一 目覚めたら
ざわざわざわざわと騒がしい音で、意識が浮上する。まるでパチンコ店の前にずっとたっているみたいだ。
目が開かない。まぶたが重すぎて、持ち上がる気がしない。口の奥もからからで、声をあげることさえままならない。どういう状態なんだ。
「……ぁ…」
奮闘すること何分か、ようやく声が出た。ついでに目も開いた。掠れてしまって、本当の俺の声に聞こえない。というか本当に声がでないぞ。なんでだ。
「あ……す…ま…ど、ここ」
本当に言いたかったことは、「あの、すいません。どこですかここ。」だったのだが、まったく出ない。俺の美声が…!
いや、別に美声って訳でもないんだが。
「あ、あ、あ、の!」
さっきよりも大きい声が出た。バタバタと忙しそうだった看護師さんがようやく気づいて、周りを確認し始める。チャンスだ。もう一度声をだす。
顔をこちらに向けた看護師さんは、いったん近づいてきて、目を大きく見開いた。俺が起きたことがそんな驚くことなのだろうか。それから急いで何かいろいろチェックをして、待っててくださいと言ってどこか行った。
返事をする気力も力もない俺は、心の中で頷いてから、ようやく落ち着いて天井を見つめる。
様子を察するに、ここは病院だ。
看護師さんが学校の保健室にいる訳じゃないし、なんかいっぱい機械があったし。
まず疑問となるのは、なんで俺が病院にいるのかってことだ。
起きる前、一体何があったんだ…。
たしかバイトが終わって帰っている途中で…。殴られたんだ!思い出したー。
え、なんで殴られたんだ俺。え、こわ。知らん人に殴られたとか、俺は知らない間になにをしでかしたんだろう。
えー、まったくなにかした覚えがない。たしかに人に好かれるタイプの人間じゃないが、殺されるほどの恨みはかってない筈だ。平々凡々過ごしていたからな。
ふと気づくと先生が、急いで俺の様子を確認している。なんでこんな慌てているのか。
「まさか、目が覚めるなんて…。信じられない。奇跡だよ…。」
先生はなにかを噛み締めるように感動している。なぜだ?
まあ、何か奇跡がおこって俺は目が覚めたらしい。やったね!
先生が言うには、暫くこのままで問題がなければ、一般病棟に移れるらしい。でも、奇跡を起こしたらしい俺ならきっとすぐだろう。
昨日は疲れてすぐ寝てしまった。どうやらもう朝らしい。さっき看護師さんが言っていた。
どうやら昨日声をだしたおかげで、感覚を掴めたらしい。まだ楽に声を出せた。
目をまだ楽に開くし、たった一日でもあるとないじゃ大違いだ。
話を聞くに、俺はどうやら三日間寝ていたらしい。詳しい話はまだ聞いていない。
三日でこんな体は動かなくなるものなんだな。指を動かすのだって辛い。
そういえば、動かないだけじゃない。異常に冷たいのだ。
体温計でもう計ってもらったから、平熱だっていうことはわかっている。風邪なわけじゃない。
だけど、全体的に体が冷たいのだ。逆に言えば、空気が暑い。いろいろな物が熱い。
元々俺は冷え性じゃない。第一冷え性は、体の先が冷たくなるものだろう。俺はそれじゃない。それに朝から何度か看護師さんや先生が体を触っているが、特になにも言われない。
表面温度は変わっていないと言うことだ。
ならなぜこんな冷たいのか。
わからない。だけど、頭を殴られたせいで、神経関係がおかしくなっただけかもしれない。
まあ、まだ口がまともに動かないから誰にも言えないけどね!
話せるようになったら、誰かに言えばいいか。
二話めです、読んでくれてありがとうございます。
よろしければ評価とかしてくれるとありがたいです!