第102話 移動の先
第5章始まり始まり~。しばらく重かったので、まずは軽めから
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雲一つない青空。爽やかな風。緑溢れる森の上で―――――――――クラウン達は突然出現した。そしてそのまま、重力に従って落下していく。
クラウンは咄嗟に周囲を確認する。すると、森が見えた。森と言えば、クラウンが知っているのは「死者の住む森」と呼ばれる森だけだが、見た感じ近くに聖王国が見られない。
だが、案外近くに霊山が見られるということは大して遠くには飛ばされてないようだ。まあ、もしかしたら人がいるからかもしれないが。
「うぁー! 死ぬ! 死ぬぅー!」
「安心しなさい。誰一人死ぬことはないから」
「何言ってんだ!? 上空だぞ、上空!......ってあれ?」
突然空に放り出されたカムイは咄嗟に状況を理解した。だから、思わず叫んだのだが、クラウン達の反応はあまりにも冷静であった。
すると、その反応を見かねたリリスが思わず言及する。そして、すぐにその場に重力を発生させた。それによって、滞空していることに思わずカムイは驚く。
「これどうなってんだ? お前さんの魔法なのか?」
「そうね。私の魔力が尽きることがない限り落ちることはないから安心していいわ。といっても、安心を通り越してくつろぐのはやめて欲しいのだけど」
リリスはそう言いながらジロッと周囲を見る。すると、いつの間にかそこには丸くなったロキを枕にクラウンが足を組みながら寝転がっている。
また、ここでの風景を必死に描こうと、どこからともなく取り出したスケッチブックに羽ペンを走らせるベル。それから、クラウンの添い寝を画策しているエキドナ。
そんな神経の図太い仲間にリリスはため息が漏れる。あれだけのことがあって、今がこれなら大した仲間だ。もしかしたら、状況が目まぐるしく変わってるから、一旦落ち着いてという意味もあるのかもしれないが。
そんなリリスの一方で、カムイは思わず失笑する。
「......というか、なんでエキドナは竜化しないんだ?」
「クラウンとの甘いひと時をご所望だからよ」
「全く理由になってないんだが」
「私も全くもってそう思うわよ。こんな状況なのにね。でも、エキドナにとってそれが理由なの。『ここ最近、お腹の調子が悪くてね。想像妊娠でもしたのかしら?』とかとんでもないことを言ったことがあったから、好きにさせてんのよ。それで欲求が発散できればあれだけど、まあクラウンのことだし......それ以上は知らないわ」
「へ、へぇ~」
カムイは思わず苦笑いをする。「あれ? エキドナって息子いるんじゃなかったっけ?」とふと思いつつも考えないようにした。簡単だ、危険な香りがするから。
するとここで、クラウンがエキドナへと話しかける。
「エキドナ、ここがどこら辺かわかるか?」
「もう、たまには反応してくれてもいいじゃない。聞き出したいのならどうにかしてみなさい」
エキドナは頬を膨らませながら顔をプイっと向ける。「一児の母親としてその反応はどうなんだ?」とクラウンは思わなくもない。だが、見た目は20代前半といった感じなので、別に似合ってないわけでもない。
とはいえ、クラウンにやはり面倒くささというのがあるらしい。テンポよく話が進むならそれに越したことはない。
なので、さっさと済ませようとエキドナを呼ぶように手招きする。すると、エキドナは嬉しそうな顔をしながら近づいて来る。
そんなエキドナに呆れたため息を吐きつつも、自身の親指を一度唇につける。そして、その親指をエキドナの唇に押し付けた。
「これでいいだろ? 俺はお前らと話し合いたいことがある。だから、時間をかけさせんな」
クラウンはおざなりにそう言うも、エキドナの反応は固まったままだった。そして、その顔はいつもの大人びたような様子ではなく、まるで少女のように真っ赤であった。
また、そんな光景を見ていたリリスとベルも思わず固まった。そして、その影響でリリスは魔法を解いてしまう。
「お、わぁ! 落ちる!」
「はあ、お前ら別の理由でもめんどくさくなったよな」
クラウンは落ちながらも、<天翔>を使ってリリスとベルに近づいていく。そして、「同じことをすればこいつらも機嫌を戻すだろう」と思って、先ほどの親指をそれぞれ押し付けていく。
すると、二人は状況を理解するとエキドナと同じように顔を赤らめる。つまりどういうことか。
結果、状況は変わらないということだ。
クラウン達は地面に向かって勢いよく落ちていく。そして、そんな3人にクラウンは呆れたため息を吐くとロキに声をかけた。
「はあ、ロキ、手伝ってくれ」
「ウォン(やれやれだね)」
クラウンはリリスとベルを小脇に抱えて地面に降りる。残りの二人はロキが背中に乗せながら下りてくる。
それから、顔を真っ赤にした女性陣がだいたい復活した数分後、クラウンは再びエキドナに尋ねた。
「それで、どうなんだ?」
「はあ、今の不意打ちはずるいわよ。いつも反応してくれないのに、予想もしてないところで反応するなんて......最高かしら.....はっ! そうね、少し待ってて」
若干一名復活しきれておらず、心の声が漏れていたエキドナはクラウンの言葉に反応した。
すると、先ほどの質問を思い出して胸の谷間に手を突っ込む。そして、その胸から三つ折りにされた紙を取り出した。
「どこから取り出してんのよ」
「ふふっ、誰にも盗まれることないとっても優秀なポケットからよ。そして、これがまず表には出ないほぼ世界を描いた地図よ」
エキドナはクラウン達にわかりやすいように指を指しながら説明していく。
「まずここでも確認できるのが霊山が割と大きく見えることから、そう遠くまで飛ばされてないわね。まず周囲一帯のどこかといった感じかしら」
そう言うとエキドナは霊山を見る。
