石に転生させられて/拾われた。
プロローグはどこまで細かく書くか検討中。極力短縮でやっていきたい所存です。
2話続けて前書きで問題風にしたけど、単なる偶然で恒例にする気はないからね!
気が付くとそこは何もなかった。
正確には土と岩以外何もなかった。どうやら地下空間か洞窟にいるらしい。
辺りを見渡すが岩がごろごろと転がっているだけだ。
さてとどうするか。
まず周囲を見回ってみようと体を動かすが、全く動く気配はなかった。それどころか手足の感覚がまるでない。
では声は出せるかと口を開けようとするが、口も鼻も目さえも付いている気がしない。だが周囲を見ることが出来るということは、何か感覚器官があるのは確かだろう。
そういえば何に生まれ変わりたいか彼女は訊いてきた。ということは今の僕は人間ではないのだろう。では何か。ふと急に力が抜けていく感覚がする。
……駄目、だ…眠く、て……仕方…ない……
舌に強烈な旨味を覚えて目覚めると、目の前に驚いた表情の少年がいた。格式ばった服装をしているが、それなりの地位にいる者だろうか。
『少年、ここはどこだ?』
「こ、こんにちは?」
『ん?あぁ、こんにちは。それでここはどこだ?』
「ぼ、僕の部屋ですけど……あ、貴方は誰、ですか?」
『僕は……いや、喋っている?口が……あるようだ。それに手足も……透けているな』
ふと自分が喋っていることに気が付き、顔に手をやると感触があった。が、自分の身体に目を向けると生前によく着ていた服までもが全て透けて、その奥の壁や床を見ることが出来た。
『幽霊とに近い状態なのか』
「えっと、あの」
『だがあの時は身体がなかった。まだ転生する前だったか?いや、だがあれらの岩があるのはおかしい』
「す、すみません!」
『少年、まずは僕がここに来た経緯を聞かせてくれないか?』
思考の海から戻ってくると、少年が困った顔でこちらを見ていた。目に映るのは不安。これはこちらが何者か分かっていないからだろう。
『悪かったな、少年。急な事態に驚いてな。私は遠山翔啓という。安心しろ。君に害をなすつもりはない』
「は、はい。えっと、僕はマルクス・ドゥーラ・マグナスです」
『ドゥーラ……ほう、貴族でだったか。ご丁寧にどうも。それで、私がここに現れた経緯を教えてくれ』
ドゥーラとは貴族のみに許される名だったはずだ。
「えっと、この腕輪にある石が、えっと、魔力が通りそうで、だから通してみたら、急に、トーヤマさん、が、飛び出して、きまして……」
『石?ちょっとその腕輪を見せてくれないか?』
「は、い」
緊張している彼が腕をこちらに差し出すと、確かに彼の腕輪には翡翠色の石——宝石と言った方がいいだろう——があった。そこから幽体の僕に向けて繋がりを感じる。
『この腕輪はどこで手に入れたんだ?』
「えっと、自分で、作り、ました」
『ほう、中々いい腕を持っているようだな』
「でも、周りについていた、他の、かけらを、取り除く、だけ、しか、していなくて」
『いや、それでも傷ひとつないのは才能だと思うぞ』
「違っ、くて、えっと、失敗、した、けど、傷つかな、かった、です」
『うん?あぁ、これだけ特別硬かったのか』
「は、い」
『この石はどこで手に入れた?』
「屋敷の、裏、の、森に、洞窟があっ、て」
『そこを散策していたら見つけたと』
「(こくん)」
『またあとでそこに案内してくれ。……他に気付いたことはあるか?』
「えっ、と、色が、変わった?」
『色が変わった?どのタイミングでだ』
「さっき」
『魔力を流したときにか』
「(こくん)」
『ふむ……』
ここは貴族の少年——マルクスの屋敷で、裏手にある森を散策していたら洞窟内でこの石を発見。興味惹かれて腕輪に加工し、そこに魔力を流してみたら翡翠色の宝石に変わって、僕が半透明で現われた、と。
—―———『次の一生では何になりたいの?』『……僕はそこら辺落ちている石のようなもので十分ですよ』『わかったわ』—————
……あぁ、ようやく現状が分かった。
果たして、これは誰が悪いのかと問われたならば、きっと僕なのだろう。
僕は石になったのだ。