才能と/巡り合わせ
少し遅れてしまった!
入学してから5日目、4教科を2教科ずつやるのだから交互にやればいいのでは?と思ってしまうのだが、今日がようやくの魔法言語の授業1回目であっただった。
「魔法とは、魔法陣や詠唱を通してこの世界に対して魔力で語りかけた結果、生じるんものであり……」
先生は魔法とは何かをつらつらと書いているが正確には違う。
魔法は魔力によってこの世界にもたらされる結果であり、魔法陣はイメージを明確にして効力を上げるだけのものであるし、詠唱は精霊などの力ある第三者へ語り掛けるものだ。世界に語り掛ける訳ではない。
なんなら魔法陣なし、詠唱なしでも魔法は発動できるし、それこそ昔の私なら魔力をぶつけるだけでも龍の一尾や二尾、簡単に潰せるだろう。
つまりこの授業は魔法言語という名のただの魔法の授業なのである。
マルクス少年の頃の方が正しい知識が出回っていたように思う。戦争が終わって平和ボケしているのだろうか?
基本的にどれほど頭に入っているかは別にして、真面目に授業を受けているミリィ嬢だったが、今は更に並々ならないものを感じさせる。
『お、今日はやけに気合が入っているな……』
「まぁね。私、将来は立派な魔法使いになるんだから」
『そうか……』
彼女の漏れ出る魔力を供給源としている私には結果が目に見えているのだが、自分で確かめることも必要だろう。
このあと泣くことにならなけれいいが……
『気を強く持つんだぞ……』
「ん?ありがとう」
まぁ、「また独り言を言ってる」と周りに奇異な目で見られているのに、どこ吹く風なこの子なら大丈夫か。鈍感なだけかもしれないが。
結果、駄目だった。
「えっぐ、ぐじゅ……」
『あ~、まぁ、なんだ。まだ初回だったんだし、そんなに気にする事ないと思うぞ』
「う、うるさい!ばかっ」
目に見えて気落ちしているミリィ嬢の姿を見た同級生に、心配されながらも帰ってきた彼女は部屋にはいた途端、ダムが決壊したように泣き出した。
初日だった今日の魔法言語の授業は2連続であって、座学の後が実習だったのだ。
今日はまず自分の中の魔力を使ってみるというだけのもので、ただ光るだけの魔導具に魔力を込めればいいだけなのだが……
彼女一人だけが魔力を使うどころか、自らの魔力の存在に気付けなかったのである。
魔導具とは魔力を込めるだけで一定の魔法が発動するもので、普通、触れると何を要求されているのか感覚的に判るものである。
魔力センスの高いものなら触れるだけでマルクス少年のように、その魔法がどんな魔法かが分かるのだ。それを悪用した呪いの品もあったりするが。
今回利用した光るだけの魔導具は魔力の受容口が大きく開いており、感覚をつかみやすく、しかも精錬されていない魔力でも反応をして一瞬だけ軽く光ってくれる超初心者用のものである。ちなみにこの世界の照明具は元々魔力が込められているものなのでミリィ嬢でも利用できている。
『ミリィ嬢、立派な魔法師になるのだろう?この程度の事でいちいち泣いていたら無理だぞ』
「うぇぇぇぇ……ひっく、ばっ、ひっく、かぁぁぁぁ」
まったく、子供というのは面倒だな。全然泣き止む気配がない。
言われもない罵倒を聞きながら溜息をつく。
自分でも面倒見がいいと思うのだが、私はミリィ嬢が泣き止むまで待って、話しかける。
『いいか、ミリィ嬢。出来なければ特訓すればいいのだ』
「ううっ、ひっく……特訓?」
『そう、特訓だ。ここにちょうどいい特訓相手がいるだろう』
「……ショーひっく、ケイが、手伝って、くれるの?」
『あぁ、手伝ってやろう。お前は幸運だぞ?この私、直々に教えてもらえるのだから』
「ショーケイ、偉そう」
『そりゃあ、才能が違うからね。私には君がああいう結果になるだろうことも分かっていた』
「……ううっ」
『あぁ、また泣こうとするな!いいか、ミリィ嬢、君はいつも魔力が外に漏れだしているんだ』
「魔力が…?」
『そう、魔力が多いわけでもないのに練り込みが人より甘いせいで常時魔力が漏れ出している』
「……」
『特に感情の起伏が大きくなったときは漏れ出す量も比例して大きくなっている』
「……うわぁっ」
『もう泣くなって!だからこれから特訓して治そうといっているのではないか』
「私も出来る、の?」
『あぁ、私から教えてもらえるんだ。保証しよう』
「……」
『あと、もう一ついいお知らせだ。私の力の源は君の魔力だ』
「……?」
『これは君から漏れ出ている分を私が取り込んでいるのだが……君からの無意識による直接供給が全体の3%ある』
彼女は私の言っていることが分からないようで、疑問の眼差しを向ける。
『つまり、微量ではあるが君は無意識化で魔力を扱えているんだ』
『大丈夫、出来るようになるさ』
だからその涙とかいろいろが私に落ちてくる前に拭いてくれ。