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石になって三百年!  作者: トースター
プロローグ
4/18

マルクス少年との/その後

序盤はだいぶ説明パートが多くになりがちだけど、それを苦に思わせない作品ってかなり尊敬します。

 あれから一週間が経ち、周囲の現況もだいぶ掴めてきた。


 ここは800~1000年ほど前の西側の環境に似ていて、しかし、ここまでの歴史や大陸諸国の名前から時間遡行ではなく別の世界だということが判明した。


 あとこのマルクス少年は子爵家の次男で、僕を見つけた経緯からも分かるが、かなりの問題児らしい。

 洞窟には勝手に一人で訪れて、石には魔力が流れるからと、その結果に何が引き起こるかも分からないまま自室で魔力を通したのだ。

 本人曰く、ここには自分より強いのが居ないから大丈夫で、石から嫌な感じもしなかったから大丈夫。とのことだ。


 彼の口調からして、その奇妙な自信がどこから湧いてくるのか疑問に思ったが、すぐに答えが分かった。


 まず(よわい)5歳にして魔力量が通常男性の10倍近くあり、そして魔術の練度もセンスも最高級だった。


 まぁ、僕は到底及ばないが。



 ……魔法形態はこちらと似ていて(しかし使用されている言語体系も構築の技術もこちらが上だったが)特に問題はなかった。

 今の僕には使えないけどな!


 現在の僕はマルクス少年にしか見えず、その幽体化した身体も魔力を貰うことで現状を維持できているが、外部に干渉することは一切出来なかった。壁抜けだってしようと思えばできる。


 つまりこちらからは何もすることが出来ない。


 これまでは研究に尽くしてきた僕からすれば、暇で仕方がなかった。


 子供のころから技術を売って生きてきた僕だが、発達した生前の知識を必要以上に教えるつもりはない。基本的なこと位はアドバイスしてやるが、才能あふれる彼はそれをすぐに身に着けてしまい、やることが無くなる。


 彼は剣の手入れをしている。その剣は炎を生み出すことの出来る代物で、それ以上に彼は自分の母からもらったその剣を大事にしている。


 『あれ、その剣……』

 「う、ん。炎の、魔法剣(マジックソード)

 『それ、何だか食べられる気がするんだが』

 「えっ……」

 『食べてみてもいい?』

 「……だめ」


 断られた。まぁ、そうだろうなとは予想していた。


 毎日、特にこれといったこともなく時間だけが過ぎていく。


 そして今の僕に死ぬことが可能なのか分からないが、時がきたらまた無の世界(あそこ)にいくのだろう。


 こんな一生も悪くないかなと最近は思っている。





 そんなことを思っていたが全然そんなことなかった。僕とマルクス少年は血生臭い戦場を駆け抜ける。


 少年と出会ってから10年の月日が経ち、彼が無事に成人したその年に、隣国のアドウィカルズ王国が戦争を仕掛けてきたのだ。


 貴族の次男坊として彼も領内の騎士と直属の部下数名を連れて戦争に参加することになった。


 封じている領土が国境に近かったのもあり、これまで大切に守ってきた人や土地への直接的な被害を受けないためにも何としても勝たなければならない。


 僕はこれまで研究所に襲撃してきた敵を排除したり、彼が学園でその性格と才能から難癖付けられてかなり不利な立場での決闘(けんか)なんかもあったが、戦争はそれがお遊び(チャンバラ)だったのだと思えるほどの悲惨な状況だった。


 彼になまじ才能があったのも悪かったのかもしれない。常に最前線に送られ、死闘に準じ、戦果を求められた。



 『お疲れさん。今日も大活躍だったな』

 「そんなこと、ない、よ」

 『みんな喜んでいたぞ』

 「その分、沢山、殺した」

 『……まぁ、明日も早いんだ。もう寝た方がいい』

 「うん。おやすみ……」


 マルクス少年の心が次第に何かが欠けていっているのを感じた。いっそ感情なんてなければ楽なのに。


 せめて少しでも休んで欲しいと思う僕とは裏腹に敵は奇襲を仕掛けてきた。


 「敵集ーっ!!」


 「っ!?剣を!」

 『ほらよっ』


 マルクス少年はすぐに起き上がり、僕に武器を求める。


 あれから分かったことだが、どうやら魔力の籠ったものなら魔力に還元して取り込め、またそれを出すことができるらしい。なんなら加工だってできる。

 マルクス少年に渡した武器は彼の炎の魔法剣をベースに風の羽衣とオリハルチンを合成し、上級魔導書に書かれていた空間魔法一種『開門』と『閉門』を弄って付加してある。剣の名前は『断絶』。炎魔法、風魔法を打ち出すことが可能な上、マジックボックスに使用する『開門』『閉門』を超高速で繰り返すことにより空間に歪を起こし何物もを切断できる僕の最高傑作だ。


