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お祭り

書いてたらいつもよりかなり長くなってしまった。

復習として、ミリィ嬢6歳、大判銅貨=1000円と記しておく。

大判銅貨は何回も打ち込むのが大変だし何か略称を考えようかな?

 雷の日(金曜日)。明日から2日にかけて行われる豊穣祭が行われることもあって、学校には浮ついた空気が漂っていた。


 その中に別の話題で盛り上がる人たちもいた。


 「はっ、お前が姉に?似合わねぇ」

 「なによ、ルークだって弟妹いるのに全然お兄ちゃんって感じしないじゃない!」

 「そりゃそうだろ。別に屋敷にいても碌に会わねぇしな。貴族と平民を一緒にされちゃあ、困るっての」


 随分話題が飛躍したな、ルーク少年。というか君、貴族だの平民だのどうでもいいって言ってなかったか?


 ルーク少年は現マグナス家の次男坊らしい。それで弟妹がいるてことは、側室の子たちなんだろう。家庭内にドロドロしたものがありそうな気もするが気にしない。私のところやマルクス少年のとこだって似たようなものだったし。


 そうそう、私が眠っている間にマグナス家の爵位が子爵から伯爵に上がったらしい。戦争の恩賞だろうか?


 「下の子いない……少数派……」

 「え、あ、うん。別にいいんじゃないかな……」


 ロナ嬢が残念そうな雰囲気を出している気がするが欲しいのだろうか、下の子。私はネット少年と同じ気持ちだ。


 「そういやお前ら、今年は街の豊穣祭に来ないか?」

 「う~ん?……って、そういえばルーク、貴族ってこういう時、挨拶して回ったりするもんじゃないの?」

 「……あぁ、去年までは多めに見てもらえてたが、流石に今年はなぁ」


 マリー嬢の問いかけにルーク少年は苦虫を噛んだような顔をする。


 「えっ、じゃあ、ルークは村の豊穣祭に来れないってこと!?」

 「だろうな。まぁ、子供の俺なんかが参加しなきゃいけないのはそう長くねぇよ」

 「そっかぁ、それで街なんだね」


 ミリィ嬢が納得した感じを出してるが、それ以前に私はルーク少年が村に来てるの見たことがない。街から出られないんじゃないか?


 「それでどうなんだよ?」

 「うーん。私は無理かな。明日からはお母さんも忙しいだろうから、弟の世話しないと」

 「ぼ、僕も、家の手伝いが、あって、ご、ごめん……」

 「ルーク……寂しい……?」

 「さ、寂しい訳ねぇだろ!」

 「そう……なら、面倒だし、いい……」


 皆、行かないようだ。ルーク少年、残念だな。


 「お、お前はどうなんだよ……」

 「んー。私もお母さんが心配だし、いいかなぁ」


 ミリィ嬢も行かないらしい。彼女は既に今から、自分が頑張らない!といけないと張り切っている。魔力に乗る感情的には少し残念そうだが。


 ……


 『なぁ、ミリィ嬢。行ってもいいんじゃないか?』

 「えっ?」

 「「「「?」」」」


 ミリィ嬢が急に声を上げて不思議そうな顔をする4人。


 『今から張り切ったって仕方がないし、昨日、君の母親も先の話だっていっていただろ?』

 「で、でも……?」


 『なら2日のうち、1日だけってのはどうだ?ついでに両親と生まれてくる弟妹にプレゼントを買おう。ミリィ嬢はこれまでの小遣い、まったく使ってなかっただろう?昨日は臨時収入もあったし多少の贅沢は大丈夫だろ?』


 ちなみに昨日、貯めて何を買うつもりなのかと聞いたら、買いたいものがないからと言っていた。昨日はあれ食べたいこれ食べたいってやってたけどな。


 「……」

 『どうだ?もともと行ってみたかったんだろう?』

 「……うん」


 「お、おい……大丈「ルーク!」お、おう……」

 「やっぱり明後日だけこっちの祭りに行くわ」

 「お、おう!んじゃ明後日は俺が案内してやろう!」


 良かったなルーク少年2人きりだぞ。私もいるが。


 「ミリィが……行くなら……」

 「お、お前は面倒だって言ったじゃないか!」

 「ルークだけ、ミリィ、心配……」


 ロナ嬢も行くことにしたらしい。

 3人(+1)になった。




 そして祭り二日目。


 昨日は村で村長主導で神事が行われ、あとは皆で昼間から飲めや食えや状態だった。今朝見たらミリィの父親は二日酔いになって母親に介抱されていた。子供が出来たってことで周りからたくさん飲まされたらしい。


