第101話 消失
間章お~わり
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在りし日の響とクラウンは、小学校の頃から家が近所ということもあり、二人で虫集めやボールで遊んでいたりしていた。
また、中学、高校と移り変わろうとも二人の遊ぶ趣味が変わるだけで、特に何かが起きることもなかった。ましてやケンカなど。
それほどまでに仲が良かった二人がたった今、場所を異世界に移して互いの剣を交えさせた。
一人はこの世界の神を殺すため。
一人は魔王を殺して、もとの世界に帰るため。
そして、その目的を果たすために避けては通れない道が互いにある。それが今、目の前にいる友である。
二人の刃が交わった瞬間、森は音を立てて騒ぎだす。木々は叫び、草花は怯える。周りにも人がいるというのに、その場ではまるで二人だけの空間であった。
クラウンは響が引く気がないのを確認すると自ら刀を引いた。そして、そのまま押してきた響に対して、腹部へと蹴りを入れて吹き飛ばす。
それからすぐに、クラウンは響に切りかかる。だが、響はすぐに体勢を整えるとクラウンの剣を受け流し、滑らせ切りかかる。
それをクラウンが上体を逸らしながら地面を滑っていくことで避ける。そして、そのまま体を逸らすようにして地面に手を付けると片手で逆立ちした状態から蹴り込んだ。
だが、それは響が腕でガードして防ぐ。それから、クラウンが逆立ちした状態で振った刀を剣で弾きながら、距離を取る。
「少しはマシになったようだな」
「お前を止めるためさ」
「所詮は<成長倍率>のおかげだろ。それで力をつけた気になってるなら、俺には勝てない。そもそもお前が勝つ選択肢などない」
「いや、ある!」
響とクラウンは再び突っ込んでいく。そして、響が風を裂くような鋭い突きをしてくるが、クラウンはそれを半身で避ける。それから、響の顔に近い方の手で裏拳をして、顔面を殴った。
響はそれで思わず後ずさるが、咄嗟にクラウンの手を掴む。そして、そのままの状態でクラウンの横っ腹に蹴り込んだ。
それによって、クラウンは体を持っていかれるが、足を踏ん張らせて耐える。するとすぐに、右手に持った刀を下からすくい上げるように切り上げた。
しかし、その攻撃は響が両手で剣を支え、横にすることで受け止める。そして、その状態から刀を滑らせるように剣を横に振るった。
だが、それはクラウンがしゃがむことで簡単に避けられ、接近される。そして、横に振った腕を掴まれるとがら空きになった腹部に右拳の一発が入れられた。
「がっ!」
響から思わず声が漏れる。そして、全身が揺さぶられたような感覚が響を襲った。
それはクラウンの<極震>の効果だ。それによって、響は体が痺れ、一時的に行動を不能にさせられた。
「じゃあな――――――――!」
「させるかああああ!」
「それをさせないわ」
クラウンが響の心臓に向かって突こうとした時、後方からの声によって一瞬止まる。そのせいで、コンマの猶予を響に与えてしまい、それで復活した響に距離を取られた。
クラウンはふと後方を見る。すると、クラウンに向かって何かを放とうとした弥人の腕が真上を向いていた。そして、近くに蹴り上げた状態のリリスが。
「何すんだてめぇ!」
「女に向かって『てめぇ』とは相変わらずのしつけのなさのようね。それでも、これが男と男の神聖な戦いであることはその小さな脳みそでもわかると思ったのだけど......どうやら違うみたいね。クラウン、あんたは無視してくれて構わないわ」
リリスはクラウンにシッシとするように手をブラブラと振る。そして、二人の戦いを邪魔する弥人の邪魔をし始めた。
また、弥人の周りにいる仲間達も動けないでいた。それはクラスメイト同士の本気の戦いを見ているせいもあるが、それと同じくいつの間にか近くにいるベルに恐怖していたからだ。
ベルは特に何もしてない。ただ時折目が合えばニコッと笑みを返すのみ。それがクラスメイトを恐怖させる。
なぜなら、目が微塵も笑っていないからだ。人には出せそうもない深い闇の籠った目。そんな目をしている。
若干16歳の少年少女が見た目は小学生と変わりないベルに怯える光景はなんとも珍妙だが、この場においては当然の反応だった。
