に疑って道を引き返してしまうのは愚策であろう。上空から聖樹を探そうとしても、エルフの張った結界とやらで辿り着けない可能性が高い。
なので、出来ることと言えば軽く脅すぐらいだ。
「本当に着くんだろうな?」
「着くから安心して。僕は死ぬ覚悟で矢を射ることはあっても、それ以外で死にたくはないから」
それから十数分後、カトスが言った通り遠くから開けた道が見えてきた。そして、クラウン達はエルフの集落へと入っていく。
そこは巨大な木が立ち並び、木々の隙間から優しい光が刺し込んでくる美しい場所であった。
風はない。だが、心地良いマイナスイオンとも呼べる空気がクラウン達を包み込んでいく。
また、見える範囲で基本的に木造で作られた家がほとんどだった。そして、そのほとんどが木の上に家があり、木と木の間には吊り橋がある。
その吊り橋を渡ってエルフの人々が行き来しており、交流している。また、下の方では多くのエルフが屋台を開いていたりしていた。
そして、そこのエルフは全員が金髪で、特徴的な尖った耳をしている。そして、全身を一枚の布で覆い隠すような民族衣装を身に纏っている。
「どう? ここが知る人はほとんどいないエルフの集落リィシェルツさ」
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