 そんな村の祭りと違って、街の方は露店が沢山並んで商売に活気が溢れていた。勿論、酒場などは既にの飲兵衛が沢山いたが。


 「す、すごいっ!」

 「人……多い……めんどう……」


 二人も人の多さに驚いていた。


 「うちの領の中心だからな。色んな場所から人がやってきているぞ」


 聞き慣れた声がしてミリィ嬢が後ろを向くと、派手じゃなくても一目でどこか良いところのお坊ちゃんとわかる比較的高そうな恰好をしたルークが立っていた。


 「うわぁ!今日もいい服着てるんだね。さすが貴族」

 「はぁ?いつもと同じだろ?それにこの位の服ならいくらでもあるし」

 「贅沢……」


 普段は制服でわかりづらいが(制服の質も違ったけど)、各自の服になると貧富の差が如実になる。いや、別にミリィ嬢はロナ嬢が貧しい訳ではないのだが。


 『こんな服を着ていたのに、貴族って気づかなかったのか……』

 「い、いい服着てるってのは気付いていたよ!」


 そこからなぜ良いものを着ているかと疑問には思わなかったらしい。


 「あーなんだ、お前……らも着たいってんなら作ってもらうが?」

 「ううん、着る機会なさそうだしいらない!」

 「汚したら……めんどう……」

 「……そ、そうか」


 ちょっとルーク少年の顔が少し引きつっていた。




 露店をあーでもない、こーでもない言って見て周り、昼になったので適当な飲食店に入った。


 「うーん、お父さんのは変えたんだけど他が見つからないなぁ」

 「……お店、いっぱい……」

 「うん、まだまだ見てないとこいっぱいあるもんね!」


 ロナ嬢の言葉は不足しがちだが、付き合いが長いと何が言いたいのか分かるらしい。


 「まぁ、あんまりぱっとしたもんはなかったな。これだけあれば掘り出し物もありそうだが」


 ルーク少年は流石貴族というべきか審美眼が高かった。急に貴族が来店したとあって店員はちょっと引き気味だったが。ほら、今料理を持ってきている給仕の人も手が震えているぞ。


 「他……何……?」

 「お母さんには髪飾り、生まれてくる子には首飾りを買おうと思ってるの」

 「……おそろい……?」

 「うん、おそろい!」

 「……きれい……」

 「だよね!これと同じのは高くて無理だけど、出来るだけずっと使って貰えそうなの買うの」


 高くてというが私が付いてるんだ、無理なのは金の問題じゃない。


 首飾りを手に持って笑顔で話すミリィ嬢たちを見て、嬉しそうな顔をした少年がいた。そして嬉しそうに食べる少年を見てほっとした顔の店員もいた。


 楽しんでいるようで何よりだ。




 半ば強引にルークが3人分の昼食代を払って店を後にし、再び見て回る。


 「あそこ……首飾り……たくさん……」

 「あっ、ほんとだ!行ってみよう!」


 ロナ嬢が首飾りを中心に売っていた露店を見つけて、覗いてみる。


 「あっ、これとかいいかもっ!」

 「おはな……おそろい……」


 ミリィ嬢が手に取ったのは簡単な花の形をした銀製の首飾りだった。


 「おじさん、これいくら?」

 「……大判銅貨5枚だ」

 「うーん、ちょっと高いかな……?」


 父上殿に買った腕輪が大判銅貨1枚だったので、その5倍である。しかし……


 「おい、おっさん。それは本当か?」

 「ああ、それは俺の作品じゃねぇからな」

 「ミリィ、それ、普通なら銀貨10枚はするぞ」

 「えぇっ!そうなの!?」


 そう。この世界では銀製というだけで高い。加えて【状態保存】も付与してあって、きちんとした仕上がりになっている。


 「本当にいいの?」

 「ふんっ、半人前の作品だ。その銀もあいつが勝手に潜って取ってきたもんで金もかかってねぇ」


 潜ったというのはおそらくダンジョンの事だ。この世界には各地にダンジョンと呼ばれるものがある。魔物の大半はそこに住み着いていて危険らしいが、その分貴重なものが手に入ることもあって、それで生計を立てている冒険者というものまでいる。


