妖精、異世界、ワカ、魔王
はじめまして、しろとらです。投稿は初めてでよくわからない所があるかもしれませんが寛大な心で読んでいただけると幸いです。初めてということで自分の好み全開でやっていきます。よろしくお願いします。
「若人く〜〜ん?」
何処からか軽いノリの声が響いてくる。
「ん……あれ……ここどこ……」
目を覚ますと芝生が生い茂る大草原の丘の上にいた。
「………………なんで⁈」
これが僕の異世界での生活の始まりであった。
事の発端は、平凡な休日の昼下がり、自分の家が経営している道場の床にゴロ寝していた事から始まる。
「あ〜〜〜〜。昼寝っていいな〜」
などと僕は呟く。シエスタとかいう制度考えた人は最強の発明者であると僕は思う。
うちの道場は独自の格闘術で他の道場からは邪道などと呼ばれているものの、通っている門下生が強者揃いである故、今でも堂々と活動している。え?僕?まぁ、一応、雑な用事をこなす職人として貢献していますよ?
今日は日曜日ということで道場は休み、この練習場も閑散としている。僕はその無人の日を狙ってはこうして畳の上でゴロゴロと転がっているのである。
「あぁ、気持ちいぃ〜〜〜。でも、どうせなら大草原とかで昼寝した方が気持ちいいんだろうな〜」
その言葉を。口にした時。
「その願い、叶う世界がありますよ〜」
僕しかいないはずの空間に謎の声が反響する。
「え?誰?」
「紫水 若人君。君は大草原で昼寝がしたいんですね〜?」
「あ…うん」
「じゃあ、こっちの世界に来てください!」
「はい⁈」
僕の驚きの声と共に体全体が光に包まれる。なんだこれ?!思わず目を瞑る。
………しばらくして体を包む違和感がなくなる。ゆっくりと目を開くとそこには……見慣れた道場が映っていた。
「ごめんなさ〜い。手続きに時間がかかっているみたいで…あと10分ほど待っててくれませんか〜?あ、そうそう、何か持っていきたいものを1つだけ持っていくことができるので、それを選んで手に持っておいて下さ〜い」
なんてテキトーな。せっかくテンションが上がっていたのに台無しだ。
とはいえ、10分後にはどこか違うところに行くようだ。ああ、持っていくもの、だったっけか。持っていくもの…何がいるんだ?レジャーシート?枕?
人間焦った時が一番危ない。僕は正当な判断力を失ってあとから考えると絶対持っていかないような物を引っ掴む。そして、謎の声が言う10分が経った。
「はーい!準備出来ましたか〜!」
「オッケーだ!いつでも来い!」
僕の体が再び光り出す。よっしゃ、テンション上がってきた〜〜〜〜!!
………目を開くと、空。辺りを見渡す。空。空、空、空。
上空にいた。
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「はーい!下を見てください、若人君!」
なんとか落ち着きを取り戻す。どうやら僕は空中に浮いているらしい。落下していないことを確認していくらか安心する。
そして声が言うように下を見下ろす。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!すげ〜大草原!」
「気に入ってくれましたか?それは何よりです〜♪」
大地に広がる美しい色の草原。はるか向こうに黒い山が見えるが、それ以外は一面緑で覆われている。
「すげー!早く降ろしてくれ!」
テンション上がりまくりの僕。
「え?いいの?」
対して声は不穏な事を聞くが、この時の僕は気づくことはなかった。
「早く!早く!」
急かす僕。しかし、この3秒後に後悔することになる。
「よし♪了ー解しました!」
突然体の浮遊感が消える。
「へ?」
「ごめんね〜♪流石に自由落下より速くはできません〜」
突然の死刑宣告を受けた。
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
豪速で地に近づいていく途中で、僕は意識を手放した。
ここで冒頭部に戻る。
僕が目を覚まし、先程までの事を思い出してくる。
「な、なんだったんだ…」
そうしていると突然、
「よく眠れた?」
視界に女の子が映り込む。が、普通の人ではないことにすぐ気付く。この草原の芝生のような若草色をして、腰あたりまである髪。顔立ちは思わず見とれるような美少女、しかし背中からは淡く光る羽のようなものを生やし、それを振って空中に浮いている。何より、その子は手の平サイズの小人であった。
「えーっと、誰?」
「私?私はこの世界に住む妖精で、ティナっていいます♪これからよろしくね〜!」
「???」
ふむ……わからん。だがさっきまでの声はこの変な子のものであることはわかった。
「で、よく眠れた?」
「ここはどこだ?」
「ん〜?ここは君が望んだ草原、もとい若人君の住む世界とは違う世界なんですよ〜!」
「………????」
ますますわからん。
「で、よく眠れた?」
「なんなんだ、お前!そんなに僕が安眠できたか気になるのか!気絶してたから何も感じなかったぞ!」
「だって若人君が速くおろせって言うから…」
「速度じゃない、その速いじゃない!…ってもういいや…」
「落ち着いたなら本題に入ってもいいですか?」
本題?なんのだ?