「これで邪魔はなしだ。お前の動きは見たが、もう把握した。嬲って終わらせる」
「終わらない。僕は僕の目的のためにお前を止める!」
「やってみろ」
響はクラウンに向かって突貫する。だが一方で、クラウンは響を見たまま微動だにしない。
そして、響が剣を突くとクラウンは半身で避ける。それからすぐに、響が剣を横に振ってくるが、クラウンは響の膝裏に蹴りを入れて体勢を崩させた。
「あああ!」
そして、その隙に響の脇腹に切り込んだ。するとすぐに、回し蹴りで響の腹部を捉え、そのまま蹴り飛ばす。
響は地面に体をつけると勢いを殺すように敢えて少し転がった。そして、脇腹の痛みを堪えながら、すぐにクラウンへと接近する。
響は剣を上段に構えるとクラウンを間合いに入れ、振り下ろした。その攻撃をクラウンは後ろに下がって避けようとする。
「!」
「今度は手で受け止めるなんて出来ないぞ!」
だが、避ける直前でクラウンは響に足を踏まれた。そのせいでクラウンは後ろに下がることが出来なくなった。
だが、その間合いは響が剣を触れる間合いではなくなったということ。しかし、響はそれをするためにブラフで切りかかったのだ。
そして、本命は咄嗟に構えた左拳をクラウンの顔面に叩き込むこと。それでクラウンの目を覚まさせる。
響の左拳は全体重を乗せるかのように少しひねりを利かせながら、真っ直ぐ進んでいった。そして、響の顔面を捉える。
「まだこの程度のようだな」
「!―――――――――がああああ!」
響の拳は確かにクラウンの顔面へと入った。しかし、それまでだった。クラウンの目を覚まさせることは出来なかった。
視界に広がるは青が一面に広がる空とは正反対なただ暗く、底が見えないような黒々とした冷たい瞳。そして、薄く伸びている笑み。
その目に恐怖を抱いた響はその状態で一瞬固まってしまった。それがいけなかった。
響の腹部に強烈な膝の一撃が入った。それによって、空中に少しだけ打ち上げられ、響は思わず腹を押さえて頭を下げる。
その状態に響に、クラウンは刀を逆手に持つと柄の頭で顎を打ち上げる。そして、体が伸び切り、死に体となった響に逆手の状態で下から上へと切り上げた。
それによって、響は胸から空中へと鮮血を噴き出させた。そして、少しだけ吹き飛ばされ、転がっていく。
「これでわかっただろ。お前の力じゃ俺を止めることはできない。それに俺をいつまでも救う気でいるのなら、御門違いだ」
「僕はお前と一緒に帰るんだ......」
そう言うと響は痛みに堪えながら上体を起こしていく。そんな響の返答に思わずクラウンはため息を吐いた。
「いつまでも幻想を持ちやがって......そもそもこの世界に帰還方法があるのかも怪しい。俺達はあのクソ教皇から魔王が帰還のために必要な賢者の石を持っていると言っていた。だが、あのクソが言ったことだ。本当のこととは思えない」
「それじゃあ......帰れないとでも言うつもりか......」
響は剣を支えにしながら、膝をつき、立ち上がる。そして、クラウンの瞳を真っ直ぐと見る。だが、すぐに怯みそうになる自分がいる。しかしここは、逃げてはいけない。
「そうだ。少なくともこの世界に神がいる限り、お前達に帰る手段など与えるはずがないだろう」
「......仁はこの世界の何を知って―――――――――――――」
「そこまでです」
響がクラウンに向かって何かを告げようとした時、突然何者かがクラウンと響の間に割って入った。
その人物は額に角があり、浅黒いを肌をしていて、黒いコートを着ている魔族の男であった。
そして、その男は響が取り逃がした男であった。
「お前えええええ!」
「怒っている所申し訳ないですが、あなた達勇者には魔王様のためここで消えていただきます」
突然激昂した響に男は冷静な物言いで返していく。そんな二人のやり取りをクラウンは状況を把握するために冷静に眺めていた。
すると、男は腰のポーチから一つの模様の入った石を取り出した。そして、それを頭上に掲げる。
その瞬間、クラウンに悪寒が走った。なぜなら、その男が持っている石は兵長が獣王国で使った、リゼリアから受け取った転移の石であったからだ。
クラウンは咄嗟に仲間全員に糸を飛ばして巻き付ける。そしてまた、魔族の男の行動を危険と感じた弥人が響のもとへと走る。
「それではさようなら、勇者様方」