 マルクス少年自体、魔法が得意だから炎とか風とかわざわざつけなくてもよくね?と思うかもしれないが、その分、剣に集中できるのだと言い訳しておこう。


 『少年!上だ』

 「!?味方、ごとっ」


 小競り合いが続いていると上空に戦場全体を覆い隠すほど特大の魔法陣が構築されていく。どうやら相手の策に引っかかったらしい。


 「止め、なきゃ」

 「させるかぁぁぁっ!」


 少年が上空に向かって魔法を行使しようとするが 相手の兵士が襲い掛かってきて魔法構築を妨害する。彼らは決死の覚悟を決めているらしい。

 簡単な魔法なら邪魔されようと簡単に打ち出せるだろうが、あの規模の魔法を妨害するとなれば最低でも上級魔法7個分の程の威力がなければ難しい。


 切りかかってくる敵兵と切り結びながら、上空に上級魔法を4個ほどぶつける。しかし案の定な結果に終わる。


 そして成す術もなく、その魔法は完成し、神鳴りが地面もろとも圧し潰さんが如く迫ってきた。


 戦場が絶望と希望の2つに染まる。


 「マントっ!」

 『一応渡すが、あれは防ぎきれないぞ!』


 とっさに元々加工していた盾に余っている素材全てを混ぜ合わせて、渡すがあれに耐えることは出来ないだろう。


 「雷の精霊よ マルクス・ドゥーラ・マグナスの名のもとに 契約を 我を守り給え【雷狼の盾(ボルトロス)】!」


 マルクス少年は盾を掲げると、魔法陣構築による魔法効力増加と詠唱による精霊の行使して相手の魔法に備えた。


 「くっぅ……」

 『大丈夫か、少年!』

 「んっ、んん゛ん」


 彼は歯を食いしばって盾を掲げているが、その両腕からはところ構わず血が流れ出してきていた。周囲は既に彼のいる場所以外、人どころか地面が抉られていっている。

 

 このまま行けば少年は良くても瀕死は免れない。そしてすで敵味方の誰もいない戦場でそのまま事切れるだろう。



 

 実はまだ手はあった。


 だが、それは僕自身が犠牲になるかもしれない。



 ……今、それだけの価値があるのだろうか。


 彼にどれだけの価値が?これまでの奴らと比べてどうだ?



 ……違いは、ある。少なくともこれまでなら考えることなく切り捨てていただろう。


 だがたったそれだけのことで?



 ……対照実験、か


 これまで取って来なかった選択で何が変わるのかを検証する。また、今の自分の限界を知ることが出来る。



 ……釣り合う。




 答えの出た僕は今の少年にも聞こえるように大声を上げる。


 『少年、僕がそれを受け止める。僕を上に掲げるんだ!』

 「!?そ、んな、こと、」


 彼はこんな状況でも僕の声が聞こえている。


 『もしも無理だったとしても、このまま君が潰されれば僕も一緒にオジャンだ』

 「……」

 『少年にもこのままだと先が長くはないのが分かるだろう?どちらが合理的か考えるんだ』

 「……わかっ、た」


 僕の説得に少年は意を決したようで瞬間的に『雷狼の盾(ボルトロス)』への魔力供給を強め、その隙に僕を腕から外して上空に投げた。


 僕は、生まれて()()()本気で何かをしようとしている。



 僕は自分の周囲の魔力を、その魔法を、掻き集め、取り込んでいった。











——————————


 誰かの話声が聞こえる。あれは誰だっただろうか?濁っていた視界が少し晴れる。


 「2000……」

 「なんだ、不満でもあるのか?確か貴方方が出していた兵士もそのぐらいだったと思うが?」

 「しかし、彼らとでは」

 「そいつ等がどうした?まさか我が家の兵士を愚弄するつもりか?」


 どこかの応接間でマルクス少年の兄が、その後ろで少年が頭を下げていた。相手は……あぁ、昔学園でよく突っかかってきていた侯爵家の跡取りの取り巻きか。


 「いえ、そのようなことは。ただこちらの地に慣れていないためその者たちが全力を出すのは厳しいかと」

 「ふん。それをどうにかするのが上の役目だろう?」


 「……はい。ですのでもう少しご助力願えませんでしょうか?」

 「っ、私を愚弄するかっ!」

 「いえ、そのようなことは。ただもし私共が敗した場合、次に狙われるのはここなのです。兵士達も馴染みの深い安心感があれば十二分に活躍してくれると愚考するのです」


 「……ふん。よかろう。ではルーンランド家からお借りしている魔法師を5部隊貸してやろう」

 「ありがとうございます!」

 「しかし、貸すのは仮にも伯爵家の者達だ。それを事後承諾で貸すことになるのだから何か代わりのものが必要だな」


 取り巻きはそう芝居がかった物言いをしながら兄の後ろに控えるマルクス少年の方を、正確にはその手首にある腕輪()をみる。


 「そうだ、その腕輪なんてどうだ?あのお方もそれには興味を持たれていたみたいだからなぁ」

 「しかし、これはっ!」

 「なんだ。伯爵家の者たちの命がそれより安いとでも?腕輪一つで領地が護れるのだ、文句はないだろう」


 「……マルクス、腕輪を」

 「……」

 「腕輪を差し上げるんだ!」

 「……」


 震える少年の腕から僕は外される。


 その時の少年の顔はぼんやりとして見えなかった。







——————————

 吐き気のする魔力を注がれ、誰かの要求に応じて剣を出す。その剣でその者は気に入らぬ誰かを切り付け、血を払いもせず僕に戻す。


 憎い。憎い。憎い。


 なんで私はこんな奴の言うことを聞いているんだ?こんな奴、殺してしまえばいい。



 ……そうだ。殺せばいいんだ。


 出来るだけじっくり殺して呪いの腕輪になってやろう。


 そうしたら私を売った(アイツ)もただでは済まないだろう。


 こいつから魔力を吸い上げて、枯れたところで全てを放り出して、ぶちまけてやる。



 ふ、ふふふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!









———————————

 「この腕輪は呪われているわっ!」

 「おい、これを誰も触れないよう厳重に封印しろ」



 あれ?僕は何をしていたんだっけ?駄目だ、魔力が足りない。意識が遠のく。


 少年、早く魔力を……


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