「紫水 若人君。君はこれからこの世界、君たちの言うところの異世界で暮らしてもらいます!」
「マジか」
「マジです!」
マジなのか…なんかもう、ぶっ飛びすぎてて驚く気もないわ。
「では、手始めにこの世界についてレクチャーしましょう。この世界の名は アイシ=テ=ルーン と言います」
「は?アイシテル?」
おうむ返しに聞いたのだが妖精の子はフリーズする。
「やだ、若人君ったらこんな昼間から大胆です…」
「いやお前が言ったんだし」
「えへへ……アイシテル……ふへ」
こいつ聞いちゃいねーよ。
「で、その世界がどーかしたのか?」
「あ、すいません。…そしてこの世界を支配しているのは魔王ディアドラというものです」
「ふむ…ゲームみたいなあれか、わかった」
「まぁ魔王と言ってもこの世界で暮らす人々に少しの税を払わせる以外は特に何もしません」
「ふむ…わからん。魔王ってのはもっとこう、鬼畜なイメージがあるんだが…」
「話はまだ終わりません、その魔王はあろうことか自分の嫁として女神様をさらっていったのです」
「女神様…あぁ、わかった。それでその女神様を助けるために妖精が派遣されて僕はこの世界に連れてこられた訳か」
「さすが若人君!話が早くて助かります〜!」
「よし、そういうことなら協力しよう。こんな気持ちの良いところに連れて来てもらったことだし!」
「本当ですか!助かります〜!」
「で、これからどうすればいいんだ?」
「では手始めに…この世界での名前を決めてください!」
「名前って…紫水 若人じゃダメなのか?」
「はい、この世界観的な問題で…」
「変な理由だな…ってそういえばなんでお前は僕の名前最初から知ってたんだ?」
「妖精ですから!」
テキトーに片付けられた…。
「えっと、名前は私がつけてあげましょうか?」
「うーん、じゃあ任せようかな」
「じゃあ…ワカ!あなたの名前はワカです!」
「ワカ…二代目みたいな響きがいいな。よし、僕はワカだ!」
「はい!ではワカ、私のことはティナと呼んでくださいね!」
「おう!」
「では次のステップに進みますよ〜」
そこで、事件は起こった。
「では…今手元にあるステータスコントローラーを出してみて下さい」
「ステータスコントローラー?どんなのだ?」
「なんかこう…ゲームのコントローラーみたいなやつです」
腰にあるポーチを探ってみる。だが、ティナの言うようなものはない。
「そんなんないけど…」
「は?」
「そんなんないけど…」
ティナはなんでそんなに驚いているんだ?
