第100話 決別
活動報告で第2章キャラ紹介しました。良かったら読んでみてください。
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「待て! お前だけは絶対に許さない!」
「響! 落ち着け! これ以上感情を先行させるな!」
魔族を追いかける響に弥人は言葉を投げかける。しかし、響はその言葉に反応する様子はない。ただ、目の先にいる魔族を見据えて走っている。
すると、魔族の男は一瞬だけ振り返ると矢をつがえて、放った。しかも、狙った相手は追いかけて来る響ではなく、その響きを追いかけている弥人達の方であった。
それがさらに響の怒りのボルテージを上げていく。
響は素早く矢の直線上に入っていくとその矢を払い落としていく。そして、一気に加速して男との距離を詰めていく。
そして、剣を振り下ろした。だが、それは男が腰から引き抜いた短剣によって流される。加えて、男はその短剣を響に向かって投げた。
響はそれを頭を傾けて避ける。しかし、そのせいで再び距離を作られてしまった。
すると、男はまた矢を放っていく。それを響は再び弾く。そして、それによって一時的にさらに距離を作れるとポーチから取り出した紫色の球体を地面へと叩きつける。
その瞬間、男とその周囲一帯を包み隠すように煙幕が上がった。
響がその煙を振り払う。だが、そこにはもう魔族の姿がなかった。この場にいるのは近くにいるリスぐらいのみ。
響は逃げられたことに思わず聖剣を握りしめる。その聖剣は小刻みに震えている。表情も眉間にしわが寄り、口角は鋭く尖っている。
その時、響の肩に手が置かれた。
「響、怒る気持ちはわかる。だが、ここでそれ以上感情を爆発させるな。死んだのはその人だけじゃない。クラスメイトは幸い全員無事だが、聖騎士の2人と村人の何人かが死んだ。この辛さや怒りは全員が感じている。だから、押さえろ。剣が鈍っちまう」
「......わかった」
響は弥人の言葉を受け止めるとゆっくりと深呼吸した。そして、興奮していた体を落ち着けていく。それから繰り返していく度に、聖剣の震えは収まっていく。
すると、響は今いる場所がが不自然なことに気付く。それはまるで森が巨人にでも伐採されたかのようにキレイに切り開かれている。しかも、かなり大規模に。
誰かが切ったのだと思われる。だとすると、少なくとも普通の人ではないことは確かであろう。それに切った木を見る限りかなり新しくも見える。村人が言っていた賢者がやったものだろうか。
するとその時、誰かが叫んだ。
「おい! 上空から何かが降ってくるぞ!」
響達はその声に従って上を向く。すると、人の形をした何かがこっちに向かって降ってくる。そして、地面に轟音を響かせ、砂埃を巻き上げながらその何かは着地した。
そして、現れたのは......
「どうして......ここにいるんだ?」
「え......嘘......」
「マジかよ......ここで会っちまうなんて......」
「落ち着いて、雪姫ちゃん」
仮面はしていないが、黒髪に鋭い目つき、左目に切り傷、黒いコートに刀。そして、黒々と染まった瞳。
「チッ、面倒な奴らに会ったな」
クラウンは響達の顔を見た瞬間、とてつもなく嫌そうな顔をする。しかし、襲撃の夜ほどの殺気が漏れ出ることはなかった。
だが、複雑な感情であることには変わりない。そしてそれは、響達であっても同じことであった。だからこそ、会ってもすぐに言葉が出ない。
すると、クラウンが響達に声をかける。
「今、お前らに用はない。俺にはやるべきことがあるからな。なぜここまでいるかは知らんが消えろ」
「仁てめぇ! たったそれだけかよ! 俺達が一体どれだけ――――――――」
「それを言う資格がお前らにはあるのか? あって言ってるのなら大したことだが、口には気をつけろよ? 用はないと言っても殺さないとは言ってない」
「「「「......」」」」
弥人はクラウンの言葉に思わず苦虫を嚙み潰したような顔をする。とても言い返したいような表情だが、正論なのでグッと拳を握りしめて堪えている。
そして、しばらくの静寂がこの場に訪れた。空は青空が広がる中、この場だけが酷く重い空気に包まれている。心なしか風も冷たく吹く。
その時、一人の聖騎士が勇者の横に並び出た。
「誰だお前は! この方を誰だと心得ているのだ! この方は勇者で神トウマ様より直々に選ばれた神の使いであるぞ!」
「な......んだ......と!?」
その聖騎士が響の情報を告げた瞬間、クラウンは思わず驚きの声が漏れてしまう。そして、すぐにそれ以上の感情が湧き出てくる。
その感情は物理的干渉を持つかのように周囲へと刺々しい圧を伝えていく。そして、それは簡単にリリス達が抑えられるような域を超えていた。
この場に悪意がまみれていくように息苦しさを誰もが感じていく。この空間だけが異質に変わっていくように重たい空気が体を包み込む。
『凶気度が 10上がりました。現在の凶気度レベル 65 』
そして、クラウンは響に告げた。
「お前には失望した。まさかお前が神に下るとはな......それがお前の選択ならば俺はこの場で決着をつけるのみだ」
「仁、何を言ってるんだ!?」
響は思わず戸惑った。それはクラウンが完全に敵対行動を取って、刀を引き抜いてるからだ。自分も抜かなければ殺されてしまうような鋭い殺気。
自分はクラウンを止めるために、和解をするためにずっと仁を探していたはず。なのに、自分は今なぜ聖剣を引き抜いているのだろうか。
すると、誰もが動けないと言った空気の中、またもや先ほどの聖騎士が言葉を告げる。
「勇者様、この魔道具を見てください。この魔道具は魔族を見つけると紫色に輝く。そして、今この魔道具が輝いています。ということは、あの者達の中に魔族がいるということです」
「なっ!」
「おいてめぇ! こんな状況で何を言ってんだ!」
弥人はこの場の状況を悪化させるような言葉を吐いた聖騎士に掴みかかる。しかし、その聖騎士は怯えて何も言葉を発さない。
一方で、響はその聖騎士の言葉にショックが拭えなかった。自分達が戦おうとしている魔族と仁が繋がっている。
つまりはそれほどまで自分達を憎んでいるということ。本来敵対する相手と手を組んでいるのだ。そう考える方が当然だろう。
だとすると、先ほどの魔族達は......あの魔族の男が消えたタイミングも場所も都合が良すぎる。ならば、仁は魔族を使って仲間を殺させようとした!?