 おじさんの話通りだとダンジョンに潜って銀をとり、売り物になるレベルの加工ができる半人前がいるらしい。


 「半人前……?」


 ロナ嬢は首を傾げていた。一体何が半人前なの?って感じだ。


 「うーん、じゃあ……これください!」

 「はいよ、大判銅貨5枚だ」


 ミリィ嬢は迷ったようだが、お買い得と知って買うことにしたらしい。この決断力は今後活かしていきたい。


 「ありがとう、ルーク。いい買い物が出来ちゃった」

 「はっ、俺はただ気になっただけだ」

 「あっ、そういえばルークはなにか欲しいものない?」

 「なんもねーよ」

 「そんなこと言わないでさ。もちろん高いものは無理だけど、私、この首飾りのお礼も出来なかったし」

 「……あー、じゃあ、これでいい」

 「おじさん!これください」

 「……大判銅貨1枚だ」


 木製の首飾りを買う。地味だが上品さを感じさせるものだった。もしかしてこのおじさん、まけてくれているんじゃないだろうか?


 「はいっ!」

 「お、おう……ありがとう」

 「こちらこそ!」


 手に載せられた首飾りをじっと見つめるルーク少年。これが青春しているというやつなのだろう。


 「?ロナちゃん?」

 「……疲れた……手、繋ぐ……」


 ロナ嬢がミリィ嬢の右手を取った。普段のぼーっとした顔じゃなくて独占欲の強い年齢相応の顔に見えた気がした。


 「あぁ、ごめんね。早くお母さんのを買って帰ろっか」


 ミリィ嬢がロナ嬢の手を引いて歩く。と彼女が私に小声で話しかけてくる。


 「ショーケイは何か欲しいものないの?」

 『なくはないが、今のミリィ嬢の手持ちじゃ無理なものだな』

 「えっ、何が欲しいの」

 『魔導具、魔導書、魔力の通った武器』

 「……」

 『前にも言ったがあれらは中々暇つぶしになるからな』


 その内溜まったら買って貰おうとは思う。ミリィ嬢の戦力増強にもなるから一石二鳥だ。


 「他には?」

 『ないな。というか今の私に何か買っても意味ないだろ?』

 「うーん。それはそうだけど……」


 ミリィ嬢が納得できない顔をする。


 『……あー、まずは母上殿の髪飾りを買ってから考えさせてもらうよ。また高い品になるかもしれないし』

 「あ、うん」


 さて、時間は稼げたか。




 彼女のお眼鏡に適う髪飾りは3件目のアクセサリー店で見つかった。大判銅貨3枚とまた高い買い物になったが、彼女は満足そうだった。


 「それで欲しいものあった?」

 『そうだな……』


 何かないか一緒に見ていたが、しっくりくるものがなかった。てきとうに選ぼうにもミリィ嬢を納得させるだけのものが必要になる。


 と、一つのものが目に入った。そういえばこれがあったな。


 『あれ、手前右から5番目のあれでいいわ』

 「えっ、これ?」


 私に言われて彼女が手に取ったのは淡いオレンジと白の入った1本の細いリボンだった。


 「なんでこれ?」

 『ほら、ミリィ嬢は姉になるんだろう?なら髪伸ばしたほうがそれっぽいと思わないか』

 「そうかなぁ?」

 「マリー嬢も髪伸ばしていたけど年上っぽいだろ?」

 「……そうかも」


 彼女は精神的な要素の方が大きいと思うが、黙っておく。あとこれで見た目も多少は、破壊”姫”っぽくもなると思う。


 「で、でもそれじゃあショーケイには何にもないよ」


 今日のミリィ嬢は妙に食い下がるな。


 『ミリィ嬢、今の私は首飾りだ。なら持ち主が綺麗になればその分私の評価にも繋がると思うんだ……駄目か?』

 「……わかった。これつけられるように伸ばすね」

 『いや、もちろん嫌なら別にいいんだが。無理する必要はまったくない』


 てきとうな後付けの理由だけど、彼女なら納得するだろう。


 「ううん、私、頑張るよ!」

 「「「?」」」


 ほらね。


 ミリィ嬢は魔力の漏れ出し具合が大きくなるほど意気込んでいた。あぁ、二人どころか店員が見てるぞ!


 「……ありがとう」


 彼女がぼそっと呟いていたが、周囲の喧騒で掻き消されて聞こえなかった。

 

 ということにしておこう。


 とにかく、長い長い買い物……じゃなかった祭りは無事に終わった。


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