男は石に魔力を込める。すると、石は白く輝きを放ち始める。それから、その石を思いっきり地面へと叩きつけた。
その瞬間、男を中心に眩い白い爆発が起こり、周囲を次々と巻き込みながらその体積を大きくしていく。
「響、お前は生きろ」
「え―――――――――」
するとその時、弥人は自身を爆発側に立たせ、響を反対側に立たせると突風のような風魔法を叩きこんだ。それによって、響は思いっきり遠くへ吹き飛ばされる。
そして、弥人は―――――――――飲み込まれた。そのことに響は思わず頭を真っ白にさせる。
そんな響を白い爆発は追いかけるように迫ってくる。そして、響は地面を転がっていく。爆風も相まって遠くまで転がっていく。
「くっ......皆は?」
響は全身に走る痛みに堪えながら、うつ伏せの状態になる。そして、目の前に広がる光景に目を移した。
だが、やはり現実は否定してくれなかった。弥人が消えたのは何かの間違いだと。
何もなかった。その場には草も木も、クラウン達も、聖騎士達も、ましてやクラスメイトの姿も。
「え......皆?......」
まるでごっそりとスコップのような何かですくい上げられたかのように何も残っていなかった。あるのは円形に抉られた地面だけ。
響は状況が理解できなかった。理解したくなかった。何もいなくなったところで誰が理解したがるというのか。
響はゆらゆらと立ち上がる。聖剣もその場に残して歩き出す。
誰かいて欲しい。誰でもいい。誰かが助かっているならばそれでいい。まだ希望はある。
やがて響は抉られた地面の淵に辿り着き――――――――膝を崩した。
抉られた中に誰も、誰もいなかった。ただ抉られた地面がそこにあるだけ。
自分を信じてくれた、助けてくれた仲間が誰一人としてその場にはいなかった。
響の目から麻痺したように勝手に涙が流れてくる。そして、両手を握りしめ、地面へと叩きつけた。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!」
いないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないないないないないないないないない! 何も! これっぽっちも! ない!!
響は思わず泣きじゃくった。
静寂とかした森に響の泣き声だけが響き渡っていく。
誰も慰めてはくれない。助けてはくれない。草も、木も、風も、何も。ただその場だけ時が止まったかのように。
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「ふぅー、どうやらうまくいったようだね」
リスは遠くから泣き崩れる響を見て、思わずほくそ笑む。そして、その姿をグニャリと歪めていくと体積を増やしていき、一人の少年のような姿になった。
「ふぅ、聖騎士に成り代わってることは気づかれなくてよかったけど、あの強制転移で確実に落下に失敗するようなタイプだから死んだかな。はあ、全くまたストックを潰す羽目になった。別に溜めることは難しいことじゃないんだけど、面倒だからやめて欲しいね」
少年はリラックスするように腕をグイッと頭上に挙げて、大きく伸びをする。そして、一気に脱力させる。
「でもまあ、一先ず勇者が魔族に対して、怨恨を持つことには成功したようだね。それに、自分の無力さにもようやく気付いた。これなら、後は脅すだけで上手く事が運びそうだ。まあ、それまでに邪魔な聖騎士団長を殺さないとだけど」
少年は独り言ちりながら、地面へと座ると木に寄り掛かる。それから、再び独り言ちる。
「後は魔王の方だけど、あの男がいるならば女を使っておびき出すことは出来そうだな。ただ、バラバラになるはずが、一緒になって飛ばれたのは面倒だな~。想定内ではあるけど、集団だとどう動くか読みづらいからな~。よし、ここはラズリにも手伝ってもらおう。今のあいつなら、躍起になって働いてくれそうだし」
それからしばらくして、少年は立ち上がると響を一瞥する。
「よし、第3フェーズに移行するとするか。それじゃあ、また会おう......聖王国で」
そう呟くと森の奥へと歩き出し、その姿を隠していった。
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