「そ、そんなはずはないですよ?!ほら、よく探して…ウソ、本当に、ないんですか?!」
「なんかまずいのか?」
「のんきなこと言ってる場合じゃないですよ!ワカの世界の人達はこちらの世界の人達と構造が違うので自分の能力を自分の好きなように割り振れる、ステータスコントローラーというのを持っているはずなのです!各個人ごとに1つずつコントローラーは存在し、それをなくすと…た、大変な事になります!」
「あ、そうか!自分の意思で強化したいところを強化できるから僕達の世界の人間がこの世界で有利である故、連れてこられるんだな!なぁ〜るほど!納得!」
「今はそんなこと言ってる場合じゃありません!今、そのコントローラーが行方不明だということですよ!これがどういうことかわかってるんですか?!」
「ん〜、自分の強化が出来なくなる?」
「それどころか、何も知らないそこら辺の人がいじくってしまうとその通りにステータスが割り振られ、何もできないポンコツが出来上がるのです!」
「おぉう…そりゃマズイな…」
「そうです!マズイんです!」
「でも、ないんじゃ仕方ないよな〜」
「う…そうですね…」
「なんか…ごめんな…」
「謝らないで下さい…悪いのはワカではないんですから…」
女神様を救う僕達の冒険はクライマックスを迎えた。
「でもいずれにせよこの世界には住みたいしなぁ〜」
「そうですか…ありがとうございます…」
「うーむ…あ、そうだ!なぁティナ。僕の他に連れてこられた人っているのか?」
「?はい、いますよ」
「じゃあ僕はこれからその人たちの支援をする…そう、例えば道具屋になろう!」
「道具屋…ですか?」
「ああ。備えあれば憂いなし、ってな」
「なるほど。それは感心です!」
戦うならサポートも必要になるはずだし、役に立つはずだろう。
「と、いうことで今までありがとう、ティナ」
「ふぇ?」
「もうステータスやら戦いなんて気にしないで生きていくんだ。ティナは他の人の所に行けばいい」
「な、何を言ってるんですか。私も行きますよ」
「いやいや、これ以上足を引っ張るのはゴメンだ。後のことはなんとかするから、大丈夫だ」
「そんな事言わないで下さいっ!」
ティナが突然大声を出す。驚く僕。
「私たち妖精はこっちの世界に連れてこられた人の中からサポートする人を自分で決めてきているのですよ!」
「え?!そうなの?」
「そうですっ!この人は顔が良いとか、この人は根暗そうだからイヤとか、太った人はちょっととか…私達にだって選ぶ権利はあります!」
「ちょっと待てティナ、お前ら妖精はみんな外見で決めてるみたいに聞こえたが?」
「そりゃそうです!ぶっちゃけ、カッコ良い人と四六時中一緒というのは妖精誰もが羨む事なのです!」
「ぶっちゃけすぎんだろ!」
「私はっ…私はワカを選んだのです!」
「へ…?」
突然のティナの言葉に僕は顔が赤くなっている事に気づく。
「決して消去法とか、そういうのではなく、一目であなたに決めたのです!」
「………チラリと不穏な事言うな」
照れ隠しでそんな事を言う。
「だから、ワカが道具屋になろうとも、一緒について行きます!」
「…そうか。じゃあ、これからもよろしく、ティナ」
「はい!」
ティナは美少女なのだ。こんな事言われたら…少し、……嬉しいじゃんよ…。
「よし、じゃあ道具屋を始めるに当たって…」
「必要なのは車…ですね…」
「そう、動力。ティナ、車を買うといくら位だ?」
「ワカの世界のような車は存在せず、人力車、牛車、馬車がオーソドックスですよ。人力車が10万ガロフ。牛車は牛込みで80万ガロフ。馬車は馬込みなら120万ガロフかかります。」
ふむ、ガロフってのはお金の単位かな。
「ちなみに今の所持金は…」
「スタートダッシュキャンペーンで1万ガロフ配給されていますよ〜」