もし、もしそうであるならば、たとえ仁であったとしても到底許すことは出来ない。
ここで、この場で決着をつけるほかないのか。だが、もう話し合いという手段は残されていないような気がする。
ならば、せめて、せめて自分が仁を超えて倒すしかない!
「仁、それほどまでに僕達を恨んでいるとは知らなかった。いや、知ろうとしなかった。自責の念ばかりに頭を抱えて、お前を見ようとしなかった」
「今更そんな言葉を言って何になると言うんだ? お前たちはもう俺の超えて欲しくなかったラインを超えた。それがお前らの選択だというのだろう」
響の言葉にクラウンは棘を持って言葉を返す。そのクラウンの言葉が意図するところはわからない。だが、自分達がまた何かをしてしまったことは確からしい。
その時、何とか重い口を開けた雪姫がクラウンに告げる。
「仁! 私達は戦いたいんじゃない! 仁と和解したいの! もうこれ以上友達が傷つく姿を見たくない! それに友達同士が戦うなんてあってはいけないことだよ!」
雪姫は涙ながらに仁に訴えかける。それは再び仁に会えたというのに、これから響とクラウンが戦おうとしている。そんなことを見逃せるはずもない。
だが、それに対してクラウンが言った言葉は酷く冷たいものだった。
「和解? 確かにその余地はたった今さっきまではほんの少しだけあっただろうな。だが、響が神の使いになった時点で話は終わりだ。そいつは完全なる俺の敵対者となった。それは神の使いと知りながら、つき従っている時点でお前らも同罪だ。もうここで完全に縁は切れた」
「え......それじゃあ、私との関係も?」
「ああ、俺とお前は敵同士。それ以上でも以下でもない。もういい加減に認めろ。先に手を染めたのはお前らの方だ」
「う......そ......」
「雪姫! しっかりして!」
雪姫はクラウンの言葉に多大なる精神ダメージを受けた。そして、思わず膝を崩れ落ちさせる。
雪姫の瞳には光が消え、顔からも生気が抜けたかのようになっている。そして、力が入らなかった体がゆっくりと地面へと向かって崩れていく。
しかし、それを朱里がしっかりと受け止めた。そして、何とか雪姫の言葉に声をかけて、ショックから少しでも回復させようとする。
また一方で、クラウンの方でも少しだけ会話があった。
「あいつらがお前の仲間達か?」
「『元』だ。たった今さっきからな」
「それはあの勇者が神の使いになったからか? まあ、そう考えるのが妥当だろうけどな」
「俺が全て相手する。それが元仲間達に対するせめてもの手向けだ」
クラウンはカムイの言葉に淡々と答えていく。だが、その表情は怒り、憎悪、ほんの少しの悲しみが現れているような気がした。
少なくともクラウンを除く全員がそう感じるぐらいには表情はわかりやすかった。だからこそ、何も言えない。言えば、これ以上悪化させるかもいれないから。
「響、もう俺とお前は決別したんだ。これ以上慣れ合うつもりは無い」
「仁は......仁は本当にそう思っているのか? これ以上に他に何かないとでもいうのか?」
「ない。それはわかりきってることだ。それにお前らが選択したことだ。神は俺の敵。神の使いもまた俺の敵だ。だからこそ、俺はお前を殺す」
「......わかった。ならもう、止めはしない」
「おい響! お前!」
「いいんだ、弥人。もうこれしか手がないのだとしたら、僕は戦う。それに、ここで仁を勝てば全ては丸く収まるんだ」
それに魔族がしでかしたことを忘れたわけではない。仁が魔族と関わっている確証があるわけではないが、魔族と関わっている以上その可能性の方が高い。
魔族はそれほどまでに強引さと残虐性を兼ね備えた種族であると教皇から聞かされた記憶がある。だとすれば、クラウンが変わってしまったのも魔族が原因かもしれない。
もう僕は魔族を許すことは出来ない。
「腹は決まったか勇者?」
「ああ、もう決めたよ......仁」
そして、二人は一気に互いに向かって飛び出す。
同時に切りかかり、剣を交えた。
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