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終わらない物語  作者: 朔真露兎
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砂の雨

ドアノブを捻る。

乾いた風が吹き込んできた。

妙に砂っぽい。喉の水分が足りなくなり、チクチクとした痛みを覚え始めた。

ドアを完全に開ききるころには、口はおろか目もろくに開けられなくなっていた。

どうやら、砂が多く、乾燥したところらしい。

風自体はあまり強くない。ただ、風に含まれている砂の量が多すぎて、まともに歩けない。

一歩ずつ踏み込んで歩き出す。幸いにも、砂で覆われた地面は足を呑み込むことなく、しっかりとした足場を保ってくれていた。

麻のシャツの上に羽織ったコートが、あっという間に黒から砂色に変わる。

まぁ、イメチェンだと思えばいいか。コートの砂は、いくら叩いても落ちない。生地に入り込んでしまったらしい。

とても細かい砂だ。だから、どんなにしっかり瞼を閉じても、隙間から入り込んだ砂が直接眼球を叩いて、もう、なんとも形容しがたい激痛が走る。

それでも、一歩一歩踏み締めて歩き続けた。この世界にも、出口となるドアが何処かにあるはずだ。


鈍色に輝くドアノブを探して彷徨い歩いた。果たしてそれは、数分だったのか数時間だったのか、はたまた数日が過ぎていたのか。

ふと、視界の隅にキラリと輝くものを見つけた。足元、荒れ狂う砂に呑みこまれかけたそれを、慌てて掘り起こす。

果たして、予想は的中、それは確かに見慣れたドアノブだった。

一刻も早く、砂がないところに行きたくて、ドアノブを捻り思いっきり押し込んだ。

積もった大量の砂に埋もれたドアを開けたのだから、当然、大量の砂と共に身体は真下へ落ちていった。

恨むしかなかった砂が身体より先に落ちていて、高所から落ちたときに生まれる衝撃を和らげてくれたのが救いだった。どうやら、砂は恨む以外にも利用価値があるらしい。流石に尻は痛んだが、結構な高さから落ちたのにこの程度の不調、むしろ喜ぶべきだろう。


辺りは真っ暗だった。これはいつものことだ。出口のドアと新たな入り口のドアの間に、親切にも何も仕掛けがない空間が用意されている。

勢いをつけて立ち上がって、相変わらずコートから離れようとしない細かい砂たちを根気良く落し続けた。そのおかげか、完全に別物になってしまった砂色のコートが、薄灰色を帯びたコートになった。

いくら短いとはいえ髪の毛にも砂はついているだろう。次の世界にシャワーはあるだろうか。ああいや、更に付け足そう、「誰かに襲われる心配のないシャワー」か。

それか、酷く雨の多いところがいい。雨は汚れを洗い流してくれる。雨は好きだ。

さっきの砂の世界には、"雨″という概念が存在しないのだろううか。それとも、存在はするがあまりにも希少なものなのだろうか。今更考えても仕方のないことではあるが、『一度行った世界はなるべく覚えておく』というのが目標でもあり目的でもある。

まぁ、いい。このことについては、次の世界の一番お高い部屋のベッドに横たわりながら考えよう。

次のドアのノブはもう、すぐ目の前だ。


○○日目

今日は、砂の雨が降った。ちくちくして痛い。次は、どんなところなのだろうか…

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