何、そのアプリゲーみたいなの…しかし、1万、かぁ…
「足りませんね…」
「ふむ…なぁティナ。ここらに森はあるか?」
「はい、ありますけど…」
「その森は私有地か?」
「いえ、村や集落の外にある物は特定の個人の所有物であるという事はないですよ。強いて言えば、ディアドラのものなんでしょうが…」
「オーケー。その森の木を使って車をつくろう!」
「ふぇ?」
ティナがすっとぼけた声を出した。
同時刻、魔王ディアドラの城。
中央奥に輝く座のある大広間に突如、黒い円形が浮かび上がる。そこから姿を現したのはこの世界を征する魔王、ディアドラである。
使いの者がやってくる。
「おかえりなさいませ、ディアドラ様。外の様子はいかがでしたか?」
魔王は答える。
「ん〜、平和かな、とりあえず。ところで、アイーシャはおるか?」
「はっ…こちらに…」
使いの者が先導し、この城で最も豪華なカーテンに覆われた部屋に着く。
「アイーシャ♡きたぞ☆」
魔王ディアドラはそう言ってカーテンを開く。そこにいたのは白いドレスを着た言葉では表現できないほどの、美女。ドレスの白に劣らぬ透き通るような肌。足に届きそうなほど長く、それでも綺麗にまとまり、艶やかな金色の髪。ディアドラがアイーシャと呼ぶこの女性こそ女神、アイーシャ=シエラテイルである。
「何か御用ですか、ディーちゃん」
「う、うぉぉぉぉぉぉぉ!…もう一回呼んでくれ!」
「ディーちゃん」
「ふぅぉぉぉぉぉぉぉ!」
ディーちゃん、というのはディアドラの愛称らしい…。
「……ウホン、失礼。本題に入ろう。外を歩いてると珍しい機械を拾ったんだ。何に使うのか知らないか?」
そういうとディアドラはアイーシャの前に四角い、リモコンのような物を出す。
「っっ…!どうしてディーちゃんがこれを?」
アイーシャは明らかに動揺する。
無理もない、ディアドラが取り出した物というのは本来転移者しか持つ事のない物、ステータスコントローラーだったのである。
「ん?何か重要な物なのか?」
そういうとディアドラは手の平に収まるほどの黒い円を空間に出す。
「この機械の所有者を映せ!」
ディアドラが唱えると円は景色を映し出す。その中には1人の少年と妖精が映っている。
「アイーシャ、この男はこの世界に呼び込んだ者か」
「ええ…」
ようやくアイーシャは落ち着きを取り戻す。
(ティナ…何をしているのかしら…)
ディアドラはコントローラーから投影された説明に目を通す。
「………なるほど。そういうことだったのか、アイーシャ」
アイーシャはビクリと震える。アイーシャをみるディアドラは険しい顔をしている。…しばらくしてディアドラが口を開く。
「…なぁーんだ!言ってくれればよかったのに〜!俺だって最近暇で挑戦者とか来ないかな〜、とか思っていたんだ〜」
「………はい?」
「こういう仕組みなら、俺に匹敵する戦士も出てくる訳か〜!いや〜感心、感心!」
そう言うディアドラの目は子供の如く輝いている。
「なになに…この男の名はワカ、というのか。よし、ならこのワカというもの、俺が面倒を見ようじゃないか!」
「…えぇ?!」
アイーシャはディアドラの言うことについて行けていない。
「いや、だから。このワカとやらを俺の挑戦者としてふさわしい戦士にしてやるんだ。この俺が直々に見てやるんだ。強くしてやるぞ!」
ディアドラのテンションは新しい遊びを見つけた子供のようだ。
「アイーシャ、別にいいよな?」
「は、はい…」
(これは…結果オーライですね…)
アイーシャはそう考えた。
「ではアイーシャ。このステータスとやらを教えてくれ〜!」
「わかりました、ディーちゃん」
「ふぅぉぉぉぉぉぉぉ!」
こうして紫水 若人、もといワカは当人の知らないところで魔王ディアドラに命運を握られることとなった。