「あれは霊山の裏の顔ね。表にはない大きな窪みがあるもの。ということは、ここは聖王国から見て丁度反対側に位置する辺りかしら。それでいて森に一番近いところというとこの辺りかしら」
エキドナが指差したところは「エルフの森」と書かれた文字のすぐ近くであった。すると、それが分かったリリスは思わず上機嫌になる。
「いいわね。なんかとんでもないようなことが起こってる気がするけど、旅としてはとても好都合だわ。霊山を超えてエルフの森行くなんてしんどかったもの。遠回りだと時間がかかりそうだしね」
「俺は時間がかかろうと文句は言わない。まあ、早く着いたことに越したことはないがな」
「あら? 意外ね」
リリスはクラウンの反応に少しだけ驚きを見せた。それはクラウンの反応が丸くなったことだ。まあ、随分と今更なことだが、リリスにとってはその僅かな反応でも嬉しくなるものだ。
「それじゃあ、今日は早いけどここで休むことにしましょう。そして、クラウンの悩みを聞いてあげようかしら」
「「「賛成」」」
「ウォン」
「悩みじゃない。ただ確認したいことだけだ」
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それから、陽が沈み、バトンタッチした月が夜空に輝く頃、食事を終えたクラウン達は話し始めた。
「それじゃあ、まず勇者に会ったことだが、これはもうどうでもいい。それよりも――――――――」
「待て待て、本当にいいのかそれで?」
クラウンがサラッと流そうとしたことにカムイは思わず割って入った。だが、それはカムイにとって仕方ないことだ。
カムイの今があるのは死んでしまった友と励みあったからこそ。故に、「友」という言葉にこの中で一番敏感なのだ。
そして、カムイはクラウンに一緒に召喚された仲間がいることを知っている。だからこそ、このままでいいのかと思ってしまう。
すると、クラウンはそれについて冷淡に答えた。
「あいつは神の手先にとなった。それがどんな事情であれ、俺には許すことは出来ない。もっとも願うはずもないことだがな」
「......お前さんらはそれで良かったのか?」
カムイはクラウンの話を聞くとそっとリリス達に尋ねた。それはクラウンが勇者と戦う時に味方するような行動を取っていたからだ。
あの行動はクラウンの勇者との敵対行動を認めているようなものであった。あの時はまだ状況をしっかりと把握していなかったから、静観したものの納得がいっているわけではない。
すると、その問いにリリスは答える。
「別にいいのよ。これがクラウンの出した答えだから。そもそも何も知らない部外者が口出すべきことじゃないことだと思ったのよ」
「......」
カムイはリリスの答えを聞いて思わず冷たい目を向けてしまう。軽蔑とまではいかないが、それでも「もう少し何か考えているだろう」とカムイは思ってしまった。
すると、隣に座っていたベルがカムイの袖を引っ張る。そして、手に持っていた紙を渡した。
カムイは受け取った紙をクラウンにバレないように盗み見る。すると、その紙にはこう書かれてあった。
『先ほどのリリス様の言葉は基本的に反対のことを言ってると思うです。リリス様は主様のことを大切に思っていても、周りが見えなくなるほどじゃないです。まあ、ぞっこんなのは否定しないです』
その内容を読んだカムイは先ほどのリリスの言葉を変換させた。
「別にいいのよ」は「全然良くないわよ」となり、「口出すべきことじゃない」は「口出したいに決まってる」という所だろうか。リリスのことだからこのくらいの解釈が良い塩梅かもしれない。
そう考えると、「先ほど向けた目線はなんとも申し訳ない」と思って仕方ないカムイ。確認のためにリリスを見てみると顔を逸らされる。どうやら図星のようだ。
そして、カムイはリリスに申し訳なさそうに手を合わせると自ら話題を変えた。
「まあ、その話は今は忘れよう。それでクラウンが聞きたいのは魔族のことだよな?」
「ああ、あの魔族は2つ気になることがある。まずは『魔王』という言葉に含みがあった。それはまるで俺に向かってその言葉を言っているような気がした」
「それはさすがに考え過ぎだと思うわよ。今はただ旦那様が勇者に敏感になっているだけ」
「......かもな。あと問題なのはあの魔族が転移の石を持っていたことだ」
その言葉に全員が押し黙った。それだけが現時点で最大の謎であると言っていい。ちなみに、カムイが知っているのはすでに話してあるからである。
まず転移の石は兵長が持っていたのはリゼリアから貰ったであろうもので、クラウン達もリゼリアから3つばかり貰っている。
そして、そのリゼリアは元神であるということ。神トウマの手先ではなく。そのことが疑問を悪化させていた。
しかし同時に、全員の気持ちはおのずと一致していた。それは、魔族が神の手先となっているのではないかということ。
だが、今は情報が少なすぎてその確証は持つことはできない。それに、そもそも魔族は人族に敵対していて、神などもってのほかのはず。
なので、今後はそこに関して情報を集めていくことも視野にいれなければならないかもしれない。
それから、クラウン達はそれらに関する各々の見解を話し合った。だが、その結果は「まだわからない」という結論のみ。
なので、クラウン達は体力を回復させることを優先した。特にクラウンには心的ダメージが大きいから。
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「「「「「......」」」」」
その夜は普段よりも冷たい風が吹くばかりであった。だが、そんな風に身を隠すように木陰からクラウン達の様子を遥か遠くから見つめる者達がいた。
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