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星の欠片  作者: 透明人間りんね。
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四 金髪

 一般病室に移った。あの部屋とはまた違った喧騒が、周りを包んでいる。移動してからそれなりにたったので、随分この騒がしさにも慣れた。

 あの部屋で見た幽霊は、結局あの後出てくることはなかった。夢だったのではないかと思ってしまう。

 あの日、実際に見たのに。人に話しても、可哀想なやつを見る目で見られてしまう。

 あの美人は、俺の願望だったのか?


 「なんか必要なものはある?」

 「いや、大丈夫。」

 母さんは、毎日見舞いに来る。日用品や暇潰しのものを持ってきてくれるから、ありがたい。最近は異様に本を持ってくる。今日は太宰治だ。

 はっきりいって読みづらい。母さんが好きなだけだ。まあ、心配をかけてしまったからしょうがない。母さんの刷り込みを甘んじて受け入れよう。

 しかし、起きてから見た母さんの顔は、忘れられない。安心したような、不安なような、泣き出しそうな、はたまた怒ったような、色々なものが入り交じった表情だった。

 二回もこんなことは経験したくない、なんて泣き言まで言われてしまった。本当にあのときは、心臓が痛かった。とてつもなく、申し訳なかった。

 「じゃあもう帰るけど、なんかあったらすぐ言うのよ!」

 「わかったよ。」

 「おやすみなさい。」

 「おやすみ。」

 母さんも帰って、やることもなくなった。渡された本をペラペラとめくる。

 文字の羅列に頭が痛くなってくる。たぶん読み始めれば、すぐ内容にとりつかれると思うが、なかなかそこまでの行動に移せない。なんだか疲れる気さえする。

 別に本が嫌いなわけではない。むしろ好きな方だ。ただ、気分じゃないのだ。

 普段はこんなこと全然思わないのに、こんなことを思ってしまうのは、この変な体質のせいだろう。

 外から触っても、なんの変化もない。体の内側だけが変わってしまった。

 もうずっと、寒い。

 寒いと、冷たいと、思わないときはない。最初よりは慣れたが、それでも寒い。

 今まで体温があったことは必要なことだったと、実感できる。体温が低いと、どんどん気が滅入ってしまう。

 「眠いな…。」

 体温のせいか、睡眠時間も長くなった。寒いと眠くなる。雪山理論だ。

 雪山理論といえば、中学の頃の先生を思い出す。寝そうなやつがいると、必ず「寝たら死ぬぞ!雪山じゃあ!」って言っていた。懐かしい。

 転勤してしまってから、消息がわからないから生きていることを願うばかりだ。だからと言って、年齢はおそらく三十代中盤なんだが。また寿命ではまだ死んでいないだろう。結婚できたのかな。

 「寝るかー。」

 本格的に欠伸がでてきた。もう無理だ、眠い。頭の中はもう支離滅裂だし、もう考えるのもやめた方がいいだろう。夕飯までだ。それまで寝てしまおう。

 

 首まで布団を被って、目をつむる。視界が暗くなる。煌々と電気はついたままなので、瞼を通り越して光を通している。だけど、それさえ気にならない。睡魔はなかなか強い。




 声をかけられ、目を覚ます。夕飯の時間だった。母さんが帰ったのが、四時くらいだったはずだ。二時間くらい寝たことになるのだろうか。

 夢さえ見ないほどに熟睡だった。質の良い睡眠は、きっと家の何倍も体に合った布団のせいだろう。

 普段の生活に戻ってから、夜寝れなくなったどうしてくれるつもりだろうか。

 そういえば家の布団は、最後にいつ干しただろうか。母さんが干してくれているかな。

 「ご飯ですよー。」

 「あ、ありがとうございますー。」

 思考を中断して、お礼を言う。

 ベッドの脇にある小さい机に、お盆が置かれた。少し量の少ない白米と、お味噌汁。あとおかずが何個かついている。

 美味しそうだ。連動したように、腹の虫がなる。

 「いただきまーす。」

 ありがたくご飯をいただく。空きっ腹に刺激が少ない薄味が嬉しい。

 どんどん箸は進み、あっという間に食べ終わってしまった。今日も美味しかったです。

 箸をかちゃりと置いて、お盆を返しにいく。

 スリッパを履き、廊下へ出る。俺と同じように返却のためにでてきた人が何人かいた。

 そのなかに一人、目を引く人がいた。いつもは見かけない男の人だ。思わず、足が止まる。

 その人は金髪で、前髪を真ん中でわけている。目付きはとても悪く、まるで蛇のようだ。三白眼っていうのは、ああいう目を指すのだろう。

 なぜ目を引いたのかは、正直わからない。

 絶世の美人と言うわけでもない。ヤンキーのような雰囲気は、正直避けたい人種だ。

 なのに、目が離せない。

 あまりにじっと見すぎたためか、その人が俺の方を向いた。


 目があった。


 たったそれだけなのに、二人は固まった。おれも、金髪の人も微動だにしない。

 金髪の人は、俺をそれこそ全身舐めまわすように眺めた。居心地が悪い。

 何周か眺めたところで、あっちが動いた。

 すっすっとこっちに寄ってきた。もう、なんか、恐いな。雰囲気が恐い。

 「おい、お前。」

 「はいっ!」

 「それ置いたら、こっちの部屋へ来い。」

 「はいっ!わかりました!」

 あまりの恐怖に、返答が同じになってしまう。

 急いでお盆を置きにいく。後ろでじっと見られている感覚がする。さっきまで俺がしてたのは、こういうことか。ごめんなさい。

 ガチャンとお盆をお盆を置いて、振り返る。

 俺が金髪の人を見たことを確認したのか、金髪のお兄さんはすたすたと動き始めた。

 たぶん、ついてこいってことだ。

 わけもわからない恐怖に怯えながら、後ろをついていった。なんの話をされるかもわからないで。

おひさしぶりです。コメントとか評価